真水稔生の『ソフビ大好き!』


第129回 「10年ひつまぶし」  2014.10

ウナギを食べに行きました。
名古屋市中区にある、“なまずや” というお店であります。



 夏の土用の丑など数ヶ月前に過ぎたのに何故今頃?

と、思う人もいるかもしれませんが、
ウナギは、
夏よりも今頃の季節の方が、
寒い冬に備えて体に養分を蓄えるため、
脂がのっていて身が柔らかく、美味しいのであります。

・・・なんて言いながら、
ウナギなんて、いつ食べても美味しいに決まっているので、
個人的には、季節はあまり関係ありません(笑)。
なので、
旬だから、と
そんなふうに食通ぶって食べに行ったのではなく、
このなまずやに
一度行っておかなくてはならない “理由” があったから、です。

昨年、或るテレビドラマで
吉田栄作さんと共演させていただいたのですが
(と言っても、僕は栄作さんの後ろで立っているだけの役でしたが(苦笑))、
その際、こんな事がありました。

撮影の合間に、
僕が名古屋の人間だからという事で、

 「この前、名古屋のなまずやってお店で、ウナギ食べましたよ」

って、
栄作さんが話して下さったのですが、
僕はなまずやに行った事が無かったにもかかわらず、

 「あぁ、あそこね。美味しいですよね、あそこ」

などと答えてしまったのです。

老舗の部類に入る、
名古屋では有名なお店ゆえ、
“なまずや” という屋号は知っていたので、
つまらない見栄を、つい、張ってしまったわけです。

 名古屋人でありながら名古屋の名店に行った事が無い、

という事実を
名古屋人じゃないのに名古屋の名店に行った栄作さんに知られるのが、
なんだか恥ずかしく思えてしまったンですね。

ダサいンだなぁ、人間性が・・・(苦笑)。

名古屋には、
なまずやのほかにも、名前が知られたウナギ屋はありますし、
特に老舗だったり有名だったりしなくても、
ホント、そこらじゅうにウナギ屋がありますから、

 ウナギを食べに行く = なまずやに行く、

という事には必ずしもならないので、
別に、なまずやに行った事が無い事を恥ずかしく思う必要なんか無いのに・・・。

我ながら、
ホント、つまらない見栄です。

なので、
せっかく栄作さんが
気さくに話して下さったのに、
言わばウソをついてテキトーに話を合わせてしまった事が
ずっと気になっていたのです。

それで、
後からでも一度なまずやに行きさえすれば、
丸々ウソをついた事にはならないと考え、食べに行ける機会をうかがっていた、という次第。

栄作さんが感じの悪い人だったら、
特になんとも思わなかったかもしれませんが、
めっちゃいい人だったので、
無理矢理にでも、そうやって自分の発言の帳尻を合わせておきたかったのであります。


そもそも、
栄作さんとは縁がありまして、
5、6年前に、
栄作さん主演の或るテレビドラマで、
僕は栄作さんの代役でリハーサルに参加していた事がありました。
スターゆえ多忙な栄作さんは、
そのドラマのリハーサルに来られない日があるので、
そういう時に、
僕が栄作さんの役を代わりに演じるのです。

一口に “役者” と言っても
いろんな仕事があるものですが、
たまたま僕が栄作さんと同じ身長だったので、
それだけで、
ホント、ただそれだけで、
僕にまわってきた仕事でした(この身長に育ててくれた両親に感謝)。

ただ、それは、
複雑な心境になる仕事でもありました。
主役の栄作さんと、
同じ数の出番と同じ量の台詞があるわけですから、
とてもやりがいのある、充実した嬉しく楽しい日々であった反面、
当然の事ながら、
栄作さん本人とは一度もお会いする事がありませんし、
台本にも、オンエア時のエンドロールにも、
僕の名前はありませんので、
寂しさや虚しさを感じたりもしたからです。

ところが昨年、
幸運にも栄作さんと御一緒出来たので、
撮影の合間に、
その時の話を御本人にする事が出来たわけです。

身長が同じというだけで
代役をさせていただいた事を申し訳なく感じてしまうくらい、
ハンパないオーラの
超カッコいい人だったので、
こちらから話しかけるのには
かなりの勇気と厚かましさが必要でしたが(笑)、
先述したとおり、気さくに接して下さったので、助かりました。

しかも、
その話をした直後に撮影したシーンで、
栄作さんは、
アドリブで振り向いて、
後ろで立っているだけの役だった僕と
台本には無い絡みをしてくれたので、感激してしまいました。
カッコいい男は、やる事がニクい。

 この兄貴に一生ついていこう!

そう思いました。
僕の方が年上だけど(笑)。


・・・で、話は戻りますが、
そんな事情で、
なまずやに行かねばならぬと思いながら
されど高価な食べ物ゆえなかなかそれを果たせず・・・、という日々を過ごしていたところ、
先日、
この『ソフビ大好き!』を読んでくれている友人から、
大瀧詠一さんの追悼の回が良かった、という内容の感想メールが届いたので、
御礼に添えて、
この10月で『ソフビ大好き!』が毎月連載になって丸10年経つ事を告げると、
以前から食事の約束をしていた事もあり、

 「なら、10周年のお祝いに、おごったらなかんなぁ〜」

と言ってくれました。
それならば、

 「なまずやでウナギを・・・」

と、リクエスト。

・・・図々しい?
いいンです、裕福な家庭の人なので(笑)。
以前にも述べた事のある、
いつも寿司をおごってくれる、やさしい人です。

それに、
“10年ひとむかし” ならぬ、“10年ひつまぶし” 。
10年も続けたのだから、
ウナギを食べて祝うくらいの贅沢は許されるだろう、とも思いました(笑)。

ただ、
10年もの長い間、
要はタイトルどおりソフビ怪獣人形が大好きである、というだけの事を、
確かによくぞまぁ
飽きもせず毎月繰り返し言い続けてこられたものですが、
以前にも述べた事があるように、
連載と言っても、
自分のコレクションを酒の肴に見つめながら
好きな事を自由気ままに書いているだけですから、僕自身には何の苦労もありません。
むしろ、
月に一度、自分の思いや現状をこうして発信出来ているからこそ、
安定した精神状態で
明るく楽しく暮らしていけているような気さえするくらいです。
言ってみれば、
これはマスターベーションのようなもの。オナニーです、オナニー(笑)。

なので、
感嘆すべきは、
そんな他人のオナニーに
自分の店のホームページを提供してくれているゲイトウエイのオーナー・杉林さんや、
そんな他人のオナニーに
毎月付き合ってくれて(読んでくれて)、
更には
10周年のお祝いだといって
ウナギをごちそうしてくれるような友人の存在だと思います。
ありがいたい話です、ホント。

特にその友人は誉め上手で、
今回みたく、
「良かった」、「面白かった」といった、
僕の気分が良くなるような感想を
度々聞かせてくれるので、何度活力をもらった事かわかりません。

ウナギをごちそうしなければならないのは、本来、僕の方かもしれませんね。

     

ジャーン!
名古屋の郷土料理、ひつまぶし

名古屋ならではの “たまり醤油” がウナギに染み込んで、この美しい色艶。
食べる前から
 「美味いっ!」
と言ってしまいました(笑)。
 
もちろん、肝吸い付き。 


      これは、
栄作さんが

 「生まれて初めて食べたけど、ムチャクチャ美味かった」

と言っていた、鯉の洗ひ
鯉の刺身を冷水に潜らせて引き締めたものです。
酢味噌をつけて食べます。

これも、
栄作さんには、
見栄を張って何度か食べた事があるように答えた僕ですが、
もちろん
今回生まれて初めて食べました(笑)。 ムチャクチャ美味かった、です。
 
       また、
   昭和43年公開の映画『妖怪百物語』で
   浪人が、
   置行堀で釣った鯉を刺身にして、酒の肴として美味しそうに食べるシーンがあるのですが、
   それを思い出したりもしました。
   
   一口頬ばった後、
   その浪人を真似て、劇中と同じように、

     「うん、いけるっ!」

   と唸ってみました(笑)。



ところで、
この、“なまずや” という屋号、

 ウナギ料理の店なのに、なぜ、ナマズか?

といいますと、
元々は、
ナマズを蒲焼きにして提供していたお店だったそうです。

思い起こすこと今から30余年前、
高校の同級生に、
お父さんと川へナマズを獲りに行くのが休日の楽しみ、
って子がいて、
銛で突いて捕らえたナマズがその日の夕食になる、と聞かせれ、
僕は興味と食欲をかきたてられ、
明日の日曜に獲りに行くというので、

 「食べてみたいなぁ・・・」

と言ったら、
捕まえたナマズを一匹、
週が明けた月曜日に学校まで持ってきてくれた、なんて事がありました。

・・・なんか、
昔からやさしい友人ばかりだな、僕の周りは(感謝)。

で、
家に持って帰ると、
母親は驚きながらも、ウナギのタレを使って、
ウナギどんぶりならぬ “ナマズどんぶり” にしてくれました。

美味しかったけど、
ウナギの方がもっと美味しいな、って思いました(笑)。

なので、
ナマズ料理よりもウナギ料理の提供にシフトしていったお店の歴史に、
妙に納得してしまいます。


・・・ってなわけで、前置きが長くなりましたが、
今回はウナギに因み、
元々は “電気ウナギの怪獣” として発想された、というエレキングを特集します。

ウナギと電気ウナギは、
厳密に言うと、別の種類に分類される生き物ですが、
まぁ、
その辺はあまり気にせずに・・・(笑)。


エレキングは、
『ウルトラセブン』の怪獣の代表的存在で人気もありますので、
ソフビ人形の方も、
長きにわたって、各メーカーから発売されています。

まずは、
番組放映時(昭和42〜43年)に発売されていたソフビから・・・。

     
     マルサン製 スタンダードサイズ、全長約22センチ。
     
     以前、第53回「雨の日と月曜日は」の中でも述べましたが、
 このマルサンエレキングの魅力は、なんといっても、踊るようにうねった尻尾。
   
     セブンやミクラスをぐるぐる巻きにした、
 実物の尻尾ほど長くはありませんが、
 あの劇中の迫力を充分に伝えて余りある、実にアグレッシブな造形です。圧巻。
   
 また、
 “電気ウナギの怪獣” として発想されながらも、
 エレキングの姿形からは、
 いろんな動物を感じ取る事が出来ます。

 キリヤマ隊長を演じた中山昭二さんは、
 講談社『ウルトラマン大全集』の中の座談会で
 エレキングの事を “犬みたいな怪獣” と回顧されていますし、
 最近では、
 美術評論家の椹木野衣さんが、

   「エレキングの造形・デザインは
    昭和初期におけるシュールレアリスム絵画の紹介者・福沢一郎さんの
    作品(『牛』)から影響を受けている」

と指摘していましたが、
そのとおり、ホルスタイン牛のイメージが投影されいるのも確かです。
               
     この、“いろんな動物の融合” こそ、
 欧米には無い日本独自の美術作品とも言える “怪獣” の、まさに真骨頂。
 エレキングは、
 『ウルトラセブン』の怪獣の、と言うより、
 日本の怪獣の、
 代表的存在なのであります。

 そんな大怪獣に相応しい風格を、
 マルサンは、
 子供のオモチャとしての “楽しさ” にアレンジして、
 躍動感を持たせながら見事に表現しています。
 素晴らしい、の一言。
 エレキングだけに、ホント、シビれます(笑)。


       
     こちらは、
 マルサンの金型を流用したブルマァク製スタンダードサイズ、全長約22センチ。
 昭和44〜45年頃の商品です。

 向かって右側の人形の、
 相当遊び倒さないとこんな状態にはならない塗装の剥げ具合から、
 エレキングが
 当時の子供たちから
 どれほど愛されていた怪獣であったか、
 ソフビ怪獣人形が
 当時の子供たちから
 どれほど愛されていたオモチャだったか、が解ります。 


      これは、
同じくブルマァク製の
ミニサイズで、
全長約9センチ。









サイズは小っちゃくても、
尻尾はちゃんとうねってます・・・が、
相変わらず
無神経なまでにデカいメーカーの刻印の方が、気になってしまいます。
こんな所に入れるなよ(笑)。


         
    昭和50年代のはじめの頃に発売されていた、ポピー製 キングザウルスシリーズ、全長約16センチ。 
                     
                     
         鍋つかみのような手の造形が
 微笑ましいです(笑)。
         


当然、尻尾はうねっています。
まさに、ウナギが
水の中を気持ち良さそうに泳いでいるよう。 
                     
     ポピーのキングザウルスシリーズは、
 マルサンもブルマァクも倒産してしまい、
 怪獣ブームなどとうに過ぎ去ってしまっていた時代のソフビですが、
 そんな哀愁の中にも、
 “怪獣” というキャラクターが持つ “永遠の生命力” の凄さを感じさせてくれる、
 絶妙な味わいがあります。

 そして、
 その味わいこそが、
 ソフビ怪獣人形というオモチャを
 児童文化における不滅のアイテムに押し上げたエネルギーの原料。

 デフォルメからリアルへと造形コンセプトは変わっても、
 この平成の時代において、
 オモチャ屋さんやデパートのオモチャ売り場に
 ちゃんとソフビ怪獣人形のコーナーが存在するのは、
 ポピーのキングザウルスシリーズがあったからだ、と僕は思います。

 現在のバンダイのソフビ怪獣が
 ただリアル造形だからカッコいいわけではなくて、
 マルサン・ブルマァクの時代だけで終わらせなかったポピーの
 企業努力が実を結んでいるからこその、
 “存在感” であり、“輝き” である事を、
 このエレキング人形を見ていると、特に強く感じます。
 ソフビ怪獣人形が子供の友達である事をちゃんとアピールしながら、新しい造形の時代を待っているような、
 このポピーのエレキングを見ていると。


そんなわけですので次回は、
引き続きエレキングで、
昭和の終わりから平成の、リアル造形時代のソフビ人形を、
いろいろ紹介したいと思います。


・・・ん?
そういえば、
毎月連載5周年の際には、
レッドキングの人形を
マルサン、ブルマァク、ポピー、バンダイで比較しながら、
ソフビの歴史・変遷を述べましたが、
今回の10周年、
レッドキングがエレキングに変わっただけで、やってる事は5周年の時と同じですね(苦笑)。

ホント、同じ事繰り返し言ってるだけだなぁ、僕。
こんなのを
毎月読んで下さっている方々、本当にエラい!(笑)
ありがとうございます。
ウナギはごちそう出来ませんが、心から感謝します。

それでは、また来月・・・。


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