真水稔生の『ソフビ大好き!』


第64回 「コケたら起きて進むだけ」 2009.5

今から30年近く昔の話。
高校の体育祭のクラス対抗800mリレー決勝で、僕は第2走者だった。
5人中4位で走ってきた第1走者からバトンを受け取った僕は、
走り出してすぐ、確信した。

全員抜いてトップに立てる、と。

前を走っていた3人よりも、圧倒的に、僕の足の運びの方が、速くて力強かったのだ。
あっという間に縮まる距離。
第2コーナーをまわる手前辺り、早くも、前を行く走者達を完璧にとらえた。
ちょうどそこが自分のクラスの応援席の目の前だったので、
クラスメイトの声がはっきり聞こえた。

 「行けーっ! まみずーっ!」
     (※男子校だったので、黄色い声援ではありません)

クラスメイトも僕と同様に、
これから始まるゴボウ抜きを確信し、大声を張り上げたのだ。

僕がバトンを渡す第3走者は陸上部部員、
そして
第4走者(アンカー)は僕と同じ野球部で、足がめちゃくちゃ速いヤツだったから、
僕がこのノロマな前の3人を抜いてトップに立てば、
そのままブッちぎって我がクラスが1等になる事は、容易に予想出来た。
クラス対抗リレーで1等になれるのだ。
しかも、僕がヒーローだ。
胸が躍った。

だが・・・。

だが、なぜか、僕はそこでコケた。
何かにつまずいたわけでもないし、足がもつれたわけでもない。
気がついたら転倒していたのだ。

 「なぁにやっとるンだてぇ〜!」

クラスメイトの罵声とため息が聞こえた。
一瞬何が起こったのかわからなかったが、
顔を上げると、
前の3人は、もう遥か遠くにいた。
そして、
後ろにいた5位の走者に抜かれそうになり、
ハッとして僕は再び走り出した。

なんとか4位のまま第3走者にバトンを渡す事が出来たが、
残念で仕方なかった。
間違いなくゴボウ抜きで1位になれたのに・・・。
ヒーローになれたのに・・・。

その後、
第3走者と第4走者(アンカー)のおかげで、
最終的には2等という結果に終わり表彰はされたが、
クラスメイトも担任の先生も、あまり喜んではくれなかった。
僕がコケなければ、
間違いなく1等だったのだから。

何も、前の3人をゴボウ抜きしてヒーローになんかならなくていい。
ただ転ばず走りさえすれば、
僕がただ普通に走りさえすれば、
クラスは1等になれたのだ。
悔しい、と言うより、情けなかった。

おそらく、
ヒーローになれるという色気が出た瞬間に、
その気負いと慢心が
足の運びに微妙な別の力を加えてしまいバランスを失ったのだろう。


今にして思えば、
あれは僕の人生そのものだった。

僕は、何かにつけ、「さぁ、これからだ! 」と意気込むと、コケる。

サラリーマン時代、役職が付いて給料も上がり張り切っていたら、
数ヵ月後に会社が合併して経営形態や上司が変わり、
思い通りの仕事が出来なくなったため、退職。

劇団の養成所に通ってレッスンを受け、
試験に受かって
ようやく研究生という形で劇団員にしてもらえて喜んでいた矢先、
劇団が不渡りを出してしまい、倒産。

マイホームを建てて間もなく、
「愛情がなくなりました」と妻に告げられ、離婚。

再婚も、
式場選びを二人でするところまでいきながら、破談。

そんな事ばかりなのだ。
仕事も家庭生活も恋愛も、
“さぁ、これからだ” という時に、決まって駄目になるのである。

思うに、
物事が思い通りにいきかけると、
嬉しくて、つい助平根性が出て、思いあがってしまうのだろう。
別に浮かれているわけではないのだが、
どこか冷静さを欠き、心に隙が出来てしまう。

要するに、
地に足が着いていないのだ。
謙虚に、そして地道に歩まねばならない人生を、
地に足が着いていない状態でフラフラしているから、
肝心な時に僕はコケるのである。

高校の体育祭での転倒は、
そんな僕の、人生の縮図だったのだ。
弱冠18歳の僕に神様が送ってくれた、

 「人生は、地に足つけてしっかり歩きなさい」

というメッセージだったのである。

なので、
今までそうやって人生においてコケる度に、
 
 「あぁ、また地に足つけず夢を見ちゃったな」

と、自分の甘さを反省し、戒めてきた。


だが、最近、
別にそんな事は反省しなくてもいいのではないか、という気がしている。
幾度も同じような事を繰り返しているうち、
コケる衝撃にも慣れてきたし、
そうやって
甘い夢を見て自分に期待するからこそ
人生は楽しいものである、と思えてきたのである。

数年前に出演させていただいたテレビドラマの中で、

 「とてもツラい事があっても、少し楽しい事があれば生きてゆける」

という主人公のセリフがあった。
良いセリフ、と言うより、至言だと思った。
監督は、
なんだか説明じみてて嫌だ、という理由でカットしようとしていたが、
僕は、どうかカットしないでほしい、とお願いした。
僕のセリフでもないのに出過ぎた真似だったかもしれないが、
結果、カットされずオンエアされたので嬉しかった。

ほんの少しでもいい。楽しい事があれば良いのだ。
しっかりと地に足つけて人生を歩いていたって、コケる時はコケる。
コケないように気をつける事は大切だが、
コケても起き上がって再び歩けるように人生を楽しくしておく事の方が、
もっと大切なのである。

以前にも述べたが、
物事は納まるべきところに納まるものであり、
人生はなるようにしかならないのだ。
コケたのなら、それは最初からコケるべくしてコケたものなのである。
だったら、
少しの間でも夢見た方が幸せだ。
浮かれてはしゃぐのは、コケた時に恥の上塗りになるから避けたいが、
心の中でそっと助平根性を出すくらい、良いではないか。
そっちの方が素直で自然で無理がない。

そりゃあ、コケるのは痛いし辛いし恥ずかしい。出来るものならコケたくない。
でも、
コケる事を恐れて何事も無いつまらない人生を生きるよりも、
楽しく生きてコケた方が、断然幸せである。
普段から楽しく生きていれば、コケても起き上がれる。
甘い夢を見て、自分に期待して、楽しく生きていれば良いのだ。

だって、
コケようがコケまいが、時間は前にしか進まないのだから、
人は前を向いて人生を進んでいくしかないのである。

どんなにダメな自分でも、
楽しく生きていれば自分の事を好きでいられるし、
自分の事が好きなら、コケても平気。
また、頑張れるのだ。


先日、昨年の夏から勤めていたアルバイト先を解雇された。
仕事の内容もやりがいのある楽しいものだったし、
食えない役者業を支え補いながら生活するという事に理解があって、
出勤日数や就業時間にある程度の融通が利く、
最高の職場だった。
この春、
試用期間を過ぎて本採用となって給料も上がったので、
これから少しずつお金を貯めて、欲しいソフビをまたいっぱい買おう、
と、心の中でニヤついていた。
そんな矢先に、突然である。
そう、
またしても、“さぁ、これからだ” というところで、僕はコケたのだ。

この、100年に一度と言われている不況による会社の業績悪化が原因だった。
直属の上司は、
僕が毎日張り切って働いていた事を知っていたし、評価もしてくれていたので、
何度も人事にかけあってくれたが、覆らなかった。

 「君には何も問題は無い。
     会社側の都合でこういう事になり、申し訳ない」

と何度も頭を下げられた。
親身になって今後の相談に乗ろうともしてくれた。
突然に食い扶持を失う40代半ばの僕の生活を、心配してくれたのだ。

でも、僕は冷静だった。
そりゃあ、ショックだったし、残念だったし、淋しかったが、

 「あ〜あ、またコケたか」

と心の中でつぶやいた程度だ。

ホントに、もう慣れた(笑)。
それに、
100年に一度の不況は、僕が地に足つけて生きていないから起きたものではない。
精一杯頑張っていても、
駄目なものは駄目、コケる時はコケるのだ。

もっと賢く、もっと要領よく、気を張って毎日を生きていれば、
もしかしたら防げる事もあるかもしれないが、
そんな事が出来ないのが、僕なのだから仕方が無い。
僕が僕らしく生きて、コケてしまったのなら、それはどうしようもない事なのだ。

あんなに良いアルバイトにはもう巡り会えないかもしれないが、
約10ヶ月間、とても充実した楽しい日々を過ごせたし、
たかだかアルバイトの僕を
なんとか助けてあげようとする人がいた、という事実が、
僕を幸せにしてくれる。
強がりではない。
失った職場よりも、人の心に触れた経験の方が、
僕の人生には必要なもの、大切なものなのだと思うのである。

・・・とは言え、
とりあえず、次のアルバイト探さなきゃ。
貯金も一切無いのだし。
ソフビ大好き!・・・なんて言ってる場合じゃない(笑)。


そんなわけで、
今回は、
コケてもすぐに起き上がって明るく生きていこう、
という思いを込めて、
何度失敗してもめげずに頑張る、
愛すべきキャラクター・ロボコンのソフビを紹介します。




  バンダイ製 スタンダードサイズ
  全長約21センチ。
  中のメカニックが見えるように、と
  胸のエプロンのようなハッチが透明パーツになっているが、
  はっきり言って、
  この人形で遊ぶ子供たちにとっては、ありがた迷惑。
  実物と見た目のイメージが違ってしまうし、
  ハッチを開けると内部のメカニックが見える、というところに醍醐味があるのに、
  最初から丸見えでは意味が無いのである。
  しかも、
  そのハッチは実物どおり開閉可能に作ってあるので、
  透明である事自体にも意味が無いという、なんとも歯痒い人形なのだ。
  でも、それが、
  良かれと思ってした事が裏目に出てしまう、ロボコンのあの憎めないキャラクター性に
  なんとなく通じている気もするし、
  いかにも昭和のオモチャ、って感じがするので、僕は好き。



ポピー製ミニサイズ各種

 全長約10センチ。
 一見同じ人形に見えるこの2体、
 腕の取り付けの違いは
 作業上の単なるミスだと思われるが、
 目の部分は、意図的な差別化。
 向かって右側の人形は、
 両眼が、ペイントではなく、
 レンチキュラーのシールになっていて、
 見る角度によって、
 両目をパチッと開いていたり、
 ウインクしてたり、
 ニコニコ笑ったりしているように見える。
向かって左から、
全長約9センチ、8センチ、6センチ。
この3種は、
スタンダードサイズと同じ、
中のメカニックが丸見えの
“ありがた迷惑タイプ” だが、
ミニサイズという廉価版人形ゆえに
開閉するハッチが作られていないため、
オーバーホール中、
もしくは、
事故か何かでハッチが欠落したように見えてしまい、
なんだか痛々しい(笑)。






 
  これは、最近(と言っても、もう10年前)のロボコン人形。
  商品名は、がんばれ!!でっかいロボコン。バンダイ製。
  全長約48センチ、という大きなサイズが、
  なんといっても魅力。

  子供の頃見ていた『がんばれ!!ロボコン』のリメイク版である、
  『燃えろ!!ロボコン』が放映中だった時に発売されたもので、
  視聴者である子供だけではなく、
  その親である僕らの世代の興味も考慮して、開発された商品であろう。
  最初に紹介した昭和玩具のような “ありがた迷惑” な仕様には、当然なっていない。
  



 こちらは、むしろ僕らの世代のみをターゲットとして、
 3年前に発売された商品。
 バンダイのソフビ魂シリーズ。全長約15センチ。
 造形、質感、ともに実物そっくり。
 手の向きや微妙な脚の歪み具合など、
 最高のクオリティ。
 今にも動き出しそうな、究極のロボコン人形だと思う。

        同時にロボペチャ人形も発売された。
        ロボコン本人にしてみれば、
        愛しのロビンちゃんではなく、
        醜女ロボペチャとカップルみたいに扱われて、
        さぞかし不本意だったろうなぁ(笑)。



昭和49年秋から2年以上に渡って放送された『がんばれ!!ロボコン』は、
僕が中学へ上がる直前に終了した。
僕が素直な気持ちで楽しめた、最後の子供向け番組だった、と言える。
この、
ドジでおっちょこちょいでカッコ悪い真っ赤なロボットが
思春期を目前にした僕に教えてくれた事は、
何度失敗しても挫けず明るく生きていく事の尊さ。
あれから30年以上の年月が過ぎ、
この歳になって、
ようやくそれが実感出来るようになった気がする。

高校の体育祭のリレーで僕をコケさせ、
「人生は地に足つけよ」と諭してくれた神様には、なんだか申し訳ないが、
おそらくこれからも僕はコケ続ける事だろう。
だけど、
9回転べば10回起きるロボコンのように、明るくたくましく生きていきたいと思う。





それでは、
これから新しいアルバイトの面接に行ってきますので、今回はこの辺で。



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