第90回 「リアルなデフォルメ」 2011.7
ちょっと前、大場久美子さんが再婚された事がマスコミで話題になっていたが、
御相手が、
一般のファンの方であり、
大場久美子グッズを100点以上も所有するコレクターでもあった、
というそのニュースの内容には、
心が奮え、体も震えた。
というのも、
僕自身も大場久美子という芸能人を
アイドル時代からずっとテレビ等で見てきた世代の男なので、
どうしても、
その御相手の方の立場で考えてしまうからである。
高嶺の花のような存在の女性が振り向いてくれるだけでも
男にとっては凄い事なのに、
それが、
青春時代からずっと憧れ続けたスターとなれば、もはや奇跡だ。
しかも、
大場久美子と言えば、
ブロマイド売上第1位を誇り、
“1億人の妹” と呼ばれて日本中の男から愛された70年代後半のトップアイドル。
あれから30年以上の時を経て
女優として活躍する現在でも、その魅力は衰えていない。
そんなスターを自分のお嫁さんにする、なんていう夢みたいな話を
見事現実のものにしたその方の、
天にも昇るような気分を想像すると、
まったくの他人事でありながら、胸がときめいてしまう。
それに、
大場久美子グッズではないけれども、一応、僕もコレクターの端くれ。
愛するスターのグッズを集め続けた結果
ついにそのスター本人まで手に入れてしまった、という快挙には、
鳥肌が立つ気さえ覚えるのだ。
だって、
僕で言うなら、それは、
ソフビ怪獣人形が並ぶコレクションルームに本物の怪獣がやってくる事態なわけだから、
奇跡以上の、ありえない出来事。
そんな事が実際に起きるのだから、心が奮え、体も震えてしまうのは、当然である。
そういえば、幼い頃も、
怪獣が本当にいたらなぁ・・・なんて、
幾度となく想像しては大いに夢見たものだが、
その都度、心は激しく奮えるものの、
体が震えるまでには至らなかった。
なぜなら、
怪獣のいる世界が現実になる事を、本気で意識していたわけではないからである。
ただ漠然と、
異形なる夢の生き物が存在する架空の世界に浸っていただけで、
街が破壊されて火の海となり、多くの死傷者が出る事を具体的に思い描いていたわけではないのだ。
以前、
第69回「空飛ぶクジラ」の中で、
子供の頃住んでた家の近くにあった公園の、
大きなクジラの像に怪獣を実感していた思い出を述べたが、
そんな時だって、
クジラ怪獣が自分や自分の暮らす町を襲う事を想像していたのではなく、
動くはずの無いクジラの像が動き出す様を想像しながら、無邪気に戯れていただけである。
あくまでも、
ほのぼのと暢気な気分で
テレビや映画の中の世界に酔っていた、というのが日常である。
でも、
怪獣が現れる事を
現実に起きる事態として生々しく意識し、
体まで震わせた事が、1度だけある。
それは、
『スペクトルマン』を見ていた時の事。
或る回の放送の最後に、
「来週は君の住んでるところに本当に怪獣がやってきます」
みたいなナレーションが流れ、僕は泣きそうになった。
この家はどうなるのだろう、
僕やお母さんはどうなるのだろう、
などと、
本気で心配になったのだ。
怪獣が本当に出現する、とテレビに言われて、
初めて僕は、
怪獣がとっても恐いものである事を実感し、震え上がったのである。
実は、それは、
巨大なハリボテの怪獣をトレーラーに乗せて
実際に輸送しているところをロードムービー的に撮影していく、という番組上の企画で、
ストーリーとしては、
鈴鹿の山奥で生け捕りにした怪獣を東京の研究所へ輸送する、というものだった。
途中、
三重県の長島温泉に立ち寄ったり、
ここ名古屋の街中も通過していったりするので、
宣伝のため、
東海エリアのみ、そんなナレーションが流れたのだろう。
でも、
当時7歳の僕にはそれを理解出来るはずもなく、
近所に、或いは僕の家に、本当に怪獣が現れるのだと思って、とっても不安になったのである。
先述の第69回「空飛ぶクジラ」も読んでくださった方なら、もうお気づきかと思うが、
『スペクトルマン』は、
空飛ぶクジラの怪獣・サンダーゲイが登場し(その時の番組名は『宇宙猿人ゴリ』)、
幼稚園の時に
それを予知していたかのような “公園のクジラの像が空を舞う絵” を描いた僕を
とても幸せな気持ちにしてくれて、
怪獣を、心地よいファンタジーとして味わわせてくれた番組である。
皮肉にも、
その番組によって、
僕は、怪獣の恐怖をリアルに突きつけられる事にもなったわけである。
・・・まぁ、
サンダーゲイだって、実際に現れたら、めちゃくちゃ恐いンだけどね(笑)。
そこで、
ふと、と言うか改めて思うのが、
本当に現れたら恐くてたまらない、そんな不気味で迷惑な生き物を、
僕ら当時の子供たちは
なぜ、あれほどまでに愛したのだろうか? ・・・という事である。
ヒーロー番組や怪獣映画を観てシビれるほど興奮したり、
怪獣の人形を必死でおねだりして買ってもらい、
毎日、
それで遊んだり、穴が開くほど眺めたり、抱いて寝たり・・・、
実に不思議だ。
だが、
その不思議の謎は、僕の中ではとうに解けている。
デフォルメ、である。
当時のソフビ怪獣人形の “デフォルメ造形” こそが、その不思議の謎を解く鍵なのだ。
怪獣を、
“ゲテモノ” ではなく “夢の生き物” として捉え、
恐くて気味の悪い容姿に
愉快な空想力のフィルターがかけられたその人形は、
怪獣の恐怖を決して現実にする事なく、常に子供たちに微笑みかけていた。
その愛嬌は、
怪獣に恐がりながらも惹かれている子供たちのニーズに応えてあまりある、
実に楽しくて温かみのあるものだったのだ
(主役のヒーローであるウルトラマンやウルトラセブンの人形よりも、
悪役である怪獣の人形の方が人気が高かったのも、そこに理由があると思う)。
更にそれは、
彩色の美しさや素材の触り心地の良さ、
あるいは、少々乱暴に扱っても壊れないという安心感などもあいまって、大ヒット玩具となった。
怪獣は、
デフォルメされたソフビ人形の人気爆発によって、
“夢の生き物である” という部分を大きく花開かせ、
愛されるキャラクターとしての座を、確立していったのである。
なんだか前置きが長かったけど、
今回は、そんな話。
ソフビ怪獣人形の造形は、大きく二つに分かれる。
怪獣の姿形を、
ちょっと可愛らしいものにアレンジしたデフォルメ造形と、
実物そっくりにコピーしたリアル造形。
これまでに何度も述べてきた事ではあるが、
僕が子供の頃はデフォルメ造形が、
現在ではリアル造形が、
それぞれ、ソフビ怪獣人形という玩具の常識である。
これは、
世代や好みによって支持が分かれるところであるが、
デフォルメ造形にはデフォルメ造形の良さ、リアル造形にはリアル造形の良さ、が
それぞれその時代ごとにあると、僕は思っている。
ゆえに、
デフォルメからリアルへと移行してきたソフビ怪獣人形の歴史そのものを
自身のコレクションの対象ともしてきた。
ただ、
怪獣が実際に現れたら・・・って真剣に考えて不安と恐怖に襲われた、
幼い頃の気持ちをよくよく思い返してみた時、
当時のソフビ怪獣人形のデフォルメ造形は、本当にデフォルメ造形だったのか?
という疑問が、心の中に浮かんだ。
あの造形は、
怪獣に憧れ夢見る当時の子供たちが心の中で思い描いていた怪獣像を、
実はリアルに表現していたのではないか、
と思えてきたのだ。
玩具メーカーが怪獣をデフォルメする前に、
僕ら当時の子供たちは、
すでにもう心の中で、実物の怪獣をデフォルメしていた。
怪獣の、
町を破壊したり人を殺したりする部分を、
強さやカッコよさにすり替えたり、あるいはバッサリと削除したりして、
テレビや映画で見たその恐い生き物たちを、
都合よく愛せる存在に、勝手に心の中で美化していたのだ。
当時の大人たちと違って、
僕らは、
嫌われて攻撃される哀しみや、
最後には敗れ去る哀しい宿命、
といった、
怪獣が持つ “痛み” を肌で感じていたので、
そんなキャラクターに感情移入して心の中で美化する事は、必然的な事だったのである。
だからこそ、
デフォルメされたソフビ怪獣人形を、自然に受け入れる事が出来たのだと思う。
実物の怪獣と色や形が違っていても、
心の中にあるイメージとはそんなに違っていなかったから、
違和感を覚える事も無く、
むしろ、理屈じゃないところで惹かれたのである。
以前、第87回「陽はまた昇る」の中で、
昔のソフビ怪獣人形は、
子供の健全なる成長を願う当時の大人たちの思いが
実物の怪獣を優しい姿にデフォルメさせた “愛ある造形” である、という僕の考えを述べたが、
そんな思いやりがベースにあったため、
怪獣の外形を再現する事だけではなく、
“子供たちが空想したり夢見たりして遊ぶ”という事にも気を配る事となり、
その結果、
子供たちが心の中で美化していた怪獣のイメージに近づき、
愛くるしさとか哀しさとか、
そんな怪獣の内面までも表現したような、絶妙な形の人形になったのだと思う。
つまり、
昔のソフビ怪獣人形は、
愛あるデフォルメを施された事で、
子供たちしか気づいていなかった “怪獣” という日本独自のキャラクターの秘められた可能性を、
リアルに表現する事になったのである。
それでは、
僕のコレクションの中から、
そんな造形の妙が特にわかりやすく感じ取れる人形を、いくつか紹介しよう。
ブルコング マルサン製、全長約21センチ。 『キャプテンウルトラ』に登場した人気怪獣。 UX金属なるエネルギー物質を食べた影響で 巨大になって狂暴化していたが、 元々は、おとなしい性格の宇宙生物。 最後は人間と同じくらいの大きさに戻って、 無事、シュピーゲル号内に保護されたが、 その際にアカネ隊員を驚かしてしまい、 キャプテン(・・いや、ジョーだったかな?)に 「こらっ!」って叱られてたシーンを おぼろげながら憶えている。 そんな愛くるしいブルコング本来の性質を 強調するかのように、 実物の容姿よりも更に可愛らしく造形されたこの人形は、 当時の子供たちのマスコット的存在であった。 僕はいまだに可愛がってます(笑)。 |
シーボーズ ブルマァク製スタンダードサイズ、全長約21センチ。 小学生の時、図工の授業で、 牛乳瓶に紙粘土をくっつけていって花瓶を作った事があったけど、 この人形を見るたびに、僕はそれを思い出す。 そんな、 子供が自由奔放に作った造形物のようなこのシーボーズ人形は、 造形が稚拙な上に、カラーリングもハチャメチャ。 ウルトラマンも、 実物のシーボーズ以上にこの人形には手を焼きそうだ(笑)。 でも、 このヤケクソともとれる仕上がりから、 シーボーズの、 人類が打ち上げたロケットに引っ掛かって 不本意ながら地球へやってきてしまった哀愁や孤独感、 あるいは、 宇宙へ帰りたい、と泣いていた駄々っ子のような仕草が、 ちゃんと甦ってくるから、面白い。 |
現在のリアルなシーボーズ人形と並べれば、 その形や色の傍若無人ぶり(笑)は、一層際立つ。 |
だから、 勝手に目ン玉描き込んじゃダメだってば!(笑) |
キングギドラ ブルマァク製スタンダードサイズ、 全長約24センチ。 言わずと知れた、ゴジラの永遠の宿敵。 どんな素敵な映画俳優よりも憧れた、 僕らの世代の銀幕スター。 |
三つの首が一つのパーツに束ねてあったり、 二本ある尻尾が勝手に太い一本に変えてあったり、と リアルな造形を是とする人たちからは 信じられない人形だと思うが、 勇気を持って発言するなら、 “キングギドラで遊ぶ”、“キングギドラで楽しむ”、 というコンセプトからすれば、 それらは瑣末な問題なのだ。 自由に空想して夢見るソフビバトルの世界では、 なにもキングギドラは 映画のとおり 金星を滅ぼしたりゴジラと戦ったりするだけの怪獣ではない。 ゴジラと仲間になったり、 ウルトラマンや仮面ライダーと戦ったり、 時には、 キングギドラではないオリジナルな怪獣になったり・・・、と なんでも引き受けなくてはならないのだ。 そういう子供の無限なイマジネーションに 対応しやすい形や色をしている事が、 オモチャにとって大切な事であり、 当時のソフビ怪獣人形の “リアルさ” だったのである。 ・・・苦しい言い訳じゃないよ(笑)。 |
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最後に、
前置きで触れた、
幼い日の僕に怪獣の楽しさと恐怖の両方を実感させてくれたスペクトルマン怪獣の中から、1体。
ダストマン マスダヤ製、全長約22センチ。 或る少年のお父さんが ゴリとラーによって拉致され、 人体実験を施されようとした際、 機械の誤操作によって化け物になってしまったという悲劇は、 ゴミを食べて無限に巨大化していく、というその生態共々、 子供心にとても衝撃的なものだった。 この人形は、 そんな恐くて哀しいプロフィールをしっかりと受容しつつ、 子供のオモチャとしての愛嬌も表現された、 昭和の傑作ソフビのひとつ。 精神が人間と怪獣の間で揺れ動き、 錯乱状態にあるダストマンの苦痛を、 子供が恐がって泣き出さない程度に抑えながら きちんと表現してある顔の表情は、 実に絶妙。 見事な出来ばえだと思う。 |
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そして、なんといっても、 鉄くずの錆びとか泥とかを連想させる汚らしい色をしているゴミ喰い怪獣が このような美しい緑の成形色で人形化されているところに、胸が熱くなる。 だって、 怪獣を構成する体内エネルギーを 己の精神力によって命がけで消滅させて 最後は元の人間の姿に戻る事が出来たダストマンを、 僕ら当時の子供たちは “汚らしい怪獣”ではなく “美しい怪獣” と、心の中で捉えていたはずだから。 |
こうして原稿を書きながらも、
僕は幼い頃本当に素敵なオモチャで遊んでたンだなぁ・・・、って
つくづく思う。
「たまたまそういう時代だった」なんて簡単に言ってしまいたくない。
当時のデフォルメ造形は
決して偶然生まれたものではないし、
怪獣やオモチャの存在理由が “夢” である以上、
実物の怪獣の色や形をコピーする事よりも、
観念の次元にいる怪獣を表現する事の方が有意に高い気がするからである。
ただ、
そんな時代に幼い子供でいられた事は、間違いなくラッキーであった。
大場久美子さんの再婚のニュースから、
自身のコレクションであるアンティークソフビの魅力を再認識するに至った今回だが、
ソフビコレクターになる前、
歌謡曲のレコードを集めていて(第75回「ザニカの花散るとき」参照)、
大場さんの限定版ピクチャーLPレコードを
中古レコード店で購入した事も、執筆の途中でふと思い出した。
確か、
キャロルのアルバムとどっちを買うか迷って、
最終的に、
そのレコード盤上で輝いてるように見えた大場さんの笑顔に惹かれて、選んだ記憶がある(笑)。
四半世紀も前の事で、
レコード自体はもう処分してしまって手元には無いけれども、
強烈に憶えているのは、
A面の1曲目で、
ビートルズの『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』を
日本語の替え歌にして、大場さんが歌っていた事。
確か、
『クミコズ・ラブリー・ハーツ・クラブ・バンド』ってタイトルだったかな。
初めて聴いた時、
その企画の無謀さに臆する事も戸惑う事もなく、
いつもどおりマイペースに歌い上げている大場さんの歌唱に、冗談抜きで感服したものである。
ビートルズをデフォルメした曲をリアルに歌う・・・、
大場さん、って
昭和のソフビみたいなアイドルだったンだなぁ(笑)。
☆☆☆☆☆☆ おまけ ☆☆☆☆☆☆
大場さんがそんなアイドル時代に主演したドラマ『コメットさん』に、
ゲスト出演した、
ウルトラセブンとウルトラマンタロウとウルトラマンレオ。
3体とも、 ポピー製キングザウルスシリーズ・全長約17センチで、 彼らが大場さんと共演を果たした頃(昭和53〜54年)の商品。 |
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ちなみに、 この中ではセブンにのみ、3種の仕様があった。 |
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向かって左から、 初期(目が別パーツ)、後期、お菓子の景品(クリア成形)。 |
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世代的には、
九重祐三子さん主演の初代『コメットさん』の方を喜んで見ていたであろう僕だが、
ウルトラ兄弟が登場した事で、
この大場さん主演のリメイク版『コメットさん』の方に思い入れがある。
コメットさんは宇宙人だからウルトラ兄弟とも顔見知りだったようだが、
別番組(しかもヒーロー番組ではない作品)にウルトラ兄弟が出てきた事で、
僕としては、
ウルトラの星はやっぱり宇宙のどこかに本当にあるンじゃないか? って、
久しぶりに思えて、嬉しかったのだ。
・・・中学生だったけど(笑)。