真水稔生の『ソフビ大好き!』


第165回 「気力のメカニズム ~肛門から始まる時間旅行~」  2017.10

救急車で病院に運ばれた今日この頃です。
脇腹と腰を襲う激痛に、
一晩中、
嘔吐を繰り返しながら、のたうち回ったあげく・・・。

尿路結石でした。
来週から通院・治療が始まる事になりましたが、
緊急で運ばれた今日は、
とりあえず、
点滴を受けながら、採血と尿検査とCT検査をして、
痛み止めの坐薬投与のみ。

けど、
やはり坐薬は速くよく効きますね。
それだけでだいぶ楽になって、
七転八倒の苦しみだったのがまるで嘘のように、
帰宅してからはフツーに食事して、
さっきまで『ウルトラセブン』のDVDを観てました。

どうして『ウルトラセブン』なのか、というと、
その坐薬を
病院で看護婦さんに入れてもらう際、

 あぁ、そういえば、“カンチョーマン” って、あったなぁ・・・、

と、
子供の頃に観ていたテレビドラマ『大活劇カンチョーマン』の事を
思い出したからなのです
(激痛にのたうち回って救急車で運ばれてきたのに、
  どんな神経してンだ? と、我ながら呆れてしまいますが・・・(苦笑))。

『大活劇カンチョーマン』とは、
堺正章さん主演のドラマが3本立てのオムニバスになっていた、
昭和46年放送の番組『テレビはこれだ!ドラマが3つも』の中の1本で、
堺正章さんがトイレに入って変身する、
スーパーマンみたいに空を飛ぶヒーロー・カンチョーマンと
坂上二郎さん演じる怪盗リュックサックとの闘いを描く、コント仕立ての作品。

カッコいい特撮やバトルアクションがある、
子供向けの “ヒーローもの” では決してなかったのですが、
小学1年生だった僕には、
“カンチョー” とか “トイレで変身” とか、
そういった “下ネタ” が楽しく感じられて、毎週欠かさず観てました。

好きですからねぇ、子供(男の子)は、そういうの(笑)。

 ・・・え?
 そんな下品なギャグドラマに
 ウルトラセブンが何の関係があるんだ、って?

あるンですよ、それが。
だって、
出てきたンだもん、
その『大活劇カンチョーマン』の或る回にウルトラセブンが。

驚いて、
そしてめちゃくちゃ嬉しくて、
テレビの前で

 「あっ、セブン!!」

って叫んだ事を憶えています。

しかも、
照明の演出か、
あるいは、勘違いでそう思い込んでしまってるだけか、
なんか、セブンの周りが眩いくらいにキラキラ光っていた気がして、
お話の内容はまったく憶えていないのに、
その、セブンが登場した瞬間の衝撃だけが、脳裏に焼き付いているンです。

なので、
本当はそのシーンを何十年か振りに観たくなったンですけど、
『大活劇カンチョーマン』は、
再放送もされていないし、ビデオ化やDVD化もされていませんので、
手元にある『ウルトラセブン』の映像で、

 “ウルトラセブンが出てきた『大活劇カンチョーマン』”

に思いを馳せる事にした、という次第なのです。

 今、僕の頭の中では、

  ♪ は~るかな星が~
    ふ~る~さ~と~だ~

 っていう『ウルトラセブン』の主題歌と

  ♪ カンチョ~マ~ン
    強く正しい(優しい、だったかな?)正義のみ~か~た~

 っていう『大活劇カンチョーマン』の主題歌が、交互に繰り返し流れています。

 

ちなみに、
『テレビはこれだ!ドラマが3つも』の構成ですが、
1本目は、堺正章さんが気弱なお殿様を演じる時代劇コメディで、
2本目に、その、『大活劇カンチョーマン』、
3本目が、堺正章さんと三ツ矢歌子さんが夫婦を演じる、豆腐屋さんが舞台のホームドラマ、
となっていました。

クラスの友達は、
『大活劇カンチョーマン』の話はしても、
ほかの2本にはまったく興味を示していませんでしたが、
僕は、以前にも述べた事があるように、

 アニメ作品よりも実写作品が好き、
 たとえ、お話の内容が理解出来なくても、
 俳優が出てきて演じている “テレビドラマ” を観るのが楽しい、

という、
ちょっと変わった子供でしたので、
3本とも、退屈に感じる事無く、しっかり観てました。

特に、3本目の豆腐屋さんのドラマは、
画面全体からにじみ出ている作品世界の温かい雰囲気が
実に安らかで心地よく、
なんなら『大活劇カンチョーマン』よりも好きなくらいでしたので、
夕焼けの中、
堺正章さんが三ツ矢歌子さんをおんぶして歩いているシーンや
雨降りの日の軒先を、
三ツ矢歌子さんが部屋の中から見ているシーンなど、
いくつか記憶に残っている映像には、
すべて、やさしく穏やかなフィルターがかかっていて、
思い出すだけで、気持ちが和みます。

『ウルトラセブン』のDVDを観ていたわけですから、
実際に瞳に映っているのは
当然の事ながら『ウルトラセブン』の映像でしたが、
心のスクリーンには、
そうやって
『大活劇カンチョーマン』や豆腐屋の夫婦のドラマも映写されていて、
普段よりも、何倍も楽しめた気がします。
なんか得した感じ(笑)。


激痛にのたうち回って救急車で病院に運ばれる事から始まった1日が、
まさか、こんな長閑な気分で終えられるとは・・・。

救急隊員の皆さんや、
緊急に対応して下さった病院の先生と看護婦さんに感謝、
そして、
尿路結石の痛みを抑えるだけでなく、
僕の心を少年時代へと連れて行ってくれた “坐薬” に、感謝です。

・・・あ、そういえば、
ウルトラ警備隊のアンヌ隊員、って、
白衣姿で基地内のメディカルセンターにも勤めてましたよね。
って事は、
もしも僕がウルトラ警備隊の隊員だったら、
今日みたいに尿路結石で運ばれた際には
アンヌ隊員に坐薬を入れてもらえる可能性大・・・。

やっぱ、『ウルトラセブン』って、夢のある作品だなぁ・・・(笑)。

   



というわけで、今回は、
僕のソフビコレクションから、こちらを紹介させていただきましょう。

 



 シャプレー星人
 ブルマァク製 スタンダードサイズ、全長約25センチ。  

さっきまで観てた『ウルトラセブン』のDVDの回に出てた宇宙人なので、
コレクションケースから引っ張り出してきて、
改めて鑑賞してみました。

  昭和40年代半ば・・・そう、
ちょうど『大活劇カンチョーマン』が放送されていた頃に
オモチャ屋さんの店頭に並んでいた商品ですが、
やっぱ、魅了されますね、いつ見ても。

マルサンの金型を流用した、
いわば “再販” から始まったブルマァクソフビが、
そのマルサンの造形から脱却して、
見事、ブルマァク独自の造形を確立しています。素晴らしい。
 
   実物の怪獣の内面(物悲しさや滑稽さ)を
 過剰で大胆なデフォルメを施して温かく表現したマルサン造形に対し、
 実物の怪獣の外形(異様さや不気味さ)を
 玩具・人形として美化して、スタイリッシュに表現したのがブルマァク造形。

 実物のシャプレー星人よりも若干スマートにデッサンし、
 スーツやブーツの皺、手首の角度、指先の形などをリアルに仕上げる事で、
 マルサンソフビでは味わえない、
 洗練されたカッコよさが強調されているこの人形は、
 まさに、
 その独自の造形コンセプトが花開いた証。
 そこへもってきて、
 全身に薄く吹かれたシルバーが、
 まるで真珠のような高貴な光沢を放ち、その輝く造形美をさらに引き立てています。 


 こんな美しくてカッコいい人形が、
 現在みたく “大人も楽しめるフィギュア” としてではなく、
 純然たる幼児のオモチャとして生産され、流通していたンですから、
 昭和40年代、って、本当に面白い時代です。


  こちらはミニサイズ。
同じくブルマァク製で、全長約10センチ。


スタンダードサイズの人形に倣い、
スーツやブーツに皺を描いて
ディテールにこだわった造形をしているのに、
胸や耳に、
こんな野暮で安易な塗装を施して、
誠にもって惜しい印象を受ける人形です。

けれど、この、
精巧と粗雑の共存こそが、
“ブルマァクらしさ” でもあります(笑)。

そう思って見ると、味わいがあります。
時代を感じますしね。 


・・・あ、そうそう、忘れてた。
さっき大絶賛したスタンダードサイズのシャプレー星人人形にも、
そんな、
美的感覚が有るのか無いのかよく解らない “ブルマァクらしさ” は、
ちゃんと発揮されています。

   
コレです。
ところかまわず打ち込まれる、
御存知、ブルマァクの無遠慮にデカい刻印。 
 

単に造形美としての観点で見れば、
なんとも残念な難点でしかありませんが、
玩具メーカーの研究としての観点から見ると、
こんなにも面白いものはありません。
だって、
あの偉大なるマルサン造形と一線を画す、
美しくカッコいい造形を完成させながらの、この無作法な行為ですから。
並みの神経じゃないですよ、ブルマァクって会社(笑)。





それにしても、
先々月の足底腱膜炎(第163回「夢見る頃を過ぎても」参照)といい、
今回の尿路結石といい、
50歳を過ぎて衰えてきた体の、“綻び” を実感しています。

寄る年波には勝てない、という事なンですかね。

でも、
再来週末には、
いよいよ舞台の本番が控えていますので、
そんな弱音や泣き言を言ってヘコんでいる暇は、僕にはありません。
元々、気合とハッタリだけでやってる僕の役者人生、
開き直っていくしかないのです。

・・・そう、気力だけはあるンですよね、僕(笑)。

生活が全然成り立たっていないのに、
それでも芝居やソフビコレクションを優先して、
意地でも夢見て暮らしていこうするのは、
常に新しい刺激を得ながら生きていた子供の頃の感覚や気持ちを、
出来る限り維持しようとする “本能” なのでしょう。

病院で看護婦さんに坐薬を入れてもらいながら、
カンチョーマンやウルトラセブンを思い出す自身の神経を、
先程は “呆れる” と述べましたが、
もしかしたら、
そんな状況でも幼い頃へ時間旅行が出来る無邪気さは、

 体の “綻び” をなんとか食い止めよう、
 老化・劣化が加速していくのを出来るだけ抑えよう、

と脳が自身に働きかけているがゆえのもの、なのかもしれません。
・・・うん、きっとそうだ。そうに違いない。

よぉし、
負けないぞ、僕は。
老いにも、病気にも、人生にも・・・。



【追記】

痛みを即効で抑えて、
更には
心を少年時代へ飛ばしてくれる魔法の薬(笑)、
処方していただきましたので、
“御守” として持ち歩いています。
これで、
いつ、また尿路結石が襲ってきても大丈夫。

公演を観に来て下さる皆さん、
もし、僕が苦しそうな表情で袖に引っ込んだのに
その後で平気な顔して舞台に飛び出してきて
子供のように元気に走り回っていたら、
もしかすると、
これが肛門に刺さっているのかもしれません。

・・・教えて要らんか、そんな情報(笑)。 





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