真水稔生の『ソフビ大好き!』


第4回 「身震いするほど夢を見る 〜増田屋スペクトルマンの魅力〜」 1999.2

『スペクトルマン』というテレビ番組を御存知であろうか?
放送当時7歳だった僕と同世代の方には今更たずねる事ではないのだが、
御存知ない方のために一応説明しておこう。
『スペクトルマン』は、
昭和46年1月からフジテレビ系で放映が開始されたピープロダクション製作の特撮ヒーロー番組で、
第2次怪獣ブーム(変身ブーム)の起爆剤と言われている作品である。
裏番組だった人気アニメ『巨人の星』を視聴率で抜いてしまうほど話題になり、
一時下火になっていた怪獣やヒーローを子供たちの間に再び流行らせるきっかけをつくったからである。

そして、
この『スペクトルマン』に触発されたかのように
その数ヵ月後に放映が始まった『帰ってきたウルトラマン』と『仮面ライダー』で、
特撮ヒーロー番組の人気は一気に爆発。
ほかにも様々な特撮ヒーロー番組が続々と誕生し、
毎日どこかの局で必ず怪獣とヒーローが戦っている(しかもゴールデンタイムに)、という、
今では考えられない夢のような事態に発展していった。
僕ら少年の、怪獣やヒーローに夢見る心に火をつけた作品、それが『スペクトルマン』なのである。

特筆すべき点は、
やはり、放送開始当初は番組タイトルが『宇宙猿人ゴリ』だった事だろう。
宇宙猿人ゴリとは、スペクトルマンと戦う敵である。
つまり、悪役が主人公だったのである。
しかも、
公害による環境破壊問題を中心に置いたドラマづくりが子供心にとてもヘビーで、
30年近く経った今でも忘れられない番組なのだ。

その『スペクトルマン』のオモチャと言えば、
やはりソフビ怪獣人形で、ラジコンで有名な玩具メーカー・マスダヤから発売されていた。

マスダヤ(正式には、増田屋斎藤貿易、現在では増田屋コーポレーションという)は、
怪獣ブームが幕をおろしてもマルサンやブルマァクのように倒産したりしなかった手堅い社風の会社で、
なんと江戸時代からその商売は続いている。
野村トーイがアメリカはハスブロ社の傘下に入ってしまった後、
米澤玩具どころか、あのバンダイまでもがセガに吸収されてしまいそうになる今日、
純・日本の玩具メーカーとして、オモチャの創造力や夢を守りつづけているのが、マスダヤなのである。

そんなマスダヤが発売していたスペクトルマンシリーズのソフビ怪獣人形が、僕は大好き。
スペクトルマン、ゴリ、ラー、そして怪獣が11匹の全14種。
型、サイズ、カラーのバリエーションも考えると、
約20種のスペクトルマンシリーズのソフビ怪獣人形がマスダヤから世に放たれたわけだが、
それらは全て、
どこか野暮ったい感じがする。
造形のセンスが、マルサンやブルマァクに比べてどうにも野暮ったいのである。
しかし、
この野暮ったいところが、実は重要な意味を持っていて、
マスダヤのスペクトルマン怪獣の “魅力” になっているのだ。
作品に登場した実物の怪獣の造形を見ると、
ゴジラ怪獣やウルトラ怪獣に比べて
スペクトルマン怪獣は明らかに安っぽくてダサいのだが、
それを少しも恥じる事なくストレートに表現し、
ゴジラやウルトラの世界には無い “えげつなさ” で、子供達の心にその個性を強烈に印象づけている。
この心意気が、
マスダヤの野暮ったさに通じているのだ。
安っぽくてえげつないスペクトルマン怪獣に、マスダヤの野暮ったさは実によく合う。
見事なまでの妥当性、運命的な生理の一致である。
例えば、
誇り高き天才科学者であるゴリを、下品で馬鹿みたいな顔に仕上げていたり、
ネズバードンの首から上と胴体の大きさのバランスを異常なまでに合わせていなかったり、と
デフォルメにおける無神経さは天下一品だし、
ラーの、全体的になんとなく平べったい印象などは、すべての人形の “ダサさ” の象徴と言える(笑)。

でも、造形力が無いわけではない。
バロンザウルスやダストマンなどは実物の怪獣を忠実に再現しつつ、
人形としての可愛らしさも表現されていて見事だ。
しかし、そもそもバロンザウルスやダストマンは実物の怪獣自体が野暮ったい造形のため、
結局やっぱり野暮ったい印象しか残せていないのである。・・・このドン臭さ、好きだなぁ(笑)。

そして、
そんな中でも一番のお気に入りは、なんといってもゴキノザウルス。
そもそも、
ゴキブリが巨大化した姿の、そんな気色悪くて恐ろしい物を人形にして売り出す神経が凄いのだが、
ゴキブリが持つ不気味さを、
例によって野暮ったい造形センスで程好く緩和しているところが素敵だ。
ほのぼのとして、だけどやっぱり気味が悪くて、
こんな滑稽な人形も珍しい。
ウソだと思うなら、
これを読んでいる貴方もゴキノザウルス人形を1体購入して、机の上か棚にでも飾ってみると良い。
たちまち魅了されることだろう。

それに、マスダヤのもっと凄いところは、
このゴキノザウルスでトーキング人形までも作ってしまった事だ。
当時のマスダヤはトーキング人形にもかなり力を入れていたようだから、
人気のあるスペクトルマンシリーズでもトーキング人形を出すのは当然と言えば当然かもしれないが、
ゴキノザウルス、ってのが凄い。

 なぜ、ゴキノザウルスなのか?
 ゴキノザウルスがいったい何をしゃべるというのか?

宇宙猿人ゴリ、というトーキング人形にはもってこいのキャラクターがありながら、
トーキング人形にして売り出したのは主役のスペクトルマンとこのゴキノザウルスだけ。
このあたりの気の利かなさは、
野暮ったい造形センスと同じで、僕は愛さずにはいられないし、
怪獣なら何でもありだった時代のパワーを感じさせてくれる、懐かしいエネルギーなのである。素晴らしい!
欲を言えば、
もっとたくさんの怪獣を商品化してほしかった。
ギラギンドやカバゴンがマスダヤから発売されていたら、きっとシビれる造形だったに違いない。残念だ。

そんな大好きなシリーズだから、入手する際も夢いっぱいだ。
東京の或るアンティークTOYショップで吸血怪獣バクラーを購入した時は、
帰りにわざわざ蔵前の増田屋コーポレーションまで行き、そのビルの1階にあるレストランで食事をした。
コレクションは一生手放すつもりはないので、
バクラーに、生まれ故郷に最後の別れをさせてあげたかったのだ。
買ったばかりのバクラーをテーブルの上に置き、

 「ここがキミの生まれたメーカーだよ」 とか、

 「今日からキミは僕のものだ。
    一緒に名古屋に帰ろうね。ゴキノザウルスもキミを待ってるよ」 とか、

いろんな事を心の中でバクラーに話しかけながら(・・・アブナイかなぁ)、独りカツカレーを食べた。
帰りの新幹線の中でも、バクラーの入った紙袋を抱きしめ、
子供の時バクラーが出てきた回の『スペクトルマン』の放送を見て恐くて震えていた事を思い出したり、
これでスペクトルマン怪獣はクルマニクラスと三つ首竜を手に入れれば全部揃うな、
なんて事を考えながら、夢見る気持ちでいた。

こんな僕だから、これからも夢見る気持ちで大好きなソフビ怪獣人形を探し集めていくだろう。
僕が死ぬまでにいったい何体のソフビ怪獣人形が僕の棚に並ぶかわからないが、
死ぬ一秒前まで、僕は夢見ているに違いない。
怪獣世代、ソフビ世代で本当に良かった。僕は幸せだ。

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