真水稔生の『ソフビ大好き!』


第150回 「ソフビ人生の香料」  2016.7

マルサンが初めてソフビ怪獣人形を発売したのは、昭和41年。
今からちょうど50年前の事です。
そう、
今年は “ソフビ怪獣人形 生誕50周年”。
ソフビ怪獣人形という玩具が生まれてから、半世紀も経ったわけであります。

銭湯に
マルサンのギャンゴ人形とウルトラマン人形を持ち込んで遊び、
風呂上がりに、
脱衣場横の水道の所で、
母親が人形の手足のパーツを外して、
人形の中に入ったお湯を丁寧に切ってくれていたのを憶えています。
ローリー飲みながら、それを横で見ていました。

半世紀も前なンだなぁ、あの光景・・・。

そんな僕は、
ソフビ怪獣人形よりもちょっとだけ年上の52歳。

幼い頃は、
そうやってソフビ怪獣人形で遊びまくったし、
大人になってからも、
コレクターとなって、
懐かしいものから現行品に至るまで
新旧問わず、
ソフビ怪獣人形をずっと追いかけてきました。

ソフビ怪獣人形は、
僕にとって、
人生をほとんど一緒に生きてきた、愛しくてたまらない玩具なのです。

ただ、口惜しいのは、
“一緒に生きてきた” の前に、
“ほとんど” という言葉を付けなくちゃならない事。

人生において、
ソフビ怪獣人形と全く関わらなかった時期があるンですよね。
10代半ばから20歳過ぎくらいまでの間、です。

・・・まぁ、
要するに、中学・高校・大学時代ですから、
そんな時期に
怪獣のオモチャなんかで遊んでるわけがなく、
全く関わらなかったのは当然と言えば当然なンでしょうけど、
こうしてコレクターとなって
これからもずっと(たぶん死ぬまで)ソフビ怪獣人形に囲まれて生きていく以上、
どうせなら、
人生の全ての日々がソフビ怪獣人形と一緒だった、ってくらいブッ飛んでた方が、
カッコいい気がするンですよね(笑)。

そんな思いもあって、
以前、
月一連載開始5周年の
第70回「極私的ソフビ怪獣人形史」
第71回「極私的ソフビ怪獣人形史・その2」
月一連載開始10周年の
第129回「10年ひつまぶし」
第130回「10年ひまつぶし」でも述べたとおり、

 マルサン → ブルマァク → ポピー → バンダイ、

という “ソフビ怪獣人形の歴史” を、僕はコレクションのテーマに据えています。

それは、
自分が実際に子供の頃に遊んだ
マルサンとかブルマァクとかのソフビ怪獣人形だけでなく、
すべての時代の
いろんなメーカーのソフビ怪獣人形を蒐集対象としている、という事。

先述した、
僕がソフビ怪獣人形と全く関わらなかった
10代半ばから20歳過ぎくらいまでの頃は、
ソフビ怪獣人形の歴史で言うと、
ポピー期からバンダイ期の初頭にあたるのですが、
その時期のソフビ怪獣人形を入手する際の僕の気持ちは、
言ってみれば、
濃縮還元の果汁100%ジュースを精製するようなものです。

濃縮還元の果汁100%ジュースの原材料の欄に、

 りんご、香料、

とか、

 グレープフルーツ、香料、

とか、
記されているのを見て、

 どうして香料が加えてあるのに
    “果汁100%” と謳う事が出来るのか?

って思った事がある人、いませんか?
あれは、
簡単に言うと、
濃縮・還元の過程でどうしても果実本来の香りが損なわれてしまうので、
後から香料を加えて、
結果としてプラマイゼロの、元の100%の状態に戻してある、
という事なンだそうですが、
まさに、
その感覚なンですよね。

 マルサン → ブルマァク → ポピー → バンダイ、

という “ソフビ怪獣人形の歴史” の中で
僕が唯一リアルタイムで知らない時期(ポピー期からバンダイ期の初頭)、
その、
ソフビ人生を生きる上でどうしても損なわれてしまった時期を、
後から加える事によって、
“ソフビ怪獣人形の歴史100%” の状態を作っているンです。

つまり、
コレクションで、

 人生の全ての日々がソフビ怪獣人形と一緒、

を表現している、というわけ。


・・・自己満足?

まぁ、そうですね(笑)。
でも、趣味、ってそういうモンですから。


なので今回は、
僕のコレクションにおいて、
そんな、
濃縮還元ジュースで言うところの “香料” にあたる、
芳しい(笑)人形たちを紹介します。

代表的なところでは、
ポピーのキングザウルスシリーズと
バンダイのウルトラ怪獣シリーズ(ウルトラ怪獣コレクション)の初版が
まず頭に浮かびますが、
両者はこれまでに何体も紹介していますので、
今回は
それ以外のものを取り上げてみました。


 まずは、
 昭和53年に発売された、この4種。

    昭和40年代に
ガメラシリーズやガッパの
ソフビを手がけていた日東科学教材が、
それらを新造形で再び製造し、
販売は、
あのダイヤブロックで有名な河田が担当、
という商品で、
俗に、
“日東河田シリーズ” と呼ばれています。
 
     同時期に発売が開始されたポピーのキングザウルスシリーズと比べると、
 種類が圧倒的に少ないですし、販売期間も短かかったようですので、
 存在自体は地味な印象ですが、
 どうしてどうして、4種とも、実に美しくて魅力的です。

 マルサン・ブルマァク亡き後、
 ソフビ怪獣人形がリアルな造形・彩色へと変わっていく “時代の狭間” に
 人知れず咲いていた花・・・、
 そんなイメージを僕は持っています。

 なので、
 “香料” って事で言うと、
 フローラルな香りのイメージでしょうか。
 明るい気分や穏やかな気持ちにさせてくれます。
     
     
     

    ガメラ

    全長約14センチ。



       最大の特徴は、
 ゴツゴツした背中の甲羅が放つ、
 いかにも怪獣らしい無骨さですが、
 それでいて、
 頭でっかちな体形に愛嬌を感じたり、
 立たせた際のこの絶妙な角度の前傾姿勢が
 発射前のミサイルみたいな趣でカッコよく見えたりもして、

  “怪獣だけど子供の味方”・“怪獣だけどヒーロー”

 という、
 ガメラのプロフィールが、見事に表現されています。
       
       リアルな造形を目指すもまだまだ甘い意識や技術が、
 うまい具合に、昭和ガメラの世界観と一致したンですね。
 狙って出せる “味” ではないと思います。

 こういう傑作人形があるから、
 リアルタイムを知らないからといってコレクションから外せないンです、この時期のソフビ・・・。 
           
           
        バルゴン
全長約22センチ。 
       初めて、
 実物通りの四足歩行状態で商品化されました。
 ソフビ怪獣人形がリアル造形の時代に向かっている現れですね。
 皮膚のザラザラした表面処理も、マルサン・ブルマァクの時代のソフビには無かったものです。 
       
           
           
     



    ギャオス

     全長約15センチ。
 

       ギャオスは、
 超音波メスで何でも切断してしまう恐ろしい怪獣ですが、
 その鋭利な個性を、
 この人形は、
 鮮やかなメタリック塗装と
 羽根を上に向けて威嚇しているようなポーズで、派手に主張しています。  
       








  その強いアピール感のせいで、
  本来人間には聞こえないはずの超音波が、
  なんだか
  聞こえてくるような気がします(笑)。
           
           
     
 

ガッパ

全長約16センチ。 










僕が子供の頃のガッパ人形と異なり、
翼を開いた状態で商品化されています。
新旧の人形の違いを
ポーズでわかりやすく表現して、
しっかりとした差別化を図ったンだと思われます。

ただ、
白目の部分を赤にしてあるのは、
昭和42年に作られたいちばん最初のガッパ人形と同じ。
                              さらわれた我が子を取り戻しにきたガッパの、
その悲壮な覚悟や燃えたぎる怒りをソフビ人形で表すには、
やっぱ、この赤い目が最も効果的。

時代が変わっても、
そうやって、
ガッパの核となる部分はしっかりと押さえてあるところに、
好感が持てます。 
                                 
                                 
                                 

 続きましては、こちら。

    ブロマイドやメンコで有名な山勝が
昭和58年に発売した、
ゴジラ関係のソフビ怪獣人形です。  
     紙製玩具のメーカーが製造・発売したソフビ怪獣人形、
 というのが稀有ですし、
 同時期に発売が開始された
 バンダイのウルトラ怪獣シリーズ(ウルトラ怪獣コレクション)と比べると、
 これまた断然地味な存在なのですが、
 造形も彩色も、
 シックというかスマートというか、
 無駄に力を使っていない自然体な雰囲気で、
 それが妙に心地良く、
 マルサン・ブルマァク時代のデフォルメソフビで育った僕にも、

  リアルソフビも
     悪くないな、渋くてカッコいいな、

 って思わせてくれる、優美な説得力があります。

 “香料” で例えるなら、これはハーブ系の香り。
 心をリラックスへと導いて、落ち着かせてくれる感じですね。
     
     
       
       ゴジラ
 向かって左側が全長約15センチ、右側が全長約14センチ。 
       2種類の型があるのは、
 “ソフビ新時代” に相応しいリアル造形を、いろいろ試行錯誤していたからでしょうか・・・。 
           
       
       
       ミニサイズ人形も作られたようです。
 全長約7センチ。

 型は1種類しかありませんが、
 背中の塗装が、シルバーのものとゴールドのものがあります。 
           
           ミニサイズながら、
 両手と両足、尻尾までもが可動する6パーツ構成。
 ここにも、
 “ソフビ新時代” に対するメーカーの意識が窺えます。
           
           
        アンギラス
全長約25センチ。 
       先に紹介した日東河田のバルゴン同様、
 初めて、実物通りの四足歩行状態で商品化。
 やっぱ、
 バルゴンもアンギラスも、この状態の方が良いですね。 
           
       
                   敵をにらみつけているような目、そして、躍動感のある尻尾・・・、
             いつでも暴れてやるぜ、って感じの、
             いなせな怪獣人形です。  
         
         
      バラゴン
全長約14センチ。 
       四足歩行の怪獣なのに立っていますが、
 人形・商品として無理矢理立たせたマルサン版と異なり、
 こちらは、“戦闘態勢のため、後ろ足だけで立ってる状態” を表現したのだと思います。
 カッコいい。
 今にもフランケンシュタインに飛びかかっていきそうで、
 アンギラス人形同様、血の気の多さや勇ましさが感じられる造形です。 
       
バラゴンは
人間も食べる恐ろしい怪獣ですが、
そんな野蛮な感じが、
顔の表情によく出てますね。
原型士の人、天才だなぁ・・・。
 
           
           
        モスラ(幼虫)
全長約18センチ。 
         



頭部をやや持ち上げているポーズが、
糸を吐いているようにも見えて、
ゴジラを倒した、
『モスラ対ゴジラ』のあのシーンが甦ります。




モスラの幼虫のソフビでは、
僕は、この山勝版がいちばん好きですね。
 
                 
     







キングギドラ

全長約17センチ。 

『地球攻撃命令 ゴジラ対ガイガン』や『流星人間ゾーン』に
登場したキングギドラ
 (経年劣化した着ぐるみを部分的に改修した、
              俗に言う “2代目キングギドラ”)
を彷彿とさせる、
なんだかヨレヨレ感がある造形ですが、
そこまでマニアックなものを商品化する時代でもなかったはずなので、
たぶん、
リアル造形にする技術がまだ未熟だったがゆえ、
偶然出来上がってしまった産物ではないか、と思われます。 
     
  ・・・いやぁ、
  それにしてもビミョーな味わい(笑)。 大好き。
     
             
             
      メカゴジラ
全長約15センチ。 

 
       



ポピーのキングザウルスシリーズのメカゴジラ人形が、
勝手に目玉を描き込んでしまった残念な人形だっただけに、
まるで軌道修正を図ったかのような、
落ち着きのある造形です。

 メカゴジラのソフビはリアルでカッコいい、と

すでにブルマァクの時代から決まっていた事ですから(笑)。 
                     
                  これは試作品。
全長約18センチ。


 
                            大きい分、
量産品よりも迫力があります。 
           
           
        メカニコング
全長約14センチ。 

ラドンでもミニラでも
ヘドラでもガイガンでもなく、
このメカニコングがラインナップに入っているのは、
なんとも乙ですね。

このシリーズ全体のイメージとして最初に述べた、
 
 造形も彩色も、
 シックというかスマートというか、
 無駄に力を使っていない自然体な雰囲気、 

をまさに体現する1体。
おとなしやかな妙味に溢れています。
      でも、
キングコングもゴロザウルスもいなくて、
なんだか淋しそうな顔してますね(笑)。
 




・・・いかがでしたでしょうか?
怪獣がブームでも何でもなかった時期ですが、
魅力的なソフビ、
結構たくさんあるンですよね、この頃。

もしも、
僕がこの世代だったら、
この時代に生きる幼い子供だったら、
これらのソフビ怪獣人形をどう受け止めたかなぁ・・・。
やっぱ、
同じように必死にねだって買ってもらって夢中で遊んだか、それとも・・・。

そんな僕は、
ポピーのキングザウルスシリーズにも
バンダイのウルトラ怪獣シリーズ(ウルトラ怪獣コレクション)の初版にも
そして
今回紹介した、
日東河田シリーズと山勝のソフビにも、
リアルタイムを知らないがゆえ、
いまだに、
 
 “自分と関係無い時代のものに手を出してる”

という感覚や意識を、少なからず持っています。

でも、
それがまた、
 “本来無かったもの”・“別のところから持ってきたもの”
という事で
“添加物” のイメージに繋がっていますし、
やっぱ “香料” ですので、
これらのソフビ怪獣人形がショーケースにいる事で
僕のソフビコレクション全体の風味は、絶対に良くなっている気がするンですよね。

リアルタイムで一緒にいられなかった分、
もっともっと愛して、
これからも大切に、抱きしめるように所有していこうと思っています。



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