真水稔生の『ソフビ大好き!』


第170回 「オレンジ」  2018.3

モナリザ・ツインズ(MonaLisa Twins)に、
朝から晩まで
どっぷり浸っている今日この頃です。

モナリザ・ツインズとは、
ウィーン出身のミュージシャンで、
現在は
イギリスのリヴァプールで活動している、
20代半ばの双子姉妹(モナ・ワグナーさんとリザ・ワグナーさん)のデュオ。

めちゃくちゃ好きなンです、僕。

といっても、
知ったのはごく最近なのですが、
オールディーズが聴きたくて、
『Mr. Lonely』とか『The End Of The World』とかをYouTubeで鑑賞していた際、
画面右側の関連動画の中にあった、

 When I'm Sixty-Four - MonaLisa Twins (The Beatles Cover)

というのが目に留まり、再生してみたのがきっかけでした。

ビートルズのカバーは、
原曲が偉大すぎて絶対超えられないゆえ、
どうせ聴いても
物足りなさを感じるか
変なアレンジにガッカリするだけ、と思い込んでいたので、
普段なら
そんな動画を見つけてもスルーするのですが、
サムネイルに映っていた女性(モナさん)が美人だったため、
本能で(笑)クリックした次第です。

そしたら、
これが大正解・・・ってか、驚きました。
二人がアコースティックギターを弾きながら歌っているだけなのに、
ディキシーランド・ジャズを彷彿とさせる原曲のイメージが全然壊れていないのです。
凄い、と思いました。

それは、
単に歌唱や演奏の技術力が高いというだけでなく、
生き生きと歌っているその様子に、
原曲へのリスペクトが真っ直ぐ素直に表れていたから、なンですよね。
彼女たちの、
楽曲と向き合う姿勢の清らかさを感じたンです。
しかも、
気品があって爽やかで、とってもキュート。
実に魅力的でした。

“音楽” が人を幸福にするものである事を改めて強く認識する、
誠にもって素敵な動画だったのです。

で、
そこから興味が湧いて、
ほかにも彼女たちの動画がないか検索したら(相変わらず、暇だなぁ(苦笑))、
『Please Please Me 』とか『ThisBoy』とか
『You’re Going to Lose That Girl 』とか、
ビートルズのカバーのミュージックビデオやライヴ映像を多数発見。
そして、そのどれもが、
惚れ惚れするクオリティの高さで、これまた驚きました。

中でも、
『If I Fell』には、陶酔。

『If I Fell』は、
僕がビートルズの曲の中でいちばん好きな曲でして、
30年近く昔、
或るテレビ番組で
小堺一機さんと杉真理さんのお二人が
めっちゃカッコよくカバーして歌っているのを観て感動した事があるのですが、
モナリザ・ツインズのカバーには、それ以上の感動を覚えました。

だって、

 原曲を超えてるかも・・・、

って思いましたから。

真摯で繊細な歌い方が、
優しく切なく美しく、僕の感受性をとことん刺激。
その、
しとやかで伸びやかなハーモニーは、
もう、どこまでも馨しく、
心がとろけてしまいそうになったのです。

演奏が終わった後、
チェロを弾いていたリザさんが、
カメラ目線になり、
弓をこちらに向けて悪戯っぽい微笑みを浮べるシーンがあるのですが、

 「貴方、もう私たちの虜ね」

って言われた気がして、

 「はい」

と答えてしまいました(笑)。

最初に、

 ビートルズのカバーは
 原曲が偉大すぎて絶対超えられない、

と述べましたが、
まさか、
ジョンとポールより惹かれる『If I Fell』に出逢うとは、
夢にも思いませんでした。
ホント、涙が出るほどシビれました。

それゆえ、
もっともっと彼女たちについて知りたくなり、

 YouTubeにあがっている
  モナリザ・ツインズのミュージックビデオやライヴ映像を全部観よう、

と決意し、即実行(本当に暇だなぁ(再苦笑))。

そうしたら、
ビートルズのナンバー以外にも、
60年代のポップロックの名曲の数々を見事にカバーしていたし、
また、
それらをルーツとしているからか、
オリジナル曲も、
余計なものを着飾って誤魔化していない、
真の美しさとカッコよさがある心地良いサウンドで、
聴いていて胸が躍りました(『I Wanna Kiss You』なんて、名曲だと思います)。

そして、
心の中で叫んだのです。

 「僕はこんなバンドを待っていたンだ!」

と。

もう、勢い止まらず、
ドキュメンタリー番組のインタビューなんかもチェック。
彼女たちが使うのは
ドイツ語や英語ですので、
何を言っているのか僕には全然解かりませんでしたが(苦笑)、
もう完全に恋におちていたので、
彼女たちを見ているだけで幸せな気持ちになれました。
ミュージックビデオやライヴ映像を観ているのと、同様の感覚なのです。

それに、
そうやって片っ端から観ていった動画の中には、
彼女たちが子供の頃の映像や、
家族で、ライブを行ったり旅行に出かけたりしている映像もありましたので、
二人の生い立ちみたいなものを、
なんとなくですが、知る事も出来ました。

動画に映っていたのは、
なかなかの裕福な暮らしの様子でしたので、
優雅で快適な、
笑顔の絶えない明るい生活環境の中、
立派な両親の愛情を存分に注がれたがゆえ、
何の屈託も無い、
澄んだ心のほがらかな人間性が育まれたのであろう、と推測。

最初に観た『When I'm Sixty-Four』の動画で感じた、
あの、きわめて健全な透明感も、

 この二人なら、そりゃ自然に出るだろうな、

と納得しました。

また、
どうやらお父様は音楽家のようですので、
その影響を多分に受けている事も推測出来ました。
ビートルズの時代の音楽が
生まれた時から当たり前のように日常にあったのでしょう。
それらを
小手先じゃなく魂でカバーする事が出来、
更には、
それらをルーツとする優れたオリジナル曲を
新たに生み出していく事も出来る素晴らしいアーティストに、
なるべくしてなった、って感じです。

可憐でカッコよくて、
本当に素敵です、モナリザ・ツインズ。

CDも、
Amazonですぐさま注文して購入。
毎日、繰り返し聴いている次第であります。


ただ、
最新アルバム『ORANGE』は、

 通常1~2か月以内に発送します、

という事で、
まだ届いていないンですよねぇ・・・。

ジャケット写真やCD本体の、
目の覚めるようなオレンジ色に
彼女たちの魅力や可能性が象徴されているような1枚ゆえ、
聴きたいのはもちろんの事、
その鮮やかなオレンジ色の輝きを、早く “生” で見たいのですが・・・。

ちなみに、
この『ソフビ大好き!』の
表紙のページに載ってる僕のプロフィールにも書いてあったと思いますが、
オレンジ色は、
僕がいちばん好きな色なンですよね。

もう、何から何まで、
僕の琴線に触れてくれる彼女たちなのです(笑)。

あぁ、はやく届かないかなぁ・・・。


そこで、
そんなオレンジ色のCD到着を待ち焦がれる気持ちを昇華させるべく、
今回は、
コレクションケースの中から、この、オレンジ色のソフビを取り出してみました。




ナックル星人

ブルマァク製、全長約23センチ。

ご存知、
『帰ってきたウルトラマン』最大のクライマックスである、
第37話「ウルトラマン夕陽に死す」と
第38話「ウルトラの星光る時」の前後編に登場した、凶悪な宇宙人です。

ずっと以前から地球に潜伏していて、
帰りマンの能力を徹底的に調査・研究し、
ナックル星から連れてきた怪獣ブラックキングを
帰りマンの必殺技がすべて封じられる最強の用心棒に仕立てたうえで、
満を持して挑んできた用意周到な侵略者ですが、
なんといっても、
帰りマン(郷秀樹)の精神をも乱して優位に闘おうと、
郷の心の拠り所である、恋人の坂田アキとその兄・健を殺害した、
冷酷無残な悪魔ぶりが、とても衝撃的でした。 
その殺害シーンは、
僕らの世代のトラウマで、
健(演・岸田森さん)を
車で躊躇なく跳ね飛ばして轢き逃げした後、
アキ(演・榊原るみさん)は
車で引き摺りまわしたあげく路上に捨て去る、
という、
もう、非道で残虐極まりないもの。
信じられないその映像に、
テレビの前で凍りついた感覚、今でも強烈に憶えています。

まぁ、怪獣が町を破壊する世界のお話ゆえ、
毎回のように人は殺されるンですけど、
生々し過ぎるンですよね、子供番組を逸脱したその描写が。
しかも、
レギュラー出演者として半年以上も感情移入して見てきた人が
そんな目に遭うわけですから、
当時7歳の僕の心では、正直、どう処理していいか解かりませんでした。

 
そんなわけで、
帰りマンを処刑寸前まで追い込んだ強敵でありながら、
今ひとつ、
ほかの人気怪獣のように全身全霊で愛せないンですよね、ナックル星人、って。
あの、
白地に赤い球体が散在している不気味な姿を見ると、
坂田兄妹が殺害されたシーンが、フラッシュバックのように甦るンです。
でも、
番組放映時(昭和46~47年)に発売されたナックル星人のソフビは、
このようにオレンジ色。
・・・そうなンです。
この、オレンジ色である事が、重要ポイントなのです。

実物の、
白地に赤い球体が散在している不気味な姿が、
“オレンジ色” という、
明るくて暖かくて人に元気や安心感を与える色で
人形化された事によって、
坂田兄妹が殺害されたシーンに直結する恐怖の威力が、著しく縮小されているのです。

それでいて、
マルサンデフォルメとは一線を画す、
ブルマァク独自の
“実物の着ぐるみを再現しながら、玩具として美化する”
というコンセプトで造形されていますので、
ナックル星人のビジュアル自体は崩壊していません。

よって、

 露骨で厭わしい恐怖の記憶・印象を薄めつつ、
 帰りマンを苦しめた強敵のイメージは維持されている、

という、
実にバランスの良い “怪獣のオモチャ” になっているのです。 
      絶妙のソフビ、です。 
 
それに、
ファンの間で “夕陽が似合うウルトラマン” と言われている帰りマンの、
しかも、
「ウルトラマン夕陽に死す」って回に登場した敵なのですから、
全身に夕陽を浴びている状態のようにも見えるこのオレンジ成形は、
そっちの意味合いでも、抜群の効果を発揮。

帰りマン人形と闘わせて遊べば、
子供は、
その時間だけ、坂田兄妹が殺害されたシーンの悪夢から解放されて、
只々、純粋に、
夕陽をバックに展開する美しくてカッコいいバトルシーンの演出に、胸を熱く焦がせた事でしょう。 
もしも、
このリアルな造形で、
実物どおりの彩色にされていたら、
おそらく、
心が冷えて、夢中で遊ぶ事が出来なかったと思うし、
抱いて寝るほど愛する事なんて、もっと無理だったに違いありません。
いや、
そもそも、
オモチャ屋さんの店頭で見かけても、欲しいと思わなかったかも・・・。 
つまり、
実物どおりの彩色ではなく、オレンジ色にされた事で、
このブルマァクのナックル星人人形は、

 実物のナックル星人を超越したところで
     僕ら当時の子供たちの愛を獲得した、

と言えるのです。

・・・ん?
なんか、
原曲どおりのアレンジではないのに、原曲のイメージを決して壊していない『When I'm Sixty-Four』や、
誠意のある表現が原曲の美しさを超えてしまった『If I Fell』に見られる、
モナリザ・ツインズによるビートルズのカバーと、
そいういえばイメージが重なるなぁ・・・。

偶然動画を見つけたンじゃなくて、
やっぱ、本能で、
僕はモナリザ・ツインズに近づいていったンではないだろうか・・・(笑)。


まぁ、
何はともあれ、
オレンジ、って、本当にいい色だと思います。




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