真水稔生の『ソフビ大好き!』


第1回 「怪獣世代のソフ美学」 1997.8


莫大な数と種類

ゴジラ、ウルトラマン、仮面ライダー・・・。
僕が少年時代に胸躍らせた空想特撮作品の世界。
そこに登場したキャラクターたち(ヒーロー、怪獣、怪人、宇宙人、ロボット、妖怪など)の
その莫大な数は、他国でもほかに類を見ない。
日本が世界に誇るべき文化のひとつ、と言っても過言ではないだろう。

僕の愛するソフビ怪獣人形は、
この “莫大な数” という特徴を持つ国産キャラクターの玩具にふさわしく、
実に数多くのキャラクターが商品化されている。
主役と代表的な悪役だけでなく、
「こんな怪人おったかァ?」というようなものまで人形になっている事実は、
単に当時の怪獣ブーム・変身ブームの白熱ぶりを物語るだけでなく、
僕のような怪獣世代のコレクターを永遠に夢中にさせる魔力を持っている。
ひとつのキャラクターでも、
メーカーの違いや発売時期の違いによって、形や色やサイズの異なるものが多数存在するので、
もう一生かかったって集めきれない、恐るべき数と種類なのだ。
よって、僕の蒐集活動は果てしなく続いていく。
・・・幸せな話である。


素材の素晴らしさ

ソフビの質感が大好きだ。
子供の手にやさしく安全で、かつ、お風呂でも砂場でも遊べる丈夫な性質は、
戦う怪獣人形の素材として最適だし、
腕や足を動かす時にかすかに聞こえる、キシッ、キシッ、という摩擦音がなんとも心地よくて、
いつでも心を、夢と空想の世界へ気持ちよくいざなってくれる。
そして、あの甘い匂い。
ソフビ世代でない人には、ただビニールの、なんだか有害っぽい匂いとしか思えないかもしれないが、
僕はあの匂いを嗅ぐ度に、縁日の日の綿菓子を思い出す。
もちろん、ソフビと綿菓子が同じ匂いのわけがないし、あやふやな記憶の中の単なる錯覚に過ぎないのだが、
夢見る子供の頃を思い出させてくれる懐かしい匂いである事に間違いはない。
30年以上たっても匂いが消えないなんて、
ソフビ怪獣人形ってなんてロマンティックな玩具なんだろう。

やさしい質感、甘い匂い・・・、僕を酔わせる “夢の感触” である。


偉大なる造形

マルサンやブルマァク(当時のソフビ怪獣人形を開発していた代表的メーカー)の造形を、
実物の怪獣に似ていない、という評価の下、
現在のバンダイのリアルな造形より技術的に低く位置付ける人が多いが、
僕に言わせれば、
それはとんでもない話だ。実に浅はかな意見である。

マルサンやブルマァクのソフビ怪獣人形に対する “似ていない” という安易な評価は、
サザンオールスターズのデビュー当時、桑田佳祐さんのつくる歌を聴いて、
“歌詞がわからない” という感想しか持てなかった人の乏しい感性に匹敵するくらい、
次元の低いものだと僕は思う。
だって、
そもそもソフビ怪獣人形というものは、
子供たちが戦わせて遊ぶために生み出される玩具であり、
戦いの激しさや回数においては実物の怪獣をも超えた存在でなければならないのであるから、
外形よりも内側、
その怪獣に “似ているか” ではなく、その怪獣の “魅力がいかに表現されているか” が大切なのである。

それに、マルサンやブルマァクの頃は、
“似ている造形” よりも “愛嬌のあるデフォルメ” こそ、ソフビ怪獣人形の、いや、玩具そのものの定義であり、
業界の常識であったのだ。
そんな時代に、
開発ノウハウを模索しながらも
アッという間にソフビ怪獣人形の文化を発展させたマルサンやブルマァクと、
キャラクター玩具の世界を版権で縛りつけて見事に征服したその証のひとつとして、
マルサンやブルマァクとは違う造形の人形を何年もかかって完成させた現在のバンダイとでは、
立場や条件が違う。
比較して優劣を問うものではないのだ。どちらも素晴らしい造形なのである。
 
たとえば、レッドキング。
バンダイのウルトラ怪獣シリーズのレッドキングは、
テレビに出てきた実物そっくりの、とてもカッコいい人形だ。
それに対してマルサンは・・・。
一見、滑稽な造形に見えるが、
よーく見ると、バンダイのリアルな造形に充分に対抗し得る、奥深い魅力がある。

小学生が工作の時間に無心で彫刻刀で削ったような蛇腹のボディは、
レッドキングの持つ力強さをすがすがしく表現し、
野蛮でいかにも頭の悪そうな顔の表情は、
レッドキングという怪獣の性質をわかりやすく物語っている。
おまけに左手がグーで右手がパーだ。ファイティングポーズのようでもあり、ジャンケンしているようでもあり。
怪獣が生き物である事とオモチャが子供の友達である事を
見事にアピールしている。
忙しい中でも決して手を抜かなっかた原型師の職人魂とも言える心意気と、
その原型師を選んだメーカーのセンスの良さには脱帽だ。

このマルサンのレッドキングをつくった原型師は、
実物のレッドキングをデザインした芸術家の成田亨さんと同じで、
美大出身で筋金入りのシュールレアリストであったとの事。
こんな高尚な人形で遊んでいた僕は、なんて幸せな世代なのだろう・・・、としみじみ思う。

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