真水稔生の『ソフビ大好き!』


第156回 「ウルトラ5つの誓い」  2017.1

“ウルトラ5つの誓い”、というものがあります。
特撮ファンの方には、
今更説明する必要は無いと思いますが、
『帰ってきたウルトラマン』第51話(最終回)のラストシーン、
地球を飛び去る帰りマン(郷秀樹)を追い、
砂浜を駆け出した次郎君が、涙ながらに叫ぶ言葉です。

 一つ、腹ペコのまま学校へ行かぬ事。
 一つ、天気のいい日にふとんを干す事。
 一つ、道を歩く時には車に気をつける事。
 一つ、他人の力を頼りにしない事。
 一つ、土の上を裸足で走りまわって遊ぶ事。

これ、ですね。

放映時、
僕は7歳で、

 “ウルトラ5つの誓い”

と聞いて、
何か、
広大な宇宙やウルトラの星にまつわるような、
夢の世界の神秘的なものをイメージし、

 どんなカッコいい誓いなのだろう・・・?

と期待していたら、
こんな、
自分の親や学校の先生でも言いそうな、極めて日常的な内容だったので、

「なんじゃ、そりゃ」

って拍子抜けしてしまった記憶があります(笑)。

でも、これ、

 朝御飯をしっかり食べる、
 身の周りを清潔にする、
 事故に遭って怪我しないよう注意する、
 自分の事は自分で責任をもってする、
 元気に運動する、

という、
人間が健全に生きていく上でとても大切な事だし、
また、
極めて日常的ゆえ、
ともすれば日々に流され、ついついおざなりにしてしまう事でもあるンですよね。

郷秀樹が普段から次郎君に言って聞かせていたであろうこの訓示を、

 常に胸の中で唱えながら生きよ、

と視聴者の子供たちに伝えたかった、
橋本プロデューサーや脚本を担当した上原正三さんの思い、
今は、すごく理解出来ます。

放映時は拍子抜けしてしまったものの、
幸い、
僕は “ウルトラマン” が大好きでしたので、
人生において
『帰ってきたウルトラマン』を再放送やビデオ等で何度も視聴するうち、
自分でも気づかないうちに
この5つの誓いを意識しながら日々の生活を送るようになり、
結果、その大切さを身をもって知る大人になった、というわけです。

“ウルトラマン” が大好きで、良かったぁ~。

だから、5つとも、
今でもちゃんと守ってますよ。

ひとつひとつ順番に述べますと・・・。

まず、
朝御飯に関してですが、
以前、第79回「健康でいるために」の中でも述べたとおり、
僕は、
どんなに忙しくても、どんなに食欲が無くても、朝御飯だけは必ず食べます。
起床した後、しっかりと御飯を食べて胃袋を動かす事によって、
脳も体も活動しだすので、
顔を洗ったり歯を磨いたりするよりも先に、まず御飯を食べるンです。
朝御飯を食べない限り、僕の1日は始まりません。

それも、
コーヒーだけ、とか
スムージーだけ、とか、
ヨーグルトだけ、とか、
そんなのは朝御飯ではありません。
御飯、つまりお米。
お米を食べなきゃダメです、しっかりと。
あと、味噌汁とね。

 食べる事 = 生きる事

ですので、

 ちゃんと食べない人は、ちゃんと生きる気がない人、

だと思っています。
僕はちゃんと生きたいので、ちゃんと食べます。

栄養のバランスを考えたり、
出来るだけ規則正しい時間に摂れるよう調整したり、
普段から “食事” というものにはとても気を遣っていますし、
その中でも、
特に “朝御飯”は、
1日の始まりとして重要視し、
絶対食べる事としっかり食べる事に、こだわっているのです。

続いて、
清潔・衛生面に関してですが、
元来、
“面倒くさがり” で、
部屋が散らかっていても結構平気だったりするにもかかわらず、
掃除はマメにしています。
なぜなら、
それがソフビコレクションの管理の延長上にあるから。

暇さえあれば、ショーケースからソフビを取り出し、
1体1体、鑑賞しながら磨いています。
そして、そのついでに、
ショーケースの中やガラス扉も磨いて、
コレクションルーム全体の掃除へと続いていきます。
これは楽しい作業なので、全然、苦になりません。

んでもって、
その流れ・・・、と言うか勢いで、
毎回、ほかの部屋の掃除・整理整頓へと移っていくので、
気づいた時には
苦手なはずの掃除が完了している、といった次第。

ソフビコレクターであり続ける限り、僕は “きれい好き” なのであります。

次に、
怪我に関してですが、
これは、もう、
人生を半世紀以上も生きてきて体力や反射神経が衰えた今、
以前にも増して、より深く、用心している事。
常に気をつけています。

あと、
自立に関してですが、
家族が一人もいない以上、
自分の事は自分でやるしかありません・・・、
なんて冗談は置いといて(笑)、
“自分の落とし前は自分でつける” のが人生。
都合が悪くなっても、
他者への責任転嫁は絶対にしません。
これも、
人生を半世紀以上も生きてきた人間なら、当然わきまえている事です。
特に、
サラリーマンを辞めて役者として生きていこう、と決めた日からは、
言ってみれば自営業みたいなものですから、余計に強く意識してますね。
誰かの助けを当てにした暮らしは、
していませんし、したいとも思いません。

ただ、
結果として誰かに助けてもらう事は、よくありますけど・・・(苦笑)。

そして最後に、
運動・スポーツに関して。
これも、
当たり前のように僕の日常の中にあります。
嗜好と言いますか、性分と言いますか、
TVゲームやPCゲームといった類のものを全くしないので、

 遊ぶ = 屋外で体を動かす

なのです。
我が草野球チーム・マミーズでも、
監督を務める傍ら、選手としてもプレイしています。
っていうか、
選手としてプレイしたいから、
自分を常にスタメンでフル出場させるために、監督をやっているようなものです(笑)。
試合の無い日だって、
ランニングしたり素振りしたり、何かしら体は動かしていますし、
とにかく、
運動をしないで1日を過ごす、なんて概念は、
僕の生活には無いのです。
食えない役者業を支える毎日のアルバイトも、肉体労働ですしね(苦笑)。

・・・と、
まぁ、こんな感じです、僕の暮らしは。

社会的地位や収入の、
あまりに年齢に見合っていない低さを考えると、
もっと荒んだ、だらしのない生活をしていてもおかしくない気がするのですが(笑)、
こんなふうに、
割とまともに心も体も健やかに暮らしていられるのは、
やはり、
『帰ってきたウルトラマン』の
度重なる視聴によってその大切さを刷り込まれた “ウルトラ5つの誓い” が、
心のどこかで、
自分自身を律する事に作用しているから、だと思うンですよね。

なので、
朝御飯を食べない人や偏食する人、
あるいは、
ろくに運動もせず毎日夜中までネットゲームをしてるような人なんかが、

 「風邪ひいた」

とか

 「体調を壊した」

とか言っていると、

 アホか、自分が悪いンだろ!

と思って
イラッとしますし、
それが同世代の人間だったりすると、

 親や先生の言う事は聞かなくても、
    ウルトラマンの言う事くらい聞けよ!

とも思って、
もっとイラッとしてしまいます(笑)。

せっかくこの国のこの時代に生まれてきたンだから、
“ウルトラ5つの誓い” を守る生活してなきゃ、もったいないですよ。
“ウルトラマン” 観て育った意味が無いじゃありませんか。
心も体も病むことなく生きていくためには、絶対に必要な事なンですから・・・。

       

昨年、

 「除夜の鐘がうるさい!」

というクレームを受けて、
お寺が大晦日の夜に除夜の鐘を打つのをやめたり、
マンションの住民が、

 子供が気安く声をかけられる事に慣れると、
        不審者に誘拐される可能性が高まる、

という理由で、“マンション住民同士の挨拶禁止” を会合で決めたり、
そんな、
信じ難いニュースを続けて耳にしました。

そりゃあ、
いろんな人が
いろんな生活の事情で
暮らしているンでしょうけど、

 病んでるなぁ・・・、

というのが、正直な気持ちでしたね。

だって、おかしいじゃん、

 除夜の鐘は騒音、挨拶をしてはいけない、

なんて・・・。

自分が子供だった頃を思い返してみると、
大晦日の夜に
鐘の音が聞こえてくる事に気づいて、
両親に

 「あれは何?」

と尋ねた際、
それが “除夜の鐘” というもので、
大晦日から元旦へ深夜0時をはさんでつかれる事や、
回数が人間の煩悩の数(百八つ)であり、
鐘の音を聞きながらその煩悩を消していき、
清らかな心で新年を迎えるんだという事を教えてもらい、
子供心に、

 日本っていい国だなぁ・・・、

なんて思ったし、
挨拶も、
子供なのに近所の人にしっかり出来たりすると、
褒められたり、なんとなく大人に近づけた気がしたりして、
嬉しかったりしたものです。

そういう気持ちを、
今の子供たちにはさせてあげられなくなるのかと思うと、
なんだか、居た堪れなくなります。

僕は、大人として、
子供たちには、
除夜の鐘が聞こえてきたら、
「うるさい!」なんて言わないで、
「あれはね・・・」って
教えてあげたいし、
挨拶も、
「知らない人に挨拶するな」ではなく、
「知らない人に挨拶するのはいいけど、ついていっては絶対いけないよ」って
教えたいです。
両親が僕にそうしてくれたようにね。
それじゃあ駄目なンでしょうか?

 除夜の鐘はうるさいから鳴らすな、
 誘拐されるといけないから誰にも挨拶するな、

そんな事、
子供に伝えっていっていいンですかねぇ・・・? 本当に。
疑問というより、心配です。

まぁ、

 除夜の鐘が聞こえて、
 近所の人が笑顔で挨拶を交わす町で育ったお前が、
 どんだけ立派な大人になったンじゃい!?

という指摘は甘んじて受けますが(苦笑)、
けど、本当に思います。
時代の移り変わりによって生活様式も変わっていくンでしょうけど、
変わらないもの、変えてはいけないもの、ってのが、
あるンじゃないンですかねぇ・・・。

 すべての日本人が
 『帰ってきたウルトラマン』を
 子供から大人になる過程で何度も視聴して
 “ウルトラ5つの誓い” を胸に生きていたら、
 こんな病んだ社会にはならないだろうになぁ・・・、
 
なんて冗談みたいな事、本気で思います。


ところで、
そんな僕の生活信条でもある “ウルトラ5つの誓い” ですが、
次郎君がそれを涙ながらに叫ぶあのラストシーン、
最高ですよね。
寂しさの中にも爽やかな感動があって、とても素敵です。

次郎君を演じていた川口英樹さんの演技が光ります、なんといっても。
泣きながら5つの誓いを叫んでから、
「聞こえるかい、郷さ~ん!」までの一連の芝居、 実に見事。

 小学生で
 あのシーンや台詞をどこまで理解・実感出来ていたか・・・、

って事を考えると、
もう、“天才” としか言いようがありません。
凄いなぁ・・・、って感服してしまいます。

川口英樹さんは、
この『帰ってきたウルトラマン』の最終回の翌年には、
『仮面ライダーⅤ3』のレギュラー出演者にもなった、
言うなれば、小林昭二さんの子役版。

 なんて羨ましい子なんだ、

と、
子供のくせに自由きままに科特隊本部に出入りしていたホシノ少年以上に
嫉妬の対象にしたものです(笑)が、
今観ると、
ウルトラシリーズとライダーシリーズの両方でレギュラーを張るに値する、
素晴らしい実力派俳優であった事が解ります。

日々の暮らしの中、“ウルトラ5つの誓い” を胸に生きている僕ですが、
仕事で芝居をする時も、“ウルトラ5つの誓い” が胸にあります。
あのシーンの川口英樹さんみたいな、
素直で、情感豊かで、
観た人の心にいつまでも残る、そんな芝居をしたい・・・、
そう思っているのです。


・・・え?
そんな事、どーでもいい?

ごもっともでございます。失礼しました(笑)。
では、
コレクションの紹介に移ります。

今回は、
その、
『帰ってきたウルトラマン』第51話(最終回)に登場した怪獣・ゼットン二代目を、ピックアップします。

 

ブルマァク製、全長約13センチ。


以前、
第38回 「Z-TON ~ウルトラマンが敗れた日~」の中でも
チラッと紹介しましたが、
なんとも不格好な怪獣人形です。
でも、
それは、人形の造形のせいではありません。
実物の着ぐるみが不出来だったから、なのです。

昭和40年代後半のブルマァクが、
ピークを迎えていたその優れた造形力で、着ぐるみに似せて作った結果、
こうなったのです。

カッコ悪いけど、リアルなカッコいいソフビ、というわけです(笑)。
 
  これまた特撮ファンには今更な話ですが、
ゼットン二代目の姿は、
『ウルトラマン』の最終回に登場したゼットンと比べると、
あまりにカッコ悪いものだったのです。

テレビ画面に現れた、
ずんぐりむっくりした体型と
大きく前に垂れ下がってプラプラ揺れてる角を見て、

 ウルトラマンを倒したあのゼットンだ!

と思った子供は、
当時、1人としていなかったでしょう。
“二代目” なんていちいち付けなくても、
初代のゼットンとは別怪獣である事が一目で解りましたから。 
 
なんで、
あんなだらしない姿になっちゃったンですかねぇ?
コストの問題なのか、
高山良策さんと開米プロの造形センスの違いなのか・・・、
何にせよ、残念な事です。

劣化した初代の着ぐるみを部分的に改修して、とか、
アトラクション用の着ぐるみを流用して、とかではなくて、
テレビ番組の最終回登場用として、
ウルトラマンを以前倒した、
強くてカッコいい怪獣・ゼットンの着ぐるみを新調しての、
あのクオリティですから、いまだに納得がいきません。

初代ウルトラマンが倒せなかった相手、という事で、
郷秀樹も
悪夢を見たり、帰りマンに勝機があるか悩んだりして、
物語上は、あくまで、

 ゼットン = ウルトラマンを倒した最強怪獣

として扱っているのですが、
見た目があまりに違ってるので、観ていて全然ドキドキしませんでした。

 こんな弱っちぃおデブちゃん怪獣、帰りマンなら楽に倒せるだろ?

そう思ってたので、
帰りマンが勝利しても、リベンジ感は皆無。 
  万能武器であるウルトラブレスットを使わず、
あえて、
初代ウルトラマンが跳ね返されたスペシウム光線でトドメを刺すところなんかも、
本来なら、
カタルシスを含んだドラマティックな感動があったはずなンですが、
何も感じませんでしたし・・・(哀)。  
 

それにしても、
あの拙い着ぐるみを、よくぞここまで見事に人形化したものです。
ただ、コピーしたのではなく、
なんでしょう、
着ぐるみが醸し出す哀愁、
着ぐるみから滲み出る残念で可哀想なオーラ(笑)、
そんな、目に見えない感覚的なものまで、表現して立体化してあるンですよね。
さすが、昭和のソフビです。
ただ、当時、
子供たちがこれを欲しがったかどうか・・・(笑)。
 


  こちらは、
バンダイ製 ウルトラ怪獣シリーズの試作品で、全長約16センチ。

『ウルトラ怪獣伝説』という新編集のビデオとセットで
平成元年に発売される予定でしたが、
実際に発売されたのは、
バルタン星人二代目とシュガロン、
そして翌年に、
以前、第148回「改名の是非」で取り上げた、キングザウルスⅢ世でした。

結局商品化には至っていない、幻のソフビです。
  ゼットン二代目だけ、
試作品止まりで未発売のまま終ってしまった理由について、

 バルタン星人二代目の人形を作るはずが、
 どこで何が行き違ったか、
 同じニ代目でも
 バルタン星人ではなくゼットンの方の二代目の人形を
 造形スタッフが作ってしまい、
 出来上がってきたこの試作品を見た上司に、

  「誰がこんなモン作れ言うたンじゃいっ!」

 って担当者が怒られた、

なんていう、
コントみたいな裏話(笑)を噂で聞きましたが、真偽は不明です。  
 
  僕は、入手の際、

 この試作品はこの世に数体しか存在せず、
 すべてカラーリングが異なる、

と聞いていたンですが、
平成22年に発売された『ウルトラソフビ超図鑑』(ワールドフォトプレス・刊)に
載ったものは、
パッと見、これと同じカラーリングでした。

くるみ塗装が施されていますので、
もしかしたら、成型色が違っているのかもしれません。


現存する数体のカラーリング、すべて知りたいなぁ・・・。

いつの日か、
所有者が全員それぞれ自分のものを持ち寄って会合でも開き、
互いにカラーリングの違いを確かめつつ、
お酒を飲みながらひとつひとつ鑑賞し合う・・・、
そんな日が来たら愉快だろうなぁ、って思います。
  でも、
除夜の鐘を味わう心のゆとりも無く、
挨拶も禁止しなくてはいけないような病んだ社会では、
そんな会合は、きっと開けませんね。 
無理矢理開いたとしても、ギスギスして、ちっとも楽しくないでしょう。
                     
                   
 
やっぱ、
“ウルトラ5つの誓い” を
しっかり意識して生きるべきなンです、人間は。
そうしないと、
いつか、
趣味すらも純粋に楽しめない、不健康でささくれだった世の中になっちゃう気がします。 










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