真水稔生の『ソフビ大好き!』


第202回 「甦る感覚」  2020.11

先月からずっと、
映画の撮影で或る漁港に来ているのですが、
昨日、休憩時間中、
僕がビット(石原裕次郎さんが波止場で片足を乗せるヤツです(笑))に腰かけて海を見ていたら、
たまたまそこを通りかかった地元の漁師さんが、

 「今、通っていい?」

と話しかけてきました。

休憩時間中、といっても、
スタッフの方たちは次に撮るシーンの準備やら何やらで
各々作業をされていましたので、
邪魔になってはいけない、と気を遣って下さったのでしょう。

なので、

 「あ、大丈夫です、休憩中なんで。お邪魔してスミマセン」

と答えたのですが、
するとそこから、その漁師さんとの雑談に発展しました。

「通っていい?」って事は
用事でどこかへ向かう途中だったンでしょうけど、
僕の “休憩中” って言葉にどうやら反応されたみたいで(笑)、
そのまま立ち止まられて、

 「これ、テレビか映画か何か?」、「いつ、やるの?」、

といった質問から、

  コロナ禍はいつまで続くのか、今年は雨期が長かった、

なんて世間話になり、
延いては、
普段の漁師としての仕事の話まで聞かせて下さるに至ったのです。

気がづけば20分近く時間が経過していて、

 用事は大丈夫なのかな?

って心配になりましたが(笑)、
僕が

  カッパを着てサロペットに長靴、

という、一目で漁師役だと解る格好をしていたので、
親近感を抱かれたのでしょう、
初対面とは思えないほどフレンドリーに接して下さり、なんとも愉快なひと時を過ごす事が出来ました。

そしてまた、
そのひと時は僕にとって “価値ある時間” でもありました。

というのも、
雑談の途中で、なんだかデジャヴを見ているような気がしてきて、
それが、
若い頃にハンティングに出かけていった時の感覚の再来だ、と
気づいたからなンです。

・・・あ、
ここでいう “ハンティング” とは、
以前にも述べた事がありますが
第62回「アナクロ ~時代遅れのソフビ入手法」第176回「才能」参照)、

 昔からやっているオモチャ屋や
 もう廃業してしまったオモチャ屋を調べて訪ね、
 眠っている売れ残り品を買う、

という行為の事です。

その際に、
お店の御主人や従業員の方と交わした雑談が、
結果として、
ソフビ蒐集生活に奥行きのようなものをもたらしてくれた・・・、って実感があるンです、僕には。

売れ残り品(僕のコレクションの対象となるオモチャ)が新商品・現行品として店頭に並んでいた頃の話を、
実際に現場で働いていらっしゃった方の口から聞けて、
ほんの一部でもその商品の “背景” を知る事が出来た、という経験が
“充実感” に繋がり、
コレクションに対する愛情を、より濃厚なものにしてくれたンですよね。

漁師さんとの雑談で、その感覚が甦ったわけなのです。

実際に漁師さんと接した事によって、
“漁師” という今回いただけた役に対する愛情が、ぐっと深まりました。

自己満足と言われればそれまでですが、
プロ意識とか演技力とか以前に、僕はそういうの、とても大事だと思うンです。

僕らのやりとりを近くで見ていた共演者の先輩俳優から、

 「さすが真水さん、
  休憩中にも本物の漁師さんとコミュニケーションを図って、
  “役作り” に余念が無いねぇ~」

なんて
後で茶化されましたが、
ホント、ただボーッと海を見ていただけの時間が、
その漁師さんのおかげで、とても有意義なものになりました。

もちろん、“役作り” なんていう、そんな大層な事ではありませんが、

 誰かと話をする、“生” の声を聞く、

という事の面白さや大切さを再認識して、元気も湧きましたし、やる気が倍増しました。
実に、嬉しくてありがたかったです。


そんなわけですので、
今回は、
若かりし頃の、ハンティング先でのお店の人とのやりとりを思い出しながら、
その際の戦利品(笑)の紹介をさせていただく事にします。





仮面ライダー
 メーカー不明 全長約19センチ。

今から25年ほど前、
関東方面の、2階の部屋が倉庫になっていた或る古い玩具店で見つけたもので、
タグが取れてしまった跡のある、汚いビニール袋に入ってました。

見た目60代半ばといった御主人は、
1階の営業は奥様に任せて、
2階で目当てのソフビを探す僕の後ろに黙ってずっと立っていたのですが
(たぶん、僕が泥棒しないか監視していたのでしょう(笑))、
僕がこの人形を手に取り、

 「海賊版かぁ・・・」

って呟いたら、

 「海賊版?」

と聞いてきました。 
    なので、

 「正規品はバンダイとかポピーとかが出してたけど、これはそうじゃないですよね?」

って後ろを振り返って答えると、

 「わからんよ、バンダイかもしれないよ」

と言われました。
    それを、僕、軽く聞き流しちゃったンですよね。

この人形は、
メーカー名や版権元を示す刻印が一切ありませんし、
造形からして “いかにも海賊版” な商品なのですが、

 『仮面ライダー』放映当時は、
 こういった流通経路のよく解らない人形が多く出回っていた時代で、
 メーカー名や版権元を示す刻印ごとコピーした海賊版も存在しますので、
 その逆の、
 メーカー名や版権元を示す刻印が無いのに、れっきとした正規品、
 というものもあったかもしれない、

って事だろうな・・・、って解釈して、それ以上は詳しく聞かなかったンです。
なんたって、
目当てのソフビを探すのに必死でしたし、
それに、若かったですからね、
そういった御主人から聞ける話の大切さを、今ほど解っていなかったンです。
     

でも、
この人形、よく見ると、
マフラーがバンダイのものと同じ素材で、
御主人の「わからんよ、バンダイかもしれないよ」という言葉の深みや価値が、
今になって、じわ~っと身に沁みてくるンですよねぇ。

 どうして御主人はそう思うのか、
 何か具体的な理由があるのか、
 もっと詳しく聞いときゃ良かったなぁ・・・、

って後悔してます(苦笑)。



ちなみに、こちらは、
その数年後、
ハンティングではなく、
或るアンティートイショップで購入したもので、
上の人形と同じ型で作られていますが、
スケルトンボディに中身はアルミ箔製のモール、という
見るからに安っぽい仕様で、
マフラーの素材も
バンダイのものとは異なります
(海賊版によくある、布製のヤツです)。

      やっぱ、海賊版なのでしょうか・・・。

当時のソフビの流通は、まことにもってミステリアスです(笑)。










  




ベロクロン
 マルサン製 、全長約12センチ。

これは、
今から30年以上前、ソフビコレクションを始めて間もない頃に、
名古屋市内の駄菓子屋で見つけたものです。

    お好み焼きを焼く鉄板付きのテーブルに片ひじをついて
テレビを観ながら、

 「古いモンなんか、なんにも無いよ」

と面倒くさそうに僕を門前払いしようとしたお婆ちゃんの、
背後にあった引き出し付きの小物入れの上に、
小さなこけしと一緒に、なぜかこの裸の状態で並んでました。

 「売り物じゃない」

との事でしたが、
ちょうどお腹が空いていたので
そこでそのままイカ玉のお好み焼きを注文して食べ、
ついでにお菓子も数点買い、
全部の会計を済ませて帰ろうとしたら、

 「持ってっていいよ」

と言ってくれました(笑)。 
    でも、
明らかに “マニアが欲しがってる古いもの” という事を認識しているようでしたので、
恐る恐る値段を尋ねました。
すると、

 「だいぶ昔だで、いくらで売っとったか憶えとらんわ~。いくらだったぁ?」

と言うので、
     
 ・・・え? 発売当時の値段で売ってくれようとしてるの?

と光が差し(笑)、

 「子供だったので僕もはっきり憶えていません」

なんて言って
すっとぼけながら
千円札を1枚渡したら、500円のお釣りをくれました。

そこから雑談が始まり、

 最近、古いオモチャを探しに訪ねてくる人が多く、
 そのほとんどが、
 営業中の店内を散々引っ掻き回したあげく、
 目当てのものが無いとわかるとお菓子のひとつも買わず、
 ろくに挨拶もしないで立ち去る、

という、
僕を門前払いしようとした理由を聞かせてくれました。

当時は、
それを単にお婆ちゃんの言い訳や愚痴と解釈しただけでしたが、
今考えると、僕はあの時、

 目当てのものが無くても、
 店内や倉庫を見せてもらえた礼儀として何かは買って帰る、

 挨拶はきちんとする、

というマナーの大切さを、身をもって学んだ気がします。 
 
    だって、
そんな当たり前の事をしただけで、このベロクロン人形が手に入ったのですからね。
       


あのお婆ちゃんに感謝、です。  


快傑ライオン丸 天馬
タカトク製、全長約11センチ、高さ11センチ。

ライオン丸がソフビ製で、
天馬はプラスチック製(ゼンマイ走行)。

これも、
ソフビコレクションを始めて間もない頃に入手したものです。
 
   
暑い夏の日でした。

ゴレンジャーもどきの絵が付いた “すごろく” とか、
胡散くさい忍者の絵が描いてある “かるた” とか、
そんな、どう見ても昭和の時代の駄玩具を、
平成の世に
堂々と店頭に並べて売っていた、愛知県内の古い文房具屋さんで見つけました。

店内の陳列棚のいちばん下に引き出しがあって、
そこを開けたら、
ゼンマイじかけの発火ジープなる金属玩具が
箱入り新品の状態で10個以上眠ってて、そこに、これが1個だけ混ざっていたのです。

ランニングシャツ姿の店主のおじさんの話では、
このライオン丸のオモチャも10個以上売れ残っていたそうで、
ちょっと前に僕のような人物が来て、全部買っていった、との事でした。

パッケージの箱が破れていたので、それが気に入らなくて、これだけ買わずに置いていったのか、
あるいは、
興奮のあまり、1個落とした事に気づかなかったのか(笑)、
まぁ、どちらにせよ、
先を越されたのに僕も買えたわけですから、

 「残しておいてくれてありがとう」

って、どこの誰だかわからない先客さんに心の中でお礼を言いました。
 
                           
   
 「冷たいの、飲む?」

と言って、
店の奥にある部屋の冷蔵庫から
麦茶を出してきて下さったそのランニングシャツ姿のおじさんは、

 「“すごろく” や “かるた” はともかく、
  発火ジープとか、ライオン丸のこんなのとか、
  文房具屋さんなのにオモチャも取り扱ってたンですか?」

という僕の問いに、

 「昔はオモチャがよう売れたンだわ~。
  プラモデルなんか、特によぉ。
  文房具よりもそっちの方がよう売れるでかんわ~」

って、人懐っこい笑顔で話してくれました。
そんな話を聞きながら、

 そういえば、
 僕が通っていた小学校の校門の前にあった文房具屋さんでも
 プラモデルがたくさん売ってたなぁ・・・、

なんて、僕自身の原風景を思い出し、麦茶を飲みながら胸がジーンとなったのを憶えています。

 蒐集活動の醍醐味は、ただ集める事だけにあるのではない、

という事を、感覚で理解しましたね、あの時。
     
     



あぁ、楽しかったなぁ、ハンティング・・・。

けど、まさか、
撮影現場であの感覚が甦るとは思いませんでした。

 誰かと話をする、他人と接する、って、
 面倒くさい面もあるけど、やっぱ生きる活力を得るには必要な事なんだな・・・、

って痛感した次第です。

コロナ禍のせいで、
友人たちと気軽に飲みに行く事も出来ませんし、
この撮影現場でも、
本番の時以外はマスクやフェイスシールドを必ず付けて過ごしていて、

 人と愉快に話す、

という機会は激減していますからね。楽しさが胸に沁みました。

漁師さん、ありがとう! 漁師役、頑張ります!






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