真水稔生の『ソフビ大好き!』


第84回 「座右の銘は “見切り発進”」  2011.1

小学校5年生の時にオナニーをおぼえて以来、自分を慰めすぎたのか、
思春期の頃の僕のオチンチンの皮は、
伸びてダブついてしまったような状態だった。
いわゆる、“包茎” である。

 新年早々、いきなり何を言い出すのか?

と困惑されそうですが、
真面目なお話ですので、まぁ、お付き合い下さい。

・・・で、
10代の後半、念願の彼女が出来て、
これはかなり高い確率で “男” になれるだろうと思った僕は、
その日が来た時のために、手術を受ける決意をした。
まぁ、
別に包茎のままでも性行為は出来ない事もないのだろうけど、
“皮かぶり” という劣等感を拭い去るためにも、
いい機会だからこの際手術を受けておこう、という気持ちが強かったのだ。

しかし、
泌尿器科に行くと、
包茎には “真性” と “仮性” があり、僕の場合は “仮性” だと診断された。
仮性包茎は、病気でも異常でもないらしい。
包皮が被った状態の亀頭を
異常、ないしは恥ずかしいと思ったりするのは、日本の性教育が遅れているから、との事。
欧米では、仮性包茎はむしろ一般的であり、
劣等感を持つ事も無いし、手術する必要も無いというのだ。

そうは言っても、
日本人と欧米人は違うのだし、
性教育が遅れていようが、医学的に問題がなかろうが、
当の本人が
コンプレックスを抱いてしまっている以上、
手術でも何でもしてそれを取っ払ってくれないと困る。
僕はそう思って、
それでも手術を受けたい旨をドクターに伝えた。
すると、
未成年なので保護者の承諾が必要、との事。
しかも、
医学的に必要がない以上、
当然、それは健康保険の適用外で、
手術を受けるには何万円というお金がかかる、という。
こりゃムリだぁ、と一度は諦めかけた。

でも、
僕はどうしても、そのままでは嫌だった。
せっかく病院まで行って
ドクターや看護婦さんの前でオチンチンを出すなんていう恥ずかしさを味わったのだから、
勇気を出しついでに、
夕食の時、
ダメ元で思い切って両親に打ち明けてみた。
すると、
母親は困惑していたようだったが、
父親は涼しい顔でこう言った。

 「なんだぁ、お前、皮かぶりか。
  チ○ボのいじり過ぎだわ。
  手術でも何でもして、治せ治せ」

・・・ホッとした。
と同時に、
手術を受ける決意が更に強く固まった。
しかも、お金も出してくれるというのだから、これはもうやるしかない。

数日後、僕は手術を受けた。
すぐに終わる簡単な手術だったが、
抜糸するまでの数日間は、オチンチンにガーゼと包帯を巻いての生活であった。
もちろん、その状態で学校にも通った。
最初、友達には、
ごくごく親しい子にしか話していなかったが、
その、ごくごく親しい子が、その子にとってごくごく親しい友達に話し、
その、ごくごく親しい子のごくごく親しい友達が、
またその子にとってのごくごく親しい友達に話し・・・、
といった感じで、
いつのまにか広まってしまい、
気づいたらみんな、僕が包茎手術をした事を知っていた(笑)。

でも、みんなに知られて良かった。
多感で未熟な時期だから
オモシロ半分でからかってくるヤツもいたけど、
気持ちの上でなんだか楽になれたし、
中には同じ悩みを打ち明けてくるヤツもいて、
隠してた時よりも充実した楽しい日々が過ごせたのだ。

無事、その時付き合ってた彼女とも出来て “男” になれたし、
また、
何年か後に、
テレビドラマ『お坊っチャマにはわかるまい!』で、
とんねるずの木梨憲武さんが、
僕と同じように
包茎手術を受ける若者の役を演じておられて、
非常に感慨深く(笑)、なおかつ、生々しい感覚で見る事が出来、
そのドラマを他人の倍楽しめた気がして
嬉しかった事も憶えている。
自分の人生において、
あの時手術しといて良かったなぁ、というのが正直な気持ちである。
背中を押してくれた父親に感謝。

マルサン製のウルトラマン人形
全長約22センチ。
『ウルトラマン』放映時(昭和41年)に発売されていたソフビである。
向かって左側の人形が最初に発売されたもので、
実物のウルトラマンと耳の形状が違っている、
という理由で、
すぐに右側の人形のように改善して発売し直された、との事。

僕は、
このウルトラマン人形のリニューアルに、自身の包茎手術を重ね見ている。
別にフザけて言っているわけではない。
この2体の違いを知った時から、ずっとそう思ってきたのだ。

耳の形状だけを変えても、
見違えるほどカッコよくなるわけでもないし、
どっちみち実物のウルトラマンには程遠い顔をしているので、
リニューアルしてみたところで、特に売上に影響があるとは思えない。
でも、リニューアルされた。
医学的に問題が無くても
僕には手術が必要だったように、
売上的に直接影響が無くても、
マルサンには
ウルトラマン人形をリニューアルする必要があったのだ。
実物のウルトラマンとは全くイメージの異なる耳をしているウルトラマン人形が、
どうしても許せなかったのだと思う。

別に僕がその商品開発の場にいたわけではないので、憶測に過ぎないのだが、
たぶん、的は外してないだろう。
製造から販売、流通や価格決定に至るまで、
どこのメーカーの真似でもない、
何なら、玩具業界の伝統と格式を破壊してでも、自社の決意を一貫させようとする、
その独特の経営戦略、
あるいは、
倒産する際、
150人以上いた社員は解雇扱いにして退職金を支払い、
工場等の物件(時価2億円)の処分を債権者に一任した散り際などを見ても、
マルサンが機敏で積極的な行動をとる会社であった事は間違い無いし、
何より、
世に送り出した独創的でインパクトのある商品の数々が、マルサンのバイタリティを物語る。
独自の発想ですぐに動く、それがマルサンなのだ。

そんな企業体質が、僕の生理にフィットするのである。
あの時の手術がそうだったように、
僕は自分の気持ちを目印に、毎日の生活を送るようにしている。
やりたいと思ったらやるし、
やりたくないと思ったらやらない。
判断基準が単純で明確な分、あまり迷わないので、
決断したり行動に移したりするのは、わりと早い方だと思う。
僕の人生の歩み方である。
だから、マルサンの性格には、おおいに共鳴するのだ。

以前、自分のサインに
座右の銘を添えて書いていた事がある(まぁ、サインを頼まれる機会など滅多に無いのだが(笑))。
それは、

 “見切り発進”。

あまり良い意味の言葉ではないので、
サインをもらって下さった方も
意味や意図が理解出来ない様子だったが、
要は、
“思い立ったが吉日” という事である。
周りの意見に惑わされる事なく自分の意志で行動するのだ、という思いを、
あえてマイナスなイメージの言葉を用いて表現する事によって、
強く主張・表明してみたのだ。

行動を起こさず、頭でいろいろ考えていたって、
物事は何も前へ進まない。
考えてる暇があったら、すぐに行動するべきだ。
特に僕の場合、
気が小さいので、考えれば考えた分だけ弱気になって、
結局、躊躇の道しか選べなくなる可能性が高い。
素より、
先を読んで考える、なんて能力も備わってないし・・・(苦笑)。

そんな自分だから、
見切り発進するしかないのである。
それでいいと思っている。
包茎手術だって、あの時受けといて良かったわけだし、
先が読めなくて不安だろうが、
旨くいくかどうか心配だろうが、
自分自身が何かしたいと思ったら、すぐ行動に移せば良いのだ。
見切りだろうと何だろうと、
発進さえすれば状況は変わっていくのだから。

それに、
どっちみち、
予定通り確実に展開する、なんて事はこの世の中には皆無。
何事もやってみなくては判らない。それが人生である。
もちろん、失敗する事は多々ある。
けれど、
自分のやりたいようにやったのなら、後悔する事が無い。
そうなる運命だったと思えるのだ。
よって、
また前を見て元気に生きていける。しかも失敗する前の自分よりも強くなって。

なので、
嘘偽りなく、
ウケ狙いでも何でもなく、
僕の座右の銘は “見切り発進” 。
これで生きてきたし、これで生きていく。

そんな僕の心意を、
マルサンというメーカーの活力・行動力の象徴であるウルトラマン人形のリニューアルは、
いつも支えてくれているのだ。
あの手術の時に背中を押してくれた父親のように、
「お前の意志と判断で進め」と、僕に発破をかけながら。

また、
現在のバンダイのソフビ怪獣人形は、
より実物にそっくりな造形を目指して、当たり前のようにどんどんリニューアルされていくが、
その原点は、
やはり、マルサンであった、という事も、
このウルトラマン人形のリニューアルは物語っている。
リアルな造形である事よりも
オモチャとしての愛嬌が重視されていた時代においても、
その風潮の中でよりベストな、
少しでもカッコいいウルトラマン人形を作ろうとしていたマルサンのスピリットは、
ソフビ怪獣人形という玩具そのものに、
“常に進化しようとする性質” として宿り、
脈々と絶えず、今日まで受け継がれているのだ。

リアルでカッコいい外形だけを追求していく事が、
果たしてソフビ怪獣人形という玩具の進化なのかどうか、という問題は別にして、
子供のオモチャを製造するメーカーが、
それを手にして遊ぶ子供たちの夢を
少しでも楽しいものにしようと努力している姿勢が感じられると、僕はグッとくるし、
それだからこそ、
時代やメーカーに関係なく、ソフビ怪獣人形というオモチャを愛しく思うのである。
集めたくなるのである。揃えたくなるのである。

なので、
この2種類のウルトラマン人形の存在を知った時から、
自分のコレクションケースの棚には2体並べて飾りたい、と
ずっと思っていた。
ただ単に、バージョンが違うから、という理由で
この2体をコレクションしたかったのではなく、
進化しようとするオモチャ・ソフビ怪獣人形の原点であるマルサンの “意志” を、
形として所有したかったのだ。
しかも、それが、
そのウルトラマン人形で夢見て遊んだ幼少の頃の思い出だけでなく、
思春期の、“性” に関する思い出までも甦らせてくれて、
自身の生き様、座右の銘、
という事にまで話が発展していくのだから、
たとえコレクターでなかったとしても、手許に置いておきたいものなのである。


座右の銘は “見切り発進”。

ウルトラマン生誕45周年の今年、
お正月に、
この2体のウルトラマン人形を眺めながら、
ふと、
改めて自分自身に決意表明したくなって、この場を借りて綴らせてもらいました。

 「シュワッチ!」と

心の中で叫びながら、
今年も積極的に、自分に正直に、生きていこうと思う。


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