真水稔生の『ソフビ大好き!』


第172回 「お江戸の空に春をよぶ」  2018.5

先日、仕事で東京へ出かけた際、
知人の紹介で、
都内在住の或るソフビコレクターの方とお会いさせていただき、
一緒にお酒を飲む機会がありました。

御自宅には、
コレクションルームとは別に、
ショールームとして開放している広いガレージもあり、
それでも飾りきれないソフビがまだまだいっぱい倉庫にしまってある、
という、
僕なんかは足元にも及ばない、
目がくらむほど凄いコレクターだったのですが、
同世代(1歳違い)なうえ、
気さくで優しくて、
とても話しやすい雰囲気を持った方でしたので、
初対面ながら
実にリラックスした気分で、楽しい時間を過ごす事が出来ました。

しかも、
この『ソフビ大好き!』を、
ただ読んで下さっているだけではなく、
毎回、プリンタ出力して
クリアファイルに綴じて下さっている(ほんまかいな)との事で、
感激してしまいました。

そして、更には、

 「実は、僕も2号ライダー派なンです」

なんて
おっしゃるものですから、もう歓喜。

 この世に、こんなにも嬉しい出会いがあるのか・・・、

と、胸が熱くなった次第です。


いやぁ、いるンですねぇ、世の中には、同志・同朋が。
ソフビコレクターで2号ライダー派・・・。
もう、それだけで、
いろんな事を語り合う前から、お互いを解かり合えました(笑)。

以前、第152回「義理と人情の風車が回る」
僕の “2号ライダー愛” を詳しく述べさせていただきましたが、

 1号ライダーより2号ライダーが好き、

っていう人は、 
間違いなく、“仮面ライダー愛” に満ちた人だと思うンですよね。

だって、
1号ライダー・本郷猛(特に新1号期の)の、
シビれるようなカッコよさには誰もが憧れますから、
そんな、
絶対的存在の “永遠のヒーロー” よりも更に上に、
2号ライダー・一文字隼人を位置づける、
なんて思考は、
視聴率が一桁だった『仮面ライダー』を
日本中の子供たちが当たり前のように観る大人気番組に押し上げ、
世の中に変身ブームを巻き起こしたのが、
1号ライダー・本郷猛ではなく
2号ライダー・一文字隼人である、という歴史的事実を正しく認識していて、
かつ、
その偉大なる功績への敬意による忠誠を
堅くなに守り通している人ならでは、のもの。

実は番組を全話ちゃんと観た事が無かったり、
ショッカー怪人を見ても名前もろくに言えなかったりするような、
“にわか” や “なんちゃって” には、逆立ちしても持てない “こだわり” です。

ゆえに、
“2号ライダー派” だという時点で、
もう、それだけで、
仮面ライダーファンとして信用出来ちゃうンですよね。


また、
そんな、“功績を重要視” なんて理屈は抜きにしても、
僕は、
「2号ライダーが好き」という人には共感してしまうところがあります。
それは、
完璧にカッコいい本郷猛よりも、
ちょっと砕けた、親しみやすさをもった一文字隼人に、
現実味や安心感を抱いてしまう、生理的な感覚です。

たとえば、
時代劇の“遠山の金さん” で言うと、
中村梅之助(四代目)さんが演じられた “金さん”。
あの、
いかにも “遊び人” って感じが、心地良く好きなンです。

高橋英樹さんや杉良太郎さんの演じられた “金さん” も、
もちろん素敵なのですが、
その、人間離れした感すら覚える凛々しさゆえ、
ちょっと近づき難いオーラを感じてしまうンですよね。

そこへいくと、
梅之助さんの “金さん” は、
堅苦しさや改まった感じがまるでなく、
接しやすい、というか、
話しやすい、というか、
どんなに情けない事情も素直に打ち明けて頼れるような、
そんな雰囲気があるンです。

あれこそ、
あの梅之助さんの “金さん” こそ、
一文字隼人、延いては2号ライダーの、魅力そのものなのです。

・・・あ、
2号ライダー・一文字隼人が好き、っていう僕の主観を、
梅之助さんの “金さん” が好き、っていう僕の主観で例えて説明しても、
何も伝わらないか・・・(苦笑)。


まぁ、そんなわけで、
その、同世代の2号ライダー好きソフビコレクターの方との
東京における “少年の夢を語り合う夕べ” は、
なんとも喜ばしい、幸せなひとときであったわけなのです。

まさに、

 ♪ お江戸の空に春をよぶ~

って気分の、花もうれしいミーティングでした。感謝。
   
   

さて、
ソフビコレクションですが、
今回は、ピラザウルスを紹介します。

2号ライダーと闘ったショッカー怪人ですし、
“遠山の金さん” といえば “桜吹雪” ですから。

・・・って、
わけわかンないですよね(苦笑)。

ずっと以前に述べた事ですが(第17回「桃色の宴」参照)、
当時のピラザウルスのミニソフビに
ピンクのものと黒のものが存在するので、
僕は、“ピラザウルス” と聞くと、
古い小説にある、

 美しい花(ピンク)を咲かせながら
     その樹の下には屍体(黒)が埋まっている、

という “桜” を連想してしまうンです。

なので、
“2号ライダー” と “遠山の金さん” というキーワードから
ピラザウルス、です。  


バンダイ製 スタンダードサイズ、全長約16センチ。

第35回「ショッカー怪人に魅せられて」の中でも紹介した人形ですが、
やっぱ、
このピンク(ついでに水色も)が良いですよねぇ・・・。
“死の霧” と呼ばれる毒ガスを噴射して人間を白骨化させる恐ろしい怪人ですが、
その身の毛もよだつ恐怖を
やさしさと清涼感を感じるカラーリングが和らげて、
鮮やかなまでの好印象を与える、健全な子供のオモチャとなっています。 

第170回「オレンジ」で紹介した、
ブルマァクのナックル星人のソフビと同様に、
造形の過度なデフォルメは避けて、
キャラクター自体の怖くてカッコいい印象を維持したまま、
色のアレンジのみで、
幼い子供でも泣き出さず愛せる見た目にしてある、
という、
実に巧みで良質な商品だと思います。
     
     


    ミニサイズは、下記の3種を確認済み。 同じくバンダイ製で、全長約11センチ。 
   
           
        スタンダードサイズに倣ったカラーリングで、
爽やかな感じに仕上がっています。

駄菓子屋さんでも売られていた人形ですが、
この、
成形色がピンクで
塗装色が赤と水色、という色の組み合わせが、
当時食べた、
カルビーの仮面ライダースナック
(桜の花の形をした淡いピンク色の甘いお菓子で、
 い渦巻きがデザインされたパッケージの袋には、
 水色の文字で商品名が書かれていた)
を思い出させてもくれて、
なんだかほのぼのと懐かしく、心が和みます。 
        こちらのタイプは、
そんな和みを黒の成形色がシャットアウト。
“死の霧” によって
人間が白骨化される惨劇そのものが、
感じ取れてしまいます。
小さくて可愛らしい人形ながら、
ピラザウルスのおぞましさがしっかりと現われた人形、と言えます。

同じ型なのに、
色が違うと
こんなにも印象が変わるのが、
ソフビ人形の妙味、でありますね。 
       
こちらは、
上記2種のピンクと黒が混ざったような、
ライトグレー成形のタイプ。
絶妙な色合いが、なんとも魅惑的なオーラを放っています。

まぁ、
ライトグレーといっても、結構赤みがかってますので、
黒の比率はほんの少量で、ピンクが大半を占めてる感じですね。
ピラザウルスの恐怖を表現しつつも、
あくまでも “子供のオモチャ” である事を強調した、
作り手の意思を感じます。

・・・って、深読みかな(笑)。
でも、
そんな深読みこそが、
アンティークソフビの正しい楽しみ方・味わい方、だとも思います。



ところで、
僕が「いちばん好きな怪人はピラザウルスだ」って言うと、

 「なんで?」

とか、

 「あんな弱くてマヌケな怪人のどこがいいの?」

とか、
馬鹿にする人がいますが、
ちゃんと作品を観た事が無い人ですね、そういう人は。

2号ライダーへのリスペクトも無しに

 「仮面ライダーといえば、やっぱ本郷猛」

なんて言ってる輩と同じくらい、皮相浅薄です。
確かに、最初、ピラザウルスは、
“死の霧” を発して多くの人を一度に抹殺するも、
その猛毒に自分自身も耐えられず、死んでしまいますが、
そこで、ショッカーは、
もっと強靭な肉体を持った人間・プロレスラーの草鹿昇を誘拐して改造し、
再度ピラザウルスを作り出すのです。

以前、
回顧番組などで、
ピラザウルスの、
その、最初に自分の毒で死んでしまったシーンだけが取り上げられていたので、
おそらくそのせいで、

 ピラザウルス = 弱い・マヌケ

って認識してるのでしょう。
嘆かわしい事です、まったく。

だって、
めちゃくちゃ強くてカッコいい怪人なンですから、その、プロレスラー・草鹿昇を改造したピラザウルスは。

“死の霧” も凄い武器ですけど、
それ以外にも、
ウルトラキックやウルトラパンチなんて技も持っているのです。

ピラザウルスだけですよ、
ウルトラ兄弟でもないのにウルトラキックやウルトラパンチが使えるの(笑)。
しかも悪者の分際で・・・。

ライダーとのバトルも、
1回目は、
ライダーキックをそのウルトラキックで跳ね返して制したし、
最終バトルにおいても、
空中でライダーキックとウルトラパンチがぶつかり合い、
着地後、最初に倒れたのはライダーの方でしたから。 
     

本当に強いです、ピラザウルスは。

ただ、
直後にピラザウルスも倒れ、絶命。
相打ちか・・・、と思いきや、すぐにライダーは起き上がります。
つまり、
ピラザウルスは “自分が勝った” と思い込んだまま死んでいったわけで、
そんな悪者・怪人としての哀愁も、
子供心になんともカッコよく思えたものです。 
あの名バトルを見届けた人なら、
ピラザウルスに対して
“弱い” とか “マヌケだ” とかなんて印象、絶対に抱かないはず。

見事な闘いっぷりと死に様、
それにデザイン・造形も含めて、
あんなにもカッコいいショッカー怪人、ほかにいないですよ、マジで。 


・・・あ、そうそう、
東京と名古屋の、2号ライダー好きソフビコレクター共通の意見として、    

 やっぱ、
 モスキラスを追って日本に帰ってきた際の、
 赤手袋・赤ブーツの2号が、いちばんカッコいいですよね、

ってのが、ありました。
しかも、
腕や脚のラインが番組後半では細くなってしまうので、

 そうでなく、
 帰国時の、あの、太いラインの・・・、

ってトコまで、同じでした。

もう、どこまで話が合うのでしょう。
本当に嬉しいです。

まぁ、でも、
この腕と脚のラインの件については、
2号ライダー派じゃなくても、
ライダーファンならば、皆、そうではないでしょうか。
今まで、違った意見を聞いた事がありません。

赤手袋・赤ブーツの姿に進化する前から、
元々、2号ライダーの腕や脚のラインは太いものでしたし、

 細いラインが2本の1号ライダーが “技” に優れたライダーで、
 太いラインが1本の2号ライダーが “力” に優れたライダーである、

という具合に、
ビジュアルから受ける印象とキャラクターの設定が、
なんとなく一致してますからね。



・・・っていうような話を、
50過ぎのオッサン同士が、
オモチャに囲まれて、酒を飲みながら、延々と熱く語り合う楽しさ・・・、
解かります?

え?
春が来たのは、
お江戸の空にじゃなくて、お前たちのおつむにだろ、って?

ハハハ。
何とでも言いなさい(笑)。

いやぁ、ホント、
“仮面ライダー” の時代の子供で、良かったぁ~。
ソフビコレクターになって、良かったぁ~。 
幸せ。
           



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