真水稔生の『ソフビ大好き!』


第79回 「健康でいるために」  2010.8

僕の健康法は、
よく寝て、よく食べて、よく笑う事。

特に、よく寝る事。
仕事の時間はまちまちで不規則な生活のリズムになりがちだし、
悲しいかな役者業だけでは食えないので、
番組の収録や芝居の稽古があったその日の深夜に
肉体労働のアルバイトに出かけたりする事も多いため、
昨日は何時間眠れたか、とか、
今日は何時間眠れるか、とか、
そんな事を常に気にしていて、
少しでも時間があれば、
家ではもちろんの事、車の中や電車の中でも睡眠を取るようにしています。
若い頃から、
睡眠不足だと、すぐ風邪をひいたり、肋間神経痛が出たりするので、
健康な体でいるためには、
僕にとっていちばん重要な事なのであります。

次に、よく食べる事。
僕が高校生だった頃、
巨人の原辰徳選手(現在は監督)が、
食卓に並んだものを
次から次へとバクバク食べるだけのテレビCM(確か、味の素のCM)がありました。
それを見て、

 男が何でも美味しそうにバクバク食べる姿は、気持ちよくてカッコいいなぁ、

って思った事が、
いまだに僕の中にありまして、
食事の時は、常にそのイメージで、何でもバクバク食べるようにしています。
暴飲暴食する、という事ではなくて、気持ちよく食べる、という事です。
幸い、
食べ物の好き嫌いが一切ありませんので、何でも美味しく、楽しく食べています。
また、
どんなに忙しくても、どんなに食欲が無くても、朝御飯だけは必ず食べます。
起床した後、しっかりと御飯を食べて胃袋を動かす事によって、
脳も体も活動しだすからです。
とにかく、
体が資本ですし、
食べる事=生きる事ですので、
偏った食生活にならないよう気をつけながら、
何でもバクバク、気持ちよく食べるようにしています。
ただ、
お菓子の類は、
糖分を摂り過ぎてしまうといけないので、なるべく食べないようにしています。

あ、でも、
“ガリガリ君” だけは別(笑)。
僕は “ガリガリ君” が大好きなのです。
特に今みたいな暑い季節には、たまりませんね。一度に6、7本食べてしまう事もあります。

あのアイスキャンディーはスグレモノです。
たった62円で、
あんなにも生きてる事の喜びを実感させてくれる食べ物はありません(笑)。
りんご味ならりんごの味が、梨味なら梨の味が、
ちゃんと本当にするから、食べていて感動してしまうし、
なんといっても当たりクジ付き。
運が良ければタダでもう1本食べられるのですから、ワクワクしてしまいます。
だいたい、
アイスキャンディーの中にかき氷を入れる、なんて、
いったい誰が考えたのでしょう。
あの爽快な食感だけで、暑さも吹っ飛んでしまいます。素晴らしい!


・・・ん?
何の話だったかな。
あぁ、そうそう、健康法、健康法。失礼しました(笑)。

え〜っと、
よく寝る事、よく食べる事、と来て、最後は・・・、
そうそう、よく笑う事。
『ガキの使いやあらへんで!!』とか『ロンドンハーツ』とか、
そんな大好きなテレビのお笑い番組などを観て、
腹を抱えて笑う。
友達と食事をしたりお酒を飲んだりした時に、
馬鹿話をして大笑いする。
健やかで明るい精神状態を保つには、欠かせない事であります。

この、
よく寝て、よく食べて、よく笑う、という事を
人生を健やかに過ごすため、
日頃から意識的に行うよう、僕は心がけています。

でも、
この程度の事は、
“健康法” などと大袈裟に発表する程のものではなく、
心も体も病む事なく健康でいたいと願う人なら、誰でも気をつけている当たり前の事。
特に、
僕のように40代も半ばを過ぎ、体力や気力が衰えていく年齢の人なら、尚更でしょう。

そこで、
誰もがしている当たり前の事をしてるだけでは満足出来ない性格の僕は、
これにもうひとつ、
“ソフビ怪獣人形を愛でる事” を付け加えているのであります。
ソフビを集め、
ソフビを眺め、
ソフビを愛していれば、毎日を楽しく過ごせます。



だから、正確には、
僕の健康法は、

“よく寝て、よく食べて、よく笑って、よくソフビを愛でる”

であります。

46歳にもなって貯金がまったく無く、
明日食う米の心配をいつもしているような生活状態なのに、
僕が明るく楽しく毎日を過ごせるのは、
たぶんこの健康法のおかげでしょう(決してバカだからじゃないよ(笑))。


僕の場合はそれがたまたま “ソフビ蒐集” になっているけれど、
別に何だっていいです。
何かを集める事ではなくても、
旅行をするとか、何かスポーツをするとか、音楽を聴くとか、映画を観るとか、
何もしないでボーッとしている、なんて事でもいいです。
自分の好きな事・好きな時間というものを持ち、
それを大切にすれば、心身の活性化に繋がります。

どんなに夢や希望があっても、
楽しい事が全く無い暮らしが続くと、心も折れるし体調も崩れてしまうでしょう。
好きな事に没頭する時間を少しでも持つように心がけ、
毎日を楽しくする努力をして、
自分という人間を好きでいる事が、人生を充実させるための最低条件だと僕は思います。
もちろん、
「仕事が趣味だ」とか
「仕事が忙しくて趣味なんか持つ時間が無い」とか
そんな事を言う人たちを否定するつもりはありません。
好きな事がたまたま仕事になって、それで富と名声を得ている人もいるでしょうし、
仕事だけが生きがいで、それによって毎日が充実した楽しいものになっている人もいるでしょうから、
そんな人たちに無理に趣味や道楽を勧める気はありません。

要は、
自分の好きなように生きる、という事が大切なのであります。
我が道を行く、ってヤツですね。
人間というのは本来、
自分の好きじゃない事や苦手な事は出来ないものです。
無理してやっている事は必ず破綻します。
そういうふうに出来ているのです。

毎日を健康で楽しく生きるには、
よく寝て、よく食べて、よく笑って、自分の好きな事をする。これに尽きます。


ただ、
その “自分の好きな事” をしようとする男たちの前に、
行く手を遮るように立ちはだかる存在がいます。

女性であります。

“自分の好きな事” が、
先に述べた、旅行やスポーツといった一般的なものであれば、それほど問題ではありませんが、
それが特殊な趣味だったりすると、
この、行く手に立ちはだかる存在は、かなりの強敵となります。
僕の場合、
それが、ソフビ怪獣人形を蒐集し愛でる事なので、決して例外ではないでしょう。
いくら “マニア” や “コレクター” と言われる人種の存在が認知されているとは言え、
多くの人に、
それが正しく理解されているとは、到底言い難いものがあります。
特に女性には、
理解されていないどころか、気味悪がられたり、馬鹿にされたりしているのが、通例であります。
女性は、
その現実的な思考・資質から、
何かにこだわり蒐集する、という男のロマンを、
理解出来ないまま軽視・侮蔑するよう、脳が出来ているからであります。

以前、或るテレビ番組で、杉本彩さんが、

「オモチャとかフィギュアとか集めている男の神経が理解出来ない」

と、結構腹立たしげにコメントされていました。  

 生活していく上で何の役にも立たないもの(=ゴミ)を、
 捨てないで大切に保管したり飾ったりして、何がおもしろいのか?
 馬っ鹿じゃないの!?

という意見ですね。
強弱の個人差こそあれ、世のほとんどの女性が共鳴する意見でしょう。

でも、これは、
僕にとって、命に関わる重大な問題であります。
以前にも述べた事がありますが、
僕は(と言うか男は)、女性がいなければ生きていけません。
なのに、その女性という生き物が、
男が健康を維持するために必要なものを
捨てるべきもの、つまりゴミとして認識している以上、八方塞です。

すべての男がコレクターというわけではありませんが、
別に何かを蒐集していなくても、
生活とは関係ないところでロマンを求めて生きていくのが男。
そこのところを女性が理解してくれないと、
いつか男は健康を害してしまいます。

ところが、
多くの男は、健康を害するとわかっていても、そこでロマンを捨てて女性を選びます。
女性がいなければ生きていけないからです。
つまり、
生きていくために男は無理をするわけです。
先ほど述べましたが、
無理してやっている事は必ず破綻します。
男の平均寿命が女性の平均寿命よりも圧倒的に短いのはそのせいだ、と
僕は思っています(笑)。

ここで、ひとつ、コラムを紹介します。
昭和63年7月に発行された、
ジャパン・トーイズ・クラブ発行の機関誌・アンティークトイズ第37号に載った、
塩々野パー夫さんなる方による、
『おもちゃマニア vs 愛しき女性達』というタイトルの投稿文です。
以下に、転載します。



    私があるデパートで駄玩具の販売をしていた時の話である。
    50代位のチョットお疲れぎみのおじさんが、
    私のいるレジにかなりサビのまわったブリキの百連発銃を持ってきて、

      「これ500円ですか?」

      「はい、そうですけど・・・」

      「いやぁ、良いものを見つけた! 帰ったら家族に自慢してやろう!」

    などと、
    おじさんはさも宝物でも見つけたかのように舞い上がって帰っていかれた。

    私は、そのおじさんがとった行動の一部始終をとてもうれしく思え、
    男のロマン(?)さえ感じる事ができた。
    ただ、ちょっと心配になったのは、
    家に帰って奥さんに見せた時のリアクションだ。

      「いやぁ、あなた本当に良かったですね!」

    などという言葉は、まず返ってこないであろう。
    無関心、あるいは、

      「なんでこんなモン買うてきたん!?」

    と怒りだすのがおちである。
    こうしておじさんの夢は無惨にも砕け散ってしまうのである。
    とにかく女性は現実的なのである。

    私はある日彼女に

      「私とブースカとどっちが大事やの!?」

    などと聞かれた事がある。
    本当に困った質問である。

      「それはもちろんお前に決まってるやろ!」

    と答えたが最後、

      「じゃあ、おもちゃ全部処分して!」

    などという恐ろしい事を、いとも簡単に言ってのけられてしまうのである。
    だからといって彼女には、

      「このロボットの相場はこれくらいね」

    とか、

      「このバス、プリントがいいね」

    とか、
    そんな事までは理解してほしくありません。
    おもちゃを好きな私を理解してもらいたいのである。

      「この熊さんのおもちゃ、かわいいね!」

    ってな程度のセリフを
    いつまでも言っていてもらいたいのは、私のわがままなんでしょうか?



僕は、ソフビ怪獣人形のコレクションを始めたばかりの頃にこれを読んだのですが、
コレクターとしての生活を重ねれば重ねるほど、
年々、この投稿文の、
可笑しさ・哀しさといった味わいが身に沁みるようになりました。
帰宅して、
錆びたブリキのオモチャを家族(奥さんと娘さん、に勝手に想定)に自慢したそのおじさんが、
どんな悲しく淋しい思いを味わったかを想像すると、
胸が締めつけられるほど切なくなります(笑)。


そういえば僕の父親は、
コレクターと呼べるほどの事はなかったと思いますが、
洋画のポスターやスチール写真を集めていました。
僕が生まれる前の話で、
或る時、父親がそう話してくれたのです。
でも、
父親が仕事に出かけている間に、
母親がそれらコレクションを古新聞と一緒にちり紙交換に出してしまった、との事。
父親が情熱を注ぎ、大切にしていたコレクションも、
母親にとっては、
ゴミでしかなかったわけです。

「心にポッカリと穴が開く、とはまさにあの事だった」

と父親は嘆いていました。
でも、それを台所で聞いていた母親は、

「そんな大昔の事を、いつまでグジグジ言っとるのぉ〜」

などと言って、
全く悪いとも思っていないようでしたし、
父親の悲しみを理解しようともしていませんでした。
また、

「あんなモン持っとったって、しょうがないでしょう〜」

とも言い放ち、

ゴミをちり紙交換に出して何が悪い?

といった感じで、とてもふてぶてしい態度をしていました。

僕は、結婚していた頃、この時の事を思い出し、

「怪獣のソフビを絶対に捨てるなよ」

と、妻に言い続けていました。
妻はよく出来た女で、
僕の母親のように夫のコレクションを捨てるなんて酷い事はしませんでしたが、
僕自身が捨てられました(笑)。

いやはや、
女性というのは、容赦の無い生き物であります。

ちなみに、
コレクションを無断で捨てるような女と
心にポッカリ穴が開いたまま無理して暮らした父親は、
母親よりも10年も早く他界してしまいました。・・・当然の結果でしょう(笑)。


なぜ今回こんな事を述べたのか、と言いますと、
実は、先日、こんな事があったのです。

外出先から帰宅すると、
今付き合っている彼女が部屋を掃除しておいてくれたのですが、
コレクションケースの中に、
ダイレクトメールと台本、そしてエアコンのリモコンと孫の手が入れられていたのです。
目を疑いました。
再現すると、こんな感じでした。

              通常時の棚                           その時の棚                

まぁ、彼女としては、
部屋をきれいにしようと、
僕がその辺に散らかしておいたものを整理してくれたわけで、
それはとても嬉しくありがたい事なのですが、
ガラス扉のショーケースを収納箪笥として利用するなんて、僕としては信じられない行為でした。
しかも、恐ろしいのは、
写真を見ていただいてもわかるとおり、彼女がソフビを移動させている事です。
そうです。
彼女は僕の留守中に、勝手にコレクションを触っているのです。

「お前、もし、落として傷つけたら、どーするつもりだ?」

と、思わず僕は声を荒らげました。
すると、

「何怒ってるの?
 隙間があったから、ちょっと間を詰めただけだよ。
 大丈夫、大丈夫」

と、平然な顔で言われました。
何のためのショーケースなのか、
コレクションというものがどういうものなのか、
僕がそれをどれだけ愛し大切にしているか、
今ひとつ、
いや、全く、理解していないようです。
また、
念のために確認しましたが、
ナメゴン人形は、やはり、目の部分を掴んで動かしたようです。

「なんで? 持つところじゃないの? 持ちやすいじゃん」

との事で、僕は悪寒が走りました(笑)。

いや、笑い事ではありません。
これは、
呑気に暮らしていたら、或る日、

「邪魔だから捨てといたよ」

と、当たり前のように言われかねません。
実に危険です。

結婚生活を含め、何人かの女性と付き合いましたが、
こんな彼女は初めてで、
ちょっと呆れてしまいました。
でも、
先述した、
杉本彩さんの発言や塩々野パー夫さんの投稿文、
あるいは、父親のコレクションを勝手に捨てた母親の事を思い出し、
これが一般的女性の感覚なのか、とも思いました。
なので、
過去に付き合った女性たちは、
コレクターである僕に理解があるよう、無理して振舞っていただけだった事に、
今更ながら気づいた次第です。
何度も言いますが、
人間、無理してやっている事は、必ずいつか破綻します。
無理をさせたから、関係が破綻したのでしょう。
まぁ、
恋愛関係が破綻した原因の全てが、僕がコレクターであった事ではありませんが(笑)。

女性は男みたいに馬鹿じゃないから、
自分の健康を害してまで相手の大切なものを尊重したりしません。
つまり、
男が健康でいるために我を通せば、
女性は、自分の健康を害してまでそんな面倒くさい男とは一緒にいてくれなくなるのです。
これは、
どうする事も出来ないない “力関係” なのであります。


う〜ん、困った。
彼女が男のロマンを理解出来ない以上、
僕が我慢しなければ二人の間に亀裂が入ってしまう。
でも、
今更女性に媚びて、男のロマンを捨ててまで生きようとは思わないし、
かといって、
僕が男のロマンを貫く事で彼女に無理をさせて、
また僕自身が捨てられたりでもしたら、目も当てられんしなぁ・・・。
どうしたものか。


・・・あ、そうだ!
彼女が隙間に物を入れられないように、
もっともっとソフビを買い集めて、ショーケースをコレクションでぎっしり埋め尽くせばいいンだ!
そうなのだ。
男が健康を害さず女性と暮らすには、独自の健康法を更に極めれば良いのだ。
よぉし、がんばるぞ〜。

・・・とりあえず、部屋の掃除は自分でやろう(笑)。



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