真水稔生の『ソフビ大好き!』


第201回 「だけど、我慢汁が出ちゃう・・・、男の子だもん」  2020.10

漫画やテレビアニメを好きな知人が、
先日、ヤフオクで『アタックNo.1』のTシャツを購入したら、
それ以来、
“あなたへのおすすめ” として、
“体操服・ブルマ” もののエロDVDが表示されるようになったそうで、

 「ただ『アタックNo.1』が好きだから購入しただけなのに・・・。
  俺はべつにブルマフェチでもコスプレマニアでも無いンだけどなぁ・・・」

と苦笑いしながら嘆いていました。

まぁ、確かに『アタックNo.1』の主人公は
体操服を着てブルマをはいてますから、
その情報からコンピュータが無作為に抽出してるのでしょうけど、
コンピュータでなくとも、
個人の趣味嗜好(性癖も含む)なんて、その世界に興味や知識の無い他人には、
ほぼそれに近い受け止め方をされるものです。

以前、こんな事がありました。

この『ソフビ大好き!』の連載でお世話になっているゲイトウエイの杉林店長から、
或る日、

 「これ、要らないから返す」

と言われ、
レジ袋に入れられた数本のビデオを手渡されました。
なんと、それは、
スカトロもののエロビデオで、
閉められた店のシャッターの前に置いてあった、というのです。

もちろん僕が置いていったのではないので、

 「知らん、知らん! 僕じゃない」

と訴え、
慌てて杉林店長の手に戻しました。

おそらく、
常連客の誰かが営業時間外に来て、
杉林店長へのプレゼントとして置いていったンでしょうけど(どんな常連客やねん!)、
問題なのは、
杉林店長はなぜ置いていったのが僕だと思ったのか、という事です。

どうしても気になったので尋ねると、

 「そういうの(スカトロの事)、好きでしょ?」

との事。
・・・愕然としました。

この『ソフビ大好き!』の中でも何度か述べた事がありますが、
僕は団鬼六先生のファンで、
それを杉林店長も知っているので

 スカトロ → SM → 団鬼六 → 真水、

という思考の経路で、
僕にたどり着いたようなンですけど、
もう、解ってなさ過ぎて、ため息をつく気にもならないほどの脱力感を覚えましたね。

確かに、
団鬼六先生はSM官能小説で有名な作家で、
物語の中に
ヒロインが浣腸され満座の席で排泄させられるシーンがある作品もたくさんあります。
でも、それは、
そんな目に遭わされるヒロインの屈辱・恥辱に、
加虐性欲あるいは被虐性欲を持つ読者が思いを馳せ興奮するように、と
描かれているだけであり、
決して、糞尿への興味・性的嗜好によるものではないのです。

もちろん、
僕にも、そういった趣味はありません。

怪獣映画が大好きで、
怪獣が街を破壊するシーンを観て興奮しますが、
なにも、
そこで多くの人が死んだり大怪我したりする事に悦びを覚えるわけではありませんから。
それと同じです。

団鬼六先生の作品世界に、スカトロは無縁。
もっというと、
SMとスカトロは違います。別物なのです。

そんな事くらい、
僕よりも年上で、僕と何十年来の付き合いのある杉林店長なら、
当然理解してくれているものと思っていたのですが、
やはり、
冒頭で述べたように、
個人の趣味・嗜好に対する認識なんて、その世界に興味が無い他人からしてみれば、
それくらい皮相浅薄なものなのですよね。


・・・ってか、
常連客からスカトロもののエロビデオをプレセントされる、って事は、
杉林店長は
普段からその常連客とスカトロの話を嬉しそうにしているわけでしょうから、
僕ではなくて、
杉林店長が、スカトロ好きなンじゃないのか? って思います(笑)。

・・・まぁ、でも、かなり迷惑がっていたので、違うのでしょう。

誰やねん、ホント。
置いてくか? 店の前にそんなモン・・・(笑)。



ところで、
そんな団鬼六ファンの僕にとって、先日、とても嬉しい事がありました。
幻の作品『地獄夫人』が手に入ったのです。



この『地獄夫人』、なにゆえ幻かと申しますと、
昭和55年に笠倉出版社から出版されて以来、ただの一度も再販・復刻されておらず、
古本屋さんに入荷してもあっという間に売れてしまうし、
所有者がネットで売りに出したとしても、

 「・・・あなた、売る気、無いでしょ?」

ってボヤきたくなるほど法外な値段が付けられていて、
実際に現物を手に取る事も目にする事も、まず不可能、という代物なのです。

ただ、これ、
希少なものゆえ入手困難、っていう現状よりも、
団鬼六ファンとしては、
そもそも、再販・復刻されない “理由”が、悔しいのです。

どういう事か、といいますと、
まず、
この『地獄夫人』、
昭和51年に桃園書房から出版された『夕顔夫人』の、続編にあたる作品でして、
『夕顔夫人』と『地獄夫人』が揃って初めて物語が完結するのですが、
平成5年に、
『夕顔夫人』の方にだけ改変を加えた『新・夕顔夫人』なる作品が太田出版から発売され、
続編であるはずの『地獄夫人』と、お話が繋がらなくなってしまったのです。

しかも、
その後、団鬼六先生が亡くなられてしまったので、
『地獄夫人』の方は、
まったく手つかずのまま、“元の作品とお話が繋がらない続編” として宙に浮いてしまい、
再販・復刻の機会を永久に失ってしまった、というわけなのです。

そして何より、
この改変が、
はっきり言って、
『夕顔夫人』の面白さを理解していたとは到底言い難い無粋な編集者によって、
明確な目的や方針も無いままいたずらに手を加えられた、
いわば “改悪” でして、
その事が、なんとも残念でならないのです。

『夕顔夫人』は、

 華道の名門である弦月流の家元・島原夢路が、
 妹由利子とともに、
 罠にはめられ、
 嫌悪と侮蔑の対象であったアングラ華道の研究家にして変態サディスト女・柴田和江の手に落ち、
 その一味の者たちに凌辱され、言語に絶する屈辱・恥辱を味わわされる・・・、

という物語で、

 誇り高き絶世の美女が、
 その身分の高さや容姿の美しさを妬む下賤な連中に囚われて、
 凄惨たる責め苦と辱めを受け泣きじゃくるも、いつしか被虐性の情感に目覚めていく・・・、

という団鬼六ワールド全開の、ファンの間でも人気の高い作品。
代表作『花と蛇』や
最高傑作『鬼ゆり峠』や『肉の顔役』と並んで、実に読み応えのあるものです。

ところが、
『新・夕顔夫人』では、
その物語に、
天野菊雄という17歳の美少年を、
夢路の恋人として新たに登場させて、作品世界を無神経にぶち壊してしまいました。

本来、島原夢路というヒロインは、
名門華道の家元という古風で格式高い家柄に生まれ育ち、
外交官であった夫を早くに亡くし、
30歳手前と言う若さでありながら “貞女は二夫に見えず” という倫理観のもと暮している、身持ちの固い女性でした。
そんな、
品位のある、かつ、男日照りなヒロインだからこそ、
悪者どもの淫靡な責めに敗北して痴態をさらし、
異常な性愛による変態行為をも受け入れていってしまう、という崩壊・転落の、過激でダイナミックな展開が映えるのに、
そのヒロイン像を、
自分よりも10歳ほども年下の若い恋人がいて性に充分満たされている女性、にしてしまっては、もう、台無しなのです。

 若い男とやりまくっているSEX好きの年増女が性奴隷に堕とされたから、って、
 それが何やねん! 
 何がおもろいねん!
 そんな物語の、どこに醍醐味があンねん!

って話です。
 
これは僕だけの個人的意見でなく、多くの団鬼六ファンの共通の嘆きです。
それが証拠に、一時は、

 『新・夕顔夫人』の存在など無視して『地獄夫人』の再販・復刻を・・・、

と署名運動まで起きたくらいですから。

そりゃあ、団鬼六先生が執筆されたものですから、
加筆・修正されたシーンにも、魅力的な描写・台詞はありますが、
いかんせん、
なにゆえ島原夢路なのか、
なにゆえ夕顔夫人なのか、を
根本的に理解していない担当編集者による素っ頓狂な改悪ゆえ、
結果として
『夕顔夫人』という作品の価値を貶めてしまい、
さらには、
続編『地獄夫人』を、再販・復刻が不可能な幻の作品にしてしまったのです。

大罪だと思うンですけどね、これは。

改変・・・いや、改悪なんかしなければ、
今頃は、フツーに『夕顔夫人』とセットで『地獄夫人』も再販・復刻され、
多くの人に読まれて愛されていたでしょうに・・・。

本当に悔しいです。マジで。



・・・と、まぁ、そんなわけで、

 もう、一生、読む事は出来ないだろうな・・・、

と諦めていた『地獄夫人』が
超幸運にも手に入ったので、狂喜乱舞な今日この頃、というわけなのであります。

10代~20代前半の頃の気持ちに返って、むさぼるように読んでいる次第。

前作『夕顔夫人』で
囚われの身となり凌辱されまくった夢路と由利子ですが、
続編であるこの『地獄夫人』では、
さらに激しくいたぶられ、徹底的に辱められ、無残にも程があるくらい嬲りものにされたあげく、
性の奴隷として、
性技や珍芸を仕込まれる調教まで受ける事になります。

そんな哀れな美人姉妹のまさに “地獄” の日々に思いを巡らすと、
もう、興奮の嵐。
その勢いは、頁をめくる度に加速していき、止まりません。

柴田和江の一味の男たちは、
みんな、夢路に対して恨みや歪んだ恋愛感情を持つ者ばかり。
たとえば、
 
 長年、夢路に恋い焦がれて幾度か言い寄るも、
 袖にされて続けてきた弦月流の顧問弁護士・村上、
 
 弦月流の門下生にしてほしい、
 と夢路に懇願するも、
 そのいかにも変質者という外見の薄気味悪さから断られ、
 それでもしつこく付きまとったために、
 ついには夢路から平手打ちまで喰らってしまった経験を持つ松崎光雄、
 
 ホテルのサロンで夢路に一目惚れして口説こうとするも、
 痴漢扱いされて取り巻きにつまみ出されたあげく、
 通報され逮捕までされてしまった経験を持つ産婦人科医・西田・・・、

などなど。

そんな、
女々しくて卑しい連中に、
理不尽にも詫びを入れさせられ、
復讐の凌辱をこれでもかというくらい執拗に受ける夢路夫人と、
その側杖を喰って姉と同じ目に遭わされる妹・由利子・・・。

あぁ、もう、たまらん!
なんて素敵なファンタジー、 なんて素敵なカタルシス・・・。


最高だぁーっ!



こんな胸躍る世界を描いて下さった団鬼六先生に、改めて、心から感謝。
そして、
この幻の作品を入手させてくれて読み浸る機会を与えてくれた神様にも、心から感謝。

本当にありがとうございます。

・・・あぁ、幸せ。 









・・・というわけで、
今回は、
『地獄夫人』が入手出来ていつでも読めるようになった、この大いなる喜びを胸に、
“地獄” 繋がりで、地獄サンダーのソフビを紹介します。



・・・え?
こじつけも甚だしい?

いやいやいや、
団鬼六ファンの僕をスカトロマニアに結び付けた杉林店長の論理に比べたら、
ずっと道理に合った、平和的で愉快なものですよ(笑)。






地獄サンダーは、
『仮面ライダー』第26話「恐怖のあり地獄」に登場した怪人で、
“人口蟻地獄” を作り出して日本の幹線道路を次々と陥没させ、大混乱を起こす事が使命。

アリジゴクの改造人間なので、
毛虫の怪人から蛾の怪人へと変態を遂げたドクガンダーに倣うと、
ウスバカゲロウ(アリジゴクの成虫)の怪人へと変態するはずですが、しませんでしたね。 

まぁ、おそらく、

 ウスバカゲロウの怪人じゃあ、なんとなく弱そうだし、
 今回は幼虫のみ、にしておこう、

って、ショッカー内部の会議で決まったのでしょう(笑)。 

でも、
見てみたかったですね、ウスバカゲロウの怪人。
べつに弱くたっていいンですから、ショッカー怪人なんて(笑)。
それに、
ウスバカゲロウには “極楽トンボ” という別名もあるそうですから、

 幼虫が地獄で、成虫が極楽、

なんて、なんだかおもしろいし・・・。




バンダイ製 スタンダードサイズ、
全長約28センチ。
 
 






口の形が、小池朝雄さんを思い起こさせます(笑)。
なので、ジーッと見つめていると、

 「うちのカミさんがね・・・」

って言ってるような気がしてきます。

地獄サンダーのカミさん、って事は、地獄夫人ですね(笑)。
                                 
                                 
                                 
                             




バンダイ製 キングサイズ、全長約38センチ。

スタンダードサイズの人形よりも
洗練されたスマート感のある造形を目指すあまり、
両脇腹辺りに生えている長い棘を、省略してしまっています。
スタンダードサイズの人形よりもデラックスな商品なだけに、ちょっと残念ですね。
まぁ、でも、
スタンダードサイズ人形の方も、
上の、
ライダー人形と向き合っている写真を見ればわかるように、

 その長い棘が脇腹でなく背中から生えちゃってる、

っていう間違った造形なので、
どっちみち、
実物の怪人とは異なる見た目なンですけどね(笑)。
そもそも “棘” って解釈じゃないみたいだし・・・。 


 




ミニサイズ人形のみポピー製で、全長約10センチ。

チープな商品ながら、
ユニークな顔の特徴もよく捉えているし、
脇腹の長い棘(短いけど(笑))も生えてて(スタンダードサイズに倣って背中からだけど(笑))、
好感の持てる造形をしています。
ただ、
この黒い眼だけは、
塗装した人が
不器用だったのか雑な作業をしたのか、可哀想な仕上がり。

優れた科学力を持ちながら
作戦の詰めがいつも甘いショッカーという組織の、
その緻密さに欠ける体質を、まるで象徴しているかのようです(笑)。
 


ちなみに、
この地獄サンダーが登場する『仮面ライダー』第26話は、
大幹部ゾル大佐が、
首領の命を受けて、中近東支部から、日本支部の指揮官として着任してくる回。

ゾル大佐(厳しく恐ろしい上司)がやってくると聞いて
地獄サンダーが頭を抱えるシーンが、子供心になんだか印象的でしたが、
大人になった今、
あの時の地獄サンダーの気持ち、実感として、よく解りますね(笑)。


・・・そうそう、
大人になった今、といえば、
僕は今、この原稿を書きながら、しみじみと実感しています。

 男の子に生まれてきて本当に良かったなぁ・・・、

って。

だって、
子供の頃には “仮面ライダー” があって、
大人になったら “団鬼六” があって、
人生において、夢とロマンに不自由した時期が無いンですから(笑)。
幸せな事です、ホント。




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