真水稔生の『ソフビ大好き!』


第269回 「どこがやねん!」 2026.6







これは、今から30余年前、サラリーマンだった頃の僕。
今回は、
この頃の、この風貌にまつわるお話を、させていただこうと思います。 

朝の出勤時に、よく、エレベーター付近や廊下ですれ違うおばちゃんがいました。
僕が勤める会社のオフィスが入っているビルの、掃除をして下さっている方だったのですが、

 「おはようございます」

って僕が挨拶すると、
いつも決まって、「気をつけ!」って号令をかけられたみたいに直立不動の姿勢になって、
深々と頭を下げて挨拶を返してくれるンですよね。
なので、

 なんて礼儀正しい人なンだろう・・・。
 けど、そこまでされると、された方がちょっと恥ずかしいなぁ・・・、

なんて思ってたのですが、
或る時、それを同僚の女性社員の子たちに話したら、

 「あの人、真水さんの事、秋篠宮さまにそっくりだ、って言ってましたよ。
  だから、じゃないですか?」

って言うンです。

僕は、飲んでたお茶を思わず吹き出しそうになりました。

なんでも、以前から度々、

 「ねぇねぇ、あんたンとこの会社に、
     秋篠宮さまにそっくりの人がおるでしょう?」

って話しかけられていたものの、
思い当たる人はいないし、いったい誰の事を言っているンだろう?って
女性社員の子たちの間でずっと謎になっていたそうなのですが、
それが、ちょっと前に、
たまたま、その子たちとおばちゃんが話している近くを僕が通った際、

 「ほれほれ、あの人、あの人・・・」

って、おばちゃんが僕を指さした事で判明したそうなのです。

なので、

 なるほど、そうか。
 だから、あんな、いつも直立不動になって挨拶してくれてたンだぁ・・・、

と合点がいきました。
そして、

 ・・・けど、
 いくら秋篠宮さまにそっくりだと思うにしても、
 ニセモノの一般庶民だ、って事は判かってるンだから、
 べつにフツーに挨拶してくれればいいのになぁ・・・、

とも思い、笑えてきました。

なので、

 「可笑しいね、あのおばちゃん・・・」

って言ったら、
その女性社員の子たちも笑ってくれたのですが、
涙まで流してずっと笑いこけてるものですから、
その笑い方に違和感を覚えて、

 「そんなに笑える?」

って確認したところ、

 「だってぇ・・・、
  真水さんのどこが秋篠宮さまにそっくりなンですかぁ?
  ただ背が高くて髭をはやしてるだけじゃないですかぁ~」

とか、

 「とんだプリンスがいたものですね」

とか言いながら、
めちゃくちゃバカにするンですよね。

・・・笑ってる箇所が、僕とは違ってたンです。

“僕を秋篠宮さまにそっくりだと思って直立不動になる掃除のおばちゃん” の、
“直立不動になる” ってところでなく、
そもそもの “僕を秋篠宮さまにそっくりだと思って” ってところで、
その女性社員の子たちは爆笑していたのでした。

もちろん、
自分でも飲んでたお茶を吹き出しそうになったくらいですから、

 どこがやねん!

って思いましたけど、
そんなふうに傍若無人に嘲笑われると、つい、ムッとしてしまい(苦笑)、

 「いやぁ~、出ちゃうンだなぁ、やっぱ、“育ちの良さ” が・・・。
   “品格” というか “気高さ” というか、そういうのがサ。
  まぁ、キミたちのような卑しい人間には解からないだろうけど・・・」

なんて、嫌味ったらしく言い返してしまいました。

けど、すぐに、
そんな、器が小さく大人げない “素” を晒してしまった自分が情けなくなり、

 やいやい、掃除のおばちゃんよぉ!
 こんな僕の、どこが秋篠宮さまやねん!
 おかげで、なんか知らんけど、恥かいたやないか!

と心の中で、激しく八つ当たりをしたものです(苦笑)。


・・・ところが、数ヶ月後、こんな出来事が起きます。

今度は出勤する平日ではなく、公休日である土日の話なンですけど、
その土日の休みを利用して、
東京へ、アンティーク・トイ・ショップ巡りに出かけた際、
行きの新幹線の車内で、
僕の隣の席に座っていた御婦人が、おもむろに、

 「秋篠宮さまに、すごく似てらっしゃいますね」

って話しかけてきたのです。

僕は、

 あんたも、そんな事言うンかいっ!

って驚きながらも、
「真水さんのどこが秋篠宮さま?」と僕を嘲笑った同僚の女性社員の子たちの事を思い出し、

 ほれみろ、あのブスどもめ!

と、内心、ほくそ笑みもしました(笑)。
そして、そのまま、

 やっぱり僕は秋篠宮さまに似ているンだ、

という、厚かましいにも程がある心得違いに酔いながら、

 「え? そうですか・・・?」

なんて、ちょっと気取っていると、
その御婦人は、
ちょうどその時に僕らの席の横を通った車内販売のワゴンを呼び止めて、ホットコーヒーを2つ注文し、

 「そっくりですよ。
  なんだか、とてもありがたい気持ちになりましたわ。よかったら、どうぞ。御礼です」

と言って、
その2つのホットコーヒーの1つを僕に手渡してきたのです。

僕は再び驚きながらも、

 「ありがとうございます」

と、再び気取って平然を装い、それを受け取ったのでした。


・・・めっちゃ嬉しかったですねぇ、あれは。
夢みたいでした。

まず、
僕が秋篠宮さまにそっくり、だなんて事を言ってくれる人が
掃除のおばちゃん以外にもいた事が凄いですし、
しかも、その人は、
それを理由に僕をありがたがってくれて、
新幹線で隣の席に座っただけの見ず知らずの関係でありながらコーヒーまで御馳走して下さったのですから・・・。
掃除のおばちゃんの直立不動と同等・・・あるいはそれ以上に、にわかには信じ難い事でした。

あんな経験、なかなか出来るものではありません。

ただ、悔やまれる事に、
その時の僕は
30代に突入するかしないか、っていう未熟な年齢(今でも、充分未熟ですが(苦笑))でしたので、

 「お住まいは名古屋ですか?」

とか、

 「東京へはお仕事で?」

とか、
その御婦人がいろいろ話しかけてきて下さったにもかかわらず、
それに対して、笑顔ではあったものの「はい」と「いいえ」で答えるだけで、
そこから会話を弾ませようとは、一切、しなかったンですよね。

べつにその御婦人の事がイヤだったり、会話をするのが面倒だったりしたわけではないのですが、
秋篠宮さまにそっくり、なんて言われて調子こいて気取ってたのもあったし、
何より、アンティーク・トイ・ショップ巡りに向かうところでしたので

 どんなソフビとめぐり逢えるかなぁ・・・、

とか、

 いい買い物が出来るといいなぁ・・・、

とか、って事で頭の中がいっぱいで、気持ちに余裕が無かったンですよね。
それに、
還暦を過ぎた今ほど、人との出会いを大切に考えていなかったような気もしますので、
“一期一会” って言葉の意味は知っていても、意識として身についていなかったンだと思います。

それこそ、
勤めている会社のビルの清掃のおばちゃんにも「秋篠宮さまにそっくり」って言われていたのですから、
その話をすれば、簡単に話は広がっていくし、
「東京へはお仕事で?」なんて聞いて下さったのですから、
仕事ではなく、休日を利用して、趣味で集めている昔の怪獣のオモチャを買いに行く旨を素直に伝えたら、
その御婦人も御自身の趣味の話なんかをして下さって、楽しく盛り上がったかもしれないし、
愉快なひとときを作る術は、いくらでもあったのに・・・。
なんなら、連絡先を交換し合って、
もしかしたら、そこからずっと付き合いが続いて、一生の友達が今より1人増えていたかもしれません。

・・・まぁ、
そこまでいくと想像を膨らませすぎかもしれませんが(苦笑)、
相手が僕に興味や好印象を持っていた以上、可能性はあったわけですからね。
ホント、もったいない事をしたものです。せっかくの出会いを無駄にしてしまいました。


とはいえ、
翌週、出勤して、早速そのエピソードを女性社員の子たちに自慢げに話し、
職場を笑顔溢れる明るい雰囲気にするのに、ちゃっかり使わせては、いただきましたけどね。
女性社員の子たちは、

 「そんな見ず知らずの人の “ざれ言” を真に受けて、うぬぼれるにも程があります」

とか、

 「前にも言いましたけど、どこが、ですか?」

とか言いながら、以前にも増して傍若無人に笑いこけてましたから(笑)。

今でも、
親しくなった人には必ず話して、

 「どこがやねん!」

ってツッコませて笑いを取る “鉄板ネタ” として、重宝しています。

・・・あ、そういえば、
その頃の僕は結婚していましたので、当然、妻にもこの話をしたのですが、
妻は、なんと、

 「じゃあ、私は紀子さまに似てる、って事ね」

と言って、
めっちゃ “ご機嫌” な感じになってました。

 それは違うやろ!

ってツッコもうかと思ったのですが、
本当に機嫌良さそうにしてたので、そのまま、そっとしておいたのを憶えています。

さすが、何かの間違いとはいえ一度は僕のところに嫁いできただけの事はあります。痛い女でした(笑)。


さてさて、
それではコレクションの紹介に参りましょう。
今回は、こちら、トゲナマズ
『変身忍者 嵐』に登場した、その名のとおり、ナマズの怪人(化身忍者)です。


秋篠宮さまといえば、
皇室で初めて博士号を取得した学者でもあらせられ、
一時期は “ナマズの殿下” とも呼ばれたくらい、
ナマズの研究者としても、世界的に知られてますからね。
今回はこのソフビを取り上げよう、と最初から決めてました。


ポピー製、全長約14センチ。

第65回「最後のチャンバラ世代」の中でもチラッと紹介した、
『変身忍者 嵐』放映当時(昭和47年)の商品です。
馬鹿みたいに口を開けていながらも戦慄を覚える不気味な顔は、
ほぼほぼ実物どおりの印象を与えてくれますし、
青みがかったグレーの成形色と銀色のスプレーの組み合わせで、
全身油まみれの感じや魚類ならではの生臭さも、
上手く表現されていると思います。
膝の部分も、ちゃんと黒くしてありますし、
まだまだ “ソフビはデフォルメ表現が当たり前” という時代の中、
実物の姿を可能な限り忠実に再現しようとしているその姿勢に、
ポピー(バンダイ)の先見の明を感じます。
         

ついでなので、
上の写真のようにトゲナマズ人形と闘わせて遊べる、同サイズの人形も紹介しておきましょう。
 
ポピー製、全長約16センチ。

顔の向きを、正面から向かって右に微妙にズラしてあるところがカッコいいです。
後頭部の髪も、向って左から右へ、かすかになびいている表現がなされているし、
人形にさりげなく “生気” を吹き込んでいる、原型師のセンスと気遣いを感じます。 


海賊版(いわゆる “パチモン”)の人形も、当時は流通していたようです。

全長約15センチ。

正規品と同じ型で、このようにひとまわり小さいので、
おそらく正規品から勝手に型取りしたものではないか、と思われます。


こちらも無版権の海賊版。
全長約17センチ、と正規品よりも大きいですが、
いかんせん、顔の仕上がりが雑。子供が描いた絵みたい。
けれど、
正規品から型取り、などという卑怯な手は使わない、パチモン人形の潔い心意気を感じます(笑)。 
背面の塗装、
なんと、正規品だけが、無情にもバッサリと省略されています。

 正規品よりもパチモンの方が心ある仕事がされている・・・(笑)、

昭和ソフビの面白いところです。




 ・・・それにしても、

改めて、

 どこがやねん!

どこが秋篠宮さまやねん! ・・・パチモンにもなれんわ(苦笑)。


・・・けど、
掃除のおばちゃんと新幹線の隣の席の御婦人、
嬉しい事言ってくれて、どうもありがとうございました。一生の宝物です。 







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