真水稔生の『ソフビ大好き!』


第263回 「幸運コレクション」 2025.12

 遠方に住む友人から、

 >今年は本当にいきなり冬になりましたが、
 >外のバケツの中で臨終待ちだったカマキリを保護して、
 >鶏のミンチを食べさせて飼ってます。
 >生餌じゃないので口元に持って行くと、カチカチと音を立てて食べます。

という書き出しのメールが届いた今日この頃です。

思わず、

 優しいなぁ・・・、

と声に出してしまい、ほのぼのとした気持ちになりました。

子供の頃は昆虫が大好きだったものの、
なぜか今では大の苦手(触れませんし、見るのも嫌)になってしまった僕と違い、
大人になってからもそんなふうに昆虫と向き合えるその友人が、ちょっと羨ましいです。
だって、素敵な事でしょ?

カマキリは “幸運をもたらす生き物”、と昔から言われていますので、
その優しくて素敵な友人の身に、近々、何か嬉しい幸せな出来事が起きるといいな、って思いますね。
そう祈っています。

・・・あ、
そういえば、カマキリには “祈り虫” とか “拝み虫” とか、っていう別名もあるンですよね。
鎌状の前脚を折り曲げている様子が祈りを捧げているように見えるのが由来とか。
神の遣い・・・、的な存在なのでしょう。
だから、遭遇した者に幸運をもたらすわけです。
もう、間違いなく、その友人には幸運が訪れますね。
よかった。


・・・ただ、
そんな縁起の良い生き物も、ショッカーの手にかかると、残忍な悪のモンスターと化してしまいます。
『仮面ライダー』第5話「怪人かまきり男」に登場した、かまきり男です。

本郷猛(すなわち仮面ライダー)の命を狙い、
更には、地下に配置した核爆弾を “かまきりの卵” なる起爆装置で作動させ、
人工地震を起こして都市を壊滅させようとする、
とんでもなく悪いヤツです。

とんでもなく悪いヤツですけど、
やっぱ、“昆虫の改造人間” という神秘的な不気味さに魅了され、
子供の頃(番組放映時の昭和46年~48年)、ソフビ人形を買ってもらって
夢中で遊び倒しましたし、
大人になってからも、下記のように、その当時のものを、
夢中で(笑)集めている次第です。

   
まずは、こちら。
バンダイ製 スタンダードサイズ、全長約28センチ。

今見ると、
頭でっかちで何やら不格好な造形ですが、
子供の頃の僕の目には、眩いほど美しく輝いて、それはそれはカッコよく見えていたものです。
商店街のオモチャ屋さんの店先に吊るされているのを、
息苦しいまでの垂涎の思いで、いつも眺めていた事を憶えています。
 

以前にも述べた事がありますが、
僕の母親は、

 小学生になったら、もう、怪獣のオモチャ(ソフビ人形の事)は卒業。
 そういうケジメをつけるのが、良い子、

って “圧”(笑) を、ずっとかけてきたので、
僕が小学1年生になると同時に放送が始まった『仮面ライダー』の、
その登場怪人のソフビ人形は、
なかなかおねだりしづらく、
また、意を決しておねだりしても、絶対にいい顔はされませんでした。

だから、買ってもらえた時は、めちゃくちゃ嬉しかったですね。 

確か、その日は授業参観の日で、音楽の時間だったのですが、
ハーモニカで『おうまのおやこ』と『メリーさんのひつじ』を
クラスのみんなはどちらか1曲しか吹けないところを、
たまたま僕だけ2曲とも両方吹けたので、
それを担任の先生が、

 この子は、いつも一生懸命練習してたから・・・、

みたいな事を言って、親たちの前で褒めてくれたンですよね。
なので、たぶん、母親の機嫌が良かったのでしょう、
学校から帰ると、ちょうど母親が買い物に出かけるところで、

 「一緒に行く?」

って、なんか、いつになく柔らかい表情で僕を誘うので、なんとなくついていったら、
オモチャ屋さんの前を通った際に、
いつもの癖で、吊るされてるかまきり男人形をチラッと見てしまった僕の視線に気づき、

 「欲しいの?」

って言って、買ってくれたンですよね。
ちょっと、びっくりしました。
ハーモニカを2曲とも間違えず吹けた御褒美のつもり、だったのかもしれません。・・・わかンないけど。 

ただ、まぁ、
御褒美だろうが気の迷いだろうが、買ってもらえさえすれば、こっちのものです(笑)。
その日の夜は、布団の中でその人形・その幸運を抱きしめて、歓喜の中、眠りにつきました。
そんな子供の頃の思い出があったので、
大人(コレクター)になって、
アンティーク・トイ・ショップ
(埼玉は川越のイヌクマさんでした)で
これを見つけて購入した際には、
涙腺が緩んだ事は言うまでもありません。
 
                   
               
 ・・・あ、そうそう、
先述のとおり、子供の頃は昆虫が大好きだったので、よく、近所の草むらに虫捕りに出かけてたのですが、
その際、
カマキリが鎌状の前脚で押さえ込んだバッタをバリバリとかじって食べている場面に、何度も出くわしたンですよねぇ。
それが子供心にえげつなくグロい印象だったがゆえ、強烈に、両昆虫の絶対的な力関係を認識していた僕は、
テレビで、
仮面ライダー(バッタの改造人間)が
かまきり男(カマキリの改造人間)を倒す様を観て、

 バッタがカマキリに勝つとは、
 『仮面ライダー』って、なんて夢のある世界の物語なんだ・・・、

と思ったものです(笑)。


以下は、ミニサイズの人形。 
 
  すべて、バンダイ製で全長約12センチ。 

ミニサイズの人形は、
駄菓子屋でも売っていた廉価版玩具でありましたので、
親におねだりしなくても、
お菓子やジュースを買うのを2、3日我慢すれば、お小遣いで買えました。
なので、当時は、スタンダードサイズのかまきり男人形よりもとうに早く、
ミニサイズのかまきり男人形の方を手に入れていましたね。

ただ、近所の友達が持ってた同人形と、
色が微妙に違っていたのを憶えています。
おそらく、
上の段の向かって左端と真ン中の違いだったのだろうと思いますが、
まだ、ほかにも、いろいろなカラーバリエーションがあったンですね。
収集癖を刺激する、これぞ、アンティークソフビの妙味。

  こちらは、
版権やメーカー名の刻印が無い、海賊版のミニサイズ人形。
いわゆる “ぱちもん” ですね。全長約11センチ。

前述の正規の商品に、かなり似せて作られていますが、
比べると、サイズが少し小さいのと、あと、モールドが甘いのが特徴です。 
 

・・・そういえば、
あれは、まだ『仮面ライダー』が始まっていなかったと思うから幼稚園の頃かな、
カマキリの卵(核爆弾の起爆装置じゃなくて、本当のカマキリの卵ね(笑))がくっついた茎を草むらで拾い、
それを虫かごに入れて、玄関の靴箱の下に置いておいたら、
或る朝、孵化して、
体長数ミリ程度ゆえその虫かごの網目をすり抜けた幼虫たちが、何百匹とウジャウジャ玄関を這いずり回っていて、
それを見た母親が発狂していた(笑)のを憶えています。

つぶして死なせてしまわぬよう気をつけながら、
全部、家の外へ逃がしてあげた後、

 ひどく怒られるかな・・・、

ってビクビクしてたけど、
ちょっと注意されたくらいで、あまり怒られなかったンですよね。意外でした。

思えば、あれも “幸運”、でしたかね。
僕なら、
もし、自分の息子が同じ事をしたら、
母親以上に、もっと発狂して、もっと怒っ・・・いや、ブチギレ倒しますもの(笑)。
だって、あんなの、
普通の大人の感覚からしたら、玄関にウジが湧いたのと同じですから・・・。
思い出すだけで蕁麻疹が出そう。絶対に許せません。

そう思うと、
僕の母親は、だいぶ、やさしかったですね。
おそらく、昆虫の事が大好きな我が子の気持ちに、極力、寄り添おうとしてくれていたのでしょう。
改めて、その愛が胸に沁みます。
お母さん、ありがとう。

・・・けど、僕、
結局、虫が嫌いな大人になっちゃって、そんなお母さんの我慢や苦労も水の泡。申し訳ないです(苦笑)。


これは、第6回「仮面ライダーソフビ讃歌」の中でも紹介した写真ですが、
サニーワールド長島(当時、三重県の桑名市にあった熱帯動物園)で開催された、
仮面ライダーショーに連れていってもらった際のものです。

駐車場に着いたら、そこを、
なんと、かまきり男が歩いてたンですよねぇ・・・。フツーに。当たり前のように。
心臓が口から飛び出そうになりました。

思わず駈け寄ったら、
左手の大きなカマで頭を撫でてくれたのですが、
嬉しいのか恐いのかよくわかりませんでしたね、自分でも(笑)。
とにかく、めちゃくちゃ興奮した事は確かです。
なんたって、生まれて初めて、テレビスターを “生” で見たわけですから。
あの感動・感激は、忘れられません。

カマキリは “幸運をもたらす生き物” って、先ほど述べましたが、
カマキリの怪人・かまきり男は、僕にとって “幸運そのもの” だったわけです。
       
    アトラクションショー用のコスチュームを着てただけのお兄さん・・・、とはいえ、
かまきり男を “生” で見て、
鎌で頭を撫でてもらった思い出や、
授業参観の際にハーモニカを間違えず吹けて先生に褒められた御褒美に
かまきり男の人形を買ってくれたり、
カマキリの幼虫の大群に発狂しながらも、
それを発生させてしまった僕をあまり責めず、
昆虫が大好きな息子の気持ちに寄り添おうとしてくれていたりした、
やさしい母親の気持ちを、僕は胸に抱きしめながら、
これからも、
この人形たちを大切に大切に愛していこうと思います。





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