第2回 「ああ、麗しのソフ美人」 1998.3
怪獣映画や特撮ヒーロー番組には、
魅力的な女性キャラクターがつきものである。
主役、脇役を問わず、変身ヒロインにしろ、変身しないお姉さんにしろ、
その存在感は、
見ている僕ら少年の心に、ヴァニラエッセンスにも似た、ほのかな甘い香りをふりかけてくれる。
代表的なところでは、
『ウルトラセブン』のアンヌ隊員や
『キャプテンウルトラ』のアカネ隊員、
『好き!すき!!魔女先生』の月ひかる先生に
『仮面ライダーストロンガー』の電波人間タックル、
最近では、
『ゴジラVSモスラ』のコスモスや
『超力戦隊オーレンジャー』の樹里と桃、
『ウルトラマンティガ』のイルマ隊長・・・、
といったあたりが、僕のお気に入りだ。
僕がこういう事を語ろうとすると、
すぐに「スケベ」だの「変態」だのと言い出す、うすら馬鹿な人達がいるが、
まったくもって嘆かわしい話である。
怪獣やヒーローの世界は男のドラマである。
男にしかわからない男のドラマだからこそ、やさしくてカッコいいお姉さんの存在は必須なのだ。
理想の女性像を追い求める、男のロマンといっても良いだろう。
アンヌ隊員が初恋の女性だという人、
『人造人間キカイダー』に出てきたモモイロアルマジロの変身シーンに興奮した人、
『がんば!!!ロボコン』のロビンちゃんを想うと胸がキュンとなる人、
アニーを見るためだけに、毎週『宇宙刑事シャイダー』にチャンネルを合わせていた人・・・、
それぞれの世代にそういう人達は必ず存在する。
それは別段おかしな事ではない。
いたいけで純粋な心を持つ少年であればこそ、当然沸きあがってくる感情なのだ。
僕の愛するソフビ怪獣人形でも、
そんな素敵な女性キャラクターが数多く商品化されている。
中でも、
メーカーや原型師が
“女性” を表現する事に気を配った造形の人形が僕は好きだ。
子供のオモチャだからといって決して馬鹿にしていない姿勢に感激してしまうからである。
上品な口元がなんとも味わい深いマルサンのアカネ隊員人形や、
しなやかな指先のラインが美しいブルマァクのウルトラの母人形が有名なところだが、
今回僕が紹介したいのは、
ブルマァクのオレンジファイター(550円サイズ)とバンダイの蜂女(Sサイズ)。
まず、オレンジファイターだが、
これは、
円谷プロの『トリプルファイター』という作品に登場した変身ヒロインで、
兄であるグリーンファイター、レッドファイターと合体変身してトリプルファイターとなり、悪者をやっつける、
といったキャラクター。
設定として、
長男のグリーンファイターは宇宙一優れた頭脳を持ち、
次男のレッドファイターは宇宙一強靭な体力を持つ。
そして、我がオレンジファイターは、宇宙一正しくやさしい心を持っている。
それをブルマァクは
造形において見事に表現しているのだ。
頭の良いグリーンファイターには
凛々しくて賢そうな表情を、
力の強いレッドファイターには
勇猛でたくましい表情を、
心の美しいオレンジファイターには
柔和で愛に満ち溢れた表情を、
マスクの造形においてそれぞれしっかりと表現している。
ひとつの造形で色だけ塗り分けたって売上はたいして変わりはしないだろう。
でも、
ブルマァクはそんな哀しいオモチャは作らなかった。 素晴らしい。
特にオレンジファイターのマスクは、
目元や口元の紗をかけたような仕上がりが絶品で、
僕の痛みや疲れをそっと包み込んで癒してくれる、女神のような微笑なのだ。
そして、蜂女。
これは、
オレンジファイターに勝るとも劣らない美しさで、ソフビ界の女王だと僕は断言したい。
こんな美しい顔の人形、ほかに見た事がない。
グリーンの上からパールピンクを吹きつけた目は、怪奇の中にも気品をのぞかせ、
キュートな鼻と、シャインレッドのルージュが鮮やかな悪戯っぽい形の唇には、
悪尻が隠見していて、とても魅力的だ。
僕はいつも、
その誇り高き微笑みの前に跪き、桃色の羽根にそっとくちづけしたくなる。
また、
この蜂女人形の素敵なところは、顔ばかりではない。
足の表現にも、
原型師の粋な配慮が垣間見られるのだ。
膝の裏からふくらはぎにかけてのやわらかなラインは、
となりのお姉さんを連想させる、実に生活感溢れる色気で、
決してスラリとしたカッコいい足ではない。
高貴な女王をイメージさせる顔と、この庶民的な足との、造形のギャップが、
人形自体に現実的な生命感を与える結果となり、
まさに “傑作” と言える出来ばえなのである。
見つめれば見つめるほど、僕の心はとろけていってしまう、素晴らしい人形なのだ。
前回も述べたが、
ソフビ怪獣人形というものは、実物の怪獣を超えた存在でなければならない、
というのが、
マルサンやブルマァクで育った僕の持論だ。
ソフビ怪獣人形を動かすのはゼンマイでも電池でもない。夢見る力である。
物理を超越した空想の世界で、
子供たちが自由に戦わせて遊ぶために生み出されたオモチャが、ソフビ怪獣人形なのである。
当然、
戦いの激しさや回数は実物以上のものが要求される。
よって、外形が似ているだけでは力不足なのである。
わかり易く説明するために無理矢理例えるなら、
コロッケさんや清水アキラさんのものまね芸のようなものだ。
特徴をオーバーに真似たり、
時には本物がしない事をしてみたり(歌いながらハナクソをほじくる野口五郎や
「よこはまたそがれ」を「よこはめたてはめ」と歌う五木ひろしなど)して、
本物の魅力を本物以上のインパクトで楽しませてくれるコロッケさんや清水アキラさんのものまねの方が、
単なるそっくりさんのものまねよりも断然おもしろいし、芸のレベルも高いと、僕は思う。
それは、
マルサンやブルマァク時代のソフビ怪獣人形のデフォルメ造形に通じる、素晴らしい表現力なのだ。
実物そっくりのリアルな造形にこだわる現在のバンダイのソフビ怪獣人形も、
それはそれでカッコいいから嫌いではないが、
今述べたような理由で、
“ソフビ怪獣人形の魅力はデフォルメのセンスの良さにある”
という説を、僕は推したい。
現在のバンダイにも
SDシリーズというデフォルメ人形があるが、
これはただ可愛らしいだけのアニメチックなデフォルメなので問題外。
あくまでも、
実物の怪獣の魅力を表現する手段としてのデフォルメでなければ、僕にとっては意味が無いのだ。
そんな観点から、
この、実物の特徴を見事に表現しつつ、実物を超えた美しさを持つ、
ブルマァクのオレンジファイターとバンダイの蜂女を、
ソフビ界の2大美女・麗しのソフ美人、と
僕は呼びたいのである。