真水稔生の『ソフビ大好き!』


第169回 「忘れじのソフビ通販」  2018.2

ソフビ人形の蒐集を始めて、今年でちょうど30年になります。
以前、
第66回「過去、現在、そして未来へ」の中でも述べましたが、
大学を出て就職し、社会人になって2年目の夏、
たまたま手に取った雑誌に、
当時、下北沢に集中していた数軒をはじめとする、
東京のアンティークTOYショップの紹介記事が載っていて、
それを目にしたのが、すべての始まり。

 世の中に、
 アンティークTOYショップというものがあり、
 そこへ行けば、
 幼い頃に遊んだ怪獣の人形に再会出来る、

という事を知り、
心が、少年時代の夢の復活へと走り出したのです。

調べたら、
地元・名古屋にも、少ない数でしたが
そういうお店がある事が判り、
最初はその数軒を覗いていたのですが、
走り出した心は更にどんどん加速して止まらず、
程なく、
その雑誌で紹介されていた東京のお店を訪ねるに至りました。

もう、弾けましたね、一気に。
やはり、首都・東京、
お店の数も、
1軒1軒の品揃えも、
名古屋とは比較にならない充実ぶりでしたので、衝撃を受けました。

 青山のビリケン商会さん、
 下北沢の
 懐かし屋さん、オムライスさん、ヒーローズさん、2丁目3番地さん、
 高円寺のゴジラやさん、
 小岩のまんが宿さん、
 そして、浅草の空想雑貨さん・・・、

どのお店も、
扉を開けて店内に一歩足を踏み入れた途端、
目当てのソフビ怪獣人形をはじめとする昭和のオモチャたちが
溢れんばかりにグワッと迫ってきて、
ホント、圧倒されました。
しかも、
それでいて、やっぱ昔懐かしいものたちですから、
放つオーラは優しく温かく、
そして面白く、
なんとも居心地の良い空間を作り出していたのです。

 僕の居場所はここだ!

って思いましたね(笑)。
いわゆる、“ハマった” ってヤツです。

コレクターとなって、
それから何度も
その夢見る空間を訪れる事になるわけですが、
迫力と癒しの両方が混在する、あの独特の雰囲気を味わうのは、
蒐集活動における醍醐味のひとつでもありました。

それに、
そこでいろんな人(コレクター仲間)とも出逢えて、
いまだにお付き合いが続いていますし、
ただモノを集めて、
ただコレクションが増えていく事だけが楽しいわけじゃない、
っていう事を、
身をもって学ぶ事も出来た、とてもありがたい場所でもありました。

・・・30年かぁ。

思えば長い月日が流れたものです。
なんたって、
成人式を終えて間もない青二才が、
50代半ばのジジィになってしまっているのですからね。
いやはやなんとも、です。

ってか、
今では下北沢へ出かけても、
懐かし屋さんもオムライスさんもヒーローズさんも2丁目3番地さんも、
もう、ありませんので
(移転した懐かし屋さん以外は、すべて店舗営業停止)、
その事からも、
時の流れをリアルに感じてしまいます。

・・・あ、
なんか、こんな事を書いていると、
さも東京のお店に入り浸っていたみたいですが、
僕が住んでいるのは名古屋ですので、
距離的にも時間的にも、
何より経済的にも、そうそう気軽に行けるものでもありません。
年に数回でしたかね、
よく行けても。
それもサラリーマン時代の話で、
役者(事実上フリーター(哀))になってからは
毎日御飯を食べていくだけで精一杯なので、
ここ10年余り、ほとんど出かける事が出来ていません。

なので、
コレクター暦30年、なんて言いながら、
実働は20年、ってトコでしょうか・・・。

まぁ、それはそれとして(苦笑)、
そんな、
たまにしか行けない東京をはじめとする遠方のお店には、
“通販” を
よく活用しましたね、そういえば。

各お店が発行していた在庫リストを取り寄せて、
蛍光ペン片手に、目を凝らしてソフビの欄を見たり、
『ホビージャパン』を毎月買って、
後ろの方の頁に載っていたお店の広告をつぶさにチェックしたりもしてましたし、
何より、
暇さえあればお店に電話をかけて、入荷状況を確認していました。

アンティークTOYショップの思い出としては、
お店の雰囲気に浸った回数よりも、そっちの方が多いくらいです。

商品の状態を
電話のみで確認するわけですから、

 実際に、目で見て、手で触れて、匂いを嗅いで・・・、

って事をしないまま
買うか買わないか決めなければならない難点はありましたが、
お店に何度か出向いて
ある程度親しくなってから、の事でしたので、
顔も名前も知っていて、
こちらの需要や嗜好を理解してくれている人が相手ゆえ、
トラブルが起きる事は無く、安心して買い物を楽しめました。

ただ、
アンティークTOYショップのオーナー・店長は、
僕より年上
(って言うか、ひとつ上の世代)の方々が
ほとんどでしたので、
ゴジラやウルトラマン関係以外のキャラクター(特に70年代のもの)については、
詳しく知らずに
そのソフビ人形を売っている事がよくありまして、
話がスムースに進まなかったり、
おかしな回答が返ってきたり、
そういう “ズッコケエピソード” は、いくつもありますけどね。

以前、
アンティークTOYショップの店頭において、
ムササビードル人形が狼男人形として売られていた話
第31回「夏だ!ビールだ!ソフビが美味い!」参照)や
お店の人の
背後の棚にあったロボメカ人形を見せてもらうのに
 「そのロボメカ、見せてください」
と言っても “ロボメカ” で通じなかった話
第163回「夢見る頃を過ぎても」参照)を
書きましたが、
そういった事態が、当然の事ながら “通販” でも起きるわけです。

たとえば、
『仮面ライダー』の怪人について、或るお店に問い合わせの電話をした時の事。

 僕「スタンダードサイズのライダー怪人、何か入荷してますか?

 店「あぁ、こないだ、1体、入ったな

 僕「何ですか?

 店「さぁ?何だろう?

 僕「は?

 店「うんとねぇ、緑色でねぇ、手に水かきがあるね。河童の怪人かなぁ?

 僕「河童?

 店「河童の怪人、いなかった?

 僕「いないですね。それ、本当に仮面ライダーの怪人なンですか?

 店「ブーツ履いてベルトしてるから、そうだと思うよ

 僕「・・・

 店「あぁ、角があるから、河童とは違うかな?

 僕「(だから河童の怪人なんていない、って言ってるじゃん!
    ってか、角? ・・・ますます判らん)
   ・・・何か、ほかに特徴はありませんか?

 店「う~ん、唇が真一文字で、口紅塗ったみたいに真っ赤だね

 僕「(口紅? ・・・ホントに判らん。 何? 誰?)
   え~? 何だろう?

 店「何だろうねぇ?

 何だろうねぇ?じゃねェよ、オッサン、
 あんたの店の商品やろ!
 何かわからんモンに、どーやって値段つけてるンだよ!

と僕は内心イラつきながらも(笑)、根気よく、その後もやりとりを続け、
散々悩んで、
ようやくそれが死神カメレオンと判明し、
状態も新品同然にピカピカだというので、購入した次第です。

   






バンダイ製、全長約26センチ。

人形を見れば、
確かに手に水かきはあるし、
もちろん緑色だし、
真っ赤な真一文字の口だし、
死神カメレオンの事を言っている、とすぐに判るのですが、
何も見ずに、
受話器から聞こえてくる、 

 “緑色で手に水かきのある河童の怪人”、
 “角がある”、
 “口紅を塗ったみたい”、

という情報だけでは、
死神カメレオンにはどうにも結びつかなかったのです。

だって、
僕らの世代で、
死神カメレオンから
“河童” とか “角” とかなんてワードが出てくる人、いませんからねぇ・・・。

それにしてもビミョーな造形です。
第158回「熱く正しく」でも紹介して述べましたが、
不気味な実物の顔を
愛嬌のある顔にデフォルメしようとした結果、
実物とはまた違った不気味さのある顔になってしまった、
という迷作人形。 

リアル造形支持派とデフォルメ造形擁護派、
どちらのソフビファンにも “ハマらない” この残念さが、
僕は切なくて好きなのです(笑)。 
   

・・・ってか、
要した通話時間、かれこれ30分弱。

 遠距離電話代、代金から引いてくれ!

って思ったものです(笑)。


あと、
別の店では、こんな事もありました。

 僕「ポピーのキングザウルスシリーズ、何かありますか?

 店「え~っと、
   袋入りですと、今あるのは・・・、
   ペギラ、キングギドラ、ウインダム、あと、バキムシ、くらいですね


 僕「(バキ虫!?
    ・・・なんか、噛まれたら、めっちゃ痛そうな虫だなぁ(笑))
   あぁ、じゃあ、そのバキ虫、下さい

袋入りなので、
タグに書いてある怪獣の名前を見ながら
その店長さんは答えて下さっていたのだと思いますが、
バキシム” ってはっきり書いてあっても、バキシム自体を知らないゆえ、
“バキムシ” と読んでしまわれたのでしょう。

字面を見ると、

 そんな間違いもあるかな、

って思うのですが、
電話では “音” でしか判断出来ませんので、
“バキ虫” なんて、
予測不能の、ありえない間違いです。
あまりに素っ頓狂で、笑ってしまいました。

だって、
僕らの世代で、
バキシムをバキムシと言い間違える人なんて、いませんからねぇ・・・。

当時のキングザウルスシリーズの相場からいくと、若干、高価でしたが、
それは、
“袋入り” だからではなく、“新種” だったからだ、と僕は思っています(笑)。

 
  その後、
第37回「色違いの妙味」の中でも
紹介したように、
このようなカラーバリエーションを
発見しながら、
買い揃えていきました。

これらとは違う彩色のものも、
まだ、あるかもしれません。


ちなみに、
向かって左端がバキ虫です(笑)。

ポピー製、全長約18センチ。 
         
             


・・・やっぱり、
噛まれたら、めっちゃ痛そうだ(笑)。



角のある河童の怪人の件も
バキ虫の件も、
気の短い人からしたら、面倒くさいだけの話かもしれませんが(笑)、
後日、
そのお店に出かけた際には、
当事者であるオーナー・店長さんはもちろん、
たまたま来店していた常連さんたちと、楽しく会話するネタに使えるので、
それはそれで愉快なものなのです。
骨董市やトイショーに
そのお店が出店しているのに出くわせば、
値段交渉の際の “ゆすりのネタ” にも使えますし・・・(笑)。

そういった、
人と人の繋がりも、
コレクションケースに飾ってある人形たちと同じで、
蒐集活動で得た、
僕の “宝物” なンですよね。

それに、
そんなふうに
お店の人がそのキャラクターを詳しく知らなかったからこそ入手出来た、
なんていう人形もあるンです。

それは、これ、
トドギラーのミニサイズ人形。

  ポピー製、全長約13センチ。 


電話でライダー怪人のミニについて問い合わせた際、

 ハエ男が入荷した、

というので購入したら、
届いた人形が、
ハエ男ではなく、トドギラーだったのです。

 
 

なんでそんな間違いが生じたのか、というと、
このトドギラー人形、
なんと、足の裏に “ハエ男” と彫られているのです。

ミニサイズのライダー怪人によくある “下半身の流用” ですが、

 トドギラーもハエ男も知らなきゃ、
   そりゃあ、これをハエ男として売るわな、

って納得出来る事でしたので、
注文の品と違ってるからといって腹も立たなかったし、
なんといっても、

 ハエ男人形の下半身をつけられたトドギラー人形、

って商品が流通していた事を
この時に知り、
すでに所有していたノーマルタイプと合わせて、
トドギラーのミニサイズ人形を2種コレクションする事が出来たわけですから、
嬉しくなって、間違いに感謝したくらいでした。

 



・・・いやぁ、懐かしいなぁ。

アンティークTOYショップで
懐かしいソフビ人形の買い物をした事を懐かしく思い出す日が来るなんて、
30年前は思いもしませんでしたが、
そんな、
電話で問い合わせて忖度(笑)しながらの “通販”も、
僕にとっては、
お店で商品の迫力と癒しに包まれながら購入するのと同じ、
蒐集活動における醍醐味のひとつでしたし、
忘れられない思い出になっています。


その “通販” で得た、
これらソフビコレクションをしみじみ眺めながら、
今、ふと、
昭和53年にちょっとだけヒットした、
トライアングルさんのデビュー曲『トライアングル・ラブレター』が、頭の中に浮かびました。

 ♪トラ~イアングゥ ラブレター ラブレター フォー ユー

ってヤツ。
あれ、歌い出しが、

 ♪電話線に乗ってェ あなたのところォへ~

なンですよね。

思い返すと、
アンティークTOYショップに問い合わせの電話をかける時、
僕は、好きな女の子に電話かける時のように、胸がときめいていたかもしれません。

 ♪電話線に乗ってェ ソフビのところォへ~

って感じで・・・。

んでもって、

 ♪そう そう 今は五十路でぇす~

ってなもんで。

・・・あ、
元歌を知らない人、スミマセン。
たいした意味は無いので、スルーして下さい(苦笑)。   



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