真水稔生の『ソフビ大好き!』


第99回 「美しき侵略者・その2」  2012.4

前回に引き続き、
『ウルトラセブン』生誕45周年を記念して、
その敵キャラである、“侵略宇宙人” を紹介していきます。



 ボーグ星人

   
    ブルマァク製、全長約24センチ。
   
バンダイ製 ウルトラ怪獣シリーズ、
全長約17センチ。


  捕らえた人間の脳に催眠プレートを埋め込んで意のままに操る、
  という恐ろしい敵だが、
  幼い頃、僕はこの宇宙人に、
  魅力的な悪者としてではなく、
  純粋にカッコいいキャラクターとして、好印象を持っていた。
  甲冑を思わせるこの容姿が、
  子供心に、勇ましく、かつ、スタイリッシュに思えたのである。
  なので、
  以前、第11回「僕が愛したウルトラセブン・その2」の中でも述べたように、
  よく、ボーグ星人の人形を、
  セブンの味方(つまり正義のヒーロー)という事にして、ほかの怪獣人形と戦わせて遊んでいた。
  お気に入りの人形だったのだ。

  それゆえ、
  あまりにソフビ人形の印象が強すぎて、
  僕の記憶の中のボーグ星人は、
  実物どおりの銀色ではなく、
  ずっと、チョコレート色をした宇宙人だった。
  何度も繰り返し『ウルトラセブン』を観ているにもかかわらず、である。
  平成5年に
  バンダイから、実物に忠実な彩色の人形が発売されて
  初めてその間違いに気づき、
  人間の思い込みは恐ろしいものだ、と痛感した次第である(笑)。

    でも、
もしかしたら、
甘いミルクチョコレートの味が思い起こされるから、
幼心が人形に好感を持っていたのかもしれない・・・、
そんな事を思ったりもした。

そうなってくると、
もう、
ボーグ星人が好きだったからボーグ星人の人形を愛したのか、
ボーグ星人の人形が好きだったからボーグ星人を愛したのか、
自分でもよくわからない。
実物の怪獣の色や形を完璧にコピーしたリアルさが
そのままソフビ怪獣人形の玩具としての優秀性に繋がるわけではない、
という僕の持論や嗜好は、
この人形から発生したものかもしれない。

  それにしても、
  空飛ぶ円盤・宇宙人の目撃談の中には、
  円盤内に連れ去られ、宇宙人によって脳にチップを埋め込まれた、
  なんて話も昔からよくあるから、
  ボーグ星人は実在する可能性もある・・・、
  なんて考えると、
  なんだかミステリアスで、
  夢があるけど底知れぬ恐怖を感じる。
  しかも、
  番組に登場したボーグ星人は女性であったから、
  ますます、なんだかミステリアスで、
  ますます、夢があるけど底知れぬ恐怖を感じる(笑)。

       




 ベル星人

      ブルマァク製 スタンダードサイズ、
全長約23センチ。

いかにもブルマァクな、きれいに整った造形。
カッコいい。
   
 ブルマァク製 ミニサイズ、
 全長約10センチ。
             
  ブルマァク製 特大サイズ、
  全長約34センチ。

  大気圏内に作り出した擬似空間に
  旅客機などを吸い込んで人類の抹殺を謀る、悪魔のような宇宙人、ベル星人。

  第18話「空間X脱出」は、
  ウルトラ警備隊の隊員・アマギとソガが、
  スカイダイビングの訓練中に
  その擬似空間におびき寄せられるところから、物語が始まる。

  そこは、
  霧のかかった深い森のようなところで、
  ベル星人以外にも、
  吸血昆虫、人喰い植物、毒ガスを発する蜘蛛、といった、
  怪異で獰猛な宇宙怪物たちが待ち受けていたのだが、
  僕はこの回を、テレビだけでなく、
  劇場でも観たので(昭和43年『東映まんがパレード』の中の1本として上映)、
  そんな恐ろしい連中に襲われたり
  底なし沼に落ちたりして
  悪戦苦闘するアマギとソガの様子を、強烈なインパクトで記憶している。

  深い森のようなところ、という事で
  そこをさまようアマギとソガの音声には
  演出でエコーがかけられていて、
  それが映画館の巨大なスクリーンの迫力と見事にマッチし、
  実にリアリティがあった。
  まるでスクリーンの中に飲み込まれたような気がして、
  僕自身も、
  アマギやソガと一緒にその擬似空間に迷い込んでしまった感覚に陥り、
  恐くて泣きそうになったのを憶えている。

     ベル星人は、
“音波怪人” という肩書きが示すとおり、
人間の脳波を狂わせる不快な音を発するのだが、
その音を聞いただけで、
マナベ参謀が

 「ベル星人だ!」

と正体を認識したので、
過去にも地球に攻めてきたか何かで、
侵略宇宙人として、
地球防衛軍にすでに認知されていた存在と思われる。

    目も鼻も口も、それと認識できるものが無い顔面である上に、
他の宇宙人と違って人語を発する事も無いため、
不快な音を鳴らしながら無言で迫ってくる不気味さは、
『ウルトラマン』の最終回に登場したゼットンを彷彿とさせ、
恐怖と同時に、かなりの強敵である印象を与えた。 
 

  スクリーンの中に飲み込まれた気がして
  アマギやソガと行動を共にしている気分だった僕は、
  擬似空間に閉じ込められた不安や苦痛に加え、
  そんなベル星人の脅威にも怯えて、
  暗い劇場の中で震え続けていた。
  本当に恐かった。

  なので、
  セブンがベル星人を倒し、
  アマギとソガ、そして二人を救助に来た隊員全員が
  擬似空間から無事脱出出来た時は、
  自分が命拾いしたような安堵感に包まれて、胸を撫でおろす思いだったものである。

  どういう経緯で選ばれたか知らないけれど、
  この回が劇場公開された事は大正解だったと思う。
  映画館自体が擬似空間に感じられ、
  恐怖や安堵を全身で味わえたのだから、迫力満点だった。
  忘れられない。




 ガッツ星人


      バンダイ製 ウルトラ怪獣シリーズ(ウルトラ怪獣コレクション)、
      後列2体は全長約15センチ、前列3体は全長約14センチ。
      前列向かって右端の人形は、
      上半身と下半身が接着され、可動しない仕様になっている。


                バンプレスト製 ゲーム景品用人形、
全長約15センチ。

  幼い日の僕は、
  第39話と第40話の「セブン暗殺計画」前後篇に登場したこの宇宙人に
  賢さと強さを感じて、
  一種の憧れのような感情を抱いていた。

  まず、
  アロンという怪獣を送り込んでセブンと戦わせ、
  セブンの戦闘能力をしっかりと分析してから挑戦してくる用意周到さに、
  “冷血な知性” を感じて、 
  恐いけどカッコいい “悪役スター” である印象を持ったし、
  更には、
  我らがセブンを捕らえて処刑寸前にまで追い込んだその所業が、
  間違いなく “強敵” である事の認識を、僕の脳に叩き込んでくれたのだ。
  カプセル怪獣ウインダムを
  痛めつけるだけでなくトドメまで刺した事も大きい。

  そもそも、
  前後篇で作られたエピソードに登場する敵には、
  必然的に “強敵” のイメージが宿る。
  なんたって、
  倒すのに通常の敵の倍の時間(2週)を要するのだから(笑)。
  『ウルトラマン』のゴモラなんか、
  その最たる例だし、
  この『ウルトラセブン』においても、
  第14話と第15話の「ウルトラ警備隊 西へ」前後篇に登場した、
  キングジョーという宇宙ロボットの圧倒的存在感が、それを決定的なものにしていた。
  その土台の上に、
  ガッツ星人は降り立ったわけである。
  子供は “強い敵” が好きだから、
  人類を絶望の淵に追いやる悪者でありながら僕が憧れたのも、理解していただけるだろう。

  また、
  この前後篇を演出したのは、飯島敏宏監督。
  以前、
  第19回「爽やかな光沢」の中でも述べたが、
  アメリカナイズされた、ドライな情感とユーモアで、
  物語をテンポ良く軽快に展開させるのが、
  飯島作品の特長であり、
  この「セブン暗殺計画」の前後篇でも、その味わいは充分に堪能出来る。
  恐いシーンと楽しいシーンを巧みに繋ぎ、
  まるで音楽を聴いているかのような心地よさで
  リズミカルにストーリーを理解させてくれるのだ。

  ヒーロー・セブンが磔にされ、
  地球の平和が絶望の危機に晒される、
  という恐怖を、
  幼い視聴者が決して拒絶しないのは、
  飯島監督の生理・感覚による、その “演出の妙” のなせる業である。
  とても面白い回だった。


    大きな頭部に
脳がたっぷり詰まってるようで、
知性派である事にも納得がいくし、
鳥をモチーフにしたデザインの面白さは、
恐怖のお話を娯楽作品として見事に仕上げる、
飯島監督の独特なセンスとも合っている気がする。
そんな、
エピソードとの絶妙な一体感があるのも、
ガッツ星人の長所である、と言える。
 

  ガッツ星人の人形は、
  ソフビ怪獣人形という玩具の造形が
  リアル志向になってからの時代にしか存在しないが、
  そんな、
  演出の突出した娯楽性の象徴にも感じられる造形のキャラクターゆえ、
  リアルな造形でも、デフォルメソフビに似た味わいがある。

           




 イカルス星人

                                     

            上の2体が
            マルサン製 スタンダードサイズ、
            下の3体が
            ブルマァク製 スタンダードサイズで、すべて全長約24センチ。

 
      こちらは、
ブルマァク製 スタンダードサイズの輸出版。
全長約24センチ。


     
 マルサン製 ミドルサイズ、
 全長約17センチ。
                       
  ブルマァク製 ミニサイズ、
  全長約10センチ。
  かわいい。



    ポピー製 キングザウルスシリーズ、全長約16センチ。
    向かって右端の人形は、お菓子の景品用人形。




    バンダイ製 ウルトラ怪獣シリーズ(ウルトラ怪獣コレクション)、全長約17センチ。

    同じく
バンダイ製 ウルトラ怪獣シリーズ。
新造形になってからのバージョン違い。
全長約18センチ。

      こちらは、
バンダイ製でも全長約9センチ、という小さい人形。
赤い目が恐い。


  以前、第10回「僕が愛したウルトラセブン」の中でも述べたけど、
  僕はいまだに、
  隣に住んでる人がもしも宇宙人だったら・・・、なんて考えてドキドキしたりする。
  馬鹿げた話だけど、
  幼い心に『ウルトラセブン』第10話「怪しい隣人」を観た時のショックが
  観念から拭い去れずにいるのだ。

  或る少年が、
  窓から見える隣の家の男が一日中同じ場所に座っている事に気づき、
  不審に思うところから物語が始まるのだが、
  その隣人は、
  四次元空間に前衛基地を置き、
  そこから地球を攻撃して侵略しようと企むイカルス星人が人間に化けた姿であり、
  三次元の世界と四次元の世界を連結するコントロールマシンを
  日夜作っていたのだった。

  平和な日常の裏側で
  地球人になりすました侵略宇宙人たちが暗躍するのが『ウルトラセブン』の作品世界。
  隣の住人として暮らしていたイカルス星人は、
  まさにその筆頭として、
  宇宙人というものの存在をリアルな恐怖として視聴者に植え付けた、名悪役なのである。


  「ひよっとすると、あなたの隣人は、惑星から来た宇宙人かもしれないのです」

  というナレーションで終わるこの回を見終わって、
  僕は思わず、
  台所仕事をしていた母親に、

   「エッちゃんたち、宇宙人かもしれん」

  と泣きそうな思いで伝えた事を憶えている。
  エッちゃんたち、というのは、当時隣の家に住んでいた家族の事である。
  後日、
  母親は、エッちゃんの母親にその話をして笑い合っていたが、
  僕は笑っているエッちゃんの母親を、ジッと疑いのまなざしで見つめていた(笑)。

    四次元空間から出現する事のほかにも、
テレポーテーション能力、
セブンのアイスラッガーでも切断出来なかった硬い皮膚、
一瞬にして山の緑を枯らす、無数の針のような光線など、
イカルス星人の恐るべき特徴は数々あれど、
最も恐怖を感じたのは、
人間体を演じた俳優・山本廉さんの、
感情が一切窺えない冷たい表情。
姿形は人間でも絶対に地球人じゃない、
という説得力があり、
本当に恐かった。
なので、
この大きな耳の、
見ようによってはなんだかお茶目な姿の正体を現した時は、
セブンに倒される結末を待つまで無く、
なんとなくホッとした。
マルサンソフビのこの造形は、
そんな、子供心が抱く安心感みたいなものも
最初から計算に入れて仕上げられている気がして、
なんだか神々しく感じてしまう。

   ・・・それにしても、
  四次元、って何だ?(笑)
 




2回に渡って長々と述べてきたが、
なんといっても『ウルトラセブン』は全49話もあるので、
当然の事ながら、
魅力的な侵略宇宙人は、まだまだたくさんいる。

たとえば、
昆虫のような姿をしていながら、

「人類なんて、
   我々から見れば昆虫のようなものだ」

と言い放った、
記念すべき第1話の敵・クール星人や
細い足3本で巨大な頭部を支えるチブル星人、
あるいは、
凍結怪獣ガンダーを操る、顔の下には長い手足だけで胴体が無いポール星人などは、
実に特異なデザイン・造形であるし、
大好きなキャラクターなンだけど、
マルサンからもブルマァクからもバンダイからも
ソフビ人形として商品化されていないため、残念ながらこの場では紹介出来なかった。

なので今後、
バンダイのウルトラ怪獣シリーズに
『ウルトラセブン』の敵キャラ・“美しき侵略者” が1種類でも多く加わる事を、
是非とも望む次第である。


       

数々の侵略宇宙人たちと、
地球人のためにズタボロになるまで戦ってくれたウルトラセブン。
最終回では、
衰弱しきった体ながら過労死覚悟で最後の闘いに挑み、
生死不明のまま地球を去るが、
セブンのあの壮絶な姿は、作品の世界観の象徴のように思える。

ヒーローへの依存を断ち切って
地球人が自らの手で地球の平和を守る “自立” を、
ヒーローが地球を去る事で促す、
という点では、
『ウルトラマン』の最終回と同様のストーリーなのだが、
『ウルトラマン』と『ウルトラセブン』では、
その描き方が
まったくと言っていいほど異なっている。

『ウルトラマン』が、
去っていくウルトラマンを
地球人が「今までありがとう」という “感謝” の気持ちで清々しく見送るのに対し、
『ウルトラセブン』は、
地球人のためにダン(セブン)を
殺してしまったかもしれない事の “後悔” に包まれたラストになっているのだ。

セブンのこれまでの闘いを
素直に肯定しないその重々しい空気に、
侵略の名のもと、地球人を “善” 、宇宙人を “悪”、と
設定してしまった事に苦悩するスタッフの混乱が、
最後まで付きまとっていたように思えてならないのである。


ただ、
それは、あくまでも大人になった今、
端から批評するつもりで作品を観たり、
当時の関係者のインタビューなどが掲載された出版物を読んだりして、
初めて感じる事であり、
子供の頃は、純粋に「カッコいいなぁ」と憧れて観ていた。

スタッフの心の中の葛藤から、
作品全体に滲み出てしまった暗い雰囲気を、
幼い心には “大人っぽいカッコよさ” に感じさせ、
明るい『ウルトラマン』と同等、
あるいはそれ以上に愛された『ウルトラセブン』は、
やはり、
重厚で奥深く、お洒落でカッコよく、
日本の特撮ヒーロー番組の最高傑作である、と言えるだろう。
その大きな貢献者である、
美しき侵略者たちの素晴らしい魅力に、僕は改めて敬意を表したい。

そして、毎度の事ながら、
そんな素敵な番組や素敵なキャラクターに出会えた少年時代の幸運に、感謝。





【追記】

前回紹介したメトロン星人について、

 「バンダイの、白成形と最新リニューアル版が載っていない」

と、友人を介して見ず知らずの方からご指摘を受けました。
以前にも、
僕とは面識が無い、ゲイトウエイのお客さんが、
或る回の誤字を指摘して下さった事があり、
その時も、
大変ありがたくて嬉しかったのですが、
今回も、
そんなマニアックなところまで
ちゃんとチェックしていただけていた事に、とっても感激しております。
ありがとうございます。

ですので、
今回、遅ればせながら紹介させていただこうと思うのですが、
実は僕、
白成形のメトロン星人は、持っていません。
恥ずかしながら、白成形シリーズはまだ揃っていないのです。
あと、
最新リニューアル版のメトロン星人は、単純に忘れてました。
1体だけ、ショーケースの別の棚に飾ってあったので、見落としてしまったのです。
ゴメンナサイ。

 「それで本当に愛情があるのか!?」

と叱られそうですが、
なんたって四半世紀以上にわたって発売され続けているシリーズゆえ、
数や種類がハンパなくて・・・。
たぶん、
今までにも、バンダイ系のものは
こういった “漏れ” があったかもしれません。
まぁ、でも、
資料的な情報よりも、
あくまでも
僕の思い出や蒐集生活の楽しさを伝えたいエッセイなので・・・、
って言い訳ですけど(苦笑)。


では、1ヶ月遅れで申し訳ありませんが、

    メトロン星人
バンダイ製 ウルトラ怪獣シリーズ、全長約17センチ。
発売は、平成12年。
    より実物に近い彩色になっています。


今後とも、
『ソフビ大好き!』、どうぞよろしくお願いします。


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