第70回 「極私的ソフビ怪獣人形史」 2009.11
この『ソフビ大好き!』が、
ゲイトウエイさんのホームページ上で毎月の連載になってから、
気づいてみれば、丸5年が経ちました。
早いものです。
以前チラッと述べた事がありますが、
元々は、
“名古屋アンテックTOYワールド・モダン文化マーケット”という
ここ名古屋で年2回行われるオモチャの展示即売会において、
出店者や来場者に配布される小冊子に連載していたものでしたので、
その小冊子が廃刊になった後、
発表の場がこのゲイトウエイさんのホームページ上に移行してからも、
モダン文化マーケットの開催に合わせる形でそのまま年2回の連載にしていたのですが、
ゲイトウエイオーナーである杉林さんの
「毎月ホームページを更新したい」
という意向で、
平成16年の10月から、毎月の連載に変更になりました。
原稿文字数の制限も無く、
好きな事を、好きなだけ述べればいいものなので、
書いていて楽しいですし、
毎月定期的に自分を表現・発信する事は、
僕が明るく楽しく生きていく上での、
バランスのとれたセルフコントロールでもあります。
つまり、
この『ソフビ大好き!』を執筆するという行為は、
僕にとって、
言ってみればマスターベーションのような(笑)役割も果たし、
精神を健全に保つためにも、
生活の中に必要不可欠なものであったりするわけです。
そんな場を提供して下さっているゲイトウエイさんには、心から感謝しています。
また、
ごくごく少数ではあるかと思いますが、
毎月読んで下さっている方もいらっしゃるようなので、
それも励みになっています。
なので、
これからも楽しく続けていきたいと思っています。
ただ、
今年はモダン文化マーケットが一度も開催されず、
小冊子の廃刊どころか、ついにイベントそのものも無くなってしまったようなので、
それだけが、ちょっと淋しいです。
ところで、
最初、その小冊子に連載予定だったものは、
実はこの『ソフビ大好き!』ではありませんでした。
本当は、エッセイではなく、
「オモチャに関する連載小説を書いてほしい」
と、当時の主催者の方から頼まれたのです。
小説の連載を依頼されるなんて、
なんか作家になったみたいでいい気分だったし、
連載といっても年2回なので、
のんびりと書けばいいや、と軽い気持ちで僕は引き受けました。
また、
ちょうどその頃、
『怪奇ソフビ男』という話のアイデアが自分の中にあったので、
それを具体的に文章にしていくつもりでした。
内容は、
ソフビ怪獣人形のコレクターである主人公の青年が、
恋愛や仕事でさまざまな裏切りに遭って人間不信に陥ってしまい、
心が傷つくたびに、なんと、肌が少しずつソフビ化していくようになり、
このままでは
いつか自分自身がソフビ怪獣人形になってしまうのではないか、と
不安や恐怖に慄く、というものです。
ところが、
作家になった気分で楽しく書き始めたはずだったのですが、
書いてるうちになんだか暗い気持ちになっていくのを自覚し、
もっと明るいオモチャの読み物にしようと考え直しました。
僕が伝えたい事は、こんな事じゃない。
怪獣のオモチャがそばにある事の喜び、幸せ、
ソフビ怪獣人形をコレクションする事の楽しさ、それを語りたい。
そう思いました。
そこで、
小説ではなく、
ソフビ怪獣人形コレクターとしての自分の素直な気持ちや
子供の頃の思い出などを書く事に、土壇場で変更させていただいたのです。
まぁ、言うなれば、『怪奇ソフビ男』を『快喜ソフビ男』に変えたわけですが(笑)、
あのまま無理して小説を書いていても楽しくなかったし、
毎月の連載で5年も続けるなど、
とても出来ませんでした。
コレクションに関するエッセイに変更して正解だった、と
今つくづく思っています。
そこで今回は、
そんな毎月連載5周年を
記念した内容のものにしたい、と思い立ち、
僕のコレクションを用いて
ソフビ怪獣人形の歴史を紹介する事にしました。
マルサン → ブルマァク → ポピー → バンダイ というソフビ怪獣人形の歴史をコレクションする、
というのが僕の蒐集コンセプトですから、
それをそのまま
この連載上に展開するわけです。
ソフビ怪獣人形という玩具の約40年に亘る移り変わりを、
僕の蒐集コンセプトに基づいて綴る事が出来れば、
この『ソフビ大好き!』という連載の、
これまで続けてきた、そしてこれからも続けていきたい区切りとして、
ふさわしい内容のものになると思います。
ただ、
40年の歴史を一気に紹介するとかなり長くなってしまいますので、
今回と次回の2回に分けて紹介する事にします。
なので、
今回はその前編、マルサン期とブルマァク期について、です。
また、
時代による違い、メーカーによる違いを、よりわかりやすくするため、
1匹の怪獣に絞って紹介します。
その怪獣には、
第1回の『ソフビ大好き!』で取り上げたレッドキングを選びました。
それでは、
「極私的ソフビ怪獣人形史」、始まり始まりィ〜。
マルサン期(昭和41年〜43年、いわゆる第1次怪獣ブームの時代)
日本初(という事は世界初)のソフビ怪獣人形は、
昭和41年に発売された、
ゴメス人形、ゴロー人形、ガラモン人形、ペギラ人形の、『ウルトラQ』怪獣4体である、
と言われていますが、
それ以前にゴジラ人形が発売されていた、という説もあります。
真偽のほどは僕にはわかりませんが、
何にせよ、
マルサンというメーカーがソフビ怪獣人形という玩具の歴史の第一歩を踏み出した、
という事に変わりはありません。
怪獣というキャラクターも、ソフビ怪獣人形というオモチャも、
今でこそ、
子供の夢を育むものとして一般に認知されていますが、
マルサンが怪獣のオモチャを作ろうとしていた頃は、
たとえ子供たちに人気があるとはいえ、怪獣は、
単にゲテモノとしてしか、世間では扱われていませんでした。
そんなものを人形にするなんて、普通では考えられない感覚だったと思います。
当の円谷プロですら、
マルサンに版権をおろす際、
怪獣の人形なんて売れるのか?
と、不思議がったほどです。
そんな時代ですから、
当然、“オモチャは可愛らしいもの” というのが、
玩具業界の常識であり、世間一般の認識でした。
なので、
“怪獣” というグロテスクなキャラクターを人形として玩具化するには、
愛嬌のあるデフォルメを施す必要があったのです。
しかし、マルサンは、
そんな慣例にただ従う、なんて事はしませんでした。
なんたって、
ブリキ玩具が1個300円〜500円だった時代に、
1,500円もする精巧なブリキ製キャデラックを作って名を上げたメーカーです。
“運賃や箱代を買い手側に負担させる” という当時の常識に逆らって全国統一価格にしたり、
宣伝のためのテレビ番組まで作ったりして
プラモデルを日本中に普及させた、業界の革命児です。
そんな、
“他社がしない事をして、他社では出来ないものを作る”
という無茶な社風ですから、
ちょっと “へそ曲がり” 的な感覚もあたっかもしれません。
でも結果、
それが運命とも言える奇跡につながるのです。
良質なオモチャを作る、
という玩具メーカーとしてのプライド、
伝統勢力を打ち倒して天下を取ろう、という後発(戦後生まれ)のメーカーとしての野心、
その二つが、
“怪獣は恐いもの。恐いからこそ、その迫力に子供たちが惹かれる”
という事実を、見逃しませんでした。
実物の怪獣に似せた恐い人形を作る、なんて事はもちろんしませんでしたが、
ただ可愛らしいだけの “お人形さん” を作る、なんて事もしなかったのです。
マルサンは、
幼い子供が恐がって泣き出したりしないよう考慮しつつ、
異形なる生き物の魅力を、
ちゃんと表現しようとしました。
そこが凄いと思います。
愛嬌のあるデフォルメを
迫力を出すために更に捻って歪ませたその造形からは、
当時の子供たちだけが見抜いていた、怪獣という生き物の内面性、つまり優しさや哀しさが、
偶然にも、いや必然的に滲み出ました。
奇跡ですが、
それは起きるべくして起きたものだったと思います。
オモチャの夢を信じてアイデアで勝負しようとしたマルサンの指針が、
怪獣の本質を解き明かしたのです。
画期的であり、革命的な事でした。
当然の事ながら、
その傑作玩具は子供たちの間で大人気となり、
“怪獣” が、愛されるものとしての市民権を得ます。
後にブルマァクのソフビが爆発的に売れたのも、
現在バンダイがリアルな造形を追求し続けられるのも、
マルサンが、
そうやって怪獣の魅力を世間に認知させ、怪獣玩具の揺らがない土台を作ったからです。
ソフビ怪獣人形の開拓者がマルサンであった、という事は、
玩具業界にとっても、
子供たちにとっても、
そして、空想の生き物である怪獣たちにとっても、
とても幸せな事でした。
そんなマルサンが作ったレッドキング人形が、これです。
全長約23センチ。
向かって左側の人形は、
全身に金色の塗装が吹いてあったと思われますが、
長い年月の経過とともに、退色したり変色したりしてしまっています。
それが、またなんとも絶妙な “味” になっていて魅力的なのです。
右側の人形は、黄色の塗装。
保管状況が良かったのか、そんなに退色せずに残っている方だと思います。
第1回「怪獣世代のソフ美学」や
第45回「ソフビ怪獣人形は戦うオモチャ」の中でも述べましたが、
マルサンのレッドキング人形の魅力は、
なんといっても、この、
いかにも頭が悪そうな顔と、
小学生が工作の時間に彫刻刀で無心で削ったような蛇腹のボディ。
レッドキングの特徴が
わかりやすく表現されていて、
実物のレッドキング以上に、レッドキングしてます(笑)。
そして、
右手がパーで、左手がグー。
ファイティングポーズにも見えるし、ジャンケンをしているようにも見えます。
これぞ怪獣のオモチャ、これぞソフビ怪獣人形、だと僕は思います。
ちなみに、
ソフビファンなら誰もが御存知かと思いますが、
マルサンのレッドキング人形には、
可動部分であるはずの頭部と胴体が、接着されているものがあります。
これは、
レッドキングの型を流用したアボラス人形にも見られるものですが、
頭部のかん着(パーツ同士を組む時の、はめこむ部分)と
両腕のかん着が内部でぶつかり合うため、
遊んでいるうちに肩の部分にひびが入ったり、頭部がもげてしまったりするので、
それを防ぐための処置だったと思われます。
ソフビ怪獣人形という世界初の玩具を模索しながら作るマルサンの、苦労が窺い知れます。
ブルマァク期(昭和44年〜52年、いわゆる第2次怪獣ブームの時代とその前後)
僕が幼稚園に通っていた頃(昭和44年〜45年)は、
マルサンはすでに倒産していたし、怪獣ブームも去った後でした。
でも、テレビでは、
『ウルトラQ』、『ウルトラマン』、『ウルトラセブン』などが再放送されていたし、
男の子なら、みんな怪獣が大好きでした。
怪獣ごっこも普通にしていたし、マルサンのソフビで遊んだりもしていました。
そんな時期に、
マルサンの金型を使ってソフビ怪獣人形を再販したのが、ブルマァクです。
これが大ヒットとなり、
一度廃ったものは二度と流行らない、という当時の玩具業界のジンクスをぶち破ります。
そして、
僕が小学校へ上がった昭和46年には、
『帰ってきたウルトラマン』の放送が始まって、再び怪獣ブームに火がつきました。
ブルマァクが仕掛けた、
と言っても過言ではないかもしれません。
また、
時を同じくして放送が始まった『仮面ライダー』の人気大爆発により、
それは変身ブームとも呼ばれるようになり、異常なまでの盛り上がりを見せました。
怪獣や特撮ヒーローが最も熱かった時代です。
ブルマァクは、大いに勢いづき、
マルサンソフビの再販にとどまらず、
美しくカッコいい独自の造形も確立させ、
カラーリングも子供の目を引きやすい派手なものにした新しいソフビ怪獣人形を、
続々と世に送り出しました。
ソフビの黄金時代でした。
ただ、
まさに “一山当てた” ブルマァクではありましたが、
マルサンとの決定的な違いは、“着想力” が無かった事だと思います。
“なんでもいいからやってしまえ”
という社風ですから、
勢いがある時は豪快に栄えますが、落ちてきた時に次の手が打てません。
結局、
ソフビ怪獣人形以外の玩具ではこれといったものを生み出せず、消えていってしまいました。
そのソフビ怪獣人形ですら、
マルサンが作ったものの “再販” から始めているのですから、
当然の末路だったのかもしれません。
そして、この “再販” というのが、
良くも悪くもブルマァクというメーカーの特徴と言うか、典型です。
それが証拠に、
会社が消滅した後も、いろんなメーカーから
同じ金型でソフビ怪獣人形を復刻生産し、カラーリングを変えての再販を行いました。
しかも、
時代が平成に入ってからは、
レトロブームを背景にオモチャやフィギュアを買う大人が出現し始めたため、
ブランドとしてブルマァクを復活させ、
ソフビ怪獣人形の復刻・再販に拍車をかけました。
昨年には、
なんと会社そのものまでもが復活しています。
もちろん、
いまだに復刻・再販を繰り返しています。
約40年のソフビ怪獣人形の歴史の中で、
ずっと一貫して復刻・再販をし続けるブルマァクのしたたかさも凄いと思いますが、
そんなにも、出し殻でお茶が何杯も出せる “ソフビ怪獣人形” というオモチャの根強さに、
僕は感服してしまいます(笑)。
そんなブルマァクのレッドキング人形が、これです。
全長約23センチ。
向かって左端は、金色の塗装、
真ン中は銀色の塗装、
右端は、黄色に赤も加えた派手な塗装。
見ての通り、マルサンのレッドキング人形の流用です。
ブルマァクソフビの特徴や魅力を語るなら、
ブルマァクが独自に開発した素晴らしい造形の、ほかの怪獣人形を紹介するべきかもしれませんが、
レッドキングという1匹の怪獣に対象を絞り、
それを、それぞれの時代、それぞれのメーカーがどう表現したか、
というのが今回のテーマですし、
何より、
前述したように、“再販” こそブルマァクというメーカーの典型ですので、
ソフビ怪獣人形の歴史の中で取り上げるなら、この再販人形の方が適切かと、僕は考えます。
特に、
右端の派手な塗装のレッドキング人形は、
過去の人形を派手に塗り替えて発売する、という、
ブルマァクがいまだにやっている事をそのまま表す人形ですので、
これぞ、ブルマァクの特徴であり、魅力であると言えます。
また、上記のサイズをスタンダードサイズとし、
ほかにもいろんなサイズのソフビ怪獣人形を作ったのも、ブルマァクの特徴です。
ジャイアントサイズ 全長約33センチ。 このように手に持たせて遊べるように、 東京タワーのソフビが 付属品として袋に同封されていました。 ちなみに、 実物のレッドキングは、 身長45メートルという設定ですから、 東京タワーをこんな風に片手で持てるほど巨大ではありません(笑)。 ジャイアントサイズという大きさを より強烈にアピールするための アイデアだと思われますが、 いかにも “昭和” な遊び心が感じられて、僕は好きです。 |
ミニサイズ 全長約10センチ。 首から上と胴体がほぼ同じ大きさという、 チープトイならではの、微笑ましい造形です。 このタイプのほかに、 成形色が黄色のものも存在するようです。 ・・・欲しいなぁ。 |
ミドルサイズ 全長約12センチ。 スタンダード、ジャイアント、ミニの3サイズの人形よりも 発売(開発)時期が後のため、 マルサンテイストの造形を脱し、見た目が端正な怪獣人形を作ろうとする、 ブルマァクの意思が感じられる造形です。 このタイプのほかにも、 いろんなカラーリングの人形が存在するようです。 頑張って集めよっ、と。 |
このように、
マルサンが開拓し、ブルマァクが発展させた “ソフビ怪獣人形” という玩具は、
“怪獣” というものが、子供たちに愛される “夢の生き物” である事を、
世に知らしめてくれました。
これは、
日本の児童文化において、実に大きな功績であった、と僕は思います。
そして、ブルマァクが倒産した翌年の昭和53年、
当時玩具業界トップの売上を誇っていたメーカーが、
その夢の生き物のオモチャ・ソフビ怪獣人形を、満を持して手がけます。
バンダイの子会社として
子供向けテレビ番組のキャラクター玩具の製造・販売を担当していた、ポピーです。
ポピーは、
ブルマァクの倒産をまるで待っていたかのように、
ブルマァクが消えて空いたその場所に、いともあっさりと落着します。
それは・・・、
と、今回はここまで。
いかがでしたか?
マルサンとブルマァクの違い、それぞれの特徴と魅力、お解かりいただけましたでしょうか?
続きは、
次回の『ソフビ大好き!』で紹介させていただきます。
それでは、また来月に・・・。
つづく