真水稔生の『ソフビ大好き!』


第46回 「いかにも名古屋」  2007.11

今年の日本シリーズで、北海道日本ハムファイターズを倒し、
見事、中日ドラゴンズが53年ぶりの日本一に輝いた。

日本一がかかった第5戦で、
8回まで日ハム打線をパーフェクトに抑え、
“日本シリーズ優勝決定戦での完全試合達成” という
日本プロ野球界の歴史に残る快挙を目前にしていた山井投手に代えて、
守護神・岩瀬投手を落合監督がマウンドに送った時は、
めちゃくちゃシビれた。
勝つ事の厳しさ・難しさ、そしてそれに立ち向かう勇気と執念が、強烈に胸に伝わってきたのだ。
プロの世界は凄いと思った。

いろんな人のいろんな意見があるようだが、
誰が何を言おうが、
落合監督のあの采配でドラゴンズが悲願の日本一を達成した事、
そして、
山井投手と岩瀬投手が素晴らしい野球選手である事、
それは、あの場面における揺るがない事実。

だから、
僕はそんな立派な地元球団を誇りに思うし、日本一になった事を純粋に喜びたい。

ひょっとしたら生きてるうちには見られないかもしれない、と
半ば諦めていたドラゴンズの日本一を見せてくれた
落合監督をはじめ、コーチ・球団関係者の方々、そして選手の皆さんには、
心の底からファンとしてお礼が言いたい。本当に嬉しい。

野球になど興味の無い人にはわかってもらえないかもしれないが、
地元の球団が日本一になった喜びは最高である。とても幸せな気持ちなのだ。


だが、
日本シリーズは感動したけど、
ペナントレースに目を向けると、優勝したのはドラゴンズではなく巨人であったので、
手放しでは喜べず、ちょっとテンションが下がる。

たまたま変な制度のおかげで、
優勝した巨人ではなく2位のドラゴンズがセ・リーグを代表して日本シリーズに出場する事になり、
そこでパ・リーグの優勝チームに勝ってしまった、というわけだ。

日本一にはなったけど優勝はしていない・・・、それが今年のドラゴンズなのである。
そして、この、
完全な本物ではない、どこかインチキくさい雰囲気こそが、
我が名古屋のセンスである、と僕は思う。

夢にまでみた日本一、
半世紀以上叶わなかった日本一、
そんな悲願を達成した感動にさえ、“優勝はしていない” などというケチがつくあたりが、
なんともドラゴンズ、
いかにも名古屋、なのである(笑)。


で、
そんな “いかにも名古屋” なものが、キャラクター玩具の世界にも存在する。
“ぱちもん” である。
ほかにも、
海賊版、まがいもの、ぞっき品、ばったもん、などといろんな呼び方をする、
いわゆる、版権の無い商品の事である。
これが、なんとなく、名古屋のイメージとダブるのだ。

・・・なんだか、

 ドラゴンズの日本一が偽物、

と言ってるように解釈されそうで悔しいが、
日本一にはなったけど優勝はしていない、という今年のドラゴンズと
版権の無いキャラクター玩具である “ぱちもん” は、
“いかにも名古屋” というキーワードで、僕の中ではしっくりと結びついてしまうのである。


実際、名古屋で作られたオモチャには
正規品を真似た物が昔は多く、
そういった物を指す “名古屋もの” などという言葉もあったくらいで、
僕のイメージ通り、
名古屋は “ぱちもん玩具” の町なのである。

駄菓子屋さんで売られていたオモチャのほとんどは、当然 “無版権” なのだから、
日本一の駄菓子文化を誇る名古屋が、“ぱちもん玩具” の町であっても何の不思議も無い。

僕の子供の頃のオモチャ箱には、
マルサンやブルマァクのソフビに混じって、“ぱちもん” のソフビもいくつか入っていた。
今でこそ、
マルサンやブルマァクのソフビと
ぱちもんソフビのクオリティの差はしっかりと認識出来ているが、
子供の頃は、メーカーになんか特にこだわらなかった。どの人形も平等に好きだった。

中には、
子供の頃から、ぱちもんソフビを「これはニセモノだ」と区別していた人もいたようだが、
少なくとも僕は、
ブルマァクのマークが入ってないソフビを蔑視したり、
名前のわからない怪獣の人形を嫌ったりしていた記憶は無い。

 子供の頃の気持ちを大切にしたい、
 子供の頃のオモチャ箱を進化させて再現したい、

そんなコンセプトでソフビ怪獣人形を集めている僕のコレクションには、
当然、ぱちもんソフビは含まれている。
今回は、
その中からいくつかピックアップして紹介したいと思う。



ザラブ星人
全長約8センチ。
ザラブ星人は、初対面なのにいきなり「我々は兄弟だ」などと言ってくる、
実にうさん臭いヤツだったが、
この人形も、かなり、うさん臭い(笑)。
しかも、
にせウルトラマンに化けるような宇宙人だから、
その人形が “ぱちもん” である事には、深い意味が感じられるのだ。

どこかで見た事があるような、ないような、
そんな名も無き怪獣の人形たちと袋に入ってセット売りされていた。
タグには “帰ってきた怪獣” と書いてあったが、
どこから、いつ、帰ってきたのか、定かではない。
って言うか、
以前に来ていた事も、僕は知らない(笑)。
それとも、“帰ってきたウルトラマン” と同じで、
帰ってきた怪獣ブーム・夢の復活、という意味か。・・・やはり深いなぁ(笑)。



    ダンガー
    全長約9センチ。
    向かって左から3体はブルマァクのミニサイズ。
    右端のみ、そのブルマァクの型で作られた “ぱちもん”。
    その “ぱちもんダンガー” だけが、何故か意味不明のド派手カラー。
    結婚披露宴をド派手にやりたがる名古屋人気質の見栄っ張りなイメージを、
    まるで象徴しているかのようだ(笑)。



仮面ライダー
全長約30センチ。
石森章太郎先生の原作漫画の絵によく似ています。
誰が、どこで、どのようにして作った人形なのだろう。ロマンを感じる。
強いのか弱いのか、
カッコいいのか悪いのか、
よくわからない微妙な体のラインに、なぜか惹かれてしまう。
これぞ、ぱちもんソフビの魔力。



ロボット刑事
全長約15センチ。
これも石森章太郎先生の原作漫画の絵に
よく似ています。
また、バンダイ(ポピー)からは、
服を脱いだ時の人形しか発売されていないので、
向かって左端の人形は嬉しいアイテムである。



仮面ライダーX3
全長約11センチ。
下半身は何か怪人の人形のものを流用したため、
なんと、ベルトが2本になっている。
ダブルタイフーンのベルトに加え、更にもう1本とは、
なんて贅沢なX3でしょう(笑)。





ライダーマン
全長約19センチ。
袋入りのデッドストック品を買ったのだが、
このように、
よくわからないアタッチメントがたくさん付いていた。
何アームやねん?(笑)



ウルトラマン80
全長約20センチ。
なんとも魅惑的なカラーリング。
“夜の80” って密かに呼んでます。



レッドキング
全長約26センチ。
向かって左端は、
ポピーのグレートザウルスシリーズ(キングザウルスシリーズの大きいサイズ版)という正規品。
その型を使った “ぱちもん” が右の3体だが、
正規品のような足の裏の足型は、ぱちもんにはモールドされていない。
でも、
赤、クリアーグリーン、蓄光、というバージョン違いは興味深い。



“ぱちもん” と一口に言っても、
これらのように、
新しく型をおこして作られた物もあれば、正規の金型が闇に流れて作られた物もあり、
集めていくと、とっても面白い。
正規品では味わえない、怪しげな光を放ってくれたりもする。

マルサンは確かに魅力的なメーカーだし、
ブルマァクのソフビにも、バンダイのソフビにも、それぞれの良さがある。
でも、僕は、やはり、
ぱちもんソフビを
それらメーカー品と一線を画して評価したり鑑賞したりする事は出来ない。

 日本人は 日本の花をみな好む 木花 草花 花ならぬ花

と歌人の窪田空穂さんも詠っているように、
子供の頃愛したソフビ全てを、子供の頃と同じように僕は愛したいのだ。

メーカーや版権の有無に関係なく、
僕の夢や思い出が、僕のソフビ怪獣人形コレクションの価値を決めるファクターである。
他人の好みや世間一般の評価など、僕のコレクションには関係無いのだ。

日本一にはなったけど優勝はしていない、という中日ドラゴンズ、
駄菓子文化のオモチャ版とも言える、別名 “名古屋もの” とも呼ばれる “ぱちもん”のソフビ、
そんな、“いかにも名古屋” なものが、
僕は、
なんでか知らんけど好きだでかんわ〜。



                  前回へ       目次へ       次回へ