真水稔生の『ソフビ大好き!』


第242回 「コレクションルームから おはこんばんちは」 2024.3

今月の1日、国民的漫画家である鳥山明先生が亡くなられましたが、
有名人の訃報、というより、
僕は、
身近な人が亡くなった知らせを受けた時のような、
生々しい喪失感と淋しさを覚えました。

というのも、
鳥山明先生は、
出身地である愛知県清須市(ここ名古屋市の隣です)にずっと在住されていて、
愛知県の小学生向けの学習本にオリジナル漫画を無償で提供されたり、
東山動物園のコアラ舎のマークをデザインされたり、
地元に対する愛着がとても強く、もちろんドラゴンズファンでしたし、
そういう、
一途な郷土愛をお持ちのところに共感していたのと、
加えて、
“ゴジラ” や “ウルトラマン” などを愛する特撮ファンでもあられたので、
雲の上の存在でありながら、
僕は勝手に親近感を抱いてたンですよね。
好きな季節は夏(そんな人、なかなかいない(苦笑))、というのも僕と同じでしたし・・・。
だから本当にショックでした。


今回は、
そんな勝手に親近感を抱いていた鳥山明先生にまつわる、
僕の思い出話(超個人的なものではありますが)を綴らせていたたき、心から御冥福をお祈りしたいと思います。


鳥山明先生で、
まず思い出すのは、
僕が高校2年の時ですから今から43年前、あれは、昭和56年の冬の事。

当時、週刊少年ジャンプで連載されていた、鳥山明先生の出世作である『Dr.スランプ』が
『Dr.スランプ アラレちゃん』としてテレビアニメ化され大ヒット、
巷では、アラレちゃんブームが巻き起こっていました。
そんな或る日、
同じクラスの隣の席の子(男子校だったので、残念ながら男の子ですけど)が、
鳥山明先生の御自宅(当時の清須市は、まだ “市” になっておらず、西春日井郡清州町、といいました)を
電話帳で調べて突きとめ、会いに出かけました。
すると、
突然の訪問であったにもかかわらず、
鳥山明先生は、
その子を大歓迎して家へ招き入れ、
その子の着ていたパーカー(フード付きの防水ジャケット)に快くサインして下さっただけでなく、
なんと、お茶まで出して下さった、というンですよね。
背中に
鳥山明先生のサインと
ガッちゃんの絵
(言うまでもなく、『Dr.スランプ』の登場キャラクターである、あのガッちゃんの絵です)が
大きく描かれたそのパーカーを、
毎日のように教室で見せられながら、散々自慢されたものです。

けど、その子が
そうやって毎日学校にそのパーカーを持ってきていたのは
なにも自慢するためではなく、
部活(砲丸投げの選手でした)の際に着用するためだったンですよね。
真っ赤なパーカーでとても目立っていたので、
それを着てグランドにいるその子の姿が、やたらと目に留まったものです。
ただ、
暑くなって汗をかいた際には、脱いでグランドの隅に無造作に置いていたり、
時には、教室や部室に忘れたまま帰ってしまったりしていたので、
或る時、

 「でら貴重なモンなンだで、
  そんなだだくさに扱ってかんてぇ~。ちゃんと家に飾っときゃあ
   (【標準語訳】
     すごく貴重な物なのだから、
     そんな雑に扱っちゃあダメだよぉ~。ちゃんと家に飾っておけよ)」

って忠告した事があったンですけど、
その際、

 「マニアかて、お前は・・・」

と、半ば呆れたような口調で言い返されたンですよねぇ・・・。

高校2年の時なので、
当時の僕はべつにマニアでもコレクターでもなかったのですが、

 何かに執着する性格や
 “物” をただの “物” として見ない精神が、
 あの頃、もう、すでに、
 他人からは異常だと思われるほど強く、僕という人間から見え隠れしていたのかなぁ・・・、

なんて、妙に感じ入ってしまいます。

なので、
「マニアかて、お前は・・・」という言葉、そのやりとりが、
背中に鳥山明先生のサインとガッちゃんの絵が入ったその子の真っ赤なパーカーとともに、
いまだに強く脳に焼き付いている次第なのです。


あと、もうひとつ、
鳥山明先生で思い出す事がありまして、
今度は、今から15年前の事。
クラスメイトに「マニアかて、お前は・・・」と言われた高校時代から
時は流れて大人になり、その予言(笑)どおりマニア(ソフビコレクター)になった僕ですが、
東京に住む或る知人が、仕事で名古屋まで来た際に、

 「コレクションを見せてほしい」

と言って我が家まで来てくれた事があったンです。
その人は、
マニアでもコレクターでもないものの、
“ゴジラ” や “ウルトラマン” や “仮面ライダー” などで育ち、
ソフビ怪獣人形も、数体、子供の頃に持っていた・・・、という同世代ゆえ、
コレクションルームに入るや否やめちゃくちゃ感動してくれて、
目を輝かせながら、
自身の子供の頃の思い出を語ってくれたり、
ヒーローや怪獣の話で一緒に盛り上がってくれたりして、
楽しいひと時を過ごす事が出来たのですが、
帰り際に、ポツリと、

 「けど、真水さん、
  ゴジラとバルタン星人を一緒に飾っちゃあ、ダメですよォ」

って呟いたンです。
要は、

 東宝怪獣とウルトラ怪獣はカテゴリーが違うのだから分けて飾れ、

って事ですね。

コレクションケースには、
マルサン・ブルマァクもの、ポピーのキングザウルスシリーズ、バンダイ製品・・・、
あるいは、
それこそ、ゴジラ系、ガメラ系、ウルトラ系、ライダー系、その他・・・、
って感じで、
ある程度はテーマを持たせて分けたうえで飾ってあるのですが、
中には、
特に共通のテーマもなく、
いろんな作品のいろんなキャラクター、いろんなメーカーのいろんなシリーズの人形が
ごった煮みたく混在している棚もいくつかあり、
その事を指摘されたわけですが、
これには、

 はぁ?

ってなりました。
だって、
余計なお世話じゃないですか、そんな事・・・。

 僕が、僕のお金で買った僕のソフビ人形を、
 僕のコレクションルームの僕のコレクションケースにどう飾ろうが、
 僕の勝手でしょ?
 他人のコレクションに口出しするほどゴジラとバルタン星人を分けて飾りたいのであれば、
 お前自身が、お前の金で買ったお前のソフビ人形で、
 お前のコレクションルームのお前のコレクションケースにおいて実現すればいいじゃないか!

って話です。

ただ、本来の僕なら、
それをそのまま口に出してしまい、
器の小ささや人としての未熟さを露呈してしまうところでしたが(苦笑)、
その時の僕は違ったンですよねぇ。
余裕たっぷりに、

 「いやいやいや、
  ペンギン村にだって、
  ゴジラやバルタン星人が当たり前のようにいたろ?
  あれと一緒だよ」

と返したのです。
すると、その人は、

 「あぁ、なるほどぉ~」

と言って一瞬で納得し、

 「自由な夢の世界、ってわけかぁ・・・」

なんて、
いたく感心してもくれたンですよね。
そのリアクションが印象的だったので、よく憶えてるンです。

まぁ、僕としては、
冒頭で述べたとおり特撮ファンであった鳥山明先生が
『Dr.スランプ』の中に
お話の舞台であるペンギン村の住人として
ゴジラやガメラやウルトラマンを当たり前のように登場させていたのを思い出し、
言わば思いつきで、
例えに出したまでだったのですが、
そんな事が咄嗟に出来たのには理由がありまして、
実は、
その数日前に、
僕、ファインモールドに行っていたのです。

ファインモールドとは、
愛知県豊橋市にある模型メーカーで、
御存知の方も多いかと思いますが、
社長さんが鳥山明先生と懇意であった関係で、
鳥山明先生がデザインしたプラモデルを発売している会社です。

僕は、当時、アルバイトで、
いろんな会社の社長さんのインタビューを撮ってWEBサイトに載せる、って仕事の、
運転手兼カメラアシスタントをしていたンですけど、
或る時、ファインモールドの社長さんがその対象になったンですよね。

社内や工場を見学・取材させたいただいた後、
社長さんのインタビューを撮らせていただいたのですが、
打ち合わせの際に、
社長さんが、鳥山明先生の事についても少し話されたにもかかわらず、
ディレクターやインタビュアーがまったく興味を示さず、
すぐに話題が変わっちゃって、
本番でも一切その件には触れずに終わってしまったのです。

僕は、個人的に、
鳥山明先生について社長さんから話を聞きたかったのですが、
アルバイトだし、それも、運転手兼カメラアシスタントという立場ゆえ、
出しゃばるわけにもいかず、
しかも、1日に何社も訪ねなければならないスケジュールで時間に余裕が無かった事もあり、

 せっかくファインモールドの本社・工場まで来る事が出来て、
 社長さんにも会えたのになぁ・・・、

と、ちょっぴり残念な気持ちのまま、ファインモールドを後にしたのです。

それが胸に引っ掛かっていて、
脳の最も出口に近いところに “鳥山明” がいたので、
瞬間的に「ペンギン村」なんてワードがスルッと出たンですよね。

つまり、鳥山明先生のおかげで、
先に述べた、

 余計なお世話だ、

みたいな事をムキになって吠える醜態をさらさなくて済み、
かつ、

 ペンギン村と同じ・・・、

なんていう、気の利いた事も言えたわけなのです。
それも、間髪入れず、ごくごく自然に。

あれは、ホント、“粋な返し” だったなぁ・・・(自画自賛(笑))。


高校生時代にクラスメイトから言われた「マニアかて、お前は・・・」も、
この、
15年前にコレクションを観に来てくれた知人から言われた「自由な夢の世界、ってわけかぁ・・・」も、
どちらも、
当人たちからすれば、
単なる “ノリ” で発しただけのものだったンでしょうけど(もう憶えてもいないだろうし・・・)、
僕は、その言葉を自身の客観的評価として受け取り、
それに応えるかのように、ロマンを追い求めて生きてきたンですよね。
現に、こうして、
“マニア(ソフビコレクター)” になり、
“自由な夢の世界” を、生活を度外視してまで愛し続けているわけですから・・・。

しかも、偶然とはいえ、両方とも鳥山明先生絡みゆえ、
冒頭で述べた、
僕が鳥山明先生に勝手に抱いていた親近感は、
単に同郷で地元を愛している精神に共感していたり、
“ウルトラマン” や “夏” が好き同士だったりするだけでなく、
鳥山明先生が、そうやって、
ソフビコレクターとして夢見て生きる僕のアイデンティティに関わっていたから・・・、
でもあるのです。

まぁ、どっちみち、
僕が勝手に抱いている思いには変わりありませんけど(苦笑)・・・。


この世からいなくなってしまった鳥山明先生ではありますが、
日本中・・・いや世界中のファンの胸に、作品とともに生き続けるでしょうし、
また、
僕の心の中では、
ソフビ蒐集ライフを楽しく生きる “お守り” のような存在でも、あり続けます。
僕の命が尽きるまで、ずっと・・・。
それはとても幸運な事。
鳥山明先生、どうもありがとう!

ペンギン村のようなコレクションルームで、その愉快な魂が、今日も踊っています・・・。



                コレクションルームから おはこんばんちは
右向いて



  左向いて
                                            バイちゃ バイちゃ



・・・っと(笑)。



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