真水稔生の『ソフビ大好き!』


第240回 「ガイ願」 2024.1

昨年の大晦日の夜、
佐久間宣行さんのYouTubeチャンネル『NOBROCK TV』を観ていて、
或る動画を見つけたのですが、
それがもう、めちゃくちゃ面白くて、
まことにもって朗らかな、とっても麗しい気分になったンですよねぇ。
どういう動画だったか、というと、

  アイドルタレントの森脇梨々夏さんが、
  にせ番組で呼ばれて待機していた控室で、
  イジリー岡田さんの “エロ楽屋訪問” を受けて私物を舐められるも、
  事前に、イジリー岡田さんから、

   「今日でこの芸を引退するし、母親も見に来ているので、
    どうか嫌がらず、喜んでほしい」

  と内緒で頼まれていた事と、
  にせディレクターの

   「嫌がって下さい」

  という指示通りにアイドルタレントとしての仕事を全うして
  番組を成立させなければならない立場の、
  その板挟みに遭う・・・、
 
 というドッキリを仕掛けられ、
 森脇梨々夏さんがどう対処するかを検証する・・・、

という内容だったのですが、
ピュアすぎる森脇梨々夏さんの、その健気な奮闘ぶりが、
もう、可笑しくて、いじらしくて、たまらないのです。
手を叩いて爆笑しながらも、涙が溢れ出るくらい感動してしまいました。
ホント、最高に素晴らしかったです。

2ヶ月ほど前にあげられた動画でしたが、
遅ればせながら、たまたま気づいた大晦日の夜に視聴出来て、ラッキーでした。
だって、
その動画のおかげで、
愉快かつ心が洗われる思いで元旦が迎えられましたからね。
感謝、感謝です。


さて、そんな清々しく幕を開けた令和6年、1発目の『ソフビ大好き!』は、
ガイガンについて述べさせていただく事にしました。
・・・そう、
東宝映画の『地球攻撃命令 ゴジラ対ガイガン』(昭和47年公開)や『ゴシラ対メガロ』(昭和48年公開)、
あるいは、テレビドラマ『流星人間ゾーン』(昭和48年放送)に登場した、あのガイガンです。
  というのも、
そのドッキリ動画で、
イジリー岡田さんが、森脇梨々夏さんのカバンの中から取り出したカチューシャを、
御自身の頭に付けた後、
そこから “高速ベロ” の餌食にするため顔の前にゆっくりと下げてきて、
目の位置とそのカチューシャが重なった際、
あの、バイザーのような単眼をしているガイガンの顔を思い出し、

 これだ!

と閃いたから、なンです。 
 いやいやいや、
 そんなに何でもかんでもすぐに怪獣に結び付くはずがない、
 いくらなんでも強引すぎる、無理がある、

なんて言って鼻で笑う人もいるかもしれませんが、
そんな事はありません。
だって、
何を隠そう、ガイガンのあのバイザーのような単眼は、
ガイガンのデザインを担当した水氣隆義さんが、
映画『山と谷と雲』で
ワンレンズのサングラスをかけていた石原裕次郎さんを観て思いついたアイデアから
生まれたものですので、
強引でも無理があるものでもなく、むしろ自然な想起。
カチューシャだろうとサングラスだろうと、そういう形状のもので両目が隠れたら、
もう、必然的に “ガイガン” なのです。

・・・まぁ、
“真珠” と聞いたら、
すぐにまず “ガマクジラ” が頭に浮かぶ(第238回「老人の夢は生きている」参照)のと同じで、
何でも怪獣に繋がってしまう、
特撮世代の怪獣ファンならではの特異な感覚である事は認めますが・・・(苦笑)。

ちなみに、
“ガイガン” と命名したのも水氣隆義さんで、
ガイガンの “ガイ” は、
石原裕次郎さんの愛称でもある “タフガイ” や “ナイスガイ” の “ガイ” から来ています。

 なるほど~、それで、ガイガン(ガイ眼)かぁ・・・、

と思いきや、
ガイガンの “ガン” は “眼” ではないンですよねぇ。
こちらは、鳥の “雁” から来ているそうです。
鳥類をモチーフにしたデザインですからね、そもそも。


とはいえ、
このガイガンという怪獣のデザイン案(ついでに命名由来)について、
そんなふうに
はっきりとした事実が判ったのは、
水氣隆義さん御自身が「私が発案者だ」と名乗りを上げ、それを東宝が認定した、
今からたった15年前の事で、
それまでは、

 井口明彦さんによるデザインである、

とか、

 水木しげる先生の描く妖怪 “陰摩羅鬼(おんもらき)” の絵がモデルである、

とか、
今思えば、確証の無い無責任な説が、
長きにわたり、なんともまことしやかに囁かれていたのです。

けど、
一応、そういう説が生まれた背景・理由はありますので
お節介ながら説明させていただきますと、
最初の、

 井口明彦さんによるデザインである、

って説に関しては、
“サイボーグ怪獣” なんて別名もあるガイガンの、
バイザーのような単眼はもちろん、
腹部に回転カッターまで備えたおよそ天然の怪獣とは思えぬその姿形が、
井口明彦さんがデザインされた『ウルトラマンA』の超獣たちを思い起こさせるため、
誰からとなく「井口明彦さんの手によるものだろう・・・」と言い出したのがきっかけ、と言われています。
そして、

 水木しげる先生が描く妖怪 “陰摩羅鬼” の絵がモデルである、

って説の方は、
『地球攻撃命令 ゴジラ対ガイガン』の製作に当たって、
田中友幸プロデュサーから、

 「ガイガンのデザインは、講談社の水氣(ミズキ)さんに依頼した」

と聞かされた特撮監督の中野昭慶さんが、
ミズキの “キ” を “氣” ではなく “木”として受け取り、

 水木しげるがデザインした、

と思い込んで、
そのように何かのインタビューの際に話してしまったため、それが広まったそうなのですが、
では、“陰摩羅鬼” はどこから出てきたのか、というと、
この陰摩羅鬼という妖怪は、

 供養されずにいる死体から生じた “気” が化けて、
 経文読みを怠っている僧侶を叱るために現れる・・・、

とされている妖怪で、
江戸時代の絵師・鳥山石燕の画集『今昔画図続百鬼』にも、

 蔵経の中に
  初て新なる屍の気変じて陰摩羅鬼となる
 と云へり
  そのかたち鶴の如くして、色くろく目の光ともしびのごとく羽をふるひて鳴声たかし
 と清尊録にあり

という、中国の古書から引用された解説文とともに載っているとおり、
鳥のような姿をしているンですよね。
なので、水木しげる先生もそれを怪鳥のような姿で描いていて、
それゆえ、鳥類をモチーフにデザインされたガイガンとイメージが被り、

 水木しげる先生の描く妖怪 “陰摩羅鬼” の絵がガイガンのモデルだ、

って話に、まさに化けちゃった(笑)わけです。

まぁ、若い人は、

 “水木しげる” なんてビッグネームがクレジットされないわけがないから
 そんな間違った説が横行するはずがない、 
 
って思うかもしれませんが、
昭和は、そういう面では、今では考えられないほどの緩い時代でしたので、充分ありえた話なのです。
それが証拠に、
僕がいちばん好きな妖怪の “油すまし”、
あれ、熊本県に伝わる妖怪ですけど、
伝わっているのは、名前と、山道に現れた、って話だけで、
どのような姿形をしていたか、は
どんな文献にも残ってなくて、
お地蔵さんが蓑を羽織ったようなあの姿は、水木しげる先生の完全なる創作であるにも関わらず、
昭和43年公開の大映映画『妖怪百物語』および『妖怪大戦争』に
水木しげる先生のクレジットなど無く、当たり前のようにあの姿で出てきますからね。

油すましの姿形が水木しげる先生の創作だ、って事を、
大映は、
知っていながら勝手に使っちゃったのか、
あるいは、
知らずに、あの姿形が昔から伝承されているものだと思い込んだまま使っちゃったのか、
わかりませんけども、
どちらにせよ、それで許されちゃう、それで通っちゃう、やさしい世の中だったンです。

・・・あ、そういえば、
その『妖怪百物語』と『妖怪大戦争』に陰摩羅鬼も出てくるのですが、
これが、また、
鳥ではなく、『赤ずきんちゃん』の絵本に出てくるオオカミのような容姿をしているンです。
登場妖怪の着ぐるみは、
予算をはじめとする諸事情で、
別の映画等で使ったものを流用したり改造したりして間に合わせているものもあったため、
出てくる妖怪すべてが伝承どおりの姿をしているわけではないンですよね。

とにかく緩い時代だったンです(笑)。


・・・と、まぁ、
そんなわけで、
結局、何が言いたいのかというと、

 ガイガンは、
 あれほどまでにシャープでクールなサイボーグ怪獣でありながら、
 そのバックボーンには、
 今述べたような緩い時代の、
 大らかな空気感や、自由で闊達な発想によるデザイン案や命名由来がある、
 実に人間味豊かな、“ザ・昭和の怪獣” であった・・・、

って事です。
なんたって、
アイドルタレントのカチューシャをつけたイジリー岡田さんを観て思い出しちゃうくらいですから(笑)・・・。




・・・さて、
そんなガイガンのソフビですが、
映画公開時に発売されたブルマァク製のものはもちろん、
映画公開から7、8年経ってから発売されたポピー製のものも含めて、
昭和の時代に発売された人形たちは、どれも、
今述べた、

 シャープでクールな怪獣ながら、
 そのバックボーンには、緩くて大らかな時代の空気・・・、

っていう魅力が、
その佇まいに必然的に表れるし、
これを手にして遊ぶ幼い子供に向けて、意図的に温もり多めで造形されてもいるので、
まことにもって味わい深い、心和む代物となっております。

 
         ブルマァク製 スタンダードサイズ、全長約22センチ。 
       
 
              ブルマァク製 ミドルサイズ、全長約12センチ。 
     
 
       ポピー製 キングザウルスシリーズ、全長約16センチ。
       
       
    向かって左側の人形は、
平成の時代に発売されたもの(バンダイ製)ですが、
実物のガイガンの姿を極力忠実に再現したカッコいい造形ではあるものの、
ガイガンという怪獣のバックボーンである、

 時代の緩さ・やさしさ、バイタリティ・・・、

といった目に見えぬ要素は
当然の事ながら表現されておりませんので、
子供の頃の記憶にある “ガイガン” を
当時の夢見る感覚のまま、熱く生々しく胸に甦らせてくれるのは、
やはり、昭和の時代に発売されたソフビ人形・・・、って事になります。
その時空を超えた内面のフィット感は、
実物の外形が忠実に再現された平成ソフビの美しさとは、

 別次元でリアル、

なンですよねぇ・・・。
それは、昭和ソフビの価値を永久に下落させない、霊力や通力のようなもの。

決して、思い出や思い入れがあるがゆえの贔屓目や錯覚ではないと思うので、
世代の異なる人や、
“ディテールにこだわったリアル造形こそ正義” みたいな認識の人にも、
この昭和ソフビの魅力がほんの少しでも伝わると、嬉しいンですけどね。
 
                    まぁ、そんな願いも込めて、
今年もこの『ソフビ大好き!』、続けていきたいと思っておりますので、
どうぞよろしくお願いします。





 
   


・・・それにしても、
冒頭で述べた動画で観た森脇梨々夏さん、めっちゃいい娘だったなぁ・・・。
大人になってもあんなに素直で可愛らしい性格でいられる人が、いるンですねぇ、世の中には。
ホント、感動しました。

昨年生まれた僕の孫娘も、
森脇梨々夏さんくらいの年頃になった時には、
ああいう素敵な女性に育ってくれていたらいいなぁ・・・、って思います。
まぁ、その頃は、
僕はもうこの世にはいないと思うので、見届けられないでしょうけどね。

・・・いや、待てよ。
独り暮らしゆえ、孤独死して誰にも気づかれず遺体が放っておかれる可能性も大なので、
その間に陰摩羅鬼になってこの世をさまよい続ければ、いつか見届けられるかも・・・。
楽しみだなぁ(笑)。

・・・って、ダメですよね、死んでからも周囲に迷惑かけちゃあ(苦笑)。
孤独死したら、すぐに気づいてもらうためにも、
毎日のようにマネージャーと連絡を取り合うくらい、仕事のスケジュールを埋められるようにしなきゃあ。

頑張ります!

・・・今年還暦を迎える俳優が新春に掲げる目標じゃないな、こんなの。 ダっサ~(恥)。




【参考文献】
  ・『鳥山石燕 画図百鬼夜行』 高田衛監修 稲田篤信・田中直日編 国書刊行会
  ・『妖怪まんだら 水木しげるの世界』 世界文化社
  ・『ガメラ画報 大映秘蔵映画 五十五年の歩み』 竹書房






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