真水稔生の『ソフビ大好き!』


第166回 「鮮明なのに曖昧な記憶」 2017.11

この『ソフビ大好き!』で昔のテレビ番組について触れますと、
読んでくれた友人から感想を言ってもらえて、
そこから子供の頃の思い出話に花が咲く事が、しばしばあります。

前回(第165回「気力のメカニズム ~肛門から始まる時間旅行~」)の
『大活劇カンチョーマン』も例外ではなく、
先日、或る同世代の友人と会った際に、

 「忘れとったわ、カンチョーマン! あった、あった!」

と言われて会話が始まり、
懐かしさに酔いしれながら、気分の良いひとときを過ごす事が出来ました。

カンチョーマンの話の前に、
僕が救急車で病院に運ばれた事や
その後の病状を
心配する言葉があっても良さそうな気がしないでもないですが(笑)、
読んでもらえるのは幸せな事ですし、
某かの反応があれば、それが何よりの励みになりますので、素直に感謝しています。
それに、
同世代の友人とするその手の会話は、やはり楽しいものですから、
そういう時間を作るきっかけを提供出来た、という満足感も得られます。
この『ソフビ大好き!』を連載してて良かった、と思える瞬間ですね。

ただ、

 「でも、ウルトラセブンなんか出てきたかぁ? 勘違いじゃないのぉ?」

と言われ、
僕の方もそれを跳ね除ける絶対な自信は無く、

 「出てきたと思うンだけどなぁ・・・」

という言い方に留めましたので、そこだけ、ちょっと口惜しかったです。

自分の中では、
強烈な印象で脳裏に焼き付いている映像ゆえ、

 「いや、絶対出てきた。鮮明に憶えとる」

って言い返したいところだったのですが、
人間の記憶というものは
時が経てば経つほど事実からは遠ざかっていくものですし、
何かの弾みで記憶をすり替えてしまっている事だってあるものですから、
やはり、
それは曖昧なものである、という客観的認識を忘れてはいけませんのでね。

なんたって、半世紀近く前の記憶ですし、
再放送も映像ソフト化もされていない作品だけに、証拠がありません。
幻みたいなものなのです。

それに、
僕が物心付いた時には既に大スターだった堺正章さんですから、
出演されていた番組は、
ドラマからバラエティに至るまでめちゃくちゃ多くあり、
記憶に残っているその映像が
何の番組の映像だったか定かでないもののオンパレード。

現に、
『テレビはこれだ!ドラマが3つも』の中の『大活劇カンチョーマン』以外の2本、
時代劇と豆腐屋のホームドラマも、
その数年後に堺正章さんが主演を務められた、
これまた時代劇の『マチャアキの森の石松』や
これまた豆腐屋が舞台の『さよなら三角またきて四角』の存在もあって、
全部観てた僕としては、

 もしかしたら、
 そっちの時代劇だったかも・・・、
 そっちの豆腐屋だったかも・・・、

なんて、
はっきりしないものが、いくつもあるのです。

なので、
『大活劇カンチョーマン』にウルトラセブンが出てきた事も、
その友人の指摘するように、僕の勘違いである可能性が決してゼロではなく、
明言を避けたという次第。

 ・・・でも、
本当に出てきましたけどね、ウルトラセブン。
間違いないです。
鮮明に憶えてます(笑)。

そして、
その友人には、こんな事も言われました。

 「ハッチャキセブンと記憶がごっちゃになっとれせん?」

・・・そうなンです。
堺正章さんは
“カンチョーマン” を演じていた頃、
“ハッチャキセブン”というヒーローも演じておられたのです。

・・・まぁ、ヒーローと言っても、
堺正章さんがヘルメットをかぶってるだけのものでしたが、
『ハッチャキ!!マチャアキ』という、
公開録画形式のバラエティ番組の中の1コーナーで、
舞台上で、
堺正章さん扮するハッチャキセブンが、
子供たちと一緒に、
レッドキングをはじめとするウルトラ怪獣たちと闘う・・・、
そんな内容だったと記憶しています。

確かに、

 ・堺正章さんがヒーローを演じた
 ・セブン
 ・ウルトラ怪獣

という事で、

 “堺正章さん主演の『大活劇カンチョーマン』にウルトラセブンが出てきた”

という事に
記憶が長い年月の間にすり替わってしまう可能性も、あるかもしれません。

なんたって、
堺正章さんの冠バラエティは、
『ハッチャキ!!マチャアキ』のほかに、
『マチャアキのシャカリキ大放送』や
『マチャアキ・前武 始まるヨ!』など、いろいろあって、
自他ともに認めるテレビっ子で
子供の頃のテレビ番組に関する記憶の多さや細かさに自信のある僕でも、
フォローしきれず、
先述の主演ドラマ同様、
どの番組のものだったか、はっきりしない映像の記憶が多数。

 ごっちゃになっとれせん?

と言われれば、そのとおりなのです。

でもでも、
本当に『大活劇カンチャーマン』にウルトラセブンは出てきましたよ。
間違いないです。
鮮明に憶えてま・・・、くどい?(笑) 


ちなみに、
『ハッチャキ!!マチャアキ』に登場するのがウルトラ怪獣なら、
『マチャアキ・前武 始まるヨ!』には、
ガリガリとベロベロ、
という
番組のオリジナル怪獣が登場していました(第67回「愛と美の法則」参照)。

とにかく、“怪獣、怪獣、また怪獣” って時代だったのです。

ただ、
ガリガリとベロベロ、あんまりよく憶えていないンですけどね(苦笑)。
番組をしっかり観た事がなかったか、
あるいは、
ウルトラ怪獣じゃなかったから、
なんとなくスルーしてしまっていたのか・・・。

“怪獣、怪獣、また怪獣” って時代に、
ただ怪獣が出てくるだけでは、もうそこに驚きはなかったのかもしれません。

『大活劇カンチョーマン』のウルトラセブンにしろ、
『ハッチャキ!!マチャアキ』のレッドキングたちにしろ、

 “ウルトラと関係のない番組に
    ウルトラヒーローやウルトラ怪獣が出てくる”

というのが、
強烈なインパクトだったンだと思います。

それが証拠に、
『ハッチャキ!!マチャアキ』の裏番組にウルトラ怪獣が登場した事も、
衝撃的な記憶として残っています。

・・・そうです、
『ハッチャキ!!マチャアキ』の裏番組にも、ウルトラ怪獣が出てきたのです。

その番組もバラエティ番組でしたが、
或る時、
『帰ってきたウルトラマン』を見終わって、
『ハッチャキ!!マチャアキ』にチャンネルを変えるのを忘れた際、発見しました。

ウルトラ怪獣が出てくる番組の、
その裏番組にもウルトラ怪獣が出てくるンですから
(しかも、ゴールデンタイムで、両方とも特撮ヒーロー番組ではなくバラエティ番組)、
ホント、“怪獣、怪獣、また怪獣” って時代でした。

ただ、
その番組を子供心に凄いと思ったのは、
局が同じだからか、
『帰ってきたウルトラマン』の怪獣が出てきた事です。

当時、テレビ番組やイベントに “賑やかし” として登場する怪獣といえば、
『ハッチャキ!!マチャアキ』のように、
Q・マン・セブンの怪獣の有名どころが相場と決まっていましたが、
その番組には、
それらメジャー怪獣たちと並んで
シュガロン(・・・ダンガーだったかも)が出てきたンです。

『帰ってきたウルトラマン』は当時放映中の新番組ゆえ、
アーストロンもタッコングも、
グドンもツインテールも、
ナックル星人もブラックキングも、シーモンスもシーゴラスも、
みんな、言わば “新参者”。

そんな新参者が・・・、
いや、それら人気怪獣ならまだしも、
シュガロン(ダンガー)などという “ビミョー” なところが、
“怪獣の代表” として
レッドキングやバルタン星人などと同等の扱いで、
他番組へ “営業” をしに出てくるなんて、
異例というか大抜擢というか、
怪獣大好き少年だった僕としては、驚くべき嬉しい出来事だったのです。

なので、翌週からも、
『ハッチャキ!!セブン』へチャンネルを変える事をしなくなったのですが、
それくらい感動したのに、
シュガロンかダンガーかはっきり憶えていない事が、
シュガロンやダンガーの、シュガロンやダンガーである所以。

同じ “新参者” でも、
タッコングやツインテールのような、見るからに特異な形状の怪獣なら、
そんな事にはならないのでしょうけど、
シュガロンもダンガーも、
カッコいいですけど、そこまでのインパクトは無いですし、
なんとなくフォルムやイメージが似てますので、
半世紀近い年月の中で、記憶の中の映像がボヤけていってしまったのです。

これに関しても、
その友人は、

 「憶えとらんなぁ・・・。
    そんな番組、本当にあったぁ? 勘違いじゃないのぉ?」

と、疑いの眼差しを向けてきたので、
帰宅後、ネットで調べてみたら、
藤村俊二さん司会の
『ドン!アタック』というゲームバラエティ番組であった事は判りましたが、
“ウルトラ怪獣が出てきた” という記述を、見つける事は出来ませんでした。

当然、
シュガロンだったかダンガーだったか、は不明のままです。

う~ん、これまた幻か・・・。

 
                  でも、確かに、
                  その番組にウルトラ怪獣は出てきたンです。
                  レッドキングらメジャー怪獣たちと一緒に、
                  シュガロンかダンガーかのどちらかが、本当に出てきたンです。
                  間違いないです。
                  鮮明に憶えてま・・・、って鮮明じゃないか(苦笑)。





シュガロン

ブルマァク製 スタンダードサイズ、全長約22センチ。

『帰ってきたウルトラマン』放映当時(昭和46年)に、発売された人形です。 






マルサンのソフビのような大胆なデフォルメは施さず、
劇中の、片目を傷つけられた状態を再現したり、
首の部分にある着ぐるみの覗き穴を再現したり、
極力、実物の姿形に近づけようと造形されていますが、
カラーリングが実物とは全く異なるので、
あまりリアルな印象は受けません。

でも、
実物の体色とは全く異なるこの深い赤の成型色こそが、
実は、この人形のいちばんの魅力なンですよね。
              シュガロンが登場した、
第12話「怪獣シュガロンの復讐」の、
物語と映像が放つ、
幻想的、かつ、なんとなく寂しい印象に、
この色合いが通じている気がして、空想力を掻き立てられるンです。


マルサンの時代が終わり、
ソフビ怪獣人形の造形や色を
実物の怪獣の外形に只々完璧に似せる時代に
少しずつ向かっていきながらも、
まだまだ “オモチャの夢” が生きていて、
それを手にして遊ぶ子供たちの感受性に
その人形の価値を委ねている、
そんな、
当時のブルマァクの
玩具メーカーとしての認識が伺える、
絶妙な “赤” だと思います。  











こちらは、
同じくブルマァク製で、ミドルサイズ。
全長約12センチ。 
両腕が短いので、
ファイティングポーズをとらせようとすると、
たちまち、
このように可愛らしく愛らしくなってしまいます。

そもそも、
顔が無垢であどけない表情に仕上がっているので、
端から、
勇ましいファイティングポーズなど無理な人形なのです(笑)。




これは、
先述のブルマァク製スタンダードサイズの復刻版。

ブルマァク倒産後、
円谷エンタープライズから、昭和55~57年の間に発売されています。

ただ、
倒産前から既にこのカラーリングで売られていた、という説もあり、
もしかしたら、復刻版ではなくて、
“後期”・“成型色違い”という、れっきとしたブルマァクソフビかもしれません。
 
   「君は、いつ、どこで生まれたの?」

って問いかけると、
いつも、こんなおどけたポーズで、

 「さぁ?ね」

と煙に巻く、ミステリアスなヤツです(笑)。 



これは、
バンダイ製 ウルトラ怪獣シリーズで、
平成元年にオリジナルビデオとセット売りされたものです。全長約15センチ。

2年後、単品売りもされました。



 
平成ソフビですから、
造形もカラーリングも、
ほぼ実物どおりです。 渋い。 
 
   

ダンガー

ブルマァク製 スタンダードサイズ、全長約19センチ。

子供の頃は、
ソーセージが何本もぶらさがっているみたいだと思った頭部の形状ですが、
当時売られていたこのブルマァクの人形を、今、改めて見ると、
なんだか、“レゲエの人” って感じですね。
それも、レベルミュージックの歴史を背負ったジャマイカのミュージシャンではなく、
ただレゲエが好きでドレッドヘアーにしているだけの、呑気な日本人、って感じ(笑)。 
ビール片手に
レイド・バックの『サンシャイン・レゲエ』なんかを聴きながら手にすると、
イメージがピッタリでサイコーかも・・・。
もしかしたら、
塗装の担当者が
本当に “髪の毛” だと思い込んで、
こんなカラーリングに
してしまったのかもしれませんね。 


こちらは、同じくブルマァク製でミニサイズ。 全長約9センチで、3種の彩色違いを確認済み。 可愛いです。

この赤い成型色のものは、
第46回「いかにも名古屋」の中でも紹介した、海賊版。


赤と黄色があって、
シュガロンとダンガーは、
ソフビ人形においても、僕の中でイメージが重なってしまいます。
   


    シュガロンとダンガー・・・。

今、この2体のソフビを見つめながら、

 あの番組に出てきたの、どっちだったっけなぁ・・・?

と、改めて半世紀近く昔の記憶を思い起こしています。
答えは出ませんけど(苦笑)。 

まぁ、でも、
そんなふうに、
鮮明なのに曖昧だからこそ、
余計に美しく思えて愛しいのかもしれませんね、子供の頃の記憶や思い出は・・・。



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