真水稔生の『ソフビ大好き!』


第89回 「ミスター・ウルトラファイト」  2011.6

僕が “幼稚園児から小学1年生へ” といった年齢の頃、
『ウルトラファイト』というテレビ番組があった。

“幼稚園児から小学1年生へ” と言えば、
まさに、マルサンやブルマァクのソフビ怪獣人形で夢中になって遊んでいた頃である。
そんな時期に、
『ウルトラファイト』が放映されていて、僕はとても幸せだと思う。

それは、
番組の内容が、
その年頃の子供にしか楽しめない、極めて幼児向けなものであった事と、
いろんな世代の日本人が
再放送やビデオで
子供の頃に『ウルトラマン』や『ウルトラセブン』を見ている中、
再放送もほとんど無く、ビデオも発売されなかった『ウルトラファイト』を楽しめた記憶は、
僕らの世代にしかない、という事、
その二つの理由からである。

そんな、
言わば僕らの世代限定の “ウルトラシリーズ” である『ウルトラファイト』は、
昭和45年の秋から約1年間、
月曜から金曜までの夕方に放送された約5分間の帯番組。

内容は、
『ウルトラマン』と『ウルトラセブン』の格闘シーンを抜き焼きして再編集したものと、
新たにウルトラセブンと怪獣たちの格闘シーンを撮影したものと2種類あり、
ユニークなのは、
その両方に
プロレス中継のような実況がアナウンサーによって当てられていた、という事。
これは、
当時ウルトラマンと怪獣の闘いが “怪獣プロレス” と評されていた事を逆手に取った、
実にニクいアイデアだったと思う。

特に、
新たに撮影されたウルトラセブンと怪獣たちの格闘シーンの方は、
予算の都合上、
スタジオにセットを組んだりはせず、
『ウルトラマン』や『ウルトラセブン』の撮影で使った着ぐるみや
アトラクション用・宣伝用に作られた着ぐるみを流用して、
造成地や海岸などで
ウルトラセブンや怪獣たちが
殴り合い、蹴り合い、投げ飛ばし合う様子を描いただけの、
まさに、
正真正銘の “怪獣プロレス” になっていた。

既成素材の抜き焼きの方も、
『ウルトラマン』や『ウルトラセブン』のハイライトシーンなわけだから、
当然、僕ら当時の子供たちとしては胸を躍らせたが、
その、
新撮された “怪獣プロレス” の方には、
『ウルトラマン』や『ウルトラセブン』の世界とは異次元な空間での怪獣バトルが見られるという事で、
それはそれは心惹かれたものである。

なんたって、
『ウルトラマン』に出てきた怪獣がウルトラセブンと対決する、という “夢の共演” も見られるのだから、
熱くならないわけがない。
普段、自由に空想して楽しんでいるソフビバトルの世界が、
実物の怪獣によって映像化されたようなものだ。
嬉しくて仕方なかった。

先述したアナウンサーによるプロレス中継のような実況に加え、
コミカルなBGM、
そして、
使いまわされた着ぐるみの尋常じゃない劣化具合など、
大人になった今見たら、
それは失笑するしかないのだけれど、
陽気な明るさの中にも何処か哀愁を感じる、あの独特の味わいこそ、
特撮実写作品の魅力であり、怪獣文化そのものである、と言える。
魅力的な映像だった。

そんな “怪獣プロレス” を喜んで見ていた僕ら当時の子供たちの反応が、
怪獣の根強い人気を世間にアピールする事になり、
『帰ってきたウルトラマン』以降の
新たなウルトラシリーズが製作される大きな原動力になった、と言っても過言ではないだろう。

また、
怪獣が巨大である事の表現を放棄し、
空を飛ぶとか、火を吐くとか、光線を出すとか、そんな事もほとんど無く、
ただひたすらに
着ぐるみ同士を取っ組み合わせただけなのに、
それでも子供たちがブラウン管の前に釘付けになった事実は、
“異形な者同士のバトル” というものが
子供たちにとっていかに魅力的な “エンターテイメント” であるかを明示し、
その血湧き肉躍る感覚の追求こそが
人気子供番組を作り上げる重要な “鍵” になる事を示唆した。

それが、後に、
他社・他局が『仮面ライダー』という新番組を、
アクション娯楽活劇として大流行させる事にも繋がっていったのではないか、と僕は思う。

ドラマにいろんなテーマを持たせたる事や
エピソードに変化をつける事に凝るウルトラシリーズとは異なり、
只々、ヒーローと敵怪人のバトルシーンの充実にこだわった『仮面ライダー』も、
その源泉は『ウルトラファイト』にあったのである。

つまり、
ウルトラシリーズを復活に導いただけでなく、
ライダーブームを巻き起こすヒントも提供したわけだから、
『ウルトラファイト』は、
日本の特撮番組の歴史上とても重要な作品であった、という事が言える。
決して馬鹿にしてはいけないのだ。


       
        その新撮された “怪獣プロレス” に登場した着ぐるみ怪獣たちの、
 ミニソフビバンダイ製、全長約10センチ)。
 マニアをターゲットに数年前発売された『ウルトラファイト』のDVDボックスに、
 予約特典として付いていた人形である。
 劣化した撮影用の着ぐるみ、
 あるいは、
 アトラクション用や宣伝用に作られた安っぽい着ぐるみの、
 ヨレヨレ感・クタクタ感をリアルに再現した、思わず目頭が熱くなる(笑)造形だ。


・・・それにしても、
『ウルトラファイト』がDVD化される(しかもソフビ付きで)とは、なんていい時代(笑)なのだろう。


 
   
 ウルトラセブン 
   
 バルタン
   
 エレキング

   
 イカルス
 
テレスドン
   
 アギラ
   
 シーボーズ

       
 ウー
 
 キーラ 
   
 ゴドラ

 
 ガッツ
   
 ケロニア
   
 ゴーロン
   
 ゴモラ

『ウルトラマン』や『ウルトラセブン』に登場した、
全てのウルトラ怪獣の中から選ばれた精鋭たちだけに、
実に魅力溢れる顔ぶれである。
当時使える着ぐるみがこれだけだった、という説もあるが・・・(笑)。

今回は、
この中から、
僕の『ウルトラファイト』の記憶の中で
特に印象的だった2匹の怪獣に、スポットを当ててみようと思う。


まずは、テレスドン
元は、『ウルトラマン』に登場した地底怪獣である。

     
ブルマァク製 スタンダードサイズ
全長約20センチ
             
ブルマァク製 ミニサイズ
全長約10センチ

         
ポピー製 キングザウルスシリーズ 全長約15センチ

     
バンダイ製 ウルトラ怪獣シリーズ(ウルトラ怪獣コレクション) 全長約16センチ


『ウルトラマン』第22話「地上破壊工作」に登場した際のテレスドンは、
夜の街の暗闇に浮かび上がった光る目や
実相寺監督の回の怪獣とは思えぬ豪快な暴れっぷりに、強烈なインパクトがあったし、
なんといっても、
見るからに強暴そうな姿、そのシャープで殺気立った造形に、
僕はもちろん、多くの子供たちが興奮したものである。
上の写真の、
バンダイのリアルな造形の人形はもちろん、
やさしいデフォルメが施されたブルマァクの人形からも、
それは窺い知れる。
そんな、全ウルトラ怪獣の中でもトップクラスに属するであろうカッコいい怪獣だったのに、
『ウルトラファイト』に登場した際のその姿は、

  ・・・こ、これがテレスドン?

と、目を疑うほどカッコ悪いものであった。
『ウルトラマン』の撮影に使用された着ぐるみをそのまま流用したそうなのだが、
経年劣化が酷く、
全体的にふやけた感じで締まりの無いフォルムになり、
地底怪獣、と言うよりは、
なんか、
焼きイモのお化け、みたいな姿に成り果てていたのだ。

でも、
そのカッコ悪さが、
かえって『ウルトラファイト』の世界にはピッタリで、
新撮分の “怪獣プロレス” をシュールで味わい深いものにしていた、いちばんの理由だと思う。
なんたって、
低予算丸出しの雰囲気の中、
悪ガキどもの喧嘩のような、ある意味お気楽なバトルが描かれる、
ゆるい世界に生きる怪獣たちなのだから、
それが『ウルトラマン』や『ウルトラセブン』に出てきたカッコいい怪獣のままでは、
ちょっと似合わないのだ。

“劣化した” とか “安っぽい” とか、
そんな残念で切ない姿をした怪獣でないと作品として成立しないのが、
『ウルトラファイト』の新撮 “怪獣プロレス” なのである。

なので、
往年の姿を偲びづらくなるほど着ぐるみが劣化していたテレスドンは、
まさに、
“ミスター・ウルトラファイト”と呼べる怪獣だと言えよう。
よって、
『ウルトラマン』に出てきたテレスドンはもちろん大好きだが、
『ウルトラファイト』に出てきたテレスドンにも、僕は妙に惹かれるのである。

               


また、
着ぐるみの劣化が独特の “味” になっていた、
という事が
単なる僕の個人的見解ではない事を証明する事実もある。
それは、
『ウルトラファイト』に登場した後、
このテレスドンの着ぐるみがそのまま、
テレスドンとは別の怪獣として、『帰ってきたウルトラマン』に登場した事である。
“着ぐるみの劣化” が、
個性として立ち、認知され、キャラクターとしての“命” を持ったわけである。

『帰ってきたウルトラマン』第3話「恐怖の怪獣魔境」に登場したその怪獣の名は、デットン
テレスドンと同じ、地底怪獣であった。

               
ブルマァク製 スタンダードサイズ 全長約21センチ

       
ブルマァク製 ミドルサイズ 全長約12センチ
       
ブルマァク製 ミニサイズ
全長約9センチ


デットンは、
僕の記憶が間違っていなければ、
当時の児童向け雑誌や怪獣図鑑の類の書籍では、“テレスドンの弟” と紹介されていたはずである。
素直な子供だった僕(笑)は、
そのプロフィールをそのまま信じて、

 こいつは『ウルトラファイト』のテレスドンじゃないか?

などと疑う事もなく、
テレスドンに似た純粋な新怪獣としてデットンを受け止め、テレビの中の世界に浸っていた。
“着ぐるみの流用” なんて裏話、当時は知る由も無かったし・・・。

           
     
    テレスドンの鳴き声は、
いかにも “怪獣” な、迫力あるものだったが、
デットンの鳴き声は、
豚のいびき(聞いた事は無いけど(笑))みたいな音で、
ダサダサの見た目に、見事なまでにマッチしていた。
 

また、デットンは、
同じ回に登場した岩石怪獣サドラと、
怪獣同士で闘ったり、共に帰りマンを苦しめたりしたのだが、
このサドラという新怪獣がまた、鋭利な雰囲気を持ったカッコいい怪獣だったため、
それとは対照的な、
劣化した着ぐるみの見た目の悪さが余計に際立ってしまい、
ことごとくダサダサな印象しか視聴者に与えられなかった。
元があのカッコいいテレスドンだったとは、本当に信じ難いのである。

     



お次は、アギラ
御存知『ウルトラセブン』に登場した、カプセル怪獣の一匹である。

 
ブルマァク製 スタンダードサイズ
全長約21センチ
   
この2体の差は、硬質ソフビか軟質ソフビか、の違い。
成形色も違って見えるけど、
たぶん、日焼けによるものだと思う。
         “ドリフのヒゲダンス” をしているような両腕が、
       なんでこんな造形にしてあるのかよくわからなくて、好き(笑)。  


      ブルマァク製 ミニサイズ 全長約10センチ

背中の丸み具合や膝の曲がり加減が絶妙だし、
顔の表現にも生気が溢れていて、なかなか素敵な造形だと思う。

        ポピー製 キングサウルスシリーズ
全長約13センチ

高級感のある、凝ったカラーリングが魅力的。

   

 バンダイ製 ウルトラ怪獣シリーズ 全長約13センチ

 平成元年にラインナップ入りした際には、ブルマァクと同じ、口を閉じた状態で人形化され、
 平成21年に新規造形でリニューアルの際には、ポピーと同じな、口を開いた状態で人形化された。
 口を閉じたり開いたり・・・が、アギラ人形の歴史(笑)。


アギラが登場する『ウルトラセブン』のエピソードは、
第33話「散歩する惑星」と
第46話「ダン対セブンの決闘」の2本。
前者では、メカニズム怪獣リッガーと、
後者では、にせウルトラセブン(サロメ星人が作ったロボット)と、
それぞれ印象的な闘いを繰り広げている。
ただ、
印象的、と言っても、決して良い意味ではない。
以前にも述べた事もあるように(第53回「雨の日と月曜日は」参照)、
『ウルトラセブン』のカプセル怪獣たちは、
戦闘に向いていないンじゃないか? と思えるほど弱く、
はっきり言って、“使えない奴ら” であり、
何しに出てきたのかわからない結果に終わるケースがほとんど。
このアギラも例外ではなく、
リッガーにも
にせウルトラセブンにも、
只々、一方的に苦しめられて退散、という、まことにもって情けない闘いぶりであった。
そういう意味で印象的だったのだ。

人形の方も、
上の写真を見てわかるとおり、
リアルな造形のバンダイはもちろん、ポピーやブルマァクの表現からも、
そんなアギラの頼りない感じが滲み出ていて、
たまらなく僕は愛しい(笑)。

     
 

『ウルトラファイト』の新撮 “怪獣プロレス” に登場したアギラも、
『ウルトラセブン』に登場したアギラと同じく “セブンの子分” という役どころであったし、
今述べたとおり、元々情けない闘いをする印象があったので、
お気楽バトルにも着ぐるみの劣化にも、まったく違和感を覚えなかった。
普通だった(笑)。

・・・って言うか、
僕らの世代にとってアギラは、
『ウルトラセブン』の怪獣であると同時に、
『ウルトラファイト』の怪獣であるイメージも強く、
テレスドン以上に、
“ミスター・ウルトラファイト” と呼ぶに相応しい怪獣なのかもしれない。

 
円谷粲(つぶらや あきら)さんと

粲さんは、
特撮の神様・円谷英二さんの三男で、
『ウルトラセブン』では
特撮班の助監督をされていた方である。
怪獣マニアの間では有名な話だが、
“アギラ” とは、
粲さんの名前 “アキラ” から、
名づけられたものなのだ。

粲さんは、
ネロンガのような
オーソドックスな怪獣がお好きとか。
なので、
アギラが恐竜のような姿をしているのは、
おそらく、
そんな粲さんの好みに
合わせてのものだったと思う。
 


『ウルトラファイト』のロケで地方へ行った際、
タイアップで怪獣ショーをやると、子供たちが大勢集まってきて賑わうので、
町が明るく活気づいた、と地元の方たちが喜んでくれて、
宿泊先のホテルのサービスも良くなったそうである。

『ウルトラファイト』は、
ブームに関係なく子供たちが怪獣好きである事を
そんなふうに大人たちに伝えてくれた、意義と価値のある作品なのだ。
僕らの世代にとって特別なテレビ番組であり、
児童文化におけるその功績が
もっともっと称えられるべき作品である、と
僕は強く思う。

先ほど、
『ウルトラファイト』はソフビバトルが実物の怪獣で映像化されたようなもの、と述べたが、
テレスドンやアギラに代表される、使いまわされた着ぐるみ怪獣たちの、
劣化し、泥や埃にまみれたあの姿は、
畳の上で、銭湯で、公園の砂場で、
僕ら子供たちに散々遊びたおされたソフビ怪獣人形のイメージと、
美しくオーバーラップする。
すべてのソフビ怪獣人形が、ミスター・ウルトラファイトなのだ。
ゆえに、
『ウルトラファイト』の愛しき記憶は、
僕のソフビコレクションのバックボーンとして、これからも心を支え、癒し続けていく事だろう。 

       
       
       
       



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