第51回 「アースト論」 2008.4
アーストロンほどカッコいい怪獣はいないと思う。
昭和46年、
第2次怪獣ブームの幕開けとともに
『帰ってきたウルトラマン』の第1話に登場した怪獣である。
ゴジラと同じ二足歩行の恐竜型で、
スマートな美しいフォルムでありながら重量感のあるボディ、
鋭い角と巨大な尻尾を持ち、
凶暴な性格で口から火(光線)を吐き・・・、と
まさに“ザ・怪獣”といったキャラクターであり、文句のつけようが無い。
なのに、
いまひとつ人気が無い。
斯く言う僕も、アーストロンよりもタッコングやツインテールの方が好きである。
アーストロンの方が断然カッコいいと思うけど、
変な姿形をした、タッコングやツインテールの方に惹かれてしまうのだ。
つまり、
アーストロンは、
あまりにも怪獣らし過ぎて、個性に欠けるのである。
それは、
第1話に登場する怪獣の役目、あるいは宿命と言えるかもしれない。
『帰ってきたウルトラマン』には、
『ウルトラマン』や『ウルトラセブン』に出てきたものとは一線を画す新しいデザインの、
独特の姿形をした個性的怪獣が数多く出現するが、
それらを
より強烈なインパクトで登場させて番組を盛り上げていくには、
最初は基本的姿の怪獣を見せておかなければならなかったと思う。
視聴者に向けて、
『帰ってきたウルトラマン』はこういう番組ですよ、
こういう生き物が現れて暴れて、それをウルトラマンがこうやって倒しますよ、
という紹介を、
第1話ではしなければならない。
アーストロンはそれに使われた怪獣なのだ。
言ってみれば、
問題集の冒頭にある“例題”のような存在である。
“例題”が難問であっては意味が無い。
“例題”はあくまで“例題”。シンプルでわかりやすいものでなければならない。
個性の強い怪獣では成立しないのだ。
第1話からウルトラマンに勝つわけにもいかないから、
当然、ウルトラマンと互角の力を持つ、なんていう強い怪獣にもなりえない。
よって、
さほど印象にも残らないのである。
怪獣としては完璧な姿と特長なのに・・・。
でも、
これは、なにも怪獣に限った話ではない。
たとえば、アイドル歌手。
昔から、トップアイドルになるような人たちは、いわゆる完璧な“美”は持ちあわせてはいない。
山口百恵さんや小泉今日子さんには“足が太い”という難点が、
石野真子さんには“タレ目”とか“歯並びが悪い”とかの難点が、
松田聖子さんには“O脚”という難点が、
それぞれあった。
だが、それらは、実は難点ではない。
多くの人から愛される大切な要素、素晴らしい個性なのである。
ただスターとして憧れるだけではなく、
そういった、完璧な美にはちょっと欠けている、というところに
人はリアリティを覚え、好感を持つ。そして惹かれていく。
美しさが完璧だと、かえってその魅力を実感出来ず、
憧れはしても、惚れ込むところまで心を染められないのだ。
よって、
完璧な美人ではトップアイドルにはなれないのである。
アーストロンは怪獣で言えばその完璧な美人。
文句の付けようが無い怪獣であるがゆえに、哀しいかなトップに立つような人気が無いのである。
だが、
アーストロンがそうやって
己の個性を殺してまでしっかりと “怪獣” の基本を見せてくれたおかげで、
その後のウルトラシリーズ、いや、第2次怪獣ブームの全特撮番組の中で、
様々な新しい怪獣が誕生し、
華々しく光り輝く事が出来たのだと思う。
アーストロンを好きな怪獣の第1位にあげる人はあまりいないが、
アーストロンが嫌いだったり、アーストロンを否定したりする人も、まずいないと思う。
アーストロンとはそんな怪獣なのだ。
その昔、『どっこい大作』というテレビドラマがあった。
最終回で、
主人公の大作(演じるは、金子吉延さん)はパン職人の日本一を決めるコンクールに出場する。
修行と努力を重ね、美味しいパンを焼けるまでに成長した大作だったが、
残念ながら、コンクールでは
1位どころか3位までに入選すらしない、という結果に終わる。
だが、最後に、
審査委員長みたいな人(演じるは志村喬さん)が出てきて、
1位から3位までの職人が焼いたパンは確かにとても美味しいが、
高級過ぎて庶民が手軽に口に出来るものではない、というような事を説明。
大作の焼いたパンこそ、誰もが美味しいと食べられるパンであり、
大作こそ第1位、
大作こそ日本一のパン職人、と称えて大団円を迎える。
僕は幼心に、あれほど納得出来た解説はなかった。
今、それを思い出した。
番外にして事実上の1位、というものがあるものだ。
アーストロンは、それに該当する。
好きな怪獣ベスト3には入らないが、
もっともオーソドックスな姿・特徴の怪獣として
後発の多くの怪獣の個性を光り輝かせる土台を築いた功績は、疑う余地無く称賛に値する。
アーストロンは、誰もがカッコいいと認める怪獣。
アーストロンこそ、怪獣の中の怪獣。
アーストロンこそ、日本一の怪獣なのである。
ブルマァク製アーストロン人形 各種
人気がいまひとつ、とは言え、
第2次怪獣ブームの突破口を開いたメジャーなウルトラ怪獣。
『帰ってきたウルトラマン』放映当時は、
“怪獣バッテンガー”なる、
アーストロン人形が投げる球を付属のバットやラケットで打ち返す、なんてオモチャも発売されていたし、
ソフビ怪獣人形も、アーストロンはいろんなサイズで商品化されていた。
ジャイアントサイズ(全長約37センチ) シャープで力強い造形に ブルーメタリックの塗装が効いていて、実にカッコいい。 風格と品格の漂う、素晴らしい人形。大好き。 |
スタンダードサイズ(全長約23センチ) ジャイアントサイズと比べると、 ややスリムなフォルムのため、 グッと迫ってくるような力強さは無いが、 ブルマァクの美しい造形力を物語る、 綺麗に整ったその姿が、 アーストロンという怪獣の特有性を、 形象として客観化する結果となっている。 適度なデフォルメが施されているのに、 妙に実物のアーストロンに似ていて リアルな印象を受けるのは、そのためである。 |
ミドルサイズ(全長約13センチ) 2種類の型があるようだが、 どちらも凶暴な生き物の感じがよく出ていて、魅力的。 |
余談だが、数年前、
向かって右端の人形を復刻したいので
協力してほしい(要は、型を取るため人形を貸してほしい)という依頼が、
復刻プロジェクトに携わっていらっしゃる方からあった。
僕は、
金型が現存しないなら
無理して復刻品なんか作らなくてもいいではないか、と思ったし、
そもそも、
アンティークソフビを愛する者として、
ソフビの復刻プロジェクトには関わりたくないので、申し訳ないがお断りさせていただいた。
でも、
後から聞いたら、
“貸してほしい” ではなく “譲ってほしい” という事だったらしい。
型を取る際に汚したり傷つけたりする可能性が高く、無事返却する事を保障出来ないからだそうだ。
僕は絶句してしまった。
現存する数少ない当時のオリジナル品を汚したり傷つけたりしてまで、
復刻品を作る必要がどこにあるのか解らないし、
それも他人のコレクションを使って、だなんて・・・。
信じられない依頼だった。
誰が自分の大切なコレクションをそんな目に遭わすか、っつの!
でも、数ヵ月後、
おもちゃのイベント会場で
商品化されたその復刻アーストロンを見かけた。
いったい誰のコレクションが犠牲になったのだろう。黙祷。
ミニサイズ(全長約10センチ) ミニサイズ人形独特の、 いわゆる“チープさ”があまり感じられない造形で、 なかなかカッコいい。 実物の怪獣の着ぐるみを リアルに表現しながら綺麗にまとめあげる、 というブルマァクならではの作風が、 こんな小さな廉価版人形からも感じられるところが 素敵だ。 |
ポピー製アーストロン人形 各種
以前にも述べたが、
昭和50年代半ばは、
バンダイ(ポピー)が、ソフビ怪獣人形という玩具において、
その造形をデフォルメすべきかリアルにすべきか模索していた時代(第15回「足型の足跡」参照)。
その頃のアーストロン人形には、そんな迷いが顕著に現れている。
キングザウルスシリーズ(全長約15センチ) 可愛く丸っこくデフォルメしすぎたため、 アーストロンの赤ちゃん、って感じに仕上がっている。 でもそれほど可愛くもない、 という中途半端な造形。 向かって右の3体は、 お菓子の賞品だったクリア成形バージョン。 |
ミニサイズ(全長約11センチ) 色はキングザウルスシリーズと同じだが、足型はモールドされていない。 ミニサイズなので当然キングザウルスシリーズより小さい人形なのだが、 造形的には、 赤ちゃんみたいだったキングザウルスシリーズが大きくなって、 “悪ガキ”に育った感じ。 どっちにしても、なんだか中途半端な印象である。好きだけど。 |
バンダイ製アーストロン人形 各種
昭和58年の初版発売から現在に至るまでの、
25年間にもおよぶバンダイウルトラ怪獣シリーズの長い歴史の中で、
なんとアーストロンは
ただの一度もラインナップに入っていない。
有名どころの怪獣はもうほとんど商品化されたし、
子供向けというよりはマニア向けと思えるようなチョイスで
かなりマイナーな怪獣までもが商品化されているのに、
なぜか、アーストロンは外されているのだ。
あまりに個性が無いため目立たず、
バンダイも商品化するのをすっかり忘れてしまっているのではないか、と思われる。
また、僕の周りのソフビファンの間でも、
数年前にラインナップ入りした恐竜戦車やペスターなどの特殊な姿形の怪獣については、
商品化されるまで
「カッコいい怪獣なのに、なんで出ないンだろう」
「欲しいよなぁ」
といったような、発売を熱望する会話がちょくちょくされていたが、
アーストロンに至ってはそういった類の声は聞かれない。やはり忘れてしまっているのだ。
よって、
バンダイのアーストロンソフビは、
現時点で、ミニサイズ人形の3種の発売のみ、という地味な展開に、とどまっている。
そのウルトラ怪獣シリーズ(ウルトラ怪獣コレクション)が 発売され始めた頃だから、 昭和58年か59年に発売されたミニソフビ。 ほかにはグドンやアストロモンスなどがあった。 全長9約センチの小さな人形ではあるが、 凶暴性をしっかりと表現したシャープなタッチで、 リアルな造形のソフビが当たり前となる時代の“幕開け”を感じる。 |
上記から10年くらい経った頃に発売されたミニソフビ。 つまり、平成に入ってからの商品。 記憶が正しければ、 “ウルトラマン全集”という商品名の食玩だったと思う。 全長約8センチで、ほかにはペギラやキングジョーなどがあった。 |
これは『ウルトラマンマックス』の頃だから、2〜3年前の商品。 ウルトラマン対決セットという食玩で、帰りマン人形とセットだった。 全長約10センチ。カッコいい。 ほかにも、 セブンとエレキングのセットや エースとカメレキングのセットなどがあったし、 現在でもこのシリーズは続いている。 |
お菓子のおまけもいいけど、
バンダイには、やはりウルトラ怪獣シリーズとしてアーストロンを商品化してほしい。
カッコいいアーストロン人形、
今の時代の、アーストロンのスタンダードサイズソフビを、
僕は見てみたい。手にしたい。味わいたい。
リアルな造形のソフビ怪獣人形として世に出れば、
アーストロンがいかにカッコいい怪獣であったか、という事が再認識されるだろうし、
番組を見た事がない子供でも、
オモチャ屋で出会ったそのいかにも怪獣らしいカッコいい人形に、心惹かれると思うンだけどなぁ。
昭和48年、犬山ラインパークにて。 体のほんの一部しか写っていないので誠に残念だが、 向かって左端にチラッといるのは、 まぎれもなくアーストロンである。 こんなデッカい作り物が遊園地に建っていた事からも、 当時の怪獣ブームの盛り上がり度の高さが伝わってくるし、 アーストロンが当時決してマイナーな怪獣ではなかった事が うかがえる。 そして、 こんな凄い物をちゃんと写真に収めていないところに、 当時の大人たちの“怪獣”に対する思い入れの無さが うかがえる(笑)。 中央の遊具の中にいるのが僕だが、 この時、 バックの帰りマンやアーストロンの巨大像を、 当然、全身写してくれているもの、と思い込んでいた。 現像されてきたこの写真を見て、唖然とした事を憶えている。 大人ってバカじゃないか、と思った(笑)。 でも、もしかすると、 個性の無い怪獣であるがゆえにその存在が当たり前すぎて、 大人たちは別に凄いとも珍しいとも思わず、 全身像を撮影する必要を感じなかったのかもしれない。 |
・・・それにしても、
帰りマン像の支え方、ほかに方法無かったンかいな(笑)。