真水稔生の『ソフビ大好き!』


第48回 「バンキッドはココナッツカレーの味」  2008.1

あれは、
僕が中学に上がるか上がらないかの頃だから、
たぶん昭和51年か52年の冬、
みかんを食べながら夕方にボーッとテレビを見ていて、何気なくチャンネルを変えたら、
特撮ヒーロー番組がやっていた。
ゴレンジャーみたいな赤や青や黄色の複数のヒーローが、宇宙人と戦っていた。

もう、特撮ヒーローになど胸がときめく年齢ではなくなっていた僕だが、
ウルトラマンや仮面ライダーで育った関係上、
生理的にそういった番組が好きだし、興味もあったので、
少し馬鹿にしながらも、そのままエンディングまで見てしまった。

そして、
これが結構面白かった。
内容が楽しめたのだ。

その頃、テレビ番組における児童文化の主導権が
特撮からアニメに移りかけていた事もあり、
大好きだった特撮ヒーロー番組への “情” みたいな感情も多分に作用したとは思うが、
僕はその番組を気に入ってしまった。
以降、
翌週から最終回まで、見続けた。

なんのことはない、まだまだ充分特撮ヒーローに胸がときめく僕だったのだ(笑)。

ただ、
やはり年齢的に、
友達同士でその番組の話をする事は一切無く、
自分だけの密かな楽しみであった。
見ていた時が何年生だったか記憶がはっきりしないのは、そういった理由からであろう。

その番組の名は『円盤戦争バンキッド』。
製作は東宝。

この作品、
何がそんなに良かったのかというと、
まず、
主役のヒーローが子供であった、
という点である。

バンキッドというのは、
ペガサス、ドラゴン、オックス、スワン、ラビット、の5人組で、
変身前の姿は、
家庭教師の青年とその生徒である4人の少年少女。
つまり、
リーダーのペガサスには大人(家庭教師の青年)が変身するが、
あとの4人には、
僕と同じ年頃の子供が変身するのである。

斬新だった。
とても新鮮に思えた。

もちろん過去の特撮作品にも、
子供なのに大人顔負けの活躍をする “少年ヒーロー” は何人かいた。
『仮面の忍者 赤影』の青影や
『マグマ大使の』のガムなどは、
時には主役を食うほどの人気キャラクターだったし、
光速エスパーや怪獣王子、河童の三平などは、
その番組の看板、“主役”であった。
みんな、カッコよくて魅力的だった。
大好きだった。

たが、
彼らは“変身”はしなかった。

ヒーロー番組における“変身”とは、
仮面ライダーに代表されるように、
“同一人物ではあるが、顔や姿が変わり、変身前より強くなる”という事。

青影は忍者、
ガムはロケット人間、
光速エスパーは
強化服を着て光線銃を持った少年、
怪獣王子は
ジャングルで恐竜と共に育った野生児、
河童の三平は
河童から妖力を与えられた子供、
と、子供が悪者と互角に戦う事が出来る “理由” があるだけで、
決して変身ヒーローではなかったのだ。
子供でありながら変身ヒーロー、というキャラクターは、存在しなかったのである。

70年代に入って変身ブームが巻き起こり、
『超人バロム1』で初めて主役のヒーローに変身する子供(猛と健太郎)が現れるが、
これは “友情” のエネルギーによって二人で合体変身するヒーローで、
変身後は大人の体つきや声をした、まったく別の人になってしまうものだった。

子供が変身する特撮ヒーロー、
しかも、
能力がアップした変身後でも
背格好や声は変身前と同じ(つまり、同一人物だけど別の姿)であるチビっ子ヒーローが、
主役として本格的に敵と渡り合う、
という番組は、
『円盤戦争バンキッド』が初めてだったのである。

僕としては、
ちょっとした“カルチャーショック”だった。
例えるなら、
あれは、ココナッツカレーを初めて食べた時の感覚に似ていた。

僕は最初、ココナッツカレーというものの存在を知った時、
それを認めようとはしなかった。

 なんでカレーにココナッツミルクを入れるンだ?

 そんなモン合うわけないだろっ!

と馬鹿にしていた。

パイナップルの入った酢豚も同じ。

 そんなモン美味しいわけがない!

そう思っていた。
でも、食べてみて驚いた。
これが絶妙に合うのだ。
ココナッツカレーもパイナップル入りの酢豚も、美味しいのである。

それと同じで、

 子供が変身する特撮ヒーローなんて、カッコいいわけないだろ、

 そんな漫画みたいなドラマ、感情移入出来るわけないだろ、

そう思いながら見た番組が、
意外と面白かったのである。

子供であるがゆえに派手なアクションが出来ない分、
主題歌の歌詞にもある “知恵と勇気” を活かして、正義が勝利する展開になっているため、
“精神面” の大切さが、
他の特撮ヒーロー番組よりも幾分強調されていた気がするが、
その事が、
子役たちの直向で素直な演技と重なり合って、見る者に爽やかな印象を与えていた。
仲間と力を合わせる事の必要性もしっかりと伝わってきて、
作品世界に説得力を感じた。
つまり、
主役が子供である事に、意義や価値があったのである。
そこに惹かれた。

重ねて、
ブキミ星人なる敵の宇宙人たちが、芸術の香り漂う造形のものばかりで、
それも良かった。
抽象画から抜き出てきたようなその不思議な姿形が、
成田亨さんのデザインによるものだったと大人になってから知った時は、大いに納得出来たものだ。

昨年の夏に、
東京は三鷹の美術ギャラリーで開催された “怪獣と美術展” に出かけ、
成田さんの作品を改めて “生” で鑑賞させていただいたが、
ブキミ星人たちの美しさは、
ウルトラ怪獣のそれにまったく引けを取らず、神々しいまでの輝きを放っていた。
特に僕は、
アルバレン中尉のデザイン画に見惚れ、
ずっと見つめたままそこを動かなかったので、後ろにいた人に舌打ちされてしまった(笑)。
せわしない世の中、夢の生き物の絵くらい、ゆっくり見たいのに・・・。

閑話休題。
ブキミ星人たちは実に魅力的である。
生理的に嫌悪感をおぼえるようなもので安易に恐怖を表現しない、という成田さんのポリシーが
見事に貫かれていて、気高くカッコいい。
それでいて、“ブキミ” という名前になっているところが、またなんとも洒落ている。

もし本当に、高度な文明を持った宇宙人がいるとしたら、
こんな姿をしてるのかもしれないなぁ、と自然に思えた。
奇抜なデザイン・造形ではあったが、違和感はまるでなかった。それは凄い事だと思う。

で、そんなブキミ星人が狙うのは、常に、地球人の子供。
理由は、
自分たちの住むブキミ星が20年後には消滅してしまうので、
今から侵略を初めて地球に移住しようと考え、
20年後に地球の社会を担う “子供” にターゲットを定めたからである。
だからこそ、
それと戦う主役のヒーローも、やはり子供でなければならなかったのかもしれない。

この辺の設定も、当時の僕を虜にした。

 なるほどなぁ〜、

とテレビの前で感服していたものだ。

そんなわけで、
子供が主役のヒーローに変身して
魅力的な造形の悪者と戦う『円盤戦争バンキッド』というその斬新な番組に、
僕は大いに魅せられてしまったのである。


また、役者陣も、
バンキッドを作り上げた宇宙科学者役に下條正巳さん、
その娘夫婦役には、塩沢ときさんと柳生博さん、
という豪華な顔ぶれで、
そんな、
大人が見るテレビドラマでよく見かける人たちが、
子供が見る特撮ヒーロー番組に当たり前のように出てくるところも斬新だった。

これも、
今までにない味付けがしてある、意外な具が入っている、そして美味しい、
というココナッツカレーやパイナップル入り酢豚のような味わいで、
僕を楽しませてくれたのだ。

ドラマとしても、
日常の極めて呑気で平和な暮らしの裏で
地球人とブキミ星人の生存をかけた戦いが繰り広げられている、というのが、
とても面白かった。

一般の住宅街の地下に、
全長200メートルにもおよぶ巨大戦艦・バンキッドマザーの基地があるのだから、
実に夢のある、愉快な世界だった。
そもそも、
バンキッドやブキミ星人の存在はもちろん、
自分の父親が科学者である事すら娘夫婦は知らない、という無茶な設定が振るっていた。
身の周りに起きる異変や父親の行動を不審に思い、
娘夫婦は大騒ぎしてやたらと首を突っ込んでくるのだが、
いつもあっさりかわされる。

「・・・変ねぇ、変よ」

と首を傾げる塩沢さんに対し、

「変はお前だよ」

と軽くあしらう下條さん。
そういったやりとりは、『円盤戦争バンキッド』のもうひとつの“見所”であった。
毎回同じパターンなのに、何度見ても笑えた。

でも、ただ笑えるだけではなく、
豪華な役者陣の、熟練した、それでいてさりげない演技が見せてくれる “日常” の芝居には、
強引な設定の荒唐無稽なお話にも “リアリティ” を持たせる力があった。
だからこそ、
実際の生活、今自分が平和に暮らしている現実に、お話を照らし合わせやすかったし、
その世界に引き込まれ、迫力や恐怖も感じる事が出来たのだ。

番組は、
実際のUFO目撃例を基に円盤を登場させたり、
毎回、お話のラストで
ペガサスに変身する青年(演じるは奥田瑛二さん)に、カメラ目線で、

「君は強い意志の持ち主かい?
 もし、そうじゃないなら気をつけろよ。
 あまり意志が弱いと、宇宙人に狙われるかもしれないぜ」

ってな具合に話しかけさせたり、と
視聴者である子供たちが
テレビの中の架空のお話に“実感”を持てるよう工夫が色々なされていたが、
僕は、
名優たちがあのコメディーのようなワンシーンの中で見せる味や巧さが
何より “リアリティ” をもって作品を引き締め、お話を “実感” させてくれていたと思う。



     ブルマァク製のバンキッド人形。全長約14センチ。
     向かって左から、オックスドラゴンペガサスラビットスワン
     5人の中で、ドラゴンとラビットだけは兄弟という設定だったからか、同じ色をしている。
     5人全員が違う色ではない、というところにも、僕は作品のリアリティを感じていた。



        こちらは同じくブルマァク製で、
        先に紹介したものより少し小さい全長約11センチのバンキッド人形。
        向かって左から、オックスドラゴンペガサススワン
        ブリスターパック入りのデッドストック品を購入したが、
        なぜか、最初からラビットは入っていなかった。
        ドラゴンと同じ色だから外されたのだろうか。
        ラビットを除いた4人のセット、という、納得のいかない商品だ。



      こちらはタカトク製のバンキッド人形で、
      向かって左側の写真が全長約17センチ、右側が全長約12センチ。
      共に向かって左からオックスペガサスドラゴン
      長年探し続けているが、
      タカトク製のラビット人形とスワン人形にはなかなか出逢えない。当時発売されてないのかな?


  これらとは異なるサイズのバンキッド人形もまだまだあるようだが、
  どこまでいっても主役のバンキッドたちしかソフビ人形として商品化されていないようで、残念だ。
  魅力的なデザイン・造形である敵役のブキミ星人こそ、ソフビ人形として立体化してほしかったのだが・・・。

        君はバンキッド関係のソフビ人形を集めているかい?
        だとしたら、気をつけろよ。
        ブキミ星人はソフビ人形になってないから、
        どこまで集めても、ただの色見本にしかならないからな(笑)。



『円盤戦争バンキッド』は本当に面白かった。
イメージや先入観だけで物事を判断してはならない。
カレーにココナッツミルクを入れる事にも、
酢豚にパイナップルを入れる事にも、
“意味” があるように、
ヒーロー番組の主役が子供である事にも、
子供の番組に有名俳優が出演する事にも
“意味” があったのだ。

それは、食べてみなくてわからない。
番組を見てみなくてわからない。
その美味しさ、その面白さを体感した時、初めて理解出来、楽しめるものなのだ。

そういった作品と、
特撮ヒーロー番組を馬鹿にするような年頃に出逢えた事を、僕はとても幸せに思っている。


余談だが、実は数年前、
バンキッドドラゴンに変身する少年を演じた田鍋友啓さんを偶然見かけ、握手してもらった事がある。
『円盤戦争バンキッド』をはじめ、『ゆうひが丘の総理大臣』や『3年B組金八先生』など、
数多くのテレビドラマに出演された田鍋さんだが、
現在は役者の仕事を休業中、との事だった。

可笑しかったのは、

「田鍋さんですよね?」

って僕が話しかけた時、

「えっ? なんで知ってるンですか?」

と真顔で聞き返された事。

「なんで、って、あんたテレビにいっぱい出とったがぁ!」

と思わずツッコミを入れてしまった(笑)。



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