真水稔生の『ソフビ大好き!』


第73回 「ダメ親父より愛をこめて」 2010.2

久しぶりに息子たちと会い、食事をした。
早いもので、上は高校2年、下は中学3年になっている。
時々、夢に彼らが出てくるのだが、
不思議な事に、
いつも彼らは、妻に連れられ家を出て行った頃の年格好で登場する。
離婚して10年、その間彼らとは何度も会い、
どんどん体が大きくなっていくのをこの目で見ているのに、
夢の中で見る彼らは、小さな子供のままなのである。
いつ出てきても、
長男は小学校に上がったばかり、次男はやっとオシメが取れた頃だ。
僕の中で、
息子たちとの時間がそこで止まっているのだろう。
現実の彼らは、もう、あそこに毛だって生えているというのに・・・。

なので、
今回のように会って食事をしたりする時は、
その夢の中の止まっている時間と現実の時間の間を埋めるべく、いろんな話を彼らとする。
部活の話や友達の話など、
最近身のまわりに起きた大小様々な出来事の話から、
時には、母親とは出来ないであろう “性” の話まで。
いろんな話をしながら、
背も伸び、手や足も大きくなり、声変わりもした我が息子たちの姿を
目と脳裏に焼き付けるのだ。

ただ、今回は、
彼らのそんな肉体的成長だけではなく、
精神的な成長も感じる事が出来、とても嬉しかった。

別れた妻が最近再婚したそうなのだが、
長男も次男も、

 「新しい父親に、どうも馴染めん」

と言いながら、
現在のギクシャクした暮らしを、笑いながら話してくれたのだ。

それはまるで、
『人志松本のすべらない話』で
自分の貧しい生い立ちや辛い出来事などを “笑い話” に変えて話すお笑い芸人たちのようで、
とても素敵なものだった。
多感な年頃だから、いろんな葛藤や動揺もあったと思うが、
それを己の力で乗り越えて、母親の幸せを思って現実を受け入れ、
その経緯から現状までを僕に笑顔で報告する彼らを見て、
我が息子たちながら、「偉いなぁ」と感心してしまったのだ(親バカだな、僕も)。
しかも、

 「・・・って事は、
  また違う苗字になったのか。
  なんかお前ら、楽しいな、いろいろ名前が変わって」

って言ったら、

 「楽しかねぇよ!」

と、二人同時に声を揃えて返してきた。
ツッコミまで出来るようになったとは、本当に感心である(笑)。

今日まで無事健康に育ってくれただけでもありがたいのに、
心もこんなにたくましく成長してくれて、僕は神様に感謝の言葉も無い。
これから先、
まだまだいろんな事があるだろうが、
どうかこの調子で、明るく元気に生きていってほしいものだ。

別れた妻だって、
自分の幸せを考えただけでなく、息子たちに男親が必要だとも思ったから
悩みに悩んで再婚を決意したのだろうし、
どんな人か知らないけどその新しい父親だって、
相当の覚悟で結婚したと思うので、
必死で息子たちと良い関係を作ろうと努力してくれているであろう。
そうやって、
自分たちの事を考えたり心配したりしながら
一生懸命に生きる母親と新しい父親を見て、
彼らが愛や人生を学んでくれる事を、
僕としては祈るだけだ。
離婚なんかして彼らに迷惑をかけた張本人の僕が言うのも変だが、
辛さや淋しさを味わった分、
他人の痛みがわかる人間、深みのある人間に育ってくれたらいいと思っている。

そして、
彼らにはそれが出来るだろうと期待が持てた。
それが嬉しかった。
夢の中に出てくる、あの頃の彼らとは、もう違うのだ。
それをとても強く感じた。
今度彼らが夢に出てくる時は、今の姿で出てきてくれるかもしれない。


・・・というわけで、
今回は、
僕が “パパ” だった頃に、
まだ幼かった彼らと一緒に見ていたヒーロー番組、
そしてそれに登場したキャラクターのソフビを紹介します。
愛する我が息子たちが、
今日まで無事に育って、たくましく成長してくれた事に対する感謝と、
今後、幸せな人生を歩んでほしいという願いを込めながら・・・。


まずは、『超力戦隊オーレンジャー』。
平成7年の3月から1年間放送された、スーパー戦隊シリーズの19作目。
宇宙の彼方から飛来し、地球を侵略しようとするマシン帝国バラノイアに、
6億年前の超古代文明のパワーである “超力” を身につけた、
国際空軍特別部隊のメンバーが立ち向かい、人類の未来を賭けて戦う物語。

当時、長男が2歳で、次男はまだ生まれたばかりの赤ン坊だった。
なので、
長男に付き合う形での視聴であったが、
初代の『秘密戦隊ゴレンジャー』ですら、それほど真剣に見ていなかった世代の僕としては、
初めて真剣に視聴する戦隊シリーズであったので、
付き合いとはいえ、
今の子供向けヒーロー番組はどんなだろう、と
かなり興味を持ちながら見ていた。
第1話を見た時は、
ストーリーや演出がカッコよく、なかなかシリアスな感じで、

 あれ? これはもしかしたら、長男よりも僕がハマってしまうかも・・・、

などと思ったが、
途中から、
あの失笑もののカッコ悪さ(だと僕は思う)であるマスクのデザインに象徴されるような、
悪ふざけと言うか不真面目と言うか、
なんだかおちゃらけたような内容に路線変更されてしまったので、残念だった。
また、
その路線変更に伴ってか、
やたらと新しい武器・兵器や巨大ロボットが出し抜けに登場するようになり、
完全に作品の方向性を見失っている感があった。
戦隊ヒーローが大好きな事で有名な “しょこたん” こと中川翔子さんですら、
それを理由に

 「オーレンジャーだけは嫌い」

と、コメントしているくらいである。
あの“しょこたん”にも愛してもらえないなんて、なんて哀しい戦隊なのだろう(笑)。

でも、
関連玩具は、歴代戦隊の中で最高の売上を記録するほど人気があったようなので、
メインターゲットである子供の支持は、しっかりと得ていたようだ。
長男も喜んで見てた。
ちなみに、“しょこたん” もオーレンジャーのオモチャは買っていたそうである。やれやれ(笑)。

また、
主題歌や挿入歌を、
当時、NHK『おかあさんといっしょ』で
“歌のお兄さん” として活躍していた速水けんたろうさんが歌っていたのも良かった。

 「これ、けんたろう兄さんが歌ってるンだよ」

って、長男に教えてあげたら、とても嬉しそうな表情をした事を憶えている。
特に、
挿入歌の『虹色クリスタルスカイ』は
ヒーローソングの歴史に残る名曲中の名曲であり、
長男も僕も大好きだった(たぶん次男も(笑))。
この曲を家や車の中でいつも聴きたいがために、
『超力戦隊オーレンジャー ヒット曲集』というCDまで買ってしまったくらいである。
子守唄代わりに、よく歌ってあげたりもしたものだ。

“子供に買ってやる” という名目で、
その代金を、
僕のお小遣いからではなく
家計費から捻出したのに、
なぜか今は僕の手元にある(笑)。


・・・で、肝心のソフビです。

当時バンダイから発売されていた “オーレンジャー5セット” の5体。
向かって左から、
オーレッド、オーグリーン、オーブルー、オーイエロー、オーピンク。
全長約12センチ。

そして、5人のうち、主役のオーレッドのみ、
ユタカ(ハーティロビン)からも、同サイズの人形が発売されていた。
向かって右側がその人形。
バンダイ版と同じ型から作られているが、塗装が部分的に省かれている。

ユタカ(ハーティロビン)からは、このサイズで更に、
巨大ロボや
番組中盤から登場したキングレンジャーのソフビも発売されていた。
向かって左から、
オーレンジャーロボ、レッドパンチャー、オーブッロカー、キングレンジャー。


下の9体は、食玩ソフビ。バンダイ製、全長約8センチ。
オーレンジャーの5人。
向かって左から、
オーレンジャーロボ、
レッドパンチャー、
バスターオーレンジャーロボ、
キングレンジャー。


レッドパンチャーのみ、大きなサイズでもソフビ化された。
全長約23センチ、バンダイ製。



ウルトラマン人形と怪獣人形を戦わせ、
仮面ライダー人形と怪人人形を戦わせ、
そこに熱く夢見て遊んだ世代の僕としては、
“ソフビは戦わせて遊ぶオモチャ” という認識があるので、

 こんな主役(正義)側のキャラクターばかりいろんなサイズで発売されても、
 遊びようがないじゃないか!

と思っていたけど、
或る時、長男をふと見たら、
買ってあげたオーレンジャーや巨大ロボのソフビを
1個1個テーブルの上に並べて、悦に入った表情でそれを眺めていた(笑)。


ただ、
悪役が、人形としてまったく商品化されていなかったわけでもない。
マシン帝国バラノイア幹部の親子3人が、
一応、人形になっている。
向かって左から、
バッカスフンド(全長約14センチ)、
ブルドント(全長約10センチ)、
ヒステリア(全長約15センチ)。
全てバンダイ製。
ポリエチレン製の人形で、
確か、
ジャイアントローラー(タイヤの形をした巨大兵器)のオモチャに
“的” として入っていたものだったと思う。

敵のキャラクターが玩具として立体化されているのは嬉しいが、
やはり、
出来れば、ちゃんと塗装もしてあるソフビ人形で商品化してほしかったものである。


ちなみに、
バッカスフンドの声を担当されていた声優は、あの有名な大平透さんである。
僕ら特撮ファンには、
声優やナレーターのみならず、
『宇宙猿人ゴリ』の公害Gメンの倉田室長を演じた俳優としても知られているし、
その際にメンバー全員の服を行きつけの洋服店に作らせたり、
『マグマ大使』では、
自身が声を担当したゴアの、
なんとスーツアクターも自ら申し出て担当されたり、と
情熱的な演者として印象深い方である。

そんな大平透さんの、姪にあたる方が、
以前出演させて頂いた或る舞台のスタッフの中にいらっしゃった。
子供の頃、よく遊んでもらったそうなので、
どんな叔父さんだったか尋ねたら、

 「う〜ん、そうねェ、声のいいおじさんだったわ」

との事。
・・・知っとるわ、そんな事(笑)。



続きましては、『ウルトラマンティガ』。
平成8年の9月から1年間放送された、平成初の、テレビ番組としてのウルトラシリーズ。
3千万年前の超古代の戦士であり、地球の守護神でもあった “光の巨人(ティガ)” が復活し、
様々な敵から人類を守る物語。
なので、
M78星雲のウルトラ兄弟、という従来のウルトラシリーズで使用された設定は、引き継いでいない。


赤ン坊だった次男も1歳半を過ぎ、
長男と一緒にテレビの前に座って見ていたが、
番組が始まった当初は、
「ウルトラマンティガ」って上手く言えず、
「$@※%マン#&ダ」などと聞き取り不可能(笑)な言葉を発していた。
でも、最終回を迎える頃には、
ちゃんと
「ウルトラマンティガ」って言えるようになった。

16年ぶりにテレビ番組としてのウルトラシリーズが復活した喜びはもちろん、
そうやって我が子が成長していくのを実感しながら
その番組を親子3人でリアルタイムで見る事が出来る幸せにも、僕は浸った。
そして、完全にハマった。
『超力戦隊オーレンジャー』と異なり、
大人の視聴にも堪える、実に面白いドラマだったのだ。
傑作だったと思う。大好きだった。

世代的に『ウルトラマン』や『ウルトラセブン』に絶対的な思い入れのある僕だが、

 親として息子たちに見せるウルトラシリーズは何か?

と問われたら、
迷わずこの『ウルトラマンティガ』を選ぶ。
全52話全てにシビれたとは言わないが、
「もっと高く! 〜Take Me Higher!〜」、「暗黒の支配者」、「輝けるものたちへ」の
最終エピソード三部作はもちろんのこと、
「甦る鬼神」、「うたかたの・・・」、「ゼルダポイントの攻防」、
「時空を超えた微笑」、「拝啓ウルトラマン様」、「ウルトラの星」など、
今思い出しても胸が熱くなる名エピソードが数多くあり、
ウルトラで育った大人の視聴者として充分に楽しめただけでなく、
息子たちが大人になった時に
ティガ世代である事を誇りに思えるような、そんな素晴らしい作品でもあったと思う。
夢や空想する事の楽しさがいっぱい詰まった、魅力的な番組であった。


ウルトラマンティガは、
その戦闘の状況によってタイプチェンジし、能力を特化させる。
その際に体の色が変わるのだが、
人形の方は、
体の色だけではなく、手の形状も変える事により、それぞれの特徴が表現されている。
真ん中がマルチタイプ(基本形態)で、
向かって左側が、スピードや空中戦に優れるスカイタイプ、
右側が、体力と腕力が優れたパワータイプ。
全長約16センチ。
バンダイ製で、番組放送当時に発売されていたもの(いわゆる初版)。


こちらは、
温度によって色が変るティガのソフビ人形。
全長約16センチ、バンダイ製。

手で温めたり、お風呂に入れたりすると、
紫色の部分が赤く変色し、
ティガのタイプチェンジが楽しめる、というもの。
向かって左側のスカイタイプは、
温めるとマルチタイプになり、
右側のマルチタイプは、
温めるとパワータイプになる。
息子たちとお風呂で、コレでよく遊んだものだ。
そういえば、
その頃、次男はまだ小さかったから、お風呂で頭を洗ってやる度に泣いていたけど、
或る時、泣かなくなった。
『ウルトラマンティガ』の最終回から2年経った頃で、
僕と妻が離婚でもめている時だった。

 「ぼく、泣かンかったでしょう」

という次男の言葉が、

 「もうパパがいなくても大丈夫だよ」

って意味に聞こえた。



ウルトラマンティガ(全長約33センチ)と
イーヴィルティガ(全長約35センチ)。
ともにバンプレスト製。

ゲーム(いわゆるUFOキャッチャー)の景品。
戦わせて遊ぶものではなく、
ポーズ固定のディスプレイ用人形。
数あるティガ関連ソフビの中で、僕はこの2体がいちばんカッコいいと思う。
特に、イーヴィルティガのこのフォルムには、
心を失っているがために能力が暴走している感じがよく出ていて、
昭和のオモチャには無い、リアルなカッコよさを強く感じる。



第3話「悪魔の預言」に登場したキリエロイド と
第4話「サ・ヨ・ナ・ラ地球」に登場したリガトロン。
ともに、
全長約16センチ、バンダイ製ウルトラ怪獣シリーズ。
長男が祖父(妻の父)と買い物に行った際、
スーパーのオモチャ売り場で見つけて、

 「パパ、これ、まだ持ってないから買ってあげなきゃ」

と言って祖父に買わせた2体。
放送と前後して、番組に登場した怪獣のソフビが発売されていたので、
長男は幼いながらも、
『ウルトラマンティガ』の、こないだ見たばかりの回に出てきた怪獣だから、
僕がまだ持っていないだろうと判断したのだ。
この人形を見るたびに、

 「パパの持ってない怪獣、買ってきたよっ!」

と得意気に帰ってきたあの時の長男の顔と声を思い出し、
嬉しく切ない感情で胸が締め付けられる。
何千体とあるコレクションの中で、
唯一、我が子に買ってもらったソフビである(笑)。宝物。
ちなみに、
キリエロイド人形は、
その後、二度、仕様変更されている。
右の写真がその比較。


タラバン。
全長約20センチ、高さ約12センチ。
バンダイ製ウルトラ怪獣シリーズ。
視聴者の子供が考えた “でんでんワニ” という怪獣の絵を基にしてデザインされているためか、
なんとも優しい造形の怪獣である。

息子たちも「欲しい」と言ったので、あの頃の我が家にはこの人形が3つもあった(笑)。
ちなみに、
この怪獣が登場する第46話「いざ鎌倉!」は、父と息子の心の絆を描いた、心温まるお話であった。


月日は流れて平成12年の夏、
行きつけの玩具店から
 
 「タラバン人形のカラーリングが変わって再販されましたよ」

という連絡をいただいた。
離婚して間もない頃だったし、
前述したように、タラバン人形は息子たちとの思い出と直結するものだったので、

 「タラバン人形の色が塗り替えられたンだから、僕の気持ちも塗り替えよう」

と、ショックから立ち直れていない自分に言い聞かせながら、
僕はその玩具店に向かった。
・・・だが、
このように、爪やアゴの部分にちょっと色を塗った程度の違いがあるだけで、
ほとんど見た目は変わっていなかった。
そんな新しいタラバン人形の代金をレジで払いながら、

 「そうだよな。そんな簡単に塗り替えられないよな、気持ちなんて」

と、胸の中で呟き、再びイジけてしまった僕であった(笑)。


そういえば、その年は、
『ウルトラマンティガ THE FINAL ODYSSEY』という映画が公開された年でもある。
放送終了から3年も経っていたのに、
劇場は満員で、『ウルトラマンティガ』の根強い人気を改めて感じた。
ちびっ子たちはもちろん、
やはり、僕らの世代が番組を支持した事が大きかったのだと思う。

余談であるが、
その映画に登場する、悪の女ウルトラマン・カミーラの、変身前の姿を好演した、
“みっちょん” こと芳本美代子さんが、
数年後に主演されたテレビドラマに端役で出演させていただいたのが、
僕の役者デビューである。

芳本さんは、とても素敵な方だった。
たった1シーンにしか出ない、しかもセリフが一言二言の、
僕のような無名のローカルタレントに対し、
わざわざ主役の芳本さんの方から挨拶して下さった感動的な礼儀正しさと、
至近距離で見たあのさわやかでキュートな笑顔に胸がときめき、
強烈な好印象を受けた。

芳本さんが変身する闇の巨人・カミーラ。
全長約16センチ、バンダイ製。

向かって左側の人形がセット売り版で、
右側が単品売り版。
手の仕様が異なる。


僕は、
時々、ショーケースの中のコレクションを気分転換で並べかえるのだけど、
子供の頃に好きだった怪獣をやはり前の方に置きたいので、
バンダイのウルトラ怪獣シリーズの棚のティガとかダイナとかの怪獣人形は、
必然的に、どうしても奥の方に追いやってしまう。
だけど、
芳本さんと共演させていただいて以来、
何度並べ直しても、
カミーラ人形だけは先頭に飾ってしまうようになってしまった。
いつも見つめていたいし、
いつも見つめられていたいのだ。
悪者の人形なのに、
芳本さんに受けた好印象のせいで、
僕を守ってくれる女神の人形にしか思えないのである(笑)。

このように、
昭和の怪獣の中に突然カミーラがいるので、
怪獣ファンの友人やコレクター仲間には、

 「なんか変だよ」

と不評だが、
たぶん永久的に、この配置の仕方を変える事はないだろう。
あの “みっちょん” の可愛さを生で体感した僕にしか、この悦びは解らないのだ(笑)。



・・・話が逸れたな。
元に戻します。

“みっちょん” の事は横に置いといて、
この映画には、
実は、とても不愉快な思い出がある。

夫婦共々お世話になっていた或る方に立合人になってもらい、
僕と妻が離婚するにあたって交わした協議書というものがあり、
そこには、
その立合人を通してしか、僕と別れた妻はお互いに連絡をとってはいけない事や、
親権の無い僕が息子たちに会えるのは
月に1回のみである事などが記されている。
なので、僕は、
何月何日何曜日の何時から何時まで、何処へ何の目的で息子たちを連れて行きたいのか、
という事を立合人を通して別れた妻に伝え、
「OK」の返事を立合人を通してもらって、ようやく息子たちに会えるのだ。それも月に1回のみ。

立合人を通す、という余分な工程があるせいで、
返事をもらえるまでに2、3日かかる事もあるし、
それでもって「NO」の返事がきたら、
別の日程を組んで、また立合人を通して連絡して
返事を待たなければならない。
たった1日会う許可をもらうのに、1週間かかる場合もあるのだ。

この映画の公開時、僕は、先述したとおり既に離婚していたので、
一緒に暮らしていない息子たちと映画を観に行くには、
当然、その面倒な手順を踏まなければならなかったのであるが、

 「その日は、お爺ちゃんと動物園に行く日だからダメ」

とか、

 「仕事が忙しくて息子たちと充分に接してあげられていないから、
  その日は私が息子たちを連れて遊園地に行く」

とか、
いろんな理由で散々断られ、
何日もかけてやっと許可がもらえた次第である。

まぁ、でも、
それは、離婚して親権も向こうにあるのだから仕方ない事だとして、
腹立たしいのは、その後。

晴れて息子たちと映画が観に行ける事になったのだが、
次男が当日になって風邪をひいてしまい、
長男しか連れて行けなかったので、
数日後、次男とその映画を見に行く予定をたてて、僕は別れた妻に直接連絡した。
上映期間が残り少なかったので、
いちいち立合人を通して連絡していたら間に合わないかもしれないと思ったからである。
だが、
別れた妻には、
協議書の記載を無視して直接電話した事を激しく非難され、
来月ではその映画の上映期間を過ぎてしまう事を説明しても、
子供と会うのは月に1回と決まっているはず、と冷たく却下されてしまった。
しかも、その事を立合人の方に言い付けられたので、
僕は立合人の方に呼び出されて「女々しい事をするな」と厳しく叱られた。

腹が立って、
悲しくて情けなくて、
次男が可哀想で、
とても辛かった。

なのに、
別れた妻の方からは、平然と僕に直接電話がかかってくるのだから(第44回「お母さん」参照)、
実に理不尽で身勝手な話である(笑)。
でも、
再婚して新しい家庭を築いたのなら、もうそんな事はないだろう。
よかった、よかった。


離婚当時、
その立合人の方から、何度も言われた事、
それは、

 「憎しみからは何も生まれない。子供の心に傷を残すな」

だった。
だけど、人間が出来ていない僕は、ずっと別れた妻を恨んでいたし、
どんなに気をつけていても息子たちにそれを感じさせてしまっていたと思う。
子供たちの健全な成長と豊かな人生を思ってその立合人の方がしてくれた忠告なのに、
僕は守れなかったのだ。
それでも、
あの息子たちは、たくましく育ってくれている。
こんなダメ親父を好きでいてくれている。
ありがたい話だ。

今、僕は、
狭い部屋で独り、
オーレンジャーやティガのソフビを眺めながら、
そんな息子たちの幸せを、ただただ祈るばかりである。



食事の後、まだ時間があったので、
息子たちは僕の家にやってきた。
ショーケースに飾ってある僕のソフビコレクションを見回し、

 「相変わらず、凄いね」

と長男。

 「お父さんが死んだら、この怪獣どーなるの?」

と次男が聞くので、

 「お前らにやるよ」

と答えた。
すると、
長男と次男は声を揃えてこう言った。

 「要らん」



・・・まったく可愛げの無い奴らだ。

って言うか、
僕が死んだ時の話を平気な顔でするなよ(笑)。



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