真水稔生の『ソフビ大好き!』


第226回「渡る世間に鬼(デストロン)はあり」 2022.11

昨日、車を運転して、
直進と右折の兼用車線
(片側三車線のいちばん右の車線で、
 直進の矢印と右折の矢印が両方書いてある道路)を走っていた時の事です。

交差点にさしかかり、
赤信号になって青の右折矢印信号が点灯したので
予定どおり右折しようと思ったのですが、
前にいた車が、直進したいようで、赤信号に従って停車してしまいました。

ただ、真夜中だったため、交通量は極めて少なく、
隣りの直進専用車線が空いていて(ついでに、そのまた隣の直進と左折の兼用車線も空いていて)、
後続車も一切無く、また、横断歩道を渡る歩行者もおらず、
道路上は
僕の車とその前の車の2台だけ、という状況でしたので、

 スミマセン、右折したいンで、ちょっと左によってもらえますか?

って気持ちで、
僕は軽くクラクションを鳴らしました。
でも、
まったく反応が無く、微動だにしなかったので、

 あれ? 聞こえなかったかな?

と思い、
もう一度、軽くクラクションを鳴らしてみたところ、
運転していた男が、窓から顔を出してこちらを睨みつけてきました。

 え・・・?(汗)

って思いましたが、睨み返すわけにもいかず、
右手で、

 スミマセン、右折したいんで・・・、

ってジェスチャーをしてお願いしてみたところ、
なんと、その男は車から降りて、鬼のような形相でこちらに向かってきたのです。

 うわっ、しまった、ヤバい奴かな?

と焦った時にはもう遅く、
その男は、めっちゃ甲高い声(いわゆる “キンキン声”)で、

 「おめぇ、Σ★※部ケッ玉%北〒Dば、バ裂℃*しゃっ手@丼P¥フンGごぉっ!」

と、まくし立ててきました。
閉めた窓越しだった事、かつ、声が高すぎるのと早口なのとで、
最初の「おめぇ」の後は何を言っているのか、まったく聞き取れなかったのですが、
僕がクラクションを鳴らした事にブチギレてる事だけは、解りました。

話して解る相手では到底ないようでしたし、身の危険も感じましたので、
僕は慌ててスマホを取り出し、
その男に向けて動画を取るフリをしました。
“フリ” ではなくて、本当に撮ってやればいいのですが、
動揺で頭がパニクってしまい、冷静に操作出来なかったのです(苦笑)。

ただ、
それで退散させようとした僕の考えは甘く、
その行為が怒りを逆撫でしてしまったようで、
甲高い声の早口の攻撃が、更にヒートアップしてしまいました。

その様は、
まるで気の狂った人間が機関銃を乱射しているような感じで
常軌を逸していたので、
これで、もしも、僕の車を叩いたり蹴ったりしてきたら警察に通報しようと思い、
咄嗟にその男の車のナンバーだけは必死に暗記したのですが、
その男は、手を出す事はせず、
そのままずっと、何を言っているのかまったく聞き取れない言葉を窓越しでまくし立て続け、
信号が青に変わると、

 「殺すぞ、バカヤロー!」

と吐き捨てて(これは、はっきりと聞き取れました)、
車に戻って
そのまま直進して去って行きました。

 ・・・あれ? 行っちゃうの? 許してくれるの?

って思い、
いささか拍子抜けした気はしましたが、とりあえず安堵。
どうやら殺されずに済んだようなので、
最初の予定通り右折して、そのまま帰路に就いたのですが・・・、

いやぁ~、怖かった。

見ず知らずの他人にあんな勢いでブチギレられたのは初めてでしたし、
真夜中で周りに誰もいなかったので、
恐怖と不安で、呼吸困難になりそうでした。

・・・けど、
僕、そんなに悪い事、しましたかねぇ?
そりゃあ、
直進と右折の兼用車線で、いくら青の右折矢印信号が点灯したからといっても、
直進したい前の車が赤信号で停車していたら、
後ろの車の僕は、
右折したくても諦めて、クラクションなど鳴らすべきではなかったかもしれませんけど、
2回とも、本当に軽く、ふわっと鳴らしただけですので、
なにも、あんなに怒る事はないと思うンですよね。

左の二車線は空いてて、後続車だっていないンですから、
ちょこっとズレて道を空けてくれるくらいの事、してくれてもいいじゃないですか。
しかも、
直進したいくせに、
真ん中の直進専用車線じゃなくて、
いちばん右側の、直進と右折の兼用車線を走ってたその男にも、落ち度はあるわけですから。

まったく、もぉ、とんだ目に遭いました。




それにしても、
人間、って、見ず知らずの相手に対して、あんな瞬間的にブチギレられるものなのでしょうか?
ピッケルシャークみたいな顔して、怒り狂ってましたからね、ホント。
ビビりながら、ドン引きしてました。


・・・え?

 ピッケルシャークみたいな顔、

っていうルッキズムは良くない?

いやいやいや、
ものすごい馬面で、かつ、異様に額が出た(いわゆる “デコっぱち”)男でしたので、
本当にピッケルシャークを思い起こさせる顔をしてたのですよ。

それに、だいたい、
譲り合いの精神もなく我が物顔で公道を走り、他人にブチギレて「殺すぞ」などと口走るような男は、
見た目だけでなく、内面だって、ろくなモンじゃないのですから、
これはルッキズムではないのです。

っていうか、むしろ、
そんな見た目も中身も醜いチンピラを、
ピッケルシャークなどというカッコいい怪人に例えてあげたのですから、
充分すぎる配慮ですし、
それを、
その男にブチギレられて「殺すぞ」と面と向かって言われた僕がしているのですから、

 なんて器がデカくて愛に満ち溢れた人なんだ、貴方は・・・、

って称賛していただきたいものです(笑)。

本音を言ったら、
ピッケルシャークだなんて、そんないいモンじゃあ、決してありませんでしたから。
只々、

 度が過ぎるほど馬面の、冗談みたいに額が飛び出た、いびつな顔の男、

ってだけですからね。


・・・やっぱ、ルッキズムか?

でも、本当に怖ったので、これくらいは言わせてもらわないと・・・(苦笑)。




というわけで、
今回は、ピッケルシャークのソフビを紹介します。


ポピー製、全長約10センチ。

ピッケルシャークは、
御存知『仮面ライダーV3』に登場した、
電流が流れる右手のピッケルで人を殺す恐ろしい怪人ですが、
番組放映当時(昭和48年)に発売されたこのミニソフビでは、
その恐怖が、
サイズの小ささも多分に作用して、こんなにも可愛らしく表現されています。
不気味に笑っているような顔も、
実物のその怖さはほとんど消え去り、ただの “いたずら小僧” にしか見えません(笑)。

さすが昭和のソフビ。
癒しのオーラをまとい、人の心に優しく寄り添います。
            その交差点の件がありましたので、
帰宅後にピッケルシャークの人形を見たら、
イヤな気分になるかな・・・、と思ったのですが、
この見事なまでの可愛らしさが、そんな心配を1秒で吹き飛ばしてくれました。

いやぁ~、実に可愛らしい。

 
まぁ、でも、
ブチギレられたものの暴力を振るわれるまでには至りませんでしたので、
今、こんな呑気なエッセイを書いていられるわけですが、
本当にあの男がピッケルシャークだったら、
劇中の、デストロンから脱走してきた博士みたく、
車内に乗り込まれて後部座席から襲われ、
僕は無残にも殺されてしまったかもしれませんし(現に「殺すぞ!」と言われましたからね)、
あるいは、
劇中の、珠純子に付きまとっていたストーカー野郎みたく、
僕も、拉致されてドリルモグラに改造されてしまったかもしれませんから、
そう思うと、ゾッとしますね(笑)。

・・・冗談はさておき、
ホント、無事で良かったです。
これを読んで下さっている方も、車の運転をする際は、どうかお気をつけ下さい。
道路を走っている人すべてが
譲り合いの精神を持った心穏やかな常識人、とは限りませんのでね。

この世の中、
ピッケルシャークは実在しなくても、
ピッケルシャークみたいなヤツ(見た目でなく中身の話ね)は実在しますから。
ホント、怖いです。



・・・あ、そうそう、
名前が出たので、せっかくですからドリルモグラのソフビも紹介しておきましょう。
     
 
ポピー製、全長約8センチ。 

ピッケルシャークと同じで、番組放映時の商品です。







        右手がピッケルになってないし、そもそも馬面じゃないので、
ピッケルシャーク人形よりもサイズが小さく、
更に可愛らしく感じられます。

これぞ、ミニサイズソフビの妙味!


   
ドリルモグラは、
ピッケルシャークのような殺人鬼ではないものの、
素体にされた人間時代の、その身勝手な恋の恨みを暴走させて、
珠純子を奴隷妻にすべく拉致した、やはり恐ろしい怪人でした。

ってか、哀しいヤツです。
珠純子が想いをよせる男は風見志郎であり、
自分など、まるで眼中に無い、それどころか嫌悪されているのに、
その事をはっきりと認識していながらも諦めきれず、
珠純子に付きまとい嫌がらせする事に人生を捧げてしまったのですから。

しかも、最後は、
 V3反転キックを喰らって爆死、
ですので、
自分は珠純子には一切振り向いてもらえなかったうえに、
その珠純子が想いを寄せる男に蹴られて死んだわけで、
こんなにも惨めで無様でダサい最期はありません。



顔面のドリルも、
闘う武器としてはまったく機能せず、
V3から逃げるために地面を掘り進む事にしか使えなかった(しかも、それすら失敗)ゆえ、
まるで、自慰行為にしか使い道の無い淋しい男性器を象徴しているかのようで、
切なくなります。
    まぁ、そんな見方をするのは僕だけかもしれませんが(苦笑)、
男としての、
だらしなさや情けなさ、そして孤独に、何やら共感を覚えてしまう分、
恐ろしい、というよりは、
やっぱ、哀しい、って思ってしまいますね、僕は。
少なくとも、ピッケルシャークよりは、その歪んだ精神の構造が理解出来ます。

もちろん、それで犯罪に至ってしまうのは許される事ではありませんので、
決して認めるわけにはいきませんけども。


・・・そんな怪人なのに、
人形の方は、
そのプロフィールを一切背負わない・・・いや、
そんな怪人だからこそ、あえてそうしたかのような、この罪の無い可愛らしさ。
やっぱ、昭和のソフビの魅力や味わいは、深いです。


・・・けど、
ピッケルシャークだけでなく、ドリルモグラみたいなヤツも、世の中に実在しますね。





                前回へ                目次へ                次回へ