真水稔生の『ソフビ大好き!』


第20回 「誰かに似たソフビ」  2005.9

ブルマァクのミドルサイズのゴモラ人形は、造形ミスではないかと思えるくらい首が長く、
美人女優の本上まなみさんに似ている。

本上さんは、
子供の頃、 “首が長い” という事でイジメられたそうだが、
僕は本上さんの首はとても可憐で美しいと思う。
だから僕は、
このミドルサイズのゴモラ人形が大好き。“まなみ” と呼んで可愛がっている(笑)。

僕が本上さんに抱いているイメージは “読書するお嬢様”。
実際、
本上さんは子供の頃から大の読書好きだったそうで、
現在でも、
御自身の読書体験を綴ったエッセイ『ほんじょの虫干し。』(学習研究社)を発表されたり、
日本雑誌協会のイメージキャラクターに選ばれたりして、
読書の楽しさを伝道するお仕事をされている
  (主演映画の『群青の夜の羽毛布』でも、図書館で読書している印象的なシーンがあった)。

このミドルサイズのゴモラ人形の長い首の曲線は、
ちょうど読書をしている人の首の傾きのようで、
ジーッと見ていると、
モーツァルトか何かを聴きながら壁や本棚にもたれて体操座りで読書している本上さんの姿が浮かんできて、
心が和み穏やかな気持ちになる。

怪獣の人形に姿を変えても、そんな静かで優しい雰囲気を醸し出してやすらぎを与えてくれるなんて、
本上さん、さすが元祖癒し系女優だ。

それに、
好きな動物がフェネックやシロフクロウであったり、
グレン・グールドさんのCDを聴いてたり、なぜか花札に詳しかったり、
描いた絵本の主人公がカピバラだったり、
苔図鑑やウミウシ図鑑を持ってたり、
そんな本上さんのマニアックで独特な感性は、
ミニでもジャイアントでも、もちろんスタンダードでもない、“ミドル” という微妙な位置付けのサイズの、
通っぽいイメージにもピッタリと一致していて、
人形を見つめれば見つめるほど、ゴモラじゃなくて本上さんに見えてくるのだ。




ソフビ怪獣人形が誰かに似ている、
という体験は、
実は子供の時にもあって、
それは近所の商店街の中にあったおでん屋のおばちゃんである。

おでん屋のおばちゃんは
マルサンのバニラ人形に似ていた。
いや、似ていたなんてモンじゃない。まるでマルサンのバニラ人形が巨大化して歩いているようだった。

父親は毎日夜遅くまで働いていたので、
夕食はいつも母親と二人っきりで四畳半の部屋にちゃぶ台を置いて食べていたが、
時々母親が、
 
 「今日はおでんにしようか」

と言って、そのおでん屋に連れていってくれる事があり、その時はとても嬉しかった。ワクワクした。
別におでんが特別好きだったわけではなく、
おでん屋のおばちゃんに会える、
つまり、巨大化して歩いているバニラ人形に会える(笑)事に、胸が弾んだのだ。

おでん屋のおばちゃんは本当にバニラに似ていた。
実物のバニラじゃなくて、マルサンのバニラ人形に。
目尻がつり上がっていて豚鼻で、
ボコッと出た頬骨が明らかに左右非対称で、
いつもだらしなく口を開けてて、下っ腹がボテッって出てて、肌もなんだか黄土色っぽくて・・・。
そっくりだった。
オモチャ会社の人が
このおでん屋のおばちゃんをモデルにして人形を作ったのではないか・・・、と
思うくらいだった。

そのおでん屋に行くと、
僕は決まって、
赤棒という名の、食紅で色のついた細長いはんぺんを食べた。
大根や玉子は食べたり食べなかったりだったけど、
赤棒は必ず食べた。

母親は、
僕の事を “赤棒が大好きな子” と思っていたようだが、
実は違う。
おでん屋のおばちゃんを見ると、
赤色火焔怪獣バニラの “赤” に敬意を表して、
なんだか赤棒を食べなければいけないような気がしてきて、
義務というか儀式というか、そんな気持ちから注文していただけなのである。

大根や玉子の方が赤棒よりもずっと美味しくて好きだった。
だけど、
動く巨大なバニラ人形を見ながら食べる赤棒は、
お腹だけじゃなくて心も満たしてくれる充実の味だった。
食事をしながら怪獣ショーが見られる(笑)、迫力満点のそのおでん屋が、僕は大好きだった。

あと、
厨房の中で働いてたおじさん(おばちゃんの旦那さん)がアボラス人形に似ていたら
もっとおもしろいのにな、って思ってた。
夫婦喧嘩でも始められた日には、
アボラスとバニラの戦いを生で見られるわけで、
めちゃくちゃ興奮しただろう。
テレビと違ってバニラが勝つだろうけど(笑)。

今日のソフビ怪獣人形は
リアルな造形で実物の怪獣そっくりだから、
怪獣の人形が誰かに似ている、というあのなんとも滑稽な迫力を味わう事は出来ない。
バンダイのウルトラ怪獣シリーズのゴモラ人形は
どう見てもゴモラだし、
バニラ人形は
やっぱりバニラでしかない。
月並みな言い方だが、

 昔のソフビ怪獣人形の方が “味” があった、

という事だろうか・・・。

怪獣の人形が誰かに似ている事に気づいて、いろんな事を想像したり思い出したり、
デフォルメが施された昔のソフビ怪獣人形には、そんな楽しみ方もあるのだ。

美人女優からおでん屋のおばちゃんまで、
昔のソフビ怪獣人形はいろんな人に似ている。
・・・楽しいなぁ。

ブルマァクのゴキネズラ(スタンダードサイズ)。
東京の高円寺にある “ゴジラや” というアンティークTOYショップで
僕がこの人形を購入しようとした時、
店員さんが
 「うちのオーナーに似てるでしょ?」
と言って笑ってた。
オーナーは、映画監督であり、俳優であり、
テレビ東京の『開運!なんでも鑑定団』でもお馴染みの
鑑定士・木澤雅博氏。
・・・似てるかなぁ(笑)。

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