第138回 「抹茶と和菓子、ウルトラマンと怪獣」 2015.7
父方の祖母は、
僕が小学校6年生の時に亡くなってしまったので、
平成のはじめまで生きていてくれた母方の祖母と比べると
思い出が極端に少ないのですが、
火鉢の前に座って煙管を吸っていた姿と
よく抹茶を点ててくれた事だけは、強く記憶に残っています。
抹茶は、
僕が祖母の家に遊びに行く度に点ててくれたのですが、
後から聞いた話によると、
いちばん最初に点ててくれた際に
当時幼稚園児だった僕がとても喜んだので、
抹茶が好きな孫のために、
その喜ぶ顔見たさに、
毎回点ててくれていたのだそうです。
・・・今更ながら、祖母の愛が胸に沁みます。
その、
“最初にとても喜んだ”
というのは、
自分でも憶えているのですが、
初めて見た、
抹茶を点てる動作と
茶杓や茶筅といった茶道具の物珍しさに、興味を惹かれたのです。
茶筅で抹茶をかき回すのが面白そうだったので、
祖母を真似て僕もやってみました。
母親は、
「オモチャじゃないから」
と言って、
僕の手から茶筅を取り上げようとしたのですが、
祖母がそれを制していたのを憶えています。
父親が末っ子だった事もあり、
僕以外の孫は当時もう既にみんな成人していて、
父方の親戚の中で僕は唯一の子供。
ただでさえ孫を可愛く思う祖母の目には、
茶筅なんかで無邪気に遊ぼうとする幼稚園児の僕の姿が、
さぞかし稚く映っていたンだろうと思います。
で、
肝心の “抹茶の味” ですが、
なんて言ったら良いのでしょう、
甘いとか苦いとか、そういう事よりも、
まず、
妙に心身に馴染む気がした事を、印象的に憶えてますね。
まぁ、要は、
美味しいと思った、好きな味だと思った、
って事なンですけど、
何か気持ちが安らいで落ち着くような味わいを、
舌で、
と言うよりは体全体で、感じた気がします。
お茶請けのお菓子のせいも、多分にありましたかね。
あれは、
そう、忘れもしない、
紅白が対になった小さな球形の落雁でした。
名古屋の老舗和菓子屋・両口屋是清の看板商品である、
“二人静” という干菓子です。
口の中に入れた途端、
まるで
浜辺の砂をさざ波がさらうかのように溶けて広がった、
あの優美な食感と甘さは、忘れられません。
それは、
普段食べてるチョコレートやビスケットといったお菓子には無い、
おそらく、
生まれてから初めて出会った “雅やかなもの” だったと思います。
そういった好感が、
抹茶と和菓子を味わう = 心が和む・癒される、
というイメージで、
幼い胸に強く焼きついたのでしょう。
また、
何ヶ月か後に
祖母の家に遊びに行って再び抹茶を点ててもらった際には、
お茶請けのお菓子が
二人静ではなかった(確か薄皮まんじゅうだったと思う)ので、
“お茶請けのお菓子は、その都度変わる”
という事を知りました。
“心が和む・癒される” というイメージに、
今日のお菓子は何だろう?
という、
ちょっとした “ワクワク感” が加わって、
抹茶と和菓子を味わう、という行為は、
“幸せの実感” として、
僕の中に
いよいよ刷り込まれていったのであります。
そんな僕ですので、
その頃から何十年と経った今でも、
“抹茶と和菓子” が、時々無性に味わいたくなります。
でも、
我が家には、
抹茶を点てる道具はありませんし、
抹茶を点ててくれる人もおりませんので、
どうしても我慢出来ない時は、ここへやって来ます。
我が愛知県の隣、三重県は四日市市にあります、 茶室・泗翠庵(しすいあん)。 |
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企業や団体が利用する茶室なのですが、 それとは別に、 1人~2、3人で気軽に一服出来る、 立礼席(りゅうれいせき)、 という茶席が 同じ敷地内にありまして、 400円で 抹茶と和菓子が味わえる(しかも椅子席なので、とても気楽に)、 僕のお気に入り空間のひとつ、なのです。 |
もちろん、 お茶請けのお菓子も、 毎回違ったものが出てくるので、とても楽しみ。 今日のお菓子は、 京都から取り寄せた、三條若狭屋の祇園ちご餅。 かつて 御位貰いの儀のために八坂神社を詣でる祇園祭の稚児たちに、 楼門前の茶屋が “厄除けの餅” として 味噌だれ付きの餅を振る舞った事から生まれた、とされる、 100年も前から売られている銘菓だそうです。 |
表面に氷餅をまぶした細長い求肥餅の中に、 白味噌あんが包み込まれています。 もちもちした食感と シャリッとした舌触りが、 上品な甘さと抜群の相性でした。 稚児になったつもりで(笑)、 どうか神様の御加護を・・・ と祈りつつ、美味しくいただきました。 |
・・・あ、でも、
京都の祇園祭りではありませんでしたが、
我が地元・名古屋で、
僕は、5歳の時に、本当に稚児行列に参加した事があります。
通っていた幼稚園の定例行事だったのか、
或る日曜日、
当たり前のように幼稚園に集合させられて、
言われるがままに
仰々しい服を着せられ、化粧をされ、
どこか近くのお寺のような所まで、ゾロゾロと大勢で練り歩いた記憶があります。
何の意味があってこんな事をやっているのか、
その時は全く解っていませんでしたが、
神様の御加護で
どうか賢く健康に・・・、
という厄除け、だったンですね。
何も知らず、
何も思わず考えず、
ただ参加していただけなのですが、果たして御加護はあったのでしょうか?(笑)
その時の写真。 さすが、 何も知らず思わず考えず参加していただけあって、 見事なまでの無表情(笑)。 ・・・あ、そうだ、 この頃だな、お婆ちゃんに初めて抹茶を点ててもらったのは。 こんな、 なんにもわかンない小ちゃな子供に、 よく抹茶なんか飲まそうと思ったなぁ、お婆ちゃん。 ・・・粋なセンスだ(笑)。 |
さて、ソフビですが、
今回は、
スカイドンの人形を、各種、紹介します。
スカイドンが登場する、
『ウルトラマン』第34話「空の贈り物」では、
ラストに野点のシーンがあり、
フジ隊員が和服姿で男性隊員たちに抹茶を振舞うのです。
お茶請けのお菓子は何だったのかなぁ?
梅の花びらが舞ってる季節のシーンだったから、
やっぱ、
梅羊羹とか、
梅の花を象ったねりきり、とか、
だったのかなぁ・・・。
あ、そうそう、
そのシーン、シナリオでは、
梅林の下を並んで歩く科特隊員、
とあるだけだったそうなので、
おそらく実相寺監督の趣味で、野点になったンですよね。
怪獣のオモチャで遊んでいるような年頃の子供に、
よくそんなシーン撮って観せようと思ったなぁ、実相寺さん。
・・・粋なセンスだ(笑)。
ブルマァク製 スタンダードサイズ、全長約23センチ。 昭和40年代半ばの商品です。 |
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背びれの造形が、 上から見ると、 和菓子(ねりきりの桔梗)みたいで(笑)、好き。 |
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『ウルトラマン』に登場する怪獣たちは、 だいたい、 体長が40~50メートルで体重が2万トンくらい、 って設定されてましたが、 このスカイドンは、 体長60メートルで、 体重は、なんと20万トン。 異常なまでの重量を誇る怪獣で、 歩く度に地面がズブリと陥没していました。 この写真はそのイメージ。 フジ隊員が思わず発する台詞、 「ヤツは重いのよ!呆れかえるほど重いのよ!」 が聞こえてきそうです(笑)。 |
こちらは、 同じくブルマァク製で、ミニサイズ、全長約8センチ。 スタンダードサイズの人形と異なり、立ち姿で造形されていますが、 劇中の、 腰にロケット弾を打ち込まれ、 中途半端に上体が浮き上がったまま 辺りを走り回っていた時のスカイドン、って、 確か、こんな感じでした。 そのシーンのコメディタッチな演出に、 当時のミニソフビならではのチープな造形が、なんともいい感じでマッチしています。 |
バンダイ製 ウルトラ怪獣シリーズ(ウルトラ怪獣コレクション)は、 昭和58年に初版が発売され、 その後、 平成4年くらいまでの間に何度かリニューアルされました。 |
これが初版。全長約20センチ。 |
以下4体が、リニューアル版。 リニューアル版は どれも初版よりやや小さく、全長約19センチ。 |
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こちらは食玩。 バンダイ製 ウルトラマンモンスターズ、全長約11センチ。 平成19年の発売です。 |
ところで、
“抹茶と和菓子” と “ウルトラマンと怪獣” は、僕の中では繋がっています。
理屈抜きで惹かれた絶対的存在(抹茶・ウルトラマン)に、毎回違った相方(和菓子・怪獣)が華を添える、
という、実に胸がときめく図式で。
日本には、古来、
無邪気で純粋な子供に神は宿る、
という信仰があり、
それゆえ、
神様に好んでもらえるよう、きらびやかに着飾って稚児行列するわけですが、
“抹茶と和菓子” も、
そして、
“ウルトラマンと怪獣” も、
幼かった僕に舞い降り宿った、神聖な存在です。
こんな薄汚れた大人になっても(笑)、
それは未だに、僕の心の健康を支えてくれています。
稚児行列に参加した御加護はともかく、
“抹茶と和菓子”、“ウルトラマンと怪獣” からは、
確実に御加護を受けてますね、僕は。
感謝。
※ 泗翠庵のホームページ : http://yonbun.com/shisuian/
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