真水稔生の『ソフビ大好き!』


第152回 「義理と人情の風車が回る」 2016.9

断然、2号ライダー派。
小学校入学と同時に『仮面ライダー』の放送が始まった、という
生粋の仮面ライダー世代である僕にとって、
1号ライダー・本郷猛は、
当然の事ながら大好きなヒーローであり永遠の憧れですが、
2号ライダー・一文字隼人は、
更にその上を行く、絶対的存在なのです。

理由は簡単。

 『仮面ライダー』を面白い人気番組にして、
    変身ブームを巻き起こしたのは2号ライダー、

だから。

その事に対する敬意が、
放映当時から45年経った現在まで、
ずっと、僕の “仮面ライダー愛” の大前提として、深く心に根付いています。
 
           

仮面ライダー・本郷猛を演じていた藤岡弘さんが、
撮影中のオートバイ事故によって以降の出演が不可能になり、
急遽、
藤岡さんと同じ劇団出身の佐々木剛さんが
仮面ライダー2号・一文字隼人として主役に起用され、
物語は新たな展開を見せたわけですが、
その2号ライダー編に突入した第14話から、番組は急に面白くなりました。

オープニング主題歌が
藤岡弘さんの歌唱によるものから
子門真人さんの歌唱によるものに変更されたり、
山本リンダさんをはじめとする、個性豊かなレギュラー出演者が増えたりした事もあって、
作品全体の雰囲気が、派手で賑やかなものになったンですよね。
変身ポーズの考案・導入はその象徴で、
それまでの
なんとなく地味で暗い世界観が一転、
明るく楽しい、そして内容の解りやすいドラマへと、番組自体が “変身” したンです。

・・・まぁ、要は、
幼稚っぽくなった、って事なンですけど(笑)、これが大正解。
1桁だった視聴率は
あっという間に20%台に跳ね上がり、
世の中に、仮面ライダー旋風が巻き起こりました。

僕ら子供たちは、
変身ポーズを真似て “仮面ライダーごっこ” に没頭したり、
ソフビやポピニカなどのオモチャで夢中になって遊んだり、
お菓子(仮面ライダースナック)のおまけのカードを必死で集めたり・・・、
もう、
寝てもさめても仮面ライダー。
夢見る気持ちを、それはそれは熱く燃え上がらせたものです。
まさに “人気爆発” でした。

でも、
その現象は、
単に番組の路線を変更したから起きたというわけではなく、
やはり、
主人公・一文字隼人役に
佐々木剛さんがキャスティングされた事が、大きかったと思うンですよね。

なぜなら、
僕ら子供たちが、
『柔道一直線』とか『お荷物小荷物』とかで
“佐々木剛” という俳優の存在を既に知っていたからです。

特に『柔道一直線』は、
当時の子供なら誰もが観ていた大ヒットドラマでしたから、
そこで主人公・一条直也のライバル・風祭右京を演じていた佐々木さんの
顔や声を知らない子は、あの頃一人としていませんでした。
そんな佐々木さんの知名度の高さが、
番組が生まれ変わる、強力なエネルギーとなったのです。

大いに魅力は感じているものの、
なんだか怖くて、
震えながら観ていた最初の1号ライダー編には、
不安や孤独感といった重苦しい感覚が常につきまとっていたのですが、
トカゲロンの回(第13話)が終わって
次回の予告が流れた際、

 次週から始まる仮面ライダー新シリーズ・・・、

っていう軽快なナレーションとともに画面に映った佐々木さんの顔のアップを観た瞬間、

 あ、『柔道一直線』のあの人だ!

と気づいて、
まるで見知らぬ街で友人に会ったような安堵を、子供心に感じた事を憶えています。

“次回から主人公を演るのは知ってる人” という安心感みたいなものが、
寂寞とした作品世界に、
明るく暖かい “光” を当てた気がしたンです。
まるで、雲を破る陽射しのように・・・。

ものすごく興味があるンだけど、
得体が知れず、怖くてあまり近づけなかった『仮面ライダー』を、
知ってるお兄さん・佐々木剛さんが、

 「大丈夫だよ、ほら、面白いぞ」

って、
笑顔で幼い僕らの目の前に持ってきてくれた・・・、
翌週から始まった2号ライダー編は、そんな感覚でした。

今にして思えば、
あの優しいイメージは
マルサンのソフビ怪獣人形にそっくり。

怖いけど惹かれていた1号ライダー編(≒実物の怪獣)が、
明るくて解りやすい2号ライダー編(≒愛嬌のあるソフビ怪獣人形)にデフォルメされて
幼い子供の世界に降りてきてくれたのですから、
あの頃の僕が、
・・・いや、日本中の子供たちが、一気に飛びついて当然のものだったのです。

売れっ子俳優・佐々木剛さんの親しみやすい個性が、
そのまま、
2号ライダー・一文字隼人の
“カッコよくてユーモラス” なキャラクターでしたので、
僕ら子供たちは
安心して『仮面ライダー』を観られるようになり、
待ってましたとばかりに心を預け、夢を見、楽しみました。
その嬉しさの勢いが、
あっという間の視聴率アップ・人気爆発という結果に現れたのです。

そんな仮面ライダー旋風は、
程なく、他の変身ヒーロー番組も数多く生み出す事となり、
“変身ブーム” と呼ばれる社会現象にまで発展して、
児童文化の歴史に新たな一歩を刻む、一大ブームと化しました。

2号ライダー・一文字隼人が、時代を変えたのです。
2号ライダー・一文字隼人が、仮面ライダーを日本の代表的ヒーローに押し上げたのです。
リアルタイムで目撃・体感したから、“証言” 出来ますね、僕は。

もちろん、
最初の1号ライダー編における、
怪奇アクションドラマとしての強烈なインパクトや、
改造人間にされた主人公が背負う哀しみ・孤独、
といったものが、
仮面ライダーというヒーローの魅力の根底にある事は間違いありませんが、
やっぱ、
2号ライダー編になって弾けた
あの “ときめき” こそが、
仮面ライダーに永遠の輝きを与えたと思うンですよね。

       

なので僕には、

 1号ライダーと2号ライダーで初めて『仮面ライダー』である、

という、揺るがない持論があります。

日本中の子供たちを虜にし、
『仮面ライダー』を世に知らしめた2号ライダー・一文字隼人無くして、
『仮面ライダー』は成立しないのです。

気づいて下さっていると嬉しいのですが、
これまでこの『ソフビ大好き!』において仮面ライダーの話題に触れる際には、
僕は必ず、
1号ライダーと2号ライダーの二人を “初代の仮面ライダー”、としています。
 
         

あえて
いちいちそういう言い方をするのは、
2号ライダー・一文字隼人をないがしろにして、
1号ライダー・本郷猛だけで『仮面ライダー』を語る風潮に、異を唱えるため。

今まで述べてきたような当時の状況や事情を知らない人なら、

 仮面ライダーと言えば1号ライダー・本郷猛、

と安易に認識していても仕方ないかもしれませんが、
僕と同じように
『仮面ライダー』を観て
『仮面ライダー』に夢中になってあの時代を生きた世代の中にも、
1号ライダー・本郷猛だけを “仮面ライダー” として神格化している人が多いので、
それが許せないンですよね。 
冒頭でも述べたとおり、

 『仮面ライダー』を面白い人気番組にして、
    変身ブームを巻き起こしたのは2号ライダー、

です。
日本の特撮アクションヒーローのパイオニアは、
1号ライダー・本郷猛ではなく、
2号ライダー・一文字隼人なのです。

それなのに・・・。 





ただ、
原因は判ってるンですよね。
それは、
   
 
 新1号期の本郷猛がめちゃくちゃカッコよかったから・・・、

なのです。
もう、これに尽きます。

藤岡さんが怪我から復帰して
再び主役が交代となり、
第53話から新1号ライダー編になるのですが、
その新1号期の本郷猛が、
めちゃくちゃ・・・、ホント、めちゃくちゃカッコいいンです。
以前の、
若きエリート科学者然とした理知的でクールな印象に加え、
“野性美”
とでも言いましょうか、
闘う男としてのワイルドな逞しさも
合わせ持つに至り、
もはや仮面ライダーに変身する必要さえ感じさせないくらいの
圧倒的な雰囲気・存在感で、
テレビの前の僕ら子供たちをシビれさせてくれました。
ホント・・・、
くどいようですがホント、めちゃくちゃカッコよかったです。

それゆえ、

  仮面ライダー = 2号ライダー・一文字隼人

というイメージが、

 仮面ライダー = 新1号ライダー・本郷猛

にあっさりと上書きされて、

 仮面ライダーと言えば1号ライダー・本郷猛、

となってしまったのです。
 
           

まぁ、
元々、仮面ライダーは本郷猛だったンだし、
制作側も、
2号ライダー編よりも新1号ライダー編が盛り上がるように
番組を作っているわけですから、
以前よりもカッコよくなって帰ってきた1号ライダー・本郷猛が
2号ライダー・一文字隼人の人気を上回ってしまうのは、
自然な流れで仕方ない事だったかもしれませんが、
複雑な心境だったンです、僕は。

 僕ら子供たちが『仮面ライダー』を安心して楽しめるのは、
 2号ライダー・一文字隼人のおかげ・・・、

という、
大いなる “恩” を感じていたので、

 2号ライダー・一文字隼人を、
 そんな簡単に忘れてしまっていいのか!?

っていう、
限りなく不満に近い疑問が、ずっとわだかまっていたのです。

やがてそれは、
喜々として新1号ライダーの変身ポーズを真似るクラスメイトや近所の子に対し、

  なんて恩知らずで軽薄な・・・、

と侮蔑の感情を抱くに至りました。

 「2号より1号の方がカッコいい!」

なんて無神経に言われた日には、もう我慢なりません。喧嘩です(笑)。

反論として、

 番組の人気が出たら帰ってきて、
 「我こそが仮面ライダー」と言わんばかりに
 主役の座に君臨している1号ライダー・本郷猛は卑怯だ!

 あんなの、
 ブームに便乗しただけで、
 やっている事は、2号ライダー・一文字隼人の手柄の横取りじゃないか!

 それを何の抵抗もなく歓迎して、
 バカ騒ぎしているお前の人間性は、クズだ!

・・・みたいな事(笑)を
饒舌に言い返してやりたかったンですけど、
7、8歳のボキャブラリーではそれが思うように表現出来ず、
1号ライダー・本郷猛よりも
2号ライダー・一文字隼人が低く位置づけられた事への怒りだけが先走り、

 「1号なんか全然カッコよくねェわ!」

って吐き捨てていました。

もちろん、本心では、
めちゃくちゃカッコいい本郷猛にシビれていたわけですから、
まったく逆の事を言わなければならないその状況がまた悔しくて、
尋常じゃない葛藤がありましたけどね。

素直な子供じゃなかった、と言われればそれまでですが、
僕は、
2号ライダー編になって、本当にありがたかったし、
嬉しかったし、楽しかったし、
あんなに胸躍らせた事はありませんでしたから、
いくら帰ってきた本郷猛がめちゃくちゃカッコいいからといって、
2号ライダー・一文字隼人の事を無視するような事は、
人として(笑)出来なかったのです。

言ってみれば、

 “義理” と “人情”、

でしたかね。

『仮面ライダー』を楽しくしてくれた、
優しい2号ライダー・一文字隼人への感謝が “義理” で、
『仮面ライダー』を更に盛り上げてくれる、
カッコいい新1号ライダー・本郷猛への憧憬が “人情”。

どちらも人間が持つ “心” ですが、

 ♪ 義理と人情 秤にかけりゃ
 ♪ 義理が重たい 男の世界

と高倉健さんも歌っていらっしゃったではありませんか。

新1号ライダー・本郷猛への憧憬よりも
2号ライダー・一文字隼人への感謝を、重要視しなければならんのですよ、男なら。

 そんな大袈裟な・・・、

と笑う人がいるかもしれませんが、
幼い胸の中ながら、それくらい真剣にこだわっていたのです。 

 
当時の写真。

向って右側の、
2号ライダー・一文字隼人の変身ポーズをしているのが、
当然ながら、僕。
“真剣なこだわり” です。

隣の子は従弟。
2号ライダー派から新1号ライダー派にあっさり寝返った、
恩知らずで軽薄な・・・、
いや、素直な(笑)子だったので、
 
 「僕が2号で、お前が1号な」

という提案も快諾。
その件でモメる事は、あの頃一切ありませんでした。
 


そんな僕でしたので、
第72話で、
吸血怪人モスキラスを追って、2号ライダー・一文字隼人が南米から帰国した際には、
強烈な感動と興奮を覚えましたね。

赤い手袋と赤いブーツ、
という、美しいまでにカッコよく進化したその姿を見て、
放心状態になりました。マジで。
 
      新1号ライダー編が終わったら、

 この赤手袋・赤ブーツの新2号ライダーを主人公にした、
 新2号ライダー編が始まるンだ、


思い込んでいました。かたく信じていました。

そしたら、
新番組『仮面ライダーⅤ3』が始まり、
新2号ライダー編をすっ飛ばして、言わば3号ライダー編になっちゃったので、

 不公平じゃないか!

と、番組スタッフに怒りを感じたものです(笑)。

 

そういえば、
仮面ライダーⅤ3は、

 ♪ ダブルタイフーン 命のベルト 力と技の風車が回る

と主題歌にも歌われているとおり、
1号ライダーの “技” と2号ライダーの “力” の象徴である、
ベルト上の2つの風車(ダブルタイフーン)が回る事で、
風見志郎から変身(姿を現す)するヒーロー。

つまり、
1号ライダーの “技”、
2号ライダーの “力”、
どちらが欠けても、仮面ライダーⅤ3は生を成さない、というわけです。

それと同じで、
1号ライダーへの “人情”、
2号ライダーへの “義理”、
どちらが欠けても、仮面ライダーファンとしては認められないのではないでしょうか。
僕はそう思います。

義理と人情の風車が回ってこそ、仮面ライダーファン。

1号ライダー・本郷猛だけで『仮面ライダー』を語る人は、
ファンじゃないですね、僕に言わせれば。
“もぐり” ですよ、そんなの。
『仮面ライダー』をろくに知らない人です。
 
     


ところで、
“藤岡さんの事故による主役交代・仮面ライダー2号誕生” には
泣かせる裏話がありますよね。

佐々木さんが、
最初、2号ライダー・一文字隼人役のオファーを、
 
 「藤岡君の不幸につけこんで
      主役の座を奪うようで、嫌だ」

と言って断った事や、

 ならば、藤岡君を助けるつもりで・・・、

と再度口説かれて、

 “藤岡君の怪我が治るまでの間だけ”

という条件付きで引き受けた事、
そして、
その条件(約束)を理由に、
藤岡さん復帰時に持ちかけられたW主演の話も固辞した事、です。

僕は、先述のとおり、
2号ライダー・一文字隼人に対する忠誠心みたいな感情から、
新1号ライダー・本郷猛のカッコよさに心奪われている事を隠している、
という偏屈な子供でしたが、
大人になってから、
平山亨プロデューサーが書かれた本などを読んでこの泣かせる裏話を知った時、
子供の頃以上に
2号ライダー・一文字隼人が好きになったのと同時に、
1号ライダー・本郷猛の事も、ようやく素直に愛せるようになりました。
改めて、佐々木剛さんに感謝した次第です。 

     ・・・それにしても、
藤岡さんから預かった視聴率1桁の番組を、
藤岡さんの留守中に日本一の人気番組にして、
藤岡さんが復帰したらサッと返して自分は潔く去るなんて、
佐々木さん、カッコよすぎです。

やっぱ、
2号ライダー・一文字隼人を軽視する人は、本物の仮面ライダーファンじゃないな。 
 
                       



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