真水稔生の『ソフビ大好き!』


第185回 「気持ち悪い上等!」  2019.6

これは、
以前、出演させていただいた芝居の、稽古中の写真です。
隣の共演者の女性は、
その芝居で知り合った、本業はシャンソン歌手である風未子(ふみこ)さん。

この、
ひっそりとした慎ましやかな感じからは想像しづらい、
鬼気迫る演技をされる方で、
その圧倒的な表現力に、稽古中、僕はずっと惹かれていたのですが、
或る時、シャンソン歌手だと聞いて、

 あぁ、なるほどね、

と納得してしまいました。

というのも、
僕は、大好きな美輪明宏さんの影響もあって、
“シャンソン” という音楽に対し、

 魂を抉るように、生々しい感情を表現する歌、
 
というイメージを持っているからです。

体裁の良い事だけを朗らかに歌うのではなく、
自分の中にある醜い面も恥ずかしい部分も全て曝け出して
受け手にぶつける・・・、
そういうもの。

風未子さんの演技は、まさに “それ” だったわけです。


・・・で、
そんな風未子さんのライヴに、先日、行ってきたのですが、
生ピアノを伴奏に、
哀しくも愛しい “人生” を切々と歌うその姿は、
まるで濃厚な一人芝居を観ているようで、
僕が抱いてる “シャンソン” のイメージそのもの。
心酔してしまいました。

しかも、
途中、シャンソン以外の曲も歌っていらっしゃって、
その中の1曲が、
ちあきなおみさんの『夜へ急ぐ人』でしたので、
歌や芝居に人生を捧げた風未子さんの “覚悟” みたいなものを、
今まで以上に強く感じる事が出来、
同じ表現者として、とても刺激された次第です。


コロッケさんのものまねでしか “ちあきなおみ” という歌手を
知らない世代の方などは、
意味が解からないかもしれないので、
お節介ながら説明させていただきますと、
まず、
ちあきなおみさんは、
昭和の時代に活躍された大歌手で、
『喝采』や『四つのお願い』など、数々のヒット曲をお持ちの方です。

特撮ファンの方に興味を持っていただくために付け加えますと、
『仮面ライダーⅤ3』のキバ男爵を演じられた郷鍈治さんの、奥様でもあられます。
なので、
キバ夫人、ね。キバ夫人。 デヴィ夫人みたいに言うなっ! ←1人ボケツッコミ(笑)。

・・・で、
そんなちあきなおみさんのシングル曲のひとつである『夜へ急ぐ人』は、
特に大ヒットしたわけではないので
決してメジャーな楽曲とは言えないのですが、
歌そのものはもちろん、
ちあきなおみさんの歌い方や振りが、
まるで何かに取り憑かれたような、凄みのある実に怖いもので、
昭和52年の『NHK紅白歌合戦』で歌われた際には、
白組司会者だった山川静夫アナが、
思わず、

 「気持ちの悪い歌ですねぇ・・・。
     紅組には、妖怪もいるンでしょうか・・・」

とコメントしてしまったほどの、強烈な1曲。

昭和歌謡が好きな僕ですので、
そういう歌を選ぶ風未子さんのセンスに納得し、
ただシャンソンだけを聴くよりも、
一層しっかり、
風未子さんのたぎるような想いを受け止める事が出来た、というわけです。


それにしても、
『夜へ急ぐ人』は凄まじい歌です。

作詞作曲は、フォーク歌手の友川カズキさん。
いちばん最初の『3年B組金八先生』にゲスト出演されたのを
憶えている人も、少なくないかもしれません。
三原順子さん演じる生徒・山田麗子がライヴハウスで歌を聴いているシーンで、
実際にステージで歌ってらっしゃった方です。

その時の歌も、
『トドを殺すな』という凄い歌でしたが、
まぁ、とにかくどの歌も、
まるで血反吐を吐くかのように歌われるので、
尋常でない気迫を感じるンですよね。
聴く度に、
なんか、こう、
胸倉掴まれて生き様の純度を問われているような気がして、
僕は、尻込みしそうになりながらも、
何か熱いものが胸の奥から込み上げてくるのを感じます。

そんな友川カズキさんいわく、

 ジャニス・ジョプリンに書いてる気分で書いた、

という『夜へ急ぐ人』は、
まさに “狂気”。“狂気” の歌。

先述の山川アナのコメント、
今だったら、
ネット上において匿名で正義を振りかざす人々の餌食となり、
やれ「失礼だ」やれ「暴言だ」と叩かれて、
いわゆる “大炎上” してたかもしれませんが(笑)、
司会者としては正解な対応だった、と
僕は思いますね。

それが証拠に、
ちあきなおみさんが歌い終わった後、
ド肝抜かれて緊迫した空気になっていた観客席が、
山川アナのコメントを聞いた瞬間、
ホッとしたような笑いに包まれましたから。
司会者が観客と一緒にたじろいでいては、番組を進行出来ませんからね。

番組を観ていた僕(当時は中学生)も山川アナと同じ事を思いましたし、
おそらく日本中のお茶の間が、
観客席と同じで、
あのコメントで救われたはずです。
ホント、観る者を凍りつかせるような、壮絶なパフォーマンスでしたから。

それに、
友川カズキさんとちあきなおみさんにしてみたって、
“狂気” を表現したのですから、
「気持ち悪い」なんて言われるのは、

 してやったり、

の反応で、
失礼に感じるどころか、むしろ満足だったのではないでしょうか。

そもそも、“狂気” とは、
個性や才能が過剰なまでに集中した結果生まれるものですから、
他人からすれば気持ち悪くて当然だし、
気持ち悪いからこそ、その中に実は “真理” があったりもするわけで、
誰もが
脳の中に潜ませてるものだと思うンですよね。

表現者というものは、
そういう、心の奥底にあるものを、
自分なりの手法で “形” にして誰かに伝えたい、という衝動に、
いわば突き動かされて生きてるわけでして、
“受け手の心に爪痕残してナンボ” なのであります。

話を風未子さんに戻しますと、
芝居や歌に “魂むき出し” で挑む彼女が、
“狂気” の歌である『夜へ急ぐ人』を愛するのは極めて必然的なわけで、
大いに得心し、強く共感しますね、僕は。


・・・え?
だから結局何が言いたいンだ、って?

う~ん、
一言で言うと、

 気持ち悪い上等!

ですかね(笑)。

何かを表現して発信する以上、
前述したように “受け手の心に爪痕残してナンボ” ですし、
それが、
奇を衒ったものでなく、魂の叫びであるのなら、尚更。
表現者にとって、
「気持ち悪い」は、褒め言葉とまではいかずとも、
言われて傷ついたり不愉快に感じたりする言葉ではない、という事です。


ちなみに、僕の愛するソフビ怪獣人形も、
半世紀前の大人たちからは、

 「気持ち悪い」

って言われてました。

 「グロだ」

 「ゲテモノだ」

 「子供の美的感覚を麻痺させる」

とまでも。

こんなに可愛いのに・・・(笑)。

 
   

自分たちを否定する当時の大人たちに、
もの言わぬこいつらは、きっと心の中で叫んでいた事でしょう、

 気持ち悪い上等!

と。

だって、
こいつら、みんな、笑ってますもん。
笑顔なンです。
屁とも思ってなかったわけですね、「気持ち悪い」なんて言われても(笑)。

 

もちろん、
僕ら当時の子供たちに対して友好の意思を示す笑顔なのでしょうが、
一方で、
“怪獣” を単に化け物扱いして卑しむ大人たちの浅はかさを
嘲笑っている表情にも、
見えなくもないンですよねぇ・・・。
「べぇ~」って舌を出してるヤツもいるくらいですし・・・(笑)。

わざとひねって歪ませた線や異常なまでに深い彫りを多用している造形は、
「気持ち悪い」なんて言われる事など一切気にせず、
むしろそれを楽しんでさえいる、原型師のゆとりや洒落っ気の産物。
つまり、
夢の生き物の人形を子供たちのために作る職人・美術家の “気概” が、
その人形の顔の表情を
こんな笑顔にしているのだと思うのです。

言うなれば、これは、
『夜へ急ぐ人』を世に送り出した
友川カズキさんやちあきなおみさんと同じ精神、なンですよね。

人間の魂を癒し活性化させるような “作品” は、
物事の上っ面しか見ない人に、どれだけ「気持ち悪い」と言われても平気なンです。

・・・ん?
ということは、
『夜へ急ぐ人』を慈しみ歌う風未子さんは、
大人たちの雑言には一切耳を貸さず
心の赴くままソフビ怪獣人形を愛した僕ら半世紀前の子供たちと、
同種の感受性の持ち主である、
って事が言えるなぁ・・・。

あ、そうか。
僕が風未子さんに惹かれるのは、
表現者としての実力に対するリスペクト以前に、
理屈抜きで理解出来る “共通の感覚” を有していたから、だったンだ。
もう、最初から、
勝手にシンパシーを感じちゃってたわけですね(笑)。


・・・ってか、
『夜へ急ぐ人』と同じ精神、って、
やっぱ、凄いオモチャだな、昔のマルサンソフビは・・・。

     
           
       





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