真水稔生の『ソフビ大好き!』


第153回 「蘇らずとも、甦る」  2016.10






これは、
風化して石状になった、サンゴの死骸の欠片。
いわゆる、
“死サンゴ” ってヤツです。

風呂場の窓辺に飾っていたのですが、
今朝、浴槽を洗っていた際に誤って落として、このように割ってしまいました。 
めちゃくちゃショック。
だってこれ、
離婚した翌々年(・・・なので今から15年前)、
当時小学校に上がったばかりだった次男から、もらったものなのです。

沖縄へ家族旅行に出かけたそうで
(離婚後ですから、当然僕はメンバーに入ってません)、

 「沖縄の海でサンゴの化石拾ったから、パパにお土産!」

と言われ、手渡されました。

 おいおい、サンゴの化石なんて持ってきちゃあダメだろ!

と一瞬焦ったものの、見たらこれだったので、
ホッと胸を撫で下ろし、なんとも微笑ましく思ったのを憶えています。

と同時に、
家族旅行にパパがいない事を気にして僕にお土産をくれた次男の思いが
いじらしくて可愛くて、
そして嬉しくて、
とても幸せな気持ちになりました。

離婚するかどうかでモメていた頃、
次男はまだ保育園児で、
パパとママの間に起きてる悲しい事態をなんとなく理解していた小学生の長男と違い、
何も解らない状態のまま、
ずっと屈託の無い笑顔で日々を過ごしていたので、

 あぁ、こいつも小学校に上がって、
 自分の両親が離婚した事を認識する年齢になったンだなぁ・・・、

と、
その成長を実感したのです。

加えて、
家族旅行に父親がいない状況を作ってしまった事への申し訳なさも
切なくこみ上げてきて、
なんだか胸がいっぱいで、泣きそうになりました(苦笑)。


なので、
この死サンゴ・・・、
いや “サンゴの化石” は、僕にとって大切な大切な宝物なのです。

それを不注意で割ってしまったのですから、
心が激しく落ち込み、お風呂掃除も途中で止めてしまいました。


ただ、
とりあえず謝ろうと、さっき次男に電話したのですが、
僕にお土産をくれた事は、
あまりよく憶えていないようでした(ガクッ)。

まぁ、
今では大学4年生ですからね。
小学1年生の時の事なんて憶えていなくても、仕方ないかもしれません。

でも、
記憶が忘却の彼方へ行ってしまうほど幼かった頃の脳(心)が
“パパにお土産” と思ってくれたわけですから、
やっぱり、これは、
泣けるほど嬉しい思い出の、僕の大切な大切な宝物。

ならば尚更、
割ってしまった事が悔やまれるわけで、

 魔法でも最先端のテクノロジーでも
 なんでもいいから、元の状態に戻せないかなぁ・・・

などと、
ぼんやり空想している次第です(“現実逃避” とも言う(苦笑))。


そういえば、
“小学1年” は、
僕で言えば、前回述べたように『仮面ライダー』の放送が始まった年ですが、
思えば、
ショッカーは、
その優れた科学力で、
よく、化石から元の生き物を蘇らせて怪人を作っていました。

お願いしたら、この化石も引き受けてくれるかな?(笑)
べつに、
元の生き物にまで戻さなくていいから、
割れる前の状態に戻してもらうだけでいいので・・・。


というわけで今回は、
化石に因んだショッカー怪人の、ソフビ人形を紹介します。

どれも『仮面ライダー』放映時の商品ですので、
その味わい深い造形と彩色から、
あの時代独特の “空気感” が伝わってきます。
まさに、
その生き物が生きた時代の環境が判る “化石” の如く・・・。 
 

 まずは、
 数万年前の大ヒトデの化石から作り出された怪人、ヒトデンジャー。  
 
 決して
 カッコよくはないですが、
 好きなンです、
 あのバトルと死に様。 

第18話「化石男ヒトデンジャー」に登場。

体が鋼鉄よりも硬く、ライダーキックも跳ね返す強敵でした。
ただ、
水を浴びるとその強靭な皮膚が柔らかくなってしまう、という弱点があり、
それを知ったライダーに谷川へ放り込まれ、
水に濡れて威力を失った結果、
誤って滝上から足を滑らせ転落死、という最期を遂げました。

   実際、
 放映時、手に汗握り、夢中で観てましたからね。
 子供には、解りやすくてスリリングで、実に面白い展開だったのです。

 谷川の水を全身で吸収してしまったため、
 尖っていた頭部がヘナヘナと前に垂れた状態になり、
 皮膚が軟化して体が衰弱しているのが一目瞭然でしたし、
 そのせいで足腰に力が入らず転落死、
 となったわけですから、
 テレビの前で大いに納得したのを憶えています。     
 
   
 

 このような、
 ライダーに必殺技を浴びて華々しく散るのではない、イレギュラーな形で没した怪人は、
 ヒトデンジャーのほかにも、
 セメントタンクに落されて絶命したモグラングや
 火中に叩き込まれて焼死したドクダリアンなど何人かいますが、
 僕は、
 『仮面ライダー』のそういうところに惹かれました。

 子供心に、“リアリティ” を感じたンですよね。

 同じ人気ヒーロー番組でも、
 全長50メートル近くある宇宙人と怪獣が
 街を破壊しながら格闘し、
 最後は超能力で決着がつく、
 派手なエンターテイメント性が魅力だった『ウルトラマン』とは異なり、
 人間大のサイボーグ同士が
 空き地や神社などの人家付近で格闘し、
 最後は肉体的能力で決着がつく、
 “現実性のある迫力” が魅力の『仮面ライダー』でしたから、
 時々、
 こうやって地味なやられ方をする怪人がいると、
 その “現実性のある迫力” が更に強いインパクトで感じられ、

  ライダーと怪人の闘いは、決して “ショー” ではないンだ、

 って事が再確認出来て、良かったのです。 
     
 








バンダイ製 スタンダードサイズ、全長約28センチ。

第35回「ショッカー怪人に魅せられて」の中でも述べましたが、
デフォルメ具合が
なんとも異様で滑稽で、奇妙な味わいを感じる人形です。

実物の、
細長い頭部が胴体と繋がっている形状が、
まさに “ヒトデ人間” って感じで怖くてカッコいいのに、
商品化・人形化の都合上、
頭部が、短くなった上、胴体と別パーツになってしまっているのです。
                   





しかも、
極めつけは、この下膨れな顔の輪郭。

 赤ちゃんか!?

って思います(笑)。
  
 
 ・・・とは言いながら、
 実は、
 気に入ってるンですけどね、この下膨れ。
 だって、
 “昭和のソフビならでは” の味わいだし、
 見たり触ったりしてると気持ちが安らぎますから。
   もう四半世紀以上昔の話ですが、
 新婚旅行の帰りに、
 成田からついでに立ち寄った都内のアンティークTOYショップで
 この人形を購入し、
 新幹線の中で、
 無意識にずっと、こうやって下膨れの頬の丸みを撫でていたら、
 隣の座席の妻に、

  「そんなに可愛いの?」

 と呆れ気味に茶化された事を憶えています。 
 
 離婚して、
 子供も大きくなってしまった今でも、
 僕は別れた妻に心の中で答え続けています。

  「そんなに可愛いンです」

 と(笑)。

 
 


   こちらの3体は、ミニサイズ。
 向かって左端の黄緑色の人形のみポピー製で、残りの赤い2体はバンダイ製。全長約12センチ。 
 
   黄緑のタイプは、
 彩色こそ実物と異なりますが、
 下半身の造形(モールド)が実物に似せてあり、
 赤い2体よりもカッコよく見えます。

 ・・・っていうか、
 赤い2体の下半身は、ヒトデンジャーのものではありません。
 いろんなミニ怪人の下半身に流用された、
 バンダイ製のものが用いられています(ゆえにバンダイ製商品、と判断)。

 ショッカー怪人のミニソフビは、
 駄菓子屋でも売られていたチープトイですし、
 作ったそばから売れていく大ヒット商品であった事もあり、
 きちんと管理しきれなかったンでしょうね。

  とにかく、
  なんでもいいから上半身と下半身くっつけて納品!

 って感じで生産されていった結果、こうなったンだと思います。


 それよりも気になるのは、造形です。
 上半身と下半身の2パーツからなるミニソフビなのだから、
 それを活かして
 頭部と胴体が繋がった実物どおりの形状にすればいいのに、
 なぜかそれをしていません。 
   しかも、
 スタンダードサイズの人形に倣って、
 わざわざ下膨れの顔にまでしてあります。
 
 原型師の方に、
 下膨れの顔に執着する、
 何か特別な思いでもあったのでしょうか?(笑)
 

   続きましては、
 “吸血三葉虫” こと、ザンブロンゾ。 
  第30話「よみがえる化石 吸血三葉虫」に登場。

太古の生物を化石から蘇らせる研究をしている志村博士が
三葉虫の蘇生に成功するのですが、
ショッカーがその三葉虫を盗み出し、吸血怪人に仕立て上げました。
それがザンブロンゾ。

特筆すべきは、
この怪人、普段は全長5センチ程度の三葉虫の状態でいる事。
そんな小さな生き物が、
人間の生き血を吸う事によって人間大に巨大化し、怪人となるのです。
実にユニークでした。 
 
 ゾル大佐に、
 妻と子供を人質に取られ、
 第2、第3のザンブロンゾを生み出す事に力を貸すよう迫られた志村博士でしたが、
 その脅しに屈して悪事に協力する振りをしながら、
 機転を利かせて、
 ザンブロンゾが次に人間大になった際には生命力が弱まるよう細工。
 そのおかげで、
 最終バトルにおいては、
 本来の力を発揮出来ないザンブロンゾ相手に
 ライダーは常に優位に立ち、見事ライダーキックで勝利する事が出来ました。
         
 
 ヒトデンジャーと異なり、
 ライダーキックを喰らって果てる通常のケースだったわけですが、

  志村博士の細工により衰弱状態だった、

 という、
 ザンブロンゾがバトルに敗れる理由がありましたので、
 やはり、子供心にリアリティを感じましたね。
     
 










バンダイ製 スタンダードサイズ、全長約26センチ。

おにぎりみたいな形の顔につぶらな目、
先述のヒトデンジャー人形に匹敵する可愛らしさです。

実物のザンブロンゾの、
人間の生き血を吸う恐ろしさや、
自分の体の鱗を剥いで武器として投げつけてくる気色悪さは、
この人形からは、
全くと言っていいほどイメージ出来ません(笑)。

   
   最初の1号ライダー編に感じた、なんだか暗くて怖い雰囲気を、
 子供が観やすいように緩和したのが2号ライダー編。

 ヒトデンジャー人形やこのザンブロンゾ人形のデフォルメは、
 その幼い子供への気遣いを、まるで強調して表現しているかのように思えます。 


  この2体は、ミニサイズ。ポピー製で、全長約12センチ。 
   
   2体とも成型色は同じですが、
 塗装色のグリーンに、メタリックとマットの違いがあります。
 顔の造形は、スタンダードサイズの人形よりは実物に近い感じですね。
 また、
 足の裏には、
 “ザンブロンゾ” ではなく、“サンヨウチュウ” と彫られています。 

 


   最後にもう1人、ユニコルノス。 
  第51話「石怪人ユニコルノス対ダブルライダーキック」に登場。

古代生物ユニコルンの化石から抽出した粉末血液を
溶かして液体化し、
それを人間の血液と総入れ替えする事により誕生した怪人で、
口から噴射する、相手を石にしてしまう白い霧が武器。

 
 
 ヨーロッパで発見されたユニコルンの化石を
 ショッカーが日本に運び込んだ事が、
 お話の冒頭、本郷猛から一文字隼人に届いた手紙の中で説明されますが、
 架空の生き物である一角獣ユニコルン(ユニコーン)を、
 実在した生き物にしちゃってるのがイイですよね。
 広大な夢とロマンを感じさせます。

 架空の生き物を
 実在の生き物として怪人のモチーフにしている例は、
 このユニコルノス以前にも、
 ヒマラヤの雪男を改造したスノーマンという怪人がいましたが、
 どちらも、
 改造手術による怪人創造のスペシャリスト・死神博士の手によるもの。
 さすが、です(笑)。 
     
  ポピー製、全長約12センチ。

ユニコルノスのソフビは、このミニサイズしか発売されませんでした。

下半身が突然赤い成型色になっていて
なんだか違和感を覚えますが、
緑色の胴体に赤いタイツを履いている実物のユニコルノスに合わせた、
正しい配色です。
ただ、
ベルトが着色されずに赤のままですので、
緑色の怪人の人形に
別の赤い怪人の下半身を付けたジャンク品・・・、
といった印象を受けるわけですね。
駄菓子屋でも売られていたチープトイならではの、味わいです。 
     
   2号ライダーと、
 ヨーロッパから駆けつけた1号ライダーの、
 ライダーダブルキックで倒される、
 という、
 怪人冥利に尽きる最期(笑)のユニコルノスでしたが、
 西洋の伝説では、

  ユニコーンは極めて獰猛な生き物でありながら、
  乙女(処女)の前では
  荒々しい気性を一切見せる事はなく、
  その乙女の膝の上に頭を置き眠り込んでしまう、

 とされていますので、
 そんな不思議な生態をユニコルノスの特徴にも取り入れて、
 それを倒されるシーンに活かしてみたら、
 もっと面白くなったンじゃないか・・・、って思います。 
   ・・・あ、
 そういえば、ユニコルノスの鳴き声、って、

  ガール、ガール、

 でしたけど、
 乙女を求めて「GIRL、GIRL」って鳴いていたのでしょうか。

 ・・・深読みですかね(笑)。 

     
   
  余談ですが、
カルビーの仮面ライダースナックのおまけカードが、
このユニコルノスのカード(106番)から、
新カードになった事を憶えています。

新カードとは、
追加発行したカードの意だったと思います。
最初は105番までしか作ってなかったけど、
番組も続くし、商品もバカ売れの大人気でしたので、
106番以降のカードが追加で作られたがゆえの名称だったのではないでしょうか。

裏面の番号の横に “(新カード)” と記されているだけのものでしたが、
それを引き当てた際には、
なんだか時代の先端を行っているような気がして、優越感を覚えたものです(笑)。

あぁ、懐かしいなぁ。
 


・・・と、
ここまで原稿を書いて、
ふと、思いました。

 小学1年の頃の事を、
 父親の僕はこんなにも憶えている(笑)のだから、
 そのDNAを受け継ぐ次男が、
 同じ小学1年の頃の事を、何も憶えていない、なんて事はないはず。
 そうだ!
 写真を見せれば、思い出してくれるかも・・・、

と。

そこで、
冒頭の、割れた死サンゴの写真をメールに添付して、次男に送ってみたところ、
なんと、

  なんか、思い出した。
  お兄ちゃんと海岸で何個か拾って、
  いちばん大きいやつをパパにあげる事にしたんだ。

と、
返信が来ました。

化石は蘇らずとも、見事、記憶は甦ったわけです。してやったり(嬉)。


・・・けど、いかん、
また泣きそうになってきた(苦笑)。




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