真水稔生の『ソフビ大好き!』



第29回 「ジューシィ・フルーツ 対 仮面ライダースーパー1」  2006.6


80年代前半、
ジューシィ・フルーツという大好きなバンドがありました。

近田春夫さんプロデュースによるグループで、
メンバーは、
柴矢俊彦さん(ギター)、
イリアこと奥野敦子さん(ヴォーカル&ギター)、
沖山優司さん(ベース)、
高木利夫さん(ドラム)、
の4人。

リーダーの柴矢さんは、
あの『おさかな天国』の作曲者として近年また脚光を浴びました。
ファンとしては嬉しい限りです。

あいざき信也さんのバックバンド出身である柴矢さんは、
ジューシィの頃も、
ギタリストとして御自身が前に出てガンガンやるというよりは
一歩下がって他のメンバーの個性を上手く引き出しながら楽しいサウンドを作り上げる、
といったスタンスをとっていらっしゃったように思います。
グループ解散後に
作曲家やアレンジャーとして活躍されているのも納得です。

そんな柴矢さんがまとめあげていたジューシィのサウンドは、
“おしゃれなエレキ歌謡” といった感じで、
とても魅力的でした。

当時流行っていたテクノポップを
“遊び心” で取り入れたデビュー曲『ジェニーはご機嫌ななめ』がいきなり大ヒットしてしまったので、
ピコピコした音やニューウェーヴのイメージが強いのですが、
ジューシィは、本来、
生粋のミュージシャンが集まったロックバンドです。

アイドルのように清潔感溢れる爽やかなルックスでありながら、
マニアックなセンスと確かなテクニックを合わせ持つ、実にニクい人達でした。
なかでも、
沖山さんの踊るようにしなやかなベースと
高木さんのタイトなドラムのコンビネーションは絶品で、
ライヴのDVDを今見ても惚れ惚れします。カッコいいです。

僕は、
沖山さんがチェリーを吸っているのを見て、自分の煙草もチャリーに変えたし、
高木さんが鼻の下に髭を生やし始めたのを見て、真似して自分も鼻の下に髭を蓄えたりしました。
音楽もファッションも、
ジューシィのやる事なす事すべてが、とにかくカッコよかったのです。

原宿のビルの屋上でビートルズみたいにいきなりライヴをやった、というニュースも衝撃的でしたし、
4枚目のアルバム『27分の恋』が出た時は、
よくアーティストの方が口にする「良い意味でファンを裏切る」という言葉の意味が、

  ああ、こういう事なんだぁ、

と初めて具体的に理解出来た気がして感動しました。
名盤でした。
大瀧詠一さんの『A LONG VACATION』と出会ったのもこの頃で、
洋楽しか聴こうとしない友達に

  「日本のポップスはおもしろいゾ」

って、よく主張したものです。

また、
ジューシィのメンバーの最も尊敬できるところは、
テレビ番組などに出演した際に、
ミュージシャンを気取るような態度を一切しなかった事です。
アイドル歌手やお笑いタレントの方々と一緒になって明るく楽しくはしゃぐ姿に、
僕は “大人の余裕” を感じました。
心底、素敵な人達だと思っていました。

イラスト:香坂真帆

そんなわけで、メンバー全員が憧れの対象でしたが、
やはり、
ヴォーカルのイリアさんの魅力には特別シビれていました。

当時は、女性がエレキギターを弾きながら歌う、というスタイルはとても珍しい事でしたし、
イリアさんの場合はそれもリードギターでしたので、
強烈なインパクトがありました。
日本のロック界に女性ミュージシャンの確固たる地位を築き上げた功績は
絶大なる称賛に値します。

また、
ミュージシャンとしてだけではなく、
ひとりの女性としても、イリアさんはとても魅力的でした。
美人で可愛くてカッコよくてセクシーで、ちょっぴり天然で・・・、
憧れる女性の魅力の要素すべてが、彼女には備わっていたのです。

年上の女性に憧れる年頃だった事もあり、
僕は完璧に虜になってしまいました。
友達が聖子ちゃんだキョンキョンだと騒いでる中、僕は独りイリアさんに夢中。
息苦しくなる程好きでした。

“好きな芸能人” というよりは “片想いの彼女” って感じて思いつめていて、
ポスターや雑誌の切り抜きなどには
「イリア」ではなく「あつこ」って本名で話しかけていました(アブナイなぁ(笑))。

だから、
いつも彼女の汗がかかるくらいの前の席で観ていたライヴでも、
みんなが「イリアーっ!」って叫ぶ中、
僕だけは「あつこーっ!」って叫んでいました。叫び続けていました。
解散コンサートの時、
そんな僕にイリアさんは微笑んで言いました。
 
  「私のこと、そうやって呼ぶの、キミだけよ。いつもありがとう」

あの瞬間、
僕の片想いは遂に彼女の心に届いた気がしました。そう思い込みました(笑)。

  「今日は人生最高の日だ!」

と心の中で叫びました。

それが解散コンサートだった事もあり、
きれいに心の整理がついて、
大好きだったバンドを、憧れの女性の微笑みとともに
清々しく胸の奥にしまう事が出来たのです。
イリアさん、ありがとう! 


そんなイリアさんへの熱い想いは、
『イリア大好き!』というエッセイ連載の話でもあれば(笑)、たっぷり語らさせていただくとして、
本題に入ります。

高校1年の冬、ジューシィの新曲を買おうとレコード屋さんに出かけた時の事です。
発売日という事もあり、
入り口近くの見やすい場所に
それは置かれていたので、すぐに見つける事が出来ましたが、

そのレコードジャケットのイリアさんの美しい微笑みに手を伸ばした時、
ふと、となりのレコードが目に入りました。
それは『仮面ライダースーパー1』の主題歌レコードでした。

そのレコード屋さんは
入り口のすぐそばが子供向けコーナーだったので、
本日発売の歌謡曲のレコードと
子供向けTV番組の主題歌レコードが
偶然並んでいたのでした。

ジューシィのレコードをつかむはずの僕の手が止まりました。
僕は『仮面ライダースーパー1』の主題歌が大好きだったのです。

当時、部活で毎日帰りも遅かったし、
何より高校生という年齢的な問題から、
『仮面ライダースーパー1』の放送を毎回毎回真剣に見るという事はありませんでしたが、
ライダーキッズとして、
テレビで仮面ライダーシリーズがやっていれば、やはり気になります。
放送開始から
その時すでに数ヶ月が経ってましたので、
どんな主題歌か、という程度の興味や知識はありました。
いい歌だなぁ、ってずっと思ってました。

仮面ライダーシリーズをはじめとする数々のヒーロー主題歌を生み出した、
ヒーロー主題歌界の大御所・菊池俊輔さん作曲によるそのスーパー1の主題歌は、
メロディが繊細でとても美しい上に、
主人公・沖一也を演じた高杉俊介さんの心のこもった歌唱によって、
歌詞の内容が感動的に伝わってくる名曲です。

この歌詞は、ホント、実に泣かせます。

スーパー1は、
元々は国際宇宙開発局の惑星開発用改造人間であり、
怪力を発揮したり光線を発射したり出来る5種類の腕・ファイブハンドを
戦いの状況によって使い分ける事が出来る、
という、
科学力の面で非常に優れた仮面ライダーですので、
主題歌の歌詞も、
当然そのファイブハンドの優れた科学力を誇り、
サビの部分で、

  “海を 山を 故郷を 五つの腕で守る”

と言っています。

しかし、
そのすぐ後で、

  “五つの愛の腕で”

と言い直します。
“愛” を付け足して言い直すのです。
そこがたまりません。
ただ優れた科学力で人々を守るのではなく、根底にあるのは “愛” なのだ、
と説いているのです。

小学生の時に
『仮面ライダーX3』の主題歌レコードを聴いた時も同じような感動を受けた事があり、
それを思い出したりもします。

X3も、
1号の技と2号の力を受け継いだダブルタイフーンをはじめとする多くの秘密能力や
新サイクロンの発展系とも言えるスーパーマシン・ハリケーンを所有するという点で、
その当時では最も科学力の優れた仮面ライダーでしたので、
主題歌も、
1番では

  “力と技の風車が廻る”、

2番では

  “車輪と羽が怪人倒す”、

と、その優れた科学力を誇示した歌詞になっています。
しかし、
それでいながら、3番では、

  “正義と愛が世界を守る”

と歌い、
やはり最後は “愛” だと説くのです。

力と技の風車が廻って車輪と羽で怪人を倒すけど、世界を守るのは正義と愛なのです。


そんな、
 
  人々を守る優れた科学と無敵の強さの根底には “愛” がある、

という仮面ライダーのメッセージは、
幼い頃から、僕の涙腺を緩ませる感動の鍵でした。


悩みました。
最初の予定通り大好きなジューシィの新曲を買うか、
それとも、
少年時代から崇拝している仮面ライダーの、“愛” の歌を買うか、
僕は真剣に悩みました。
(両方買うお金は持っていませんでした。健気でかわいい話です)

そして散々悩んだあげく、
僕はジューシィを選びました。
その時、
仮面ライダーより好きなものが出来ている自分に、僕は初めて気づいたのです。
大人になったンだと実感しました。
と同時に、
何か淋しいような気もして、複雑な気持ちになりました。

でも、この選択はとりあえず正解でした。なぜなら、帰り道で同級生とばったり会い、

  「レコード?
   何買ったの?
   おっ、ジューシィの新曲かぁ。今度貸してよ」

と言われたからです。
もしも僕がスーパー1の主題歌を買っていたら、

  「レコード?
   何買ったの?
   仮面ライダースーパー1?
   なんじゃ、それぇ?
   お前、何歳だぁ? 馬っ鹿じゃねェの〜」

などと言われて傷つき、さぞかし不愉快な思いをした事でしょう。
現在のように

  「俺は仮面ライダーが好きだ!
   それの何が悪い!?
   良さがわからんお前の方が馬鹿だ!」

などと、堂々と言えるような心意気やポリシーは、高校生の頃の僕にはありませんでしたので。
 

そんな小さな心の葛藤の末購入したジューシィの3枚目のシングル『十中八九NG』は、
悩んだ甲斐のある、
聴き応えたっぷりの実にカッコいい曲でしたが、
B面の、
『抱きしめられて気づいたの』というバラードは更に素晴らしく、
何度も何度も繰り返し聴きました。

ゆるやかな美しいメロディと、
男と女のシビアな関係を歌った切ない歌詞が、
仮面ライダーを選ばず大人になった事を自覚した複雑な気持ちに、深く深く染み入りました。

実は、
数あるジューシィの曲の中で僕がいちばん好きなのは、この『抱きしめられて気づいたの』で、
20年以上経った今でもよく聴いています。
ただ、
シングルのB面、というマイナーな曲ゆえ、
これがいまだにCD化されておらず、
当時レコードから録音したカセットテープをいつも聴いている次第です。

ファンとしては一日も早いCD化を希望していますが、
ジューシィを聴く事自体が “心の時間旅行” という、懐かしさに酔う行為ですので、
カセットテープは
それに彩りをそえてくれる結構重要なアイテムなのかもしれません。

 
そのレコード屋さんの一件以来、

  ジューシィのおかげで仮面ライダーを卒業した、

と思っていた僕でしたが、
それが勘違いであった事は言うまでもありません。
数年後には
ソフビ怪獣人形のコレクターになって、
仮面ライダーをはじめとするヒーローや怪獣の人形を夢中で探しまわって必死に集めるわけですから。
やれやれ、です(笑)。

僕がコレクションを始めた頃は、ゴールドラッシュの後のそのまた後。
先輩コレクターや業者の方々に
古いオモチャはことごとく掘り当てられ、
マルサンやブルマァクのソフビ怪獣人形は、日本中どこのオモチャ屋さんの倉庫にも
ほとんど残っていませんでした。
でも、
スーパー1人形程度の古さのものなら、
倉庫の隅っこに若干転がっていたり、時には店頭に残っていたりしたので、
比較的楽に入手する事が出来ました。
それでも、当時乗ってた自家用車の買い替え時期が1、2年早まるくらいは、走って探しまわりましたが。

不要なオモチャもいっぱい買いました。
目当てのソフビだけ買って帰るわけにいきませんし、
目当てのソフビがなかった場合でも、何かは買って帰らなければ、
倉庫の中を見せてくれたお店の方に失礼ですから。
仮面ライダーなどのキャラクターものとは何の関係もない、積み木やぬりえや双六ゲームなどを
車のトランクいっぱいに積み込んで遠方から帰ってきた時は、
呆れた表情の家族から

  「もう、やめたら?」

って言われました。
ガソリン代もばかにならないし、当然の忠告だったと思います。
それでもやめませんでした。
高校生の頃と違い、

  「仮面ライダーが好きで何が悪い!?」

と自信を持って言えるようになっていたし、
仮面ライダーの人形を夢中で探しまわって必死に集めるという事が、
僕の仮面ライダーへの愛情の証、
延いては、
この時代の日本に生んでくれた両親や神様への感謝の印、
だと思っていたからです。
その気持ちや考えは現在でも変わりません。

だけど、
たとえばスーパー1人形ひとつ手に入れるのに、
かかった経費(交通費や余分に買ったオモチャ代など)も代金に加算して考えると、
最初から専門店に出かけてプレミア価格で買った方が、結果的には安かったような気はします(笑)。

ファイブハンドのうち、
平常時のスーパーハンド(銀)と
怪力を発揮する時のパワーハンド(赤)の
2種の手袋が人形1体に付いていて、それを付け換えて遊べる人形。

スズメバチをモチーフにしたと言われるスーパー1のマスクは、
ライダー史上初の“吊り目”でしたが、
このポピー製の人形は
その印象的な目に、
塗装色のバージョン違い(メタリックレッドとシャインレッド)があるので、
それぞれ入手して、
それぞれに違う手袋をはめて並べてみました。ちょっと贅沢です(笑)。
マフラーも手袋もしていない真っ黒の人形は、塗装前の試作品。

スーパー1の優れた科学力は
ファイブハンドだけではありません。
なんとバイクを2台(Vジェットとブルーバージョン)所有してました。
物質的にも恵まれた、
まさに “スーパーライダー” だったンですね。

これは、
ライダーとバイクが一体成形になってるミニソフビで、
台車を差し込みコロ走行させる事も可能。メーカーはもちろんポピー。


自分の年齢が “おやっさん” と同じくらい(ひょっとすると年上)になってしまった現在、
仮面ライダーのレコードよりもロックバンドのレコードを選んで大人になった気でいた高校生の頃は、
なんだかくすぐったくて、
オモチャで遊んでいた幼い頃とは違った懐かしさを感じます。
今夜あたり、
また、ジューシィのカセットテープを聴きながら “心の時間旅行” に出かけてみようかな。
スーパー1の人形を片手に・・・。

                                  

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