真水稔生の『ソフビ大好き!』


第58回 「尻フェチはアンティークソフビを愛す」  2008.11

突然ですが、僕は尻フェチです。
女性の体の中で
最もエロティシズムを感じる箇所は、
胸でも脚でもうなじでもなく、“お尻” なのであります。

顔が自分のタイプじゃなかったり、
性格が自分とはなんとなく合わないなぁ、と感じたりしても、
その女性が大きなお尻をしてると、それだけで好意的な印象を持ってしまうし、
女優やアイドルの
水着のグラビアやヌード写真集などを見て、
お尻が見えるカットが1枚も無かったりすると、
とても物足りなく、
不愉快なまでの味気無さを覚えます。
フィレフォフィッシュを食べたらタルタルソースがかかっていなかった、
っていうくらい不満です。

物心ついた頃から、なぜかお尻が好きだったので、
友人からは、

 「お袋さんのお腹の中から出てきて、
     初めて見えたのが看護婦さんのお尻じゃなかったのか?」

なんて、
よくからかわれますが、
何をきっかけにそうなったのかは自分でもよくわかりません。
とにかくお尻が好きなのです。
大きくて、丸くて、引き締まった女性のお尻は、息苦しいまでに官能的で、僕を魅了します。


しかしながら、
世の中の男性のほとんどは、女性の “お尻” ではなく “胸” が好きです。
いわゆる “オッパイ好き” というヤツですな。
その人口は極めて多く、幅を利かせています。
胸さえデカければ、
「ナイスバディ」とか「抜群のプロポーション」とか言われて賞賛されてしまうほど、
“オッパイ好き” は男性の一般的嗜好として浸透しています。

 オッパイよりもお尻が好きだ、

なんて言うと、
ちょっと変わった趣味をしている、と捉えられてしまうほどです。

しかも、当の女性たちも、
胸が大きい事は嬉しく思うのに、お尻が大きい事は嬉しく思ってくれません。
キューティー・ハニーも、
あんなにお尻が大きいのに、
自分では、

  ♪お尻の小さな女の子

と言っています。
お尻が大きい事を、恥じているのです。隠そうとしているのです。

よって、
尻フェチの男どもは肩身の狭い思いをしているのであります。
実に嘆かわしいです。
お尻が大きい女性はとても魅力的なのですから、
お尻が大きい事にもっと自信や誇りを持ってほしいものです。


でも、
女性がお尻が大きい事を嫌がったり恥ずかしがったりする仕草は、
実は、たまらなく可愛いものだったりします。
胸が大きな事に満更でもない顔している女性よりも、
お尻が大きな事を恥ずかしがってる女性の方が、絶対に素敵です。

僕がこよなく女性のお尻を愛するのは、
そのように、
そこに “女性の恥じらい” が潜んでいる、というのも大きな要因のひとつかもしれません。



なぜ、こんな事を述べたかというと、
この “尻フェチ” という嗜好・性癖が、
アンティークソフビの魅力に惹かれる感覚に、なんだか似ている気がしたからなのです。

これまでにも幾度と無く述べていますが、
現在のソフビ人形(例えば、バンダイのウルトラ怪獣シリーズ)は “リアル造形” であり、
どれだけ実物のヒーローや怪獣に外形が似ているか、というのが、
その人形の評価の対象となっています。
見た目重視です。

一方、昔のソフビ人形(例えば、昭和40年代のマルサン・ブルマァクもの)は
実物の外形に似せる事よりも “愛嬌” を重視した “デフォルメ造形” なので、
“雰囲気” や “存在感” といったものが、価値を決めるファクターとなり、
見た目だけでなく、心が受ける印象も重要な魅力になります。

見た目のカッコよさは、
現在のソフビ人形の方が断然優れているので、
ソフビファンの中でも支持者は多いし、一般的評価も高いです。
多くの男たちから愛され崇められ求められ、
当の女性も自信を持って誇示する “オッパイ” と、僕の中ではイメージが被ります。

逆に、
凶暴そうで醜い風貌の裏にある “愛くるしさ” や “哀しみ” といった、
怪獣の内面的要素が奇しくも表現された昔のソフビ人形には、
見た目の美しさの中に
“女性の恥じらい” という奥ゆかしい情緒が潜んでいるお尻に通じる、
濃厚な “味” があるのです。

自分が子供の時にそれで遊んでいた、
という愛着や実感から、
どうしても贔屓目に見てしまう事は否めませんが、
昔のソフビ人形は、やはり魅力的です。
リアルな現在のソフビもカッコいいし決して嫌いではありませんが、
マルサンやブルマァクで育った僕としては、
何か今ひとつ物足りないのです。


マルサン・ブルマァクと現在のバンダイとでは、
時代背景も次元も立場も違うし、
マルサン・ブルマァクの時代があってこそ現在のバンダイがあると思うので、
両者の造形を比較して優劣をつけるのはナンセンスなのですが、
20年間集めてきた何千体という僕のコレクションを眺めていると、
現在のバンダイのソフビが
リニューアルされてどんどんリアルになればなるほど、
昔のソフビが輝きを増していく事に気がつきます。

実物の怪獣にそっくりな人形の隣に置いても、
なぜ実物の怪獣に似ていない昔のソフビは見劣りしないのか。

やはり、精神性だと思うのです。

“デフォルメ” と簡単にで言ってしまっていますが、
そこには、
外形だけで怪獣を捉えていない作り手の魂が込められているし、
工業製品なのに “手作り” の良さ・味わいが多分に感じられたりして、
見ていると気持ちがやすらぐのです。

見た目の美しさ・カッコよさの中に “女性の恥じらい” が潜んでいるお尻のように、
マルサンやブルマァクのソフビ人形には、
作り手の “精神性” が潜んでいるのです。
だから、魅力的なのです。


それでは、そんな味わい深い人形たちを、
例によって、僕の愛するコレクションの中から、いくつか紹介しましょう。


ギララ
全長約25センチ。マルサン製。

ただ可愛らしくするのではなく、
もちろん、ただ実物に似せるのでもなく、
あくまでも、
その怪獣の魅力を
子供たちと共感し、楽しみ合うためのデフォルメ。
オモチャの夢を信じて造形するマルサンの、
真骨頂が存分に発揮された、傑作ソフビだと思います。
大きくて、形が良くて
そして、そこには心の活力が潜在している
そんな、まさに “女性のお尻” のような肉感的魅力が、
僕の心を捕らえて放しません。

          オモチャは子供の友達。
          出会った瞬間に仲良くなれそうなこの屈託の無い笑顔も、
          このソフビが素晴らしいオモチャである事の証です。





ユートム
全長約22センチ。

向かって左がマルサン製で、
右は、マルサン後期ともブルマァク製とも、
あるいは
マルサンからブルマァクへの移行期とも
言われているものです。
同じくマルサンの、
おそらく原型士が同一人物だと思われる
『キャプテンウルトラ』のハック人形もそうですが、
一見、稚拙で雑な造形のようでも、
手にとってマジマジ見つめると、
これほどまでに魂を感じるロボット人形はないのではないか、
と感嘆してしまいます。

曲がった線、
歪んだ体、
ことごとく崩壊しているシンメトリー・・・、
これらは、決して、
いい加減なわけでも 間違えたわけでもありません。
あきらかに、意図されて作られています。
 『ウルトラセブン』第17話に登場した
 謎の地底ロボットですが、
 その “謎” というイメージと、
 この芸術性に富んだ造形が絶妙にマッチし、
 なんともミステリアスな色気が
 漂っています。

 見方によっては、その不可解さは、
 ロボットなのに妙に人間っぽい、
 という違和感を感じさせてしまいますが、
 着ぐるみの中に
 人間が入って演技しているロボット

 という実物のユートムの、
 決して無機質でない動きや独特の雰囲気を
 ものの見事に再現してるわけですから、
 別の意味で “リアル” だと言えます。





        ゴロー
         全長約23センチ。マルサン製。
  
         『ウルトラQ』第2話「五郎とゴロー」に登場した巨大猿。
         冒頭のシーンで、
         ロープウエイのワイヤーにぶらさがりながら向かってくるゴローを
         乗客が慌てふためくロープウエイの中からは見たカットは、
         幼心に強烈な恐怖でした(って言うか、今見ても恐いです)。
         かわいいお猿さんも巨大化したらこんなに恐いンだ、とショックを受け、
         僕はテレビの前で震え上がりました。

          でも、ソフビ人形の方は、
          このように、
          どうにも憎めない顔の表情や、
          優しさが感じられるほど丁寧に表現された体毛の印象などによって、
          そんな夢にも出そうな劇中の恐怖は、さほど伝わってきません。
          時にそれが、
          実はとても切なかったりします。
          愛くるしさや温かみが際立てば際立つほど、
          その細やかな情の裏にある “理由” が気になります。
          図体がデカい、
          というだけで迷惑がられ嫌われたゴローの哀しみ(延いては怪獣の哀しみ)を、
          強く感じてしまうのです。
          邪魔にされ仲間外れにされる者の淋しさや苦しみ、嘆き、怒り、
          そんな心の痛みをこの人形は、
          何十年もの間、ずっと愛嬌たっぷりに伝えているのです。





アンギラス
全長22センチ。ブルマァク製。

同じデフォルメ時代のソフビでも、
怪獣の呼吸さえも感じさせる
ダイナミックなマルサン造形とは一味違う、
まとまりのある洗練された造形が特徴のブルマァク。
スタートこそ、マルサンの金型を流用した再販でしたが、
すぐさま独自の造形へと向かいはじめました。
その新しい方向性を示す代表的商品のひとつが、
このアンギラス人形です。
四足の怪獣を強引に立たせてしまってはいますが、
実物のイメージを極力壊さぬよう配慮した造形の、
カッコいいソフビ怪獣人形です。
綺麗に、丁寧に、そして気高く仕上がっています。
  ただ、そんなリアル志向ではありながら、
  この人形を手にして遊ぶ子供たちの安全性を考え、
  アンギラス最大の特徴である背中の棘の、
  その尖った先端がカットされています。
  現在のバンダイのリアルソフビは、
  平成6年に成立・施工されたPL法により、
  素材を柔らかいものに変更しましたが、
  ブルマァクは、
  PL法が出来るずっとずっと前から、
  とっくに考慮し対応していたのです。

  なので、
  このソフビで遊んだ僕は、
  ブルマァク世代である事を誇りに思います。

  似てれば良い、
  ってモンじゃないンですよ、オモチャなんだから。





女性の大きなお尻は魅力的です。
それを恥らう女性はもっと魅力的です。
尻フェチ男は、そこに惚れるのです。

ソフビ怪獣人形も同じ。
アンティークソフビには、外形の良さだけでなく、精神があるから、魅力的なのです。
僕はそこに惚れているのです。


・・・というわけで、今回は、
尻フェチである僕の嗜好・性癖を
マルサンやブルマァクのソフビを愛でる気持ちに重ね合わせて論じましたが、
僕は、なにも、
現在のリアルな造形のソフビに魅力を感じないわけではありませんし、
オッパイ好きの男性が女性の外見しか見ていない、と言っているわけでもありませんので、
どうか誤解の無いように。
言い訳がましいようですが、真意が伝わらないと悲しいので。

・・・って言うか、
どっちみち、今回のエッセイには誰も共感してくれない気がする(笑)。


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