真水稔生の『ソフビ大好き!』


第108回 「ヘビ年によせて」  2013.1

昨年末、
壇蜜さん主演の映画『私の奴隷になりなさい』を観に行きました。

“性愛の真理” を通じて、
人間は誰もが孤独である事を思い知らされる、
なんだか哀しい映画でしたが、
決して難解な世界の話ではないし、物語としてもよくまとまっているので、
偏見にとらわれず、
多くの人に見てもらいたい作品だとも思いました。

ってか、
やっぱり、壇蜜さんが魅力的です。なんといっても。

初日の舞台挨拶で
御自身の哲学として言い放った、
 
 「脱げて、絡めて、広げてナンボ」

の言葉どおり、
気合いの入った、堂々たる脱ぎっぷり喘ぎっぷりで、
その圧巻のエロさに、惚れ惚れしました。

しかも、
佇まいに情緒があって、
かつ、
表情や身のこなしに知性が薫るので、
どんなに卑猥な場面でも、
下品になったり安っぽくなったりしないところが素敵です。

演技とか表現とか以前に、
そんな、
壇蜜さん自身の資性を強く感じて、感服してしまいました。
“史上最強のエロス神” などと呼ばれていますが、
それを、
芸能界で売り出すため作られた単なるキャラクターにはとどめておかない、
リアルな “女性力” が、壇蜜さんにはあると思います。

なので、
グラビアアイドルや女優としての壇蜜に、
というよりは、
女としての壇蜜に、
僕はスクリーンの前で猛烈に惹かれました。

また、
裸身そのものも、
当然の事ながら綺麗なのですが、
カッコいい作り物のようなボディではない、生々しい色香があって、
妙に興奮させてくれます。

具体的に言うと、
いちばんの要因は、腰の線。
尻フェチの僕を満足させてくれる丸くて大きなお尻をしていらっしゃいますが、
その巨尻に引っ張られ、
腰の線が、
正面から見ると、あからさまに横に広がっていて、
その “不恰好さ” がソソるのであります。

不恰好、なんて言っちゃうと、
形が悪いのか?っていう失礼な話になってしまいますが、
そうではなく、
男を決して突き放さない、どこか優しい温かみを秘めた “美”。
主導権を握って強圧的なのに、
わざと弱みを見せているようで、その謎めき具合が、たまらなく愛しいのです。

この『ソフビ大好き!』に因んで例えるなら、
マルサンのハックだとかユートムだとかに見られる、
線を歪めたり崩したりする事で滲み出た色気、バロックな味わいですね。それがあります。
あの腰の線が、
壇蜜さんの裸身に “わび・さび” を与えています。

なので、
しっとりとした黒髪や色白の肌ともピッタリとマッチして、
全体的に、生身な濃艶さが感じられるのです。

胸がデカけりゃナイスバディ、
足が細けりゃ美脚、
などと、
安易に称賛する昨今のガキどもには、絶対に解らん官能美ですな、あれは。

・・・まぁ、言い方を変えれば、
“オッサン仕様” なエロス、って事ですけど(笑)。


また、
そんな “オッサン仕様” である事とは別に、
もうひとつ、
その独特の腰の線がもたらす効果があります。
それは、
コブラを思い起こさせる事。
毒ヘビの、あのコブラ。
壇蜜さんの腰の線は、コブラが外敵を威嚇する時に広げる頚部の形に似ています。
スクリーンに裸身が映し出された瞬間、そう思いました。

それに加え、
テレビ番組の中で誰かが壇蜜さんの事を
“エロメドゥーサ” と評していた( 触れたものを全てエロスに変える、という意味で)事も
思い出し、
僕は映画を観ながら、
毒ヘビ・コブラのイメージが
壇蜜さんの演じている役柄に、まさにヘビの如く巻きついていくのを感じました。
その刺激は、
作品世界の “危険な香り”度を、大いに増大させていたように思います。
エロスにのめり込む形容に
ヘビのイメージはピッタリですからね。

それに、
聖書によると、
神が創り出した最初の人間であるアダムとイブに
禁断の果実を食べるよう唆し、
二人を “性” に目覚めさせたのは、何あろう、ヘビ。
史上最強のエロス神・壇蜜さんが
毒ヘビ・コブラの形の腰をしている事は、偶然でない気がします(笑)。

奇しくも今年はヘビ年。
この『ソフビ大好き!』でヘビ、それも毒ヘビ・コブラとくれば、
取り上げるべきキャラクターは
もちろんコレ、コブラ男
『仮面ライダー』第9話に登場した怪人です。
壇蜜さんを前フリに(笑)、今回はこの怪人のソフビを紹介しましょう。


        バンダイ製、
キングサイズ(全長約36センチ)。
      この怪人には、
子供の頃、相当シビれました。

大方の人が思い浮かべるコブラの姿は、
先述した壇蜜さんの腰、つまり、
外敵を威嚇する時の頚部を広げた状態のものだと思いますが、
それを巧みに頭部の形状に取り入れたデザインのアイデアは、素晴らしいの一言。

そして、
なんといっても、片手が伸縮自在のヘビになっているのが、
幼い心に、強烈きわまる衝撃を与えました。

不気味で怖いショッカー怪人に、
“カッコいい” というイメージを強く感じさせてくれた、最初の怪人ではないでしょうか。

そもそも、
モチーフとなった生き物で考えても、
“ヘビ” というのは、圧倒的な “悪者” の印象だし、
その中でも毒ヘビの代表格であるコブラが選ばれたとあっては、
昆虫や爬虫類など異形な生き物に、
興味や関心、延いては憧憬の念すら抱く僕ら男の子からは、
称賛される事受けあいで、
その優れたデザイン・造形の完成を待つ事なく、
最初から人気怪人になる事が約束されていた存在であったと言えるでしょう。 
           
      この人形は、
そんな実物のコブラ男のカッコよさや迫力が、
適度なデフォルメ造形と
毒々しくも美しい彩色で、
オモチャとして楽しく表現されているので、とても気に入っています。

以前、
21世紀幕開けの年賀状に
この人形の写真を用いた事を述べましたが(第6回『仮面ライダーソフビ讃歌』参照)、
気づけば、
21世紀になってから干支が一周したンですね。
早いものです。
家族が一人もいなくなってしまった事もあり、
その時以来、年賀状には、
毎年、コレクションの写真を載せているのですが(楽しいのやら淋しいのやら(笑))、
干支が一周した今年の年賀状も、やはり、コブラ男にしました。
ただ、
今回は、キングサイズではなく、スタンダードサイズの人形を用いました。

         
バンダイ製、
スタンダードサイズ(全長約25センチ)。
             
       
      キングサイズの人形に比べると、
サイズに比例して迫力も小さくなってしまった感じだし、
顔もブサイクで、
なんだか残念な印象を受けますが、
年賀状に使用した写真みたくライダー人形と戦わせて遊ぶと、
そのなんだか残念な印象が、
ショッカー怪人の “敗れる宿命の哀しさ” を演出するのに効果を発揮し、
ときめきと切なさが入り混じった、
なんとも絶妙な味わい・雰囲気が出ます。

ソフビ人形という玩具の “深み” が、そこにあります。

      下記の6体は、
以前、第68回「心は “せいたかさん”」の中でも紹介した、
バンダイ製、ミニサイズ(全長約12センチ)。
バージョン違いがいくつもあり、とても集め甲斐があります。   
        まずは、
成形色が緑色のバージョンから。
草むらから出てきたヘビのイメージでしょうか?(笑)
赤茶色がこってりと塗られた顔面が、殺気立ってて怖いです。
        コブラ男のミニサイズ人形で
いちばんポピュラーなのが、
この、成形色がクリーム色のバージョン。
鱗のシルバースプレーの効果も相まって、
見る者に、
爬虫類独特の生臭い印象を与えています。
        脇やお腹に、
薄っすらとパールピンクがかかっています。
おしゃれ(笑)。
        ベルトに
2列のカシメがモールドされているバージョン。
こういう細かい違いを発見するのも、
コレクションの醍醐味です。
        今度はオレンジ色の成形色。
塗装色はメタリックグリーン、と派手な彩色です。 
        同じくオレンジ色の成形色ですが、
塗装色が、メタリックではなく普通の緑。
でも、
塗ろうとしたら、
塗料が切れちゃってたようです(笑)。
ちゃんと塗装してから出荷してほしかったものです。


                        これは、
無版権の海賊版。
上の正規品とそっくりですが、
よく見ると、
ベルトのバックルや鱗のモールドが粗いです。
サイズもちょっと小さく、全長約11センチ。


ところで、このコブラ男、
ライダーに倒された翌週の回では、改造コブラ男として蘇りました。
子供の頃は、
カッコいい怪人だから
視聴者サービスで再生したンだ、と思い込んでいましたが、
つい最近、
ヘビは、
どんなに傷ついても、
脱皮をすると傷ひとつ無い元の姿に戻る性質を持っている事から、
再生・治癒のシンボルとして、
病院や医大の紋章に多く用いられている事を知りました。
もしかしたら、
そんな事も踏まえての、“改造コブラ男” だったかもしれませんね。
・・・深いなぁ(笑)。

また、
ヘビ年という事で、
このお正月は、
ヘビに関する様々な記事を、
新聞や雑誌、ネット上などで目にしましたが、
その中で、
こんな俳句がある事も知りました。

  公園で 撃たれし蛇の 無意味さよ

中村草田男さん、という俳人が残した句で、
争いごとの虚しさや命の儚さを詠ったものだと思いますが、
翌週蘇るコブラ男の場合は、
1文字変えて、

  公園で 撃たれし蛇の 無味さよ

といったところでしょうか(笑)。


さて、
コブラ男ほどの
インパクトや人気・知名度は無いものの、
ヘビの怪人は
ほかにもたくさんいますし、いくつかソフビ人形として玩具化もされています。
せっかくの機会ですので、それらも紹介しておきましょう。

干支がまた更に一周して、
次のヘビ年にまだ元気に生きていたら、
これらのうちのどれかを、年賀状の写真に使ってみたいと思います。


      海蛇男
ポピー製、全長約11センチ。

『仮面ライダー』第54話に登場した怪人です。
首に巻かれたヘビの
目の中に仕込んだ “プリズム・アイ” で
光の屈折を変化させて幻を現出させ、
世の中を混乱に陥れようとする悪いヤツですが、
人形の方は、
その首に巻かれたヘビの顔が
なんとも愛嬌のある笑顔に仕上がっていて、
憎めません。
それに、
本体の顔の方も、
白いからこそ無気味だった実物の眼球を
普通に黒にしちゃってるから、
ケロヨンみたいになってしまいました(笑)。
「バッハハ〜イ!」と聞こえてきそうで、
可愛くてしょうがないです。

 
     


     
         
          ガラガランダ
  上の2体は、
  バンダイ製 ライダー怪人シリーズ、
  全長約16センチ。
  左は、
  バンダイ製 ソフビ道(食玩)、
  全長約10センチ。

      『仮面ライダー』第79話に登場した、
その名の通りガラガラヘビの怪人にして、
ショッカー日本支部3代目最高幹部・地獄大使の正体。

無気味で迫力のある、
優れた造形の怪人だと思うのですが、
地獄大使のインパクトや人気が強烈過ぎて、
この怪人自体の魅力に、正当な評価がついてこなかった印象があります。
それが証拠に、
放映当時、ソフビ人形として玩具化されたのは
地獄大使の方だけ。
ソフビで遊ぶライダーキッズであった僕としては、
やはり、地獄大使とガラガランダの両方の人形が必要ですから、ちょっと不満でした。

なので、
時代が平成になってからではありますが、
上記のガラガランダ人形が子供のオモチャとして発売された時には、
これでようやく、
地獄大使の正体としてだけでなく、
ガラガランダという毒ヘビ怪人自体にも
きちんとスポットが当たる気がして、胸がスッキリしたものです。


       
これが、
放映当時に発売されていた、その地獄大使人形。
ポピー製、全長約13センチ。

秘密結社ゲルダム団と併合し、
新たなる新組織・ゲルショッカーを
作ろうと画策するショッカー首領に、
無情にも切り捨てられた身でありながら、

 「ショッカー軍団、万歳!」

と叫んで死んでいった哀愁が、
当時のミニソフビのチープさによって、
より切なく感じられます。
直情型の性格を現しているかのような
真っ赤な成形色も、また虚しい。

右腕が、
何か、しなっているようで変な造形ですが、
ムチ状の右腕を持つガラガランダが正体なのですから、
これで正解です(笑)。

 


         
      マシンガンスネーク
ポピー製、全長約8センチ。

『仮面ライダーX3』に登場した怪人。
動植物の能力に器物・機械の特性を兼ね備えたデストロン怪人は、
ショッカー怪人がパワーアップした感じで、
子供心を大いに刺激してくれました。

このマシンガンスネークも、
コブラ男がマシンガンと合体したようなものですから、
惹かれないわけがありません。
大好きでした。

胸の皮膚を一部剥がし、
体内に仕込まれた弾帯を覗かていせるデザインは秀逸だし、
下半身に巻きついた細長いヘビも、
鳥肌が立つほど不気味。
そして何より、
右手のヘビがマシンガンに変形する、なんて、
めちゃくちゃカッコいいと思いました。

人形の方は、
そんな実物の、怪人史に残るほどの名造形の迫力を、
まったくと言っていいほど無視して(笑)、
このように
ただただ可愛らしい仕上がり。
廉価版のミニサイズ人形だから仕方が無い面もありますが、時代を感じますね。


       
      コブランジン
ポピー製、全長約11センチ。

『仮面ライダー(スカイライダー)』に登場した怪人。
脱皮の途中でしょうか(笑)、二つの頭部が重なっています。

放映時、僕は中学3年生で、
仮面ライダーが空を飛ぶなんて・・・、と
半ば馬鹿にしながら
番組をチラ見していた生意気なクチでしたが、
この怪人の造形には、
その二つ重なった頭部や、
片手のヘビが右手でなく左手に変えてあるところなど、
デザインのアイデアの枯渇と必死に戦っているスタッフの苦労が感じられて、
ライダーファンとして、
もっとちゃんと番組を応援しなきゃ、って意識が芽生えました。

人形の方は、
可愛らしい愛嬌も無く、かといって、リアルでカッコいいというわけでもない、
なんとも中途半端な造形ですが、
それは、
ソフビ人形という玩具の概念が
デフォルメ造形からリアル造形に変わりつつあった時期の商品であった証。
これまた、時代を感じます。


       








 
      これは、
『仮面ライダー』の時代劇版と言える『変身忍者 嵐』に登場した、鬼火まむし
向かって左側の人形が、
バンダイ製、全長約24センチ。
右側が、ポピー製、全長約14センチ。

小田原城から武器・弾薬を奪うのが使命の化身忍者で、
催眠術や分身の術など多彩な忍法を使う、なかなかの強敵だったと記憶しています。

そもそも、
モチーフであるヘビ(マムシ)が発する生理的嫌悪感に加え、
身に纏っている僧衣によって霊力のイメージも備わり、理屈抜きの恐怖を覚える怪人でした。

その悪者然とした容姿の威力は凄く、
人形の方も、
両サイズとも、放映当時発売された昭和ソフビでありながら、
まったく愛嬌がありません(笑)。
         こんなグロテクスな化け物、
 嵐、やっつけてくれ!
 ・・・って思い戦わせてみたけど、
 嵐の顔も、
 なかなかグロテスクだなぁ(笑)。



それにしても、ヘビは嫌われ者です。

この『ソフビ大好き!』に
これまで何度か登場している、
僕の1歳上の幼なじみ・モリサダくんは、
生き物が大好きだったし、
家がすごくお金持ちだったので、
犬や猫、小鳥や熱帯魚はもちろんの事、
ハツカネズミ、ハムスター、
それから、
カブトムシやクワガタなどの昆虫類、
あと、
カメ、イモリ、カエル、そして、ワニに至るまで、
いろんな生き物をペットとして飼っていました。

40年以上昔の話ですが、
或る時、
モリサダくんのお父さんの知り合いの人が、
生き物が大好きなモリサダ君にプレゼントしようと、
1匹のヘビ(何ヘビだったかは不明)を
どこかから調達してきた事があり、
当然、モリサダ君は喜び、飼うつもり満々だったそうですが、
モリサダ君のお祖母ちゃんが、

 「ヘビだけはやめてちょうだい」

と顔を真っ青にして猛反対したため、泣く泣く断念した、
って話を聞いたのを憶えています。

家中ペットだらけで、
ワニを飼う事まで許してくれている家人が、
「ヘビだけは・・・」と猛反対するのですから、
“ヘビ” という生き物の嫌われ度合いの激しさがわかります。

人間の生理・感性を強烈に刺激する嫌われ者、
気色悪くて、怖くて、
毒まで持ってたりして、
敵役怪人のモチーフにはもってこいですね、ヘビは。
おまけに
再生能力にも長けてるのですから、ただの敵役でなく “強敵” です。

そんなキャラクター性に惹かれた少年が
40年経ってオッサンになったら、
今度は、セクシータレントの裸体と化して襲ってくるわけですから、
本当に強敵です(笑)。

もはやその存在は、
霊的エネルギーを備えた “神秘” 。
いやはや、凄い生き物です。

     

そんなわけで、
『ソフビ大好き!』、今年もよろしくお付き合い、お願いいたします。



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