真水稔生の『ソフビ大好き!』


第100回 「秘められた魔力(美しき侵略者・その3)」 2012.5

番組生誕45周年という事で、
前々回と前回の2回にわたって述べてきた『ウルトラセブン』。

子供には難解な内容でありながら
決して幼心を退屈させなかったいちばんの要因を、
敵キャラである “侵略宇宙人” の魅力と説き、
その無類なデザイン・造形の美しさやカッコよさを
僕のソフビコレクションとともに紹介してきた。

ピックアップした個人的に好きな “侵略宇宙人” の登場エピソードを振り返る事で、
作品世界の異質な味わいにも改めて言及し、
いかに『ウルトラセブン』が面白いか、
いかに『ウルトラセブン』を僕が好きか、
思いの丈をたっぷりと吐き出したつもりである。

でも、
まだ何か物足りない、と言うか、
消化不良、と言うか、
そんな気がして、何故かと考えてみた。

答えはすぐに出た。
『ウルトラセブン』全49話の中には、
エピソードによって、
“侵略宇宙人”が登場しない例外なケースがいくつかあり、
“侵略宇宙人” にスポットを当ててしまったがゆえ、
その例外な回に関して一切触れずにいたのが、物足りなさ・消化不良の原因であった。

例外、なのだから、
別に触れずにおいてもそれほど問題は無いのでは? と思われるかもしれないが、
そこが『ウルトラセブン』の奥深さ。
その例外な回は、
どれも、メッセージ性がきわめて強く、
例外でありながら『ウルトラセブン』を語る上で避けて通れない、という、
ドラマとしての重厚さ・質の高さを証明する力作ばかり。
いつもの悪者宇宙人が登場しないからといって、
決して割愛出来るものではないのである。

なので今回は、
僕の “『ウルトラセブン』生誕45周年” を完結させるべく、
その例外な回をいくつか取り上げて、思いを綴る事にする。



『ウルトラセブン』の、例外にして絶対外せぬ名エピソード、
最も代表的なのは、
やはり、第42話「ノンマルトの使者」であろう。

ファンの方には今さら説明の必要も無いが、
地球人を “善”、宇宙人を “悪” と設定しながら、
それに疑念を抱いていたスタッフ(特に脚本家の金城哲夫さん)の苦悩が
剥き出しに描かれた迷作にして、シリーズ屈指の名作である。


この回は、
人類の海底開発計画を妨害する、
自らを “ノンマルト” と名乗る者たちが登場する。

彼等は海底都市に棲み、
その容姿は、
毎週登場する○○星人のように、
明らかに人間とは異なるものなのだが、
自分たちは地球の先住民であり、
地球を侵略にきた異星人である人間たちによって
大昔に海底に追いやられたのだ、と言う。
我慢して海底で暮らしているのに、
その海底すらも人間が侵し始めたので、怒って地上に現れた、というわけだ。

つまり、
“地球人こそ侵略宇宙人だ” と主張するのである。
実に衝撃的な回である。

幼い頃は、
何やら深刻で暗い雰囲気のお話だなぁ・・・、くらいの感想しか持っていなかったが、
中学、高校、大学と、それぞれの時代に再放送を見るうち、
その内容の重々しさに、やり場の無い苦痛を覚えた。
ノンマルトの言っている事が
真実なのかどうかなのか判明しないまま
ウルトラ警備隊は彼らを根絶やしにしてしまい、
全てが謎に包まれた状態でお話が終わるので、
“地球人こそ侵略宇宙人だ”なんて、
単に他の回に登場する連中と同類の悪者宇宙人が
自分たちの行為を正当化するために捏造したデタラメかもしれないのだが、
なんともやりきれず閉口してしまうような、嫌な後味が残るのだ。
なぜなら、
脚本も演出も、
ノンマルトが嘘を言っているとは到底思えない “つくり” になっているからである。

セブンの故郷・M78星雲では、
地球人の事を “ノンマルト” と呼んでいる事、
あるいは、
発見したノンマルトの海底都市を、
宇宙人の侵略基地かもしれないから、という理由で
ウルトラ警備隊が一方的に攻撃して壊滅させ、

 「我々の勝利だ! 海底も我々人間のものだっ!」

とキリヤマ隊長が狂気の表情で叫ぶシーンなどが、
その最たる例であり、
人間が地球を侵略した宇宙人の末裔である可能性を、色濃く印象づける。

また、
普段は投げて使用している武器・アイスラッガーを、
セブンが直接手に持ったまま、
ノンマルトの操る怪獣・ガイロスの体に突き立てて
執拗なまでに切り裂く戦いぶりにも、
悲痛なヤケクソ感があり、
“正義” に黒い雨雲がかかっている。
侵略者から地球の平和を守る、という『ウルトラセブン』のテーマが、
根底から覆りかけている事を感じさせるのだ。

愛する地球人を守るため、
自身の存在に疑問を感じながらも戦うセブンの迷いは、
地球人を “善”、宇宙人を “悪” とした設定を
簡単に割り切って描けなくなっていたスタッフたちの苦悩そのものであった事を、
大人になってから知ったわけだが、
そんなマニアックな知識が無くても、
このエピソードが、
子供番組にして子供番組の範疇を超えたSFドラマ『ウルトラセブン』の、
その真骨頂である事は容易に理解出来る。
何度観ても心が激しく揺さぶられる、凄い回なのだ。

ただ、残念な事に、
ノンマルトもガイロスも、
子供のオモチャとしてソフビ人形化がされていないので、
コレクションの紹介が出来ない。

マルサンもブルマァクもバンダイも、
物語の重々しさから受けるやりきれない感情から、
どうしても玩具化出来ずに今日に至っているのだろうか・・・(笑)。


         


では、
登場キャラクターがソフビ人形というオモチャになっている、
例外にして絶対外せぬエピソード、
という作品を取り上げてみよう。


第26話「超兵器R1号」

この回の敵は、宇宙人ではなく怪獣である。
その名は、ギエロン星獣。
ただし、
安易にそれを敵と認め、
無条件にウルトラ警備隊やウルトラセブンを応援する事は出来ない。
なぜなら、
ギエロン星獣は、
地球防衛軍が新兵器の威力を試すために粉砕した惑星から地球へ飛来した、
悲劇の生き物だからである。

物語はこうだ。

新型水爆8千個分の爆発力を持つミサイル・R1号を開発した地球防衛軍は、
その実験の標的に、
シャール星座第7惑星ギエロンを選んだ。
宇宙生物学の専門家チームが6ヶ月かけて調査した結果、
ギエロン星には生物がまったくいない事が判っていたし、
宇宙空間でその爆発を見せつければ、
異星人による地球侵略への抑止力にもなる、と考えたからである。

 「地球を侵略しようとする惑星なんか、ボタンひとつで木っ端微塵だ!」 

 「超兵器があるだけで、地球の平和は守られる!」 

などと手放しに喜ぶ隊員たちの横で、一人悲痛な表情のダン。
ダンはR1号の実験には反対なのだ。
恒星間の兵器開発競争を、
血を吐きながら続ける“哀しいマラソン”だ、
と言って批判し、

 「地球を守るためなら、何をしてもいいンですか!?」

と、先輩隊員であるフルハシに食って掛かったりもする。

だが、
そんなダンの不満や苦悩をよそに
実験は予定どおり行なわれ、
R1号の爆撃によってギエロン星は粉々に砕け散り、宇宙から消滅する。

実験の成功を受けて
地球防衛軍は、
R1号の十数倍の爆発力があるR2号の開発にも着手する事を決定した。
その時、
ギエロン星があった方角から
まっすぐ地球に向かってくる飛行物体をレーダーがキャッチする。
それは、
R1号の爆発で放射能を浴び、突然変異して巨大化・凶暴化したギエロン星獣であった。
ギエロン星には、生物が棲んでいたのだ。

地球に到達し、放射能の灰を口から吹き出し撒き散らすギエロン星獣。
R1号の爆発による放射能、
つまり、地球人が生み出した放射能である。

ダンは、
R1号の実験に反対していながらも
それを阻止する事が出来なかった自分自身の甘さを悔やみつつ、
セブンに変身してギエロン星獣に立ち向かう。何の罪も無いその生き物を殺すために・・・。

すべてのウルトラシリーズにおいて、これほど悲しい怪獣バトルは無い。
メトロン星人やガッツ星人らを悪者扱いしている我々地球人も、
宇宙全体から客観的に見れば、
やっている事はたいして変わらないのかもしれない。
地球人こそ侵略宇宙人だ、という、
先述した「ノンマルトの使者」のような直裁的な表現ではないものの、
この回がそれを示唆している事は明白である。

このまま “哀しいマラソン” を続ければ、
いつかセブンにも見捨てられ、
地球人がアイスラッガーで切り裂かれる日もやってくるだろう。

軍拡競争への批判が描かれたお話である事は言うまでも無いが、
ソフビ怪獣人形で無邪気に遊んでいるような幼児に
こんな物語を届ける当時の円谷プロが凄い。
『ウルトラセブン』が『ウルトラセブン』たる、名エピソードだと思う。



  ギエロン星獣


    ポピー製 キングザウルスシリーズ、
全長約16センチ。

灼熱の炎を思わせるカラーリングが、
R1号の爆撃を受けた瞬間を連想させるし、
実物の忠実なる再現には徹し切れていない中途半端な造形を
小さな生物から怪獣へ変異する過程の姿、と解釈すれば、
人形の空想的価値が高くなる。
ソフビ怪獣人形というオモチャは、
手にした者の自由なイメージの広がりで、
いくらでも魅力が増していくのだ。

      

     バンダイ製 ウルトラ怪獣シリーズ(ウルトラ怪獣コレクション)。
         
    上の2体(初版)が全長約18センチで、 
    下の4体(2期以降)は全長約16センチ。 
       
         
       


      並べてみると、
サイズの差がよくわかる。
同じ造形でも、
デカい初版人形の方が断然カッコいい。
 

                    時代が平成入って新造形にリニューアルされると、
このように、
地球人に対する怒りと憎しみの眼差しもリアルに再現。
カッコいい・・・、と言うか、恐い。


    これも、
同じくリアル造形の平成ソフビで、
ユタカ(ハーティロビン)製のミニ人形。
全長約7センチ。


 
 
        格闘の末、
      セブンは手に持ったアイスラッガーで、ギエロン星獣の喉元を掻き切ってトドメを刺す。
      「ノンマルトの使者」のガイロス戦と同様に、
      投げてこそカッコいいアイスラッガーを逆上したかのごとく直接相手に突き立てる様は、
      セブンの苦しみを象徴する戦い方、だと言える。
      自棄になったようなその哀しい姿に、正義のヒーローとしての輝きは無い。


第6話「ダーク・ゾーン」

この回の敵は、ペガッサ星人。
通常の回と同じく宇宙人であるが、
宇宙人は宇宙人でも
“侵略宇宙人” ではない、というところがミソ。
ペガッサ星人は、
地球を侵略しようなどという意思は更々無いのだ。
温厚な性格の、
むしろ友好的な宇宙人なのである。
なので、
“敵” という表現も、本当は相応しくない。

ペガッサ星人は、
過去に母性が消滅するという悲劇に見舞われたが、
宇宙空間に移動居住都市・ペガッサシティを建設し、現在はそこで暮らしている。
そのペガッサシティが、
動力系統の故障で地球と衝突する事態に陥ったため、
地球に一時的な軌道修正を要請してくるのだ。

優れた科学力を持つペガッサ星人は、
地球に母性を軌道修正する科学力が無いなんて夢にも思わず、

“スミマセン、そこを通るので、ちょっとだけどいてくれませんか?”

くらいの感覚で要請してきたのだが、
地球人には、当然、それは不可能な事であった。

地球防衛軍基地内のアンヌ隊員の部屋に隠れていた一人のペガッサ星人は、
そこでアンヌやダンと仲良くなるが、
地球の軌道修正が不可能である事を知ると、
最悪の場合に備えてあらかじめ地球に潜入していた工作員である己の正体を明かし、
こうなった以上地球を爆破しなければならない事を告げ、
アンヌとダンに地球脱出を勧めた後、

 「悲しい事だが、これが私の任務なのだ」

と、爆破作業に向かう。

地球人側も地球人側で、
やむなくペガッサシティを破壊しなければならないため、
すべてのペガッサ星人を
地球上の安全な場所へ避難させるよう計らい、ペガッサシティからの脱出を勧告する。

だが、
母性の軌道修正すら出来ない地球人に、
ペガッサシティを破壊する科学力などあるはずない、と踏んでいるのか、
何度呼びかけても
ペガッサシティからは何の応答も無い。
衝突の時間は刻々と迫る。
焦る地球防衛軍。

そして、
やがてタイムリミット。
ウルトラ警備隊は悲痛な思いで爆弾を発射し、ペガッサシティを粉砕。
すべてのペガッサ星人の命を奪う結果となってしまう。

地球で独り爆破作業に取りかかって工作員は、
それを阻止したセブンから、
ペガッサシティが壊滅した事を告げられ、
怒りと悲しみの中、
どこかへ姿を消してしまう。

ペガッサ星人にも地球人にも
相手を傷つける意思は無かったのに、この哀しすぎる結末。
全49話もある『ウルトラセブン』が、
放送第6話にして早々に、
地球人を “善”、宇宙人を “悪”、とした設定が崩れてしまっている事を含め、
実に興味深いエピソードである。



  ペガッサ星人

         
       ブルマァク製 スタンダードサイズ、
  全長約24センチ(向かって右側の人形は輸出版)。


        ブルマァク製 特大サイズ、全長約35センチ。

スマートでスッキリしたフォルムが魅力。
実物とは異なるカラーリングだが、
白と水色の組み合わせがなんだか涼しげで心地よく、
スマートな印象をさらに際立たせている。

      ブルマァク製 ミニサイズ、
全長約11センチ。 


      ポピー製 キングザウルスシリーズ、全長約16センチ。

地味なカラーリングながら、
胸の部分の赤い塗装がメタリックであるがために、
心が通じ合える相手である事が
強調されて光っているように思えて、
劇中のペガッサ星人とのイメージの一致を感じる。
それだけに、
物語の結末に直結した哀しさもあり、
複雑な思いがこみ上げてくる人形だ。
 


              バンダイ製
ウルトラ怪獣シリーズ(ウルトラ怪獣コレクション)。
この初版人形のみ、全長約17センチで、
下の4体(2期以降)は、全長約16センチ。
 
                     
                     


    ギエロン星獣人形と同様、
並べてみると初版人形の迫力がわかる。
 


                  これは、
バンプレスト製のゲーム景品用人形、
全長約15センチ。


                     
                    あの時の工作員、
つまり、ペガッサ星人唯一の生き残りは、
おそらく今でも、
地球のどこかの暗闇(ダーク・ゾーン)に隠れているであろう。
工作員である立場や任務が明かされた時は、
幼心に複雑な思いがしたが、
本来は、まったくもって悪意の無い、善良な宇宙人。
なので、
もしも彼が僕の部屋へやってきたら、
歓迎して、
アンヌ隊員のように優しく接してあげよう。
きっと居心地良く過ごしてもらえるはずだ。
こんなに仲間もいる事だし(笑)。
↓↓↓
          


      それにしても、
地球に工作員として派遣されたからといって、
なぜ、彼はアンヌ隊員の部屋に潜んでいたのだろう?
もしかしたら、
とんでもないスケベオヤジなのかもしれない(笑)。

まぁ、でも、
何はともあれ、
彼が侵入してくれたおかげで、
僕らはアンヌ隊員の部屋を見る事が出来たわけだから、
感謝しなきゃ(笑)。

 



             

『ウルトラセブン』の例外にして絶対外せぬ名エピソード、
とりあえず3本取り上げてみたが、
どれも、
まさに “SFドラマ『ウルトラセブン』” というお話で、
作品世界の充実を強く感じるばかりである。

ただ、
こういった例外な回が
番組の奥深さを語る上での代表作になってしまっているのは、
皮肉な結果のように思えて、
実はそうではない。
いつものような “侵略宇宙人” が登場しない、
つまり、
侵略者の魔の手から地球を守る、というテーマからズレたこれら作品は、
言わば、『ウルトラセブン』の変化球。
変化球は、直球に球威があってこそ活きてくるもの。
投球のメインである直球に力が無ければ、
変化球が勝負球になるなんて事はありえないのである。

例外な回が名作・代表作となり得たのは、
“侵略宇宙人” との戦いが描かれる通常の回が
魅力溢れる優れた作品群であった事の、何よりの証。
“侵略宇宙人” たちの
ユニークな個性、美しくてカッコいいその容姿には、
登場しない回をも輝かせてしまう、“魔力” が秘められていたのだ。

45年前、
ウルトラセブンの命がけの活躍によって地球は侵略されずに済んだのだが、
僕ら当時の子供たちの心は、侵略されてしまった。
魔力を秘めた容姿の、
“美しき侵略者” たちに・・・。

送り手である大人たちは、
地球人が “善”、宇宙人が “悪” という設定に苦しんだが、
受け手である僕ら子供たちは、
お話を完全に理解する能力が無かった分、
素直に、純粋に、
その異形なキャラクターの魅力を受け入れたのである。
ソフビ怪獣人形で楽しく遊ぶ僕らには、
正義の味方だろうが、悪者だろうが、そんな設定や役回りは
たいした問題ではなかったのだ。
最終回、
自分の正体がウルトラセブン(つまり宇宙人)である事を告げたダンに、

 「人間であろうと、宇宙人であろうと、ダンはダンに変わりないじゃないの」

と平気な顔で答えたアンヌ隊員のように。

ホント、屈託が無かったからなぁ、あの頃は(笑)。


あぁ、なんか無性に、第1話からまた見たくなってきた。
死ぬまでに僕はいったい何回『ウルトラセブン』を見るのだろう?
・・・って、
もうすでに数えられないほどの回数に達しているけど(笑)。



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