真水稔生の『ソフビ大好き!』



第243回 「ずっとずっと・・・」 2024.4

今から55年前の或る日、
通っていた幼稚園で、ちょっとした上映会のようなものが開かれた事がありました。
年中クラス(5歳)の時の話です。
お遊戯会や入園式・卒園式を行う広い教室に集合させられて観たその作品は、
なんと、
まだテレビ放送が始まる前の、『ハクション大魔王』と『サザエさん』でした。

半世紀以上も昔の事なので、記憶もおぼろげなのですが、
子供心に、
『ハクション大魔王』の方は面白いと思ったけど、
『サザエさん』の方は何が面白いのかよく解らなかった(笑)・・・って事は、
はっきりと憶えています。

上映終了後に
スーツ姿のおじさんが舞台上に出てきて、
今度の日曜日から、この2作品のテレビ放送が始まる
(夕方6時から『ハクション大魔王』、
 6時30分から『サザエさん』が同じ局で続けて放送される)旨の
説明をされ、

 「みんな、観てねー」

って言われたので、
たぶん、
テレビ局関係の人が宣伝目的で
そうやって幼稚園や保育園などを回っていたンだろうと思います。

これまでも幾度となく述べてますように、
僕は幼い頃から特撮作品(実写ドラマ)一筋で、アニメ番組には一切興味がありませんでしたので、
特に楽しみには感じませんでしたが、

 こうやって放送前から視聴出来たのも、何かの縁だろう・・・、

みたいな事を幼いながら思ったのか、
そのまま素直に、
迎えた日曜日から、両番組を毎週観る事にしたンですよね。

けど、やはり、
何回観ても(何週経っても)、
『ハクション大魔王』の方は面白いと思えるのに、
『サザエさん』の方は、何が面白いのかよく解かりませんでした。

そして、
1年後、『ハクション大魔王』の方だけが最終回を迎え、

 面白い方の番組が終わって、
 面白くない方の番組は終わらない・・・、

ってのが、
これまた解からず、困惑したものです(笑)。

やがて、
そこから更に1年が経って、
『ハクション大魔王』の後番組であった『いなかっぺ大将』も最終回を迎え、
主人公の大ちゃん(声優は野沢雅子さん)が、

 来週からは、カッコいいヒーローの活躍が始まるだす・・・、

みたいな事を言う予告編が流れて、
翌週から『科学忍者隊ガッチャマン』が始まり、
それがまた最終回を迎えると、
その次は、・・・何だっけ、なんか、またタツノコプロのヤツ・・・と、
6時からの方は、
次から次へとどんどん番組が変わっていきましたが、
6時30分からの方は、
ずっと『サザエさん』のままでした。ずっとずっと・・・。

そして、
幼稚園児だった僕が
ついには還暦を迎える年齢になった現在でも、
御存知のとおり、『サザエさん』は、まだ放送され続けています。

もう、感服(笑)。
なんたって、
世界一長く放映されているテレビアニメ番組として、ギネス記録更新中ですからね。

もちろん、
今では、面白さは充分解かりますし、
そんな作品を第1話からリアルタイムで観てこられた幸運な人生が、
何なら、ちょっぴり “誇り” だったりもします。

だって、
年下の連中なら、ほぼ全員、

 「『サザエさん』を第1話から観ている」

って告げると、
決まって「凄いですね』なんて言って、僕の生きてきた年数に敬意を払ってくれますからね。
それでもって、
今元気で生きていられる事のありがたみや喜びを改めて実感し合うに至り、
お互いが笑顔になれるのです。

まさに、

 ♪みんなが笑ってるぅ~

って状態になるンですよね。・・・幸せな話です、ホント。


・・・と、
なんでこんな事を書いているのか、といいますと、
実は、つい先日、

 昭和47年の小学館の学年誌に、こんな『サザエさん』の漫画が載ってた・・・、

っていう、或るブログ記事を見つけて、
それが、下記のようなあらすじだったからです。

 七夕の日、

   ウルトラマンエースになれますように・・・

 と、短冊に願い事を書くカツオ。

 サザエとフネは「エースなんてムリよ」と馬鹿にしますが、
 なんと、その夜、
 カツオは本当にウルトラマンエースに変身出来てしまいます。
 願いが叶ったわけですね。
 ワカメとタラちゃんも大喜び。

 すると、そこへ、超獣ベロクロンが出現。
 
  出番だ、エース! 頑張れ、カツオ兄ちゃん!
 
 ってところなのですが、
 なんと、そのカツオエース、怖くて膝が震え、何も出来ません。
 
  うわ~、どうしよう・・・、

 と、窮地に立たされたところで、
 目が覚め、布団から起き上がるカツオ。
 額の脂汗を拭いながら、

  夢か・・・、

 とつぶやいた後、
 
  やっぱり、ウルトラマンエースになるなんて、ボクには無理だぁ・・・、

 と、パジャマ姿のまま慌てて部屋を飛び出し、
 庭の笹竹に吊るしてある自身の短冊を外しに行きます。
 それを見て、

  ほら、ごらんなさい、

 とばかりに笑う、サザエとフネでした。

・・・と、まぁ、こんな、
特に面白くもなんともない・・・もとい(笑)、ほのぼのとしてて愉快な、“サザエさんワールド” 全開の物語だったのですが、
この、制作会社も放送局も異なる『サザエさん』と『ウルトラマンA』の堂々たるコラボには、
不意を突かれて笑ってしまいましたし、
同時に、めっちゃ、癒されたンですよねぇ・・・。

協力:円谷プロ・・・みたいな記載は、どこにもありませんでしたので、
おそらく円谷プロの許可は取ってないンでしょうけど、
僕の子供の頃は、よくある事でした。
それで許されたンです。
第240回「ガイ願」の中で述べた、
『妖怪百物語』と『妖怪大戦争』の油すましもそうですし、
前回(第242回「コレクションルームから おはこんばんちは」)述べた、
ペンギン村にいたゴジラやウルトラマンやバルタン星人だって、そう。
映画にしろ、漫画にしろ、オモチャにしろ、
権利関係の話が、今ほど厳しくなかったンですよね。
なので、
その、粗雑だけど温かい、なんとも懐かしい空気を思い出し、気持ちが和らいだわけです。

と同時に、

 これは絶対に “『ソフビ大好き!』案件” だ!

とも思った次第。
だって、

 怪獣ブーム・変身ブームの中で過ごした少年時代の思い出や
 夢を見続けている現在の暮らしを綴りながら、
 ソフビ怪獣人形という玩具の魅力と、それを愛でるコレクター人生の楽しさを伝えていく・・・、


というのが、
この『ソフビ大好き!』の目的でありテーマですからね。
国民的アニメ番組『サザエさん』を
第1話から観てくる事が出来た幸運な人生に対する感謝の気持ちを、
幼稚園の上映会の思い出とともに述べる事が出来て、
おまけに、
そこへウルトラマンエースまで絡んでくるとなれば、これは、もう、書くしかありません(笑)。
執筆意欲を大いに掻き立てられました。

なので、今回は、
ミサイル超獣ベロクロンのソフビを紹介させていただきます。
なんたって、
小学館の学年誌上の『サザエさん』の漫画にも登場した、
つまり、
円谷プロのあずかり知らぬところでも猛威を振るっていた(笑)、
恐るべき怪獣・・・いや超獣ですからね。

 
御存知のように、
超獣とは、
兵器として作られた改造生物で、
従来の怪獣を圧倒する能力や破壊力を誇る、もはや “怪獣を超えた怪獣” です。
その第1号として、
昭和47年放送開始の『ウルトラマンA』の第1話に登場したのが、ベロクロン。
ヤプール人によって、異次元空間から送り込まれてきました。

“ミサイル超獣” の異名のとおり、
指先から、口の中から、
サンゴのような肩や背中の突起物の先から、
言わば、体中から、ミサイルを発射して攻撃してくる、物騒極まりない怪物です。
カツオエースどころか、
本物のウルトラマンエースですら、第1話からいきなり苦戦を強いられました。 



マルサン製、全長約12センチ。

第202回「甦る感覚」の中でも紹介した人形で、
一度は倒産しながらも
その翌年の昭和44年に事業を再開した、いわゆる “復興マルサン” の商品。
番組放映当時に発売されていたソフビのベロクロン人形は、これのみです。  
 
            昭和のデフォルメ表現ながら、
目は実物どおり真っ赤で不気味だし、
背面の無数の突起物の散らかり具合や毒々しい色遣いなど、
廉価版のミニサイズ人形とはいえ、しっかりと “ベロクロン” してます。


 



ポピー製 キングザウルスシリーズ、全長約16センチ。

番組放映から10年ほど経った昭和50年代半ばの商品。
先のマルサン製ベロクロン人形と異なり、
手の指を、実物に倣ってミサイル発射管として造形しているし、
突起物の先の穴(ミサイル発射口)も、一部ではありますがちゃんと表現して、
リアルな造形の人形を目指してはいるものの、
このように、目を、“白地に黒いつぶらな瞳” にしてしまったせいで、
顔の表情が “さわやかな笑顔” みたくなって、
不気味で迫力あるベロクロンのイメージがぶっ壊れてしまっています。
  まぁ、この、
リアルとデフォルメどっちつかずの中途半端な表現こそ、
ポピーのキングザウルスシリーズの真骨頂であり、
時代背景を物語る資料的価値にも繋がる “魅力” なわけですが、
正直、 “ベロクロン” してる印象は、あまり無いですね、残念ながら・・・。
このベロクロンなら、カツオエースでも立ち向かえそうです(笑)。
 
そういえば、ベロクロン、
劇中で、
ジャンプして頭上を飛び越えるエースを目で追い続けた結果、
そのまま後ろへひっくり返って倒れてしまうシーンがありましたが、
あのドジっぷりは、
『サザエさん』の世界観にも通ずる愛嬌かもしれません。 




      そう思ってみると、この笑顔、深いなぁ・・・(笑)。 


 


バンダイ製 ウルトラ怪獣シリーズ、全長約15センチ。

平成元年の発売。
リアルな造形で、しっかり “ベロクロン” してる人形です。
カラーリングに、もう少し気合を入れてほしかった感はありますが、
なんたって、
先に紹介したポピーのキングザウルスシリーズ以来のベロクロン人形ですので、
発売当時は、シビれるほどカッコよく感じたものです。
 
  その後、
同じ金型を使って、カラーリングが2度、変更されました。
向かって左側が、平成3年の発売で、右側が平成6年の発売。 
 
     
     
     
 


こちらは、
同じくバンダイ製 ウルトラ怪獣シリーズのソフビで、
平成18年に発売された、
同年放送開始の『ウルトラマンメビウス』に登場したベロクロンの人形。
全長約17センチ。

なんたって、平成18年のソフビですから、
もう、“ベロクロン” してる、どころか、まんま “ベロクロン”。
超カッコいいです。
 
 


3年後の平成21年に、
同じ金型で、
赤い部分をちょっと暗めのトーンにして、リニューアル発売されました。
 


ウルトラマンシリーズ生誕40周年を記念して製作された『ウルトラマンメビウス』でさえも、
もう、18年も昔の話。
リアルタイムで観ていた子供たちも、今では成人して社会に出て働いているほどです。

そして、僕はといえば、
その『ウルトラマンメビウス』の物語の大前提となる昭和のウルトラシリーズを、
いちばん最初の『ウルトラQ』から観てるンですから、
そりゃあ、『サザエさん』だって、第1話の放送から観ますわな(笑)。
もう、完全に “じじぃ” です。

若い頃は、

 大人になんかなりたくない。
 僕は、ベテランの少年でいたいンだ!

なんて言って、
自身の幼児性を正当化しようとしてましたが(苦笑)、
もう、そんな誤魔化しも通用しない年齢になってしまったわけです。
他人から言われて嬉しかった “永遠の少年” なんて言葉も、
今言われたら、なんだか浮き上がった感じがして、こっ恥ずかしいだけですしね。
だって、
“じじぃ” は、
“じじぃ” だからこそ “じじぃ”。 “少年” のわけがありませんもの(笑)。
還暦を迎えようというのに、
“ベテランの” とか “永遠の” とかなんて言葉を頭にくっ付けてまで
無理矢理 “少年” でいるなんて、あまりに不自然な気がするンですよね。

けれど、それでも、
このままフツーに “じじぃ” として朽ち果てていく気にはなれないので、
何か、表現を変えて、モチベーションを維持し続けなきゃな。


・・・そうだ!
超獣が

 “怪獣を超えた怪獣” だったように、

僕も、

 “少年を超えた少年” になろう。

“ベテランの少年” や “永遠の少年” が、
非現実的でしっくりこないのなら、
もう、いっその事振り切って、それを超えてしまえばいいのだ。
それこそ “異次元” に、行ってしまえばいいのだ(笑)。
 
     
     よぉし、これからは、“少年を超えた少年” として、これまで以上に、楽しく元気に生きていくぞーっ!
   

・・・え?
 
 結局、“少年” じゃねェか!

って?

ハハハ。
幼児性はいつまでたっても抜けませんのでね。
おそらくこのまま、ずっと変わらず続いていく事でしょう(苦笑)。
『サザエさん』みたいに、ずっとずっと・・・。






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