真水稔生の『ソフビ大好き!』


第53回 「雨の日と月曜日は」  2008.6

雨の多い憂鬱な季節がやってきた。
昨日も、雨のせいで、
我が草野球チーム・マミーズの試合が中止になってしまい空虚な休日を過ごしたし、
今日も、
今は止んでるけど、どんより曇って今にも降り出しそうな空模様のため、
真っ昼間だというのに、カーテンを全開にしても部屋の中が暗く、
なんだか気持ちがふさいでしまう。

天気予報によると、
夕方からは、やはりまた雨になるらしい。
これからバイトに出かけなければならないのだが、傘を持っていく必要があるだろう。

あ〜、イヤだ、イヤだ。
あ〜、鬱陶しい。
本当に憂鬱な季節だ。

ところで、
今日のような日、今は降ってないけど出先で雨になりそうだという時、
僕は、“折りたたみ傘”というものを携帯しない。
って言うか、
そもそも、折りたたみ傘は僕の家には無い。
所有していないのだ。

小学校の低学年の頃に2、3度持たされた記憶があるが、
もう40年近く、折りたたみ傘を僕は使用していない。
折りたたみ方すら、よく知らないくらいだ。

あんな物の何が良いのか、どこが便利なのか、
僕にはさっぱりわからない。

コンパクトに折りたたんだところで、全然スマートじゃないし、
カバンの中に入れても、そこそこ重くて結局かさばるし、
いざ使おうと思って広げれば、
普通の傘より小さいからそれほど雨を防げず、結構濡れてしまう。
いったい何のために荷物が増えるのを我慢してまで携帯していたのか、と思えてしまうのだ。
それでもって、
雨がやんだからといって閉じると、長さが中途半端で持ち歩きにくい。
傘立てにも入れられないので、
喫茶店や居酒屋、あるいは銀行などに入った時には、どうしていいのか困ってしまう。

持っていたって、何もいい事がない。邪魔なだけなのだ。
それなら、
雨が降りそうな日は、最初からあきらめて普通の傘を持ってた方がずっといい。
どっちみち荷物になるなら、
そっちの方がスッキリして気持ちがいいし、いざという時に使い易くて適当だろう。

折りたたみ傘など、僕には “無用の長物” にしか思えないのである。


さて、
なぜ折りたたみ傘について述べたか、というと、
そんな折りたたみ傘のようなイメージの怪獣が特撮ヒーロー番組に存在する事に、
ふと気づいたからである。
『ウルトラセブン』に登場した、ウインダムミクラスアギラの3匹だ。

向かって左から、
ウインダム、ミクラス、アギラ。
すべてブルマァク製ミニサイズ。
全長約10センチ。

モロボシ・ダンが携帯しているカプセルを投げると現れる、“カプセル怪獣”である。
小さくして携帯し、必要な時に大きくして使用する、
まさに、折りたたみ傘のような存在なのだ。
しかも、
たいして役に立たないところまで、僕の中ではイメージがかぶる。

このカプセル怪獣たち、
正直言って、使えない奴らなのである。
弱いのだ。
何某かの事情でダンがセブンに変身出来ない時に主に使われるのだが、
ほとんど敵には歯が立たず、
闘いに敗れ去って戻ってくる(ウインダムにいたっては、戻る前にトドメをさされてしまった)。

まぁ、主役はセブンなのだから、
セブンが出てくる前に敵をやっつけちゃうわけにはいかないのだろうけど、
それにしても弱い。弱すぎる。
いったい何しに出てきたのか、という印象しか、毎回残さないのである。

よって、
ダンも、さほど当てにしていないのか滅多に使わないので、なかなか出番が無い。
全部で49話もある『ウルトラセブン』のエピソードの中で、
カプセル怪獣が登場するのは、
ウインダムが3回、ミクラスが2回、アギラも2回、
と信じられないくらい少ない。

たったそれだけしか出番が与えられないのなら、
最初から“カプセル怪獣”なんて設定は要らなかったンじゃないか、
と思えるほどだ。

だが、『ウルトラセブン』を見て育った僕らの世代は、
たまにしか出てこなっかたそのカプセル怪獣の事をよく憶えているし、
ほとんど役に立たない弱い怪獣なのに、結構好きだったりする。
斯く言う僕も、
折りたたみ傘は嫌いでも、カプセル怪獣たちは大好きである。

もともと、ヒーロー番組を見る時のテンションが
現代の子供たちとは違って異常なまでに高かったし、
児童向け雑誌や怪獣図鑑といった類の書籍や5円引きブロマイド、
そして、ソフビ怪獣人形をはじめとする怪獣玩具たちが
日常の中に当たり前のように存在していたので、
テレビでの出番が少ないからといって
その怪獣の事を忘れる事はまずなかったが、
カプセル怪獣たちの存在感は、やはり際立っていた。

“正義側(人類の味方側)の怪獣” という事で、
子供心に好印象だった上に、
たまにしか出てこない、というのが、逆にインパクトを強め、
出てきた時の嬉しさを倍増させる効果を生み出していた。
その嬉しさは、そのまま、
カプセル怪獣そのものの好感度に繋がっていったのだ。

それに、
キャラクターとして、3匹それぞれの個性がはっきりしていて解りやすかったため、
子供心に受け入れ易く、愛されるべくして愛された存在であったと言える。

ロボットのような姿でカッコいいウインダムは、
『ウルトラセブン』が楽しいSFドラマである事を、平易に印象付けるし、
迫力と愛嬌をあわせ持つ、ちょっと変わった姿のミクラスと
正統派怪獣と言える、恐竜のような姿のアギラは、
怪獣という夢の生き物の魅力を、明快に表現している。

カプセル怪獣たちの存在は、
子供にはお話がちょっと難解だった『ウルトラセブン』を
『ウルトラマン』と同等に、子供たちが素直に愛せる作品にとどめておける作用があったのだ。

番組の準レギュラーでありながら出番がとても少なく、
しかも正義の怪獣でありながら哀しいくらいに弱い、
そんなカプセル怪獣たちではあるが、
『ウルトラセブン』を語る上で絶対に外せない、
という事は、日本の特撮テレビ番組を語る上で必要不可欠な、
とても重要な存在なのである。


中でも、
僕はミクラスがいちばん好き。
ウインダムやアギラは、
戦闘シーンにギャグみたいな演出をつけられたた事があったため、
ちょっとお茶目な(もっとはっきり言うと“頭が悪い”)イメージだったが、
ミクラスにはそれが無いので、
カプセル怪獣の中ではいちばん賢い気がしていた。

それに、
なんといっても惹かれるのが、あのユニークな容姿。
ずんぐりむっくりした体形にねじれたカラフルな角、
そして、
にらめっこしたら間違いなく吹き出してしまうであろうブサイクな顔、
それらが絶妙なバランス感で “異形なもの” の魅力を伝えている。
デザインした成田亨さんと
着ぐるみを作った高山良策さんの、
センスと才能の素晴らしさを感じずにはいられない。


また、
ミクラス初登場となる第3話『湖のひみつ』におけるエレキングとの対決は、
個性の異なる怪獣同士が湖で対峙した、その構図と言うか絵的な美しさがあまりにも印象的であり、
幼い頃、
ソフビ怪獣人形でそのシーンを僕は何度再現したかわからない。

数ある怪獣の記憶の中で、
ミクラスの強度と鮮明度はかなり高い。
僕の “思い出の怪獣” の、代表的存在なのである。


これが、
その、ミクラスのソフビ。
向かって左側の写真がマルサン製、右側の写真がブルマァク製。
ともに、スタンダードサイズで全長約23センチ。

実物のミクラス自体が実に愛嬌のある容姿なだけに、
当時のソフビ怪獣人形の常識であった “デフォルメ造形” が、これほどしっくりくる人形も無いだろう。
素晴らしい。
こんなに愛しく思える怪獣人形も珍しいと思う。

        チャームポイントはココ。
この不器用そうな短い腕が、僕は好き。
ミクラスは怪力の持ち主だから、
一撃で相手を倒せるかもしれないが、
はたして、この短かさで、
パンチが相手に届くのだろうか(笑)。

こちらは、
ジャイアントサイズのミクラス人形。
ブルマァク製で、全長約30センチ。

スタンダードサイズの人形がそのまま巨大化したような造形で、
ズッシリと、その存在感がハートに響く。
愛嬌も迫力も、まさにジャイアント。
これぞ究極のミクラス人形。
文句の付け所無し。最高!大好き!



続いて、ミクラスと戦った怪獣たちを紹介しよう。

まずは、
前述した、ミクラスのデビュー戦の相手であるエレキング
『ウルトラセブン』の代表的な敵怪獣でもある。

向かって左側の写真がマルサン製、右側の写真がブルマァク製。
ともに、スタンダードサイズで全長約22センチ。
宇宙人の命令に従い、躊躇無く地球人を殺しに来るような恐怖と不気味さは、
ウルトラマンを倒した、あのゼットンにも通じるものがあるエレキングだが、
その、“心を持たぬ生き物” といった雰囲気がよく出ている人形だと思う。
ジーッと見ていると、結構怖い。

チャームポイントはココ。
この踊るような尻尾に、
アンティークソフビというものの魅力が秘められている。
現代のソフビなら、
実物の、ミクラスをぐるぐる巻きにしたあの長い尻尾を、
そのまま長く再現しようとするのだろうが、
昔の怪獣玩具は違う。
“似せる”のではなく“表現する”、
これが当時の玩具業界の常識であり、
原型師のプライドであったのだ。
たとえ実物より短い尻尾でも、
この生気さえ感じる“うねり”が、
エレキングという怪獣の特長をしっかりと伝えてくれている。
ボリュームがあって迫力を感じるし、
とても味わい深い造形だと思う。


次は、
地球を凍らせるためにやってきたポール星人が差し向けた凍結怪獣、ガンダー

零下140度の吹雪の中でのミクラスとの死闘は、壮烈を極めた戦い、といった感じで印象的だった。
しかも、ダンが、
失くしたウルトラアイを探し出し、
セブンに変身してエネルギーをチャージするまでの長い間、
なんとかガンダーに倒されずにミクラスは持ちこたえた。
頑張ったのだ。
唯一、カプセル怪獣が役に立った回だと思う。
エラいぞ、ミクラス!

そういえば、このガンダーの回、
“出たがり脚本家”として有名な(笑)金城哲夫さんが
地球防衛軍の隊員役でチラッと出演しているのだが、
これがなんと、
寒さに倒れかけたところをアンヌ隊員に抱きかかえられる、という実にオイシイ役なのである。
あぁ、羨ましい。
あぁ、嫉ましい。
自分で脚本書いてそんないい役で出演するなんて、
ズルいぞ、金城さん!

閑話休題。
写真の人形は、3体とも、ブルマァク製スタンダードサイズ。
全長約25センチで、他のスタンダードサイズの怪獣人形よりも若干大きく、その分迫力がある。


チャームポイントはココ。
背面の、この荒々しく激しい彫りが、
吹雪の嵐のようにも、
氷の結晶のようにも見えて、
冷たく美しく、そしてカッコいい。
成形色が、
寒さのイメージとは正反対な“赤”なのに、
凍結怪獣の特徴がしっかりと伝わってくる、
素晴らしい表現だと思う。


こちらはブルマァク製ミニサイズのガンダー人形。
全長約10センチ。

頭部から突き出た目を、誤って触角のようなものと解釈したのであろう、
顔の部分に勝手に目をモールドしてしまったため
結果的に四ツ目の化け物になってしまった、
という、現在では考えられない商品。



今、窓の外を見たら、ポツポツ来てる。
夕方からどころか、もう降り始めたみたいだ。
あぁ、出かけるのイヤだなぁ。
こんな日は、
このままソフビ怪獣人形で遊んでいたいなぁ(笑)。



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