第109回 「ゴリの嘲笑」 2013.2
報道によると、
地球の周りには、
故障や寿命などで不用になった人工衛星の残骸や破片が
ゴミとしていっぱい漂っていて、
それがISS(国際宇宙ステーション)に衝突した場合、
滞在クルーの生命にも危険が及ぶ可能性があるため、
現在、深刻な国際問題になっているらしい。
どうやら人類は、
地球だけでなく、宇宙までをも汚す生き物のようなのですが、
こんな話を聞くと、
僕はどうしてもこの人を思い出してしまいます。
『スペクトルマン』の敵役、宇宙猿人ゴリです。
以前、
第4回「身震いするほど夢を見る 〜増田屋スペクトルマンの魅力〜」の中でも述べましたが、
『スペクトルマン』は、
少年時代の僕に、強烈な印象を残したテレビ番組。
簡単に物語を紹介すると、
クーデターに失敗して惑星Eを追われた天才科学者ゴリは、
腹心ラーとともに円盤に乗り込み宇宙を放浪。
或る時、
地球を発見してその美しさに魅せられるも、
そこには人間という生き物が棲んでいて、
公害で自然を汚染している事を知り、慷慨。
自分が支配者になり、この美しい星を守ろうと考える。
そして、
こんな美しい星に暮らしながらそれを汚す愚かな生き物に
目に物を見せてやる、とばかりに、
その公害による産物を培養して生み出した合成怪獣を人間社会に送り込み、
地球侵略を開始する。
だが、
未開発遊星の保護と警備を行なう宇宙連合の人工衛星ネヴィラ71が、
その情報をキャッチ。
宇宙の秩序を守るため、地球にサイボーグ・スペクトルマンを派遣する。
スペクトルマンは、
地球人・蒲生譲二という仮の姿で、
公害調査局第八分室(通称:公害Gメン)に席を置き、
全国の公害問題を調査・分析しながら、ゴリの攻撃に備える事となる。
以降、
宇宙猿人ゴリが送り込んでくる怪獣たちと
それを迎え撃つスペクトルマンの、
地球をめぐる壮絶な闘いが繰り広げられていく・・・、
というもの。
番組を知らない方も、これでもうお解かりかと思いますが、
ゴリは、悪者宇宙人ながら、
人類が自然環境を破壊しながら暮らしている事を憂い、怒り、
この美しい星・地球を守ろうとした人物なのであります。
番組の放送が開始された昭和46年は、
企業の大気汚染や海洋汚染などの公害に対処するため、環境庁が設置された年で、
『スペクトルマン』は、
そんな時代背景の中作られた、文明批判を込めた作品であり、
ゴリは、
そのシンボルとも言うべき存在でした。
子供番組に皮肉られた現実社会の人類ですが、
恥じる事無くその後も地球を汚し続け、
ついには地球の外にもゴミを撒き散らし、今や宇宙をも汚す存在となった始末。
「そらみろ、私の言わんこっちゃない!」
という、
ゴリの嘲笑の声が聴こえてきそうな、冒頭のニュースなのです。
・・・『スペクトルマン』、
この番組を文明批判としてはっきり認識したのは、高校生の頃でしたが、
少年時代の僕に強烈な印象を残した、と
先ほど述べたとおり、
番組全体の重い空気やただならぬ雰囲気は、
6〜7歳の頃の僕にも、
メッセージ性の強い作品である事を理解させてくれていたし、刺激的でした。
残虐なシーンもあって震えるほど怖いンだけど、
どうにも吸い寄せられる、独特の “ときめき” が感じられたのです。
それには、
やはり、ゴリというキャラクターの魅力が、大きく貢献していました。
なんたって、
放送開始当初は番組のタイトルが
『スペクトルマン』ではなく『宇宙猿人ゴリ』だったのですから、
番組スタッフも
かなりの思い入れで放ったキャラクターだったンだと思います。
番組名になっていれば、
見る側としては、
必然的に、ゴリの存在に注目します。
僕は、
“ゴリ” という名の正義のヒーローが活躍する物語だと思いチャンネルを合わせたので、
オープニング主題歌として『スペクトルマン・ゴーゴー』が流れてきた時は、
いきなり戸惑いました。
あれ? 番組、間違えたのかな?
だけどチャンネルも時間も合っている。この番組は『宇宙猿人ゴリ』だ。
どうやら、主役のヒーローの名は “スペクトルマン” というようである。
では、“宇宙猿人ゴリ” とはいったい何だ?
なんと、それは、
スペクトルマンが闘う相手、敵でありました。
人類を抹殺して地球を侵略しようとする “悪者” が、番組名になっていたのです。
驚きでした。
敵役・悪者がタイトルになった子供向けヒーロー番組など、
後にも先にも、この作品だけではないでしょうか。
幼い胸に感じた、
あの不可思議で奇妙な衝撃は、今でも忘れられません。
そして、
ゴリの個性は、
その、番組の奇抜なセンスに応えて余りある、実にユニークなものでした。
デザインがシャープなピンクのスーツに、純白の手袋、
高貴な金髪に、
(作り物のマスクゆえ)無表情の奥でギョロッと目だけが動く不気味な顔、
独特の身振り手振りで話す、自己陶酔型的な姿・・・、
アクが強いけど、スマートで、
怖いけど、どこか哀愁があって、
そんな、
なんだか珍奇なキャラクターでしたが、
自身の美学にこだわるその生き様は、幼心にカッコよくも思えました。
他の惑星から来たプライドの高いその独裁者は、
瞬く間に、
ブラウン管の前の僕を虜にしました。
強い力でグイッと心を惹きつけられた感覚が、実感として残っています。
気づけば、
僕はその番組の大ファン。
毎週、夢中になって見ていました。
この世の中に公害なるものが存在する事も、
“スモッグ” とか “ヘドロ” とかなんて言葉も、この番組で知り覚えました。
第1話か第2話だったか、
ヘドロから生み出された怪獣によって父親を殺された子供に、
「ヘドロなんてものを、どうして大人は作ったまま放っておくンだ!?」
と言われて苦悩の表情を浮かべる公害Gメン、
なんてシーンがあったのですが、
悪者はゴリだけど、人間だって悪いンじゃないのか・・・?、
と子供心に初めて思ったので、今でもよく憶えています。
人間が、必ずしも正しいわけじゃないンだ、
悪者が悪者になるには、理由や原因があるンだ、
そんな事を、
回を追う毎に、なんとなく認識していきました。
おかげで、
小学校へ上がり、
ゴジラシリーズきっての異色作『ゴジラ対ヘドラ』が公開される夏休みの頃には、
新怪獣ヘドラが何のせいで生まれたどんな怪獣か、
映画を観る前から理解出来、特別興味を抱くに至りました。
ゴリのおかげで、
僕は、
様々な怪獣映画やヒーロー番組の悪者・敵役に
哀しみを見出すようになったのです。
タイトルが悪者の名前であった事は、
番組の内容が文明批判・社会風刺である事を理解出来ない僕ら子供にも、
物語の鋭さや深さを強く感じ取る事が出来るよう、
巧く作用したと思います。
番組はその後、
『宇宙猿人ゴリ』から、
『宇宙猿人ゴリ 対 スペクトルマン』、更には『スペクトルマン』へと改題され、
単なるヒーローものへと内容が路線変更されていきましたが、
最初に与えられたダメージが大きく、
哀愁を帯びた生々しい恐さのある、異質な子供番組である印象は変わりませんでした。
ウルトラの世界には無い魅力を、
ゴリを通して、僕はずっと感じていたのです。
送り込む怪獣はことごとくスペクトルマンに倒され、
企てる作戦はどれも失敗、
ついには、惑星Eからずっと自分についてきた部下のラーも喪い、
ゴリは、最終回、
爆弾を抱えて投身自殺、という最期をとげますが、
そのインパクトは、
任務を終えてネヴィラ71に帰還するスペクトルマンの姿よりも
強く心に残っています。
スペクトルマンが地球から去る淋しさよりも、
宇宙猿人ゴリが死んだ哀愁によって、僕は番組の終わりを実感したのです。
番組タイトルが変わっても、
内容が路線変更されても、
番組は、やはり『宇宙猿人ゴリ』として、胸に刻まれていました。
番組が始まった頃は、
まだ『仮面ライダー』も『帰ってきたウルトラマン』も始まっていませんでしたが、
番組が終わる頃には、
世の中は怪獣ブームの真っ只中。
特撮ヒーローや怪獣に胸躍らす子供たちの心に火をつけた『宇宙猿人ゴリ』は、
第2次怪獣ブーム(変身ブーム)の起爆剤、と称されますが、
それは単に放送開始のタイミングの話ではなく、
作品の内容・質によるところが大きいと思います。
衝撃的な番組でした。
さて、ソフビですが、
ゴリをはじめとする『スペクトルマン』関連の人形は、
番組放映当時、マスダヤから発売されていました。
これまでにも何度か述べた事ですが、
マスダヤの造形センスは、
ブルマァクの洗練されたものに比べると、
なんとなく野暮ったくて、粗野。
だけど、そこが、
ウルトラ怪獣には無い “えげつなさ” を持つスペクトルマン怪獣と
運命的に一致して、
番組の世界観が、見事なまでに楽しく表現される結果となっています。
このゴリ人形(全長約23センチ)も、
“誇り高き天才科学者” というゴリのキャラクターを全く無視した、
下品で馬鹿丸出しな顔に作られているのですが、
その不粋な造形によって、
実物のゴリを見たら泣き出す子供からも好かれるゴリ人形、という “奇跡” を呼んでいます。
笑ってしまうくらいブサイクで、全然似てないンだけど、
テレビ画面のゴリが醸し出す恐怖とか哀愁とかはちゃんと伝わってきます。
大人になって初めてこの人形を見た人は、
なんて稚拙な造形か、と
一笑に付すかもしれませんが、
リアルタイムでこの人形で遊んだ僕には、
この人形によって、
より一層ゴリを愛する事が出来た記憶が、感覚として残っているので、
その妙趣が解るのです。
ラー人形(全長約25センチ)。 |
惑星Eの元軍人にして、ゴリの忠実な部下、ラー。
知能は低いが怪力の持ち主、というキャラクターは、
ゴリと対照的なので実にわかりやすく、感情移入しやすいものでした。
ゴリに叱られた際に見せる、
イジけた仕草や、反発心を隠し切れない様子も、
なんとも滑稽で可笑しかったし、
公害Gメンの紅一点・遠藤理恵(演ずるは、小西まち子さん(後の漫画家・谷岡ヤスジ夫人))に、
一方的に恋心を抱く一面もあり、
恐怖の悪役ながら、憎めない存在でした。
ただ、
主人であるゴリの野望のため、
スペクトルマンと刺し違える覚悟で猿人爆弾となった最期は、
子供心に「スゲェ奴だな」って思ったものです。
軍人の誇りやゴリとの絆が、そこにありました。
ゴリと同様、心に残る名キャラクターです。
人形の方は、
ラーの低能で野蛮なキャラクターと
マスダヤの無神経な造形センスが巧く噛み合い、
ゴリ人形と比べてかなり実物に近い印象を受ける顔をしていますが、
なぜか、
厚みの無い、五平餅みたいに平べったいボディで、
実物の重量感・怪力感が今ひとつ表現されておらず、残念。
けれど、
しつこいようですが、それがマスダヤであり、
悪者の “恐怖” を幼い子供が面白がって楽しめた、いちばんの要因なのであります。
余談ですが、
ラーが想いを寄せる遠藤理恵、
初めてラーを見た際、
悲鳴をあげる事も無く、息を呑んだまま気絶してしまうのですが、
それが、
子供心になんとも艶っぽい感じに思えて、
すごく印象的でした。
たぶん、
ショートカットゆえ男勝りなお姉さんだと勝手に思い込んでいて、
そのイメージとの大きなギャップが刺激的だったのでしょう。
元々ファッショナブルでカッコいい女の人だなぁ、と好感は持っていたのですが、
そのシーンを見て以来、もっと好きになった次第です。
ラーと一緒に、
6歳の僕も、理恵さんに恋をしました。
スペクトルマン人形。 後列の大きいサイズのものが、全長約40センチ、 前列の3体が、 いわゆるスタンダードサイズで全長約26センチ。 |
地球防衛のため、ネヴィラ71から派遣されたサイボーグ、スペクトルマン。
スペクトルフラッシュや
スペクトルバックル、ネヴィラスライスなど、
様々な技や武器を備えているのですが、
どれも必殺技としての派手な印象がありません。
1匹の怪獣に対し、
毎回、苦労しながらギリギリ勝利するし、
しかも、闘いが終わった途端、スペクトルマン自身も倒れこんでしまうケースが多いためです。
当時番組を観ていた人に、
「スペクトルマンの必殺技は?」
と質問しても、
答えられない人の方が多いでしょう。
スペクトルマンのヒーローとしての魅力は、
変身後のアクションや活躍よりも、
変身する前・変身する際の言動にあった、と言えます。
「変身、願います!」
「スペクトルマン ニ ツグ。タダチニ ヘンシン セヨ」
「了解!」
こんなやりとりで、
空の彼方に浮かぶネヴィラ71と交信し、
上司から許可をもらった上で、
照射される光線を浴びて、蒲生譲二はスペクトルマンに変身します。
なので、
諸事情で許可がもらえない場合は
怪獣と闘わなければならない状況でも変身出来ず、
そこが醍醐味でした。
天候が悪いと、
ネヴィラ71が見えず交信出来ない(=変身出来ない)し、
ネヴィラ71の命令に背いたために、解任されて変身出来なくなった事もあり、
見ていてハラハラしたものです。
また、
変身後も、声が同じという事もあって、スペクトルマン=蒲生譲二であり、
先述の通り、
派手でカッコいい闘い方はしないし、圧倒的強さを見せつけるわけでもないので、
やっぱりハラハラしたものです(笑)。
でも、だからこそスペクトルマン(蒲生譲二)に惹かれました。
成川哲夫さん演じる蒲生譲二は、
優しくて真面目で、ちょっぴり三枚目で、
番組の重いテーマや怖い雰囲気を緩和させて、
視聴者の子供たちを安心させてくれる、素敵なキャラクターでした。
命令に背いて解任された件も、
情に厚いがゆえ、
冷静沈着なネヴィラ71の非情さに反発・苦悩しての事であり、
蒲生譲二の気持ちは、
きちんと僕らには伝わっていました。
危なげながらも一生懸命に頑張るスペクトルマンの
地味な闘いの根底に、
そんな蒲生譲二の温かい心がある事を、常に感じていたのです。
カッコいいだけがヒーローじゃない。
力が強いだけがヒーローじゃない。
いついかなる場合でも、
肝心な事は、心の出来にある。
今思うと、そんな事を
僕はスペクトルマン(蒲生譲二)から教わった気がします。
そういえば、
蒲生譲二が着ていた茶色のジャケットが凄くカッコよく思えて、
大人になったらあの服を着たい、ってずっと思ってました。
憧れていたンだなぁ、やっぱ。
先に紹介した、前列の3体。 本来は、向かって左端の人形も、 ベルトのバックルにブルーの塗装があるのですが、 これで夢中になって子供が遊んだ証、ハゲてしまっています。 怪獣人形との激しいバトルの跡、細かいキズも無数にあります。 オモチャとしての使命を全うしたその満身創痍ぶりが、 任務を終えて 怪我を負った体のままネヴィラ71へ帰っていった最終回のスペクトルマンの姿と重なり、 なんだか味わい深く、 ちゃんと塗装が残ってる人形を見つけても、なかなか買い替える気がしません。 それに、 実物のスペクトルマンのベルトのバックルの色、ブルーなんかじゃないし(笑)。 |
これは後列の大きい人形。 やはり迫力があります。 若干、 頭と胴体の大きさのバランスが 合ってない気がしますが、 先述したスペクトルマン(蒲生譲二)の 愛すべき “ハラハラ感” に通じている気がして、 リアリティや生気を感じます(笑)。 |
下の3体は、海賊版のスペクトルマン人形です。
全長約32センチ。 プリンとかケーキのモンブランとかを思い起こさせる、 甘い味わいの成形色が気に入っています。 造形は、 一峰大二先生作画の、 漫画版スペクトルマンがモデルでしょうか? ぱちもん人形ならでは、って感じです。 |
全長約29センチ。 こちらは漫画版ではなく、 ちゃんとしっかり、テレビ版のスペクトルマンの造形です。 ってか、 頭は、先に紹介した、 マスダヤのスペクトルマン人形の違法コピーかも・・・。 ポリエチレン製で、 全身が半透明なので、光にかざすときれいです。 |
半透明ではありませんが、 これもポリエチレン製の人形です。 全長約12センチ。 何かとセットで売られていたものでしょうか? チープTOYながら、 造形に無責任なところがあまり見られませんので、 もしかしたら、 海賊版じゃなくて、 ちゃんとライセンスを取得した商品かもしれませんが、 よくわかりません。 骨董市でこれを売ってくれたオジサンは、 “ミラーマン” と言って売っていたので、話になりませんし(笑)。 詳細を御存知の方は、ぜひ御一報を・・・。 |
今回は、
宇宙ゴミのニュースから、
地球のみならず宇宙をも汚す人類、
という事で、
40年以上も前に “人類の環境破壊” に警告を発していた『宇宙猿人ゴリ』に思いを馳せ、
そのシンボル・ゴリとラー、そしてヒーロー・スペクトルマンの、
懐かしいソフビ人形を紹介しましたが、
次回は、
今回の続きで、
登場怪獣たちのソフビ人形を紹介しようと思います。
同じくマスダヤから
11種類、発売されていました。
これまでに紹介したものも何体かありますが、
何度味わっても飽きが来ないのが昭和ソフビの良さだし、
特に、
第4回「身震いするほど夢を見る 〜増田屋スペクトルマンの魅力〜」なんかだと、
当時のゲイトウエイさんのホームページの容量の都合で、
コレクションの写真が、
サイズは小さく、枚数は少なく、それぞれ抑えてあったので、
その不足を補う意味でも
改めて、取り上げたいと思うのです。
興味のある方は、また来月、読みに来てくださいね。
よろしくお願いします。
それにしても、宇宙ゴミ、
最初に人工衛星を打ち上げる際に、
専門家や関係者の人たちは、
こういった事態を予測出来なかったのでしょうか?
素人発言かもしれませんが、それが疑問です。
予測出来ていたのに
無視して人工衛星を打ち上げ続けていたのなら、
人類って、ラーより馬鹿なンじゃないか? って気がするのですが・・・。
「ふん、愚かな人間どもめが!」
やっぱ、ゴリの嘲笑が聞こえてきます。