真水稔生の『ソフビ大好き!』


第15回 「足型の足跡」  2005.4

昭和50年代半ばに発売されていたオモチャで、
ポピーの “キングザウルスシリーズ” というソフビ怪獣人形がある。
どの怪獣の足の裏にも、
それぞれの怪獣の足型がモールドされており、
別名 “足型シリーズ” とも呼ばれている。

昭和50年代半ば、というと
僕は中学生から高校生になるくらいの頃で、
怪獣のオモチャで遊ぶ年齢ではなくなっていたため、このシリーズに関する思い出は全く無い。
コレクターになってからその存在を知ったくらいである。

でも、
僕はこのシリーズが大好きだ。
足型のモールド、というのがユニークなアイデアで良いと思うし、
なんといっても造形が魅力的。
現在のバンダイのウルトラ怪獣シリーズに通じるリアル志向のものもあれば、
マルサン・ブルマァクの時代を彷彿とさせるようなデフォルメが施されているものもあり、
新時代のソフビ怪獣人形の造形を模索していたシリーズと言える。そこに惹かれる。

ブルマァクが倒産した直後に登場したこのソフビ怪獣人形は、
バンダイがキャラクター玩具の世界を支配した証である。

ソフビ怪獣人形以外、これといってヒットした玩具がなかったブルマァクに比べて、
バンダイ(ポピー)は、変身ベルトとか超合金とかジャンボマシンダーとか、
子供の夢見る気持ちに応える素晴らしい玩具が圧倒的に多かったが、
ソフビ怪獣人形だけは、
マルサンの金型からスタートしたという経緯もあり、
バンダイよりもブルマァクの方がどうしても印象的だった。
だが、
そのブルマァクが倒産した。
造形や大きさがマルサンやブルマァクとは異なる新しいソフビ怪獣人形を発表して
バンダイが業界を制圧するには、絶好のタイミングだった。

仮面ライダーをはじめとするいろんなソフビ怪獣人形を作ってきたバンダイは、
すぐさまブルマァクに替わって堂々とそこに落着した。
ソフビ怪獣人形というジャンルもついに制覇して、
キャラクター玩具と言えばバンダイ、という時代が、いよいよ始まったのだ。

だけど、
現在のようなリアルでカッコいいソフビ怪獣人形が
いきなり誕生したわけではない。
大きさは、この時決まったものが現在でもスタンダードなものとなっているくらいはっきりしていたが、
造形については、まだバンダイは迷っていたと思われる。 先述した “模索” である。

子供心をリサーチすれば、
間違い無く現在のウルトラ怪獣シリーズのようなリアルな造形が求められていたはずだが、
マルサンやブルマァクが実績とともに残した丸っこいソフビ怪獣人形のイメージが
あまりにも強大だった事と、
“オモチャは可愛らしいもの” という業界の常識がまだまだ根深く残っていた事が、
バンダイの方針をふらつかせていたように思う。

ゼットンやケムラーのように、
新時代のリアル造形が既に完成していた事を窺わせる人形もいくつかあるが、
リアルなカッコよさの追究にまだまだ徹しきれていない造形の人形も少なくない。
メカゴジラやアントラーなどに至っては、
マルサン・ブルマァク時代を引きずる愛敬優先のタッチにデフォルメされていて、
リアルな表現は回避されているのだ。

冷たささえ感じるゼットン。
宇宙恐竜という、謎の生き物の
無表情で無気味なニュアンスが
うまく表現されている。
オモチャと言えども
怪獣が子供に媚びてはならないのだ。
ウルトラマンより強い怪獣であるなら、
なおさらに。

ケムラーは、
現在のバンダイのウルトラ怪獣シリーズにおいても、
同じ型が使われている。
今にも毒ガスを吐き出しそうで恐い。
やはり、
ソフビ怪獣人形は、ある程度恐いのが良い。
迫力ある造形こそが
怪獣少年の魂を揺さぶるのだ。

なんと、メカゴジラに目玉が。
実に無責任で幼稚な発想。
ソフビ怪獣人形のデフォルメは繊細。
安易に行えば、
その怪獣の魅力をすっかり損なってしまう。
マルサンの偉大さを改めて痛感。
  スペシウム光線も効かない恐るべき怪獣なのに、
  何故か、
  みなしごハッチのお友達がニコニコ顔でこんにちは、
  って感じのアントラー。
  これでは、
  我らのウルトラマンも戦意喪失(笑)。

これら4体が、同じメーカーの同じシリーズで、同じ時期に製造・発売されていたとは、とても思えない。
造形コンセプトがまるで異なる人形が混在する、実に面白いシリーズなのである。 

 
また、シリーズというだけあって、
ゴジラ系とウルトラ系合わせて約80種、と種類も多く、集め甲斐があって楽しい。
サイズやカラーリングの異なるもの、初期と後期で型が異なるもの、
海外版やお菓子の賞品だったクリア成形バージョンなども含めれば、
その数は楽に100を越える。

ベムスター各種。
向かって右端が、
お菓子の賞品だったクリア成形バージョン。
真ん中のちょっとサイズが小さいのは海外版。
型も違う。

  ミクラス各種。
  お菓子の賞品にも
  バージョン違いがいくつかあるようで、
  コンプリートは見果てぬ夢。
  よって蒐集は永遠に続くロマン。

ガラモン各種。
大きい2体は試作品。
リアルにすべきかデフォルメすべきか、
中途半端な迷いの造形が、
このシリーズを物語っている。
何事も中途半端はよろしくない。
見よ、
この可愛くもカッコよくもない、妙なガラモンを。
教訓、ソフビのふり見て我がふり直そう(笑)。

   『ウルトラマン80』の怪獣は
   マルサン・ブルマァクの呪縛が無いからか、
   どれもリアルな仕上がり。
   これは、
   失恋し傷ついた少年の
   心のマナスエネルギーが実体化した怪獣、ホー。
   そんな理由で怪獣が生まれるなら、
   僕は怪獣製造機だ(笑)。
   これまで何匹生み出した事か。

グビラ各種。
実物の怪獣の魅力を
うまく引き出した見事なデフォルメ。
マルサンを彷彿とさせつつ、
新しさも味わえる傑作。
現在のバンダイのグビラよりも
僕はこっちの方が好き。
ウルトラマン各種。
初期のもの(真ん中)は、
目とカラータイマーが
別パーツになっていた。
後に一体成形に変更されたが、
ここにも、
新時代のソフビ怪獣人形への摸索が読み取れる。

このように、
バンダイが現在のようなリアルでカッコいいソフビ怪獣人形を完成させるために
新しい造形を摸索していた100種以上のキングザウルスシリーズの人形は、
ソフビ怪獣人形の歴史上とても興味深い時代に位置するものである。
新時代へ向かうその過程は、まさに “文化” で、
しっかり集めてきちんと保存し、未来に遺していかなければならないものだと思う。

                                

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