真水稔生の『ソフビ大好き!』


第143回 「悲しきカンガルーは愛しきカンガルー」  2015.12

 

名古屋三越栄店。
そして、その入口にあるライオン像。

栄での待ち合わせは
このライオン像の前でするのが、名古屋人の定番であります。


でも、僕は、
この堂々とした王者の風格を目にする度、

 チェッ、偉そうに・・・。
 ここは元々カンガルーの場所だったンだぞ!

と、心の中で物言いをつけてしまいます。  
 

・・・そうなのです。
以前、ここには、
ライオン像ではなく、カンガルー像が建っていたのです。

昭和40年代から50年代半ばまでを名古屋で過ごした人なら、
きっと誰もが記憶に残っている事でしょう。
この名古屋三越栄店、
元は、“オリエンタル中村” という名前の百貨店であり、
そのオリエンタル中村のシンボルとして、入口にカンガルー像が建っていたのです。

子供だった僕は、
そのカンガルー像を目にする事で

 栄に来たンだぁ・・・、

と実感して、胸をときめかせたものです。

繁華街へ出てくる・百貨店で買い物をする、というのは
やはり特別な事でしたからね。
そのワクワク感の象徴みたいなものだったのです、カンガルー像が。

また、
カンガルーという可愛い動物の像が建っている事で、
オリエンタル中村が
ほかの百貨店よりも楽しい場所である気がしていたし、
あれは幼稚園児だった頃でしょうか、
買い物を済ませた母親と一緒に
そのカンガルー像の前で仕事帰りの父親と待ち合わせをし、
家族3人で、
オリエンタル中村の中にあったレストランで食事をした・・・、
なんて思い出もあります。

そんな愛着のあるものが、
“オリエンタル中村” から “名古屋三越栄店” への店名変更に伴うリニューアルのため
撤去されてしまった時は、
とても淋しい気持ちになったものです。
・・・悲しきカンガルー。

その感情が、いまだに尾を引いて、
代わりに設置されたライオン像を反感の目で見させてしまう、というわけなのです。

まぁ、
ライオン像からしたら、

 知らんがな、

って話でしょうけど(苦笑)。


ただ、
そのオリエンタル中村のカンガルー像、
撤去こそされましたが、
実は、無くなってしまったわけではありません。

なんと、
この名古屋三越栄店の、屋上遊園地の片隅に展示され、
今でもちゃんと存在しているのです。 
     
 
      見て下さい、
      このお洒落なデザイン、この爽快なまでのデカさ、
      ライオン像なんかよりずっと素敵でしょ? 


          買い物客や街行く人々をずっと見てきた瞳は、
母と二人で仕事帰りの父を待っていた幼い日の僕の事も、
もちろん見ていたはず。

 「あんた、
  あン時の坊やかい?
  まぁ~、オッサンになってまったねぇ~」

なんて言われている気がします(笑)。
 


ところで、
このカンガルー像が、
撤去の際に “廃棄” ではなく “移動” で済んだのは、
おそらく、
ビルの持ち主がコレクターだったからではないか、と僕は思っています。

この名古屋三越栄店のビルのオーナーは、
フェラーリコレクターとして有名な平松潤一郎さん。
カタログや整備資料、関連本、ポスターからミニカーに至るまで、
フェラーリに関するものなら何でも、
徹底的にこだわって蒐集されている方で、
なんと、
フェラーリの車両そのものも、何台も所有されています。

・・・なんか、
同じコレクターでも、
怪獣のオモチャをチマチマ集めている僕なんかとは
スケールが違いますが(苦笑)、
それでも、
モノに夢を見、モノを大切に思う “コレクター魂” は同じ。

たとえスケールが違っても、
たとえ面識が無くても、
感覚で理解出来るンですよね、
用が済んだモノ・旬を過ぎたモノにも
愛ある眼差しを向け、新たな価値を見出し高めようとする意力が。

コレクターがモノに執着するのは、
モノをただ “モノ” として捉えず、
そのモノに携わったすべての人の思いや
そのモノが関わったすべての出来事を尊重し、
生命として守ろうとするから。
日本古来の、
“モノには神・精霊が宿る” という自然崇拝の考えが
DNAに強く組み込まれているのかもしれません。

そんな、
コレクターならではの気質・精神が、
カンガルー像を、

 処分しないで保存、

という処置に至らせたのではないでしょうか。

それが証拠に、
オリエンタル中村の時代からこの屋上遊園地にあった観覧車も、
もう営業していないにもかかわらず、
しっかりと整備され、
カンガルー像の隣に展示されています。 
       なんと、この観覧車、
 現存する屋上観覧車としては日本最古のものだそうで、
 登録有形文化財にまでなっています。 

この屋上遊園地で
懐かしいカンガルー像や観覧車に今でも会える、というのは、
とても貴重な事、素晴らしい事。
だって、
ゆっくりと時間が流れ心安らぐ感覚が、
慌ただしい繁華街のど真ン中で味わえるのですから。

そんな、奇跡のような素敵な空間、そうそうあるものではありません。

名古屋人は幸せです。
平松さんに感謝。
コレクター、バンザイ!  

オリエンタル中村のシンボルだったカンガルー像、
今では、
名古屋が心豊かな人の住む地である事の、誇り高きシンボルです。



・・・で、
カンガルー絡みでこのエッセイで取り上げるキャラクターとなると、
こちら、ですね。 
   







奇っ械人ガンガル


仮面ライダーシリーズの第5作目『仮面ライダーストロンガー』の
第1話に登場した怪人です。 

バンダイ製 仮面ライダー対決セット(食玩)、
全長約10センチ。
   


    発売は、平成18年。
同サイズの仮面ライダーストロンガー人形とのセットでした。
 
ややガニ股の足が、
今にも
ピョーンと跳ねて飛びかかってきそうで、
良い造形のソフビだと思います。
 
でも、
この怪人には、
僕はガッカリした記憶しかありません。

だって、カッコよくないンだもん(笑)。

 こんなのが敵なら
 来週から観るのやめよかな、

って、思いました。

まぁ、
電波人間タックル(ミニスカートの女性仮面ライダー)がいたから、
僕は持ちこたえましたけど(笑)、
実際にこれでライダーシリーズ観るのをやめちゃった子、いたンじゃないかなぁ・・・。

そもそも、まず、
“カンガルー”(愛嬌のある動物)をモチーフにした悪者、
なんて、
全然ピンとこないし、
“奇っ械人” なんてフザけたネーミングもイヤ。

仮面ライダーを倒して世界征服しなければならない悪の組織が、
そんなギャグみたいな怪人、送り込みます?
それも初っ端から。
真剣味がまるで感じられません。

歴代の第1話怪人を振りかえると、

『仮面ライダー』は蜘蛛男、
『仮面ライダーⅤ3』はハサミジャガーとカメバズーカ、
『仮面ライダーⅩ』はネプチューン、
『仮面ライダーアマゾン』はクモ獣人、

と、
不気味でカッコいいヤツばかり。
それらと比較すれば歴然だと思います、奇っ械人ガンガルの “緩さ” は。

しかも、
奇っ械人ガンガルの人間体を演じていたのは、喜劇俳優の人見きよしさん。
喜劇俳優といっても、
悪役をされる事も多い方でしたし、
演技はもちろん一流でしたので、
“怖い悪者” のイメージは充分伝わってきたのですが、
いかんせん、
その、『原始家族フリントストーン』のお父さんみたいな風貌が、
仮面ライダーと闘う怪人のイメージと結びつかないのです。

 お腹の出た中年のオジサン、
 その正体は、
 可愛いカンガルーの怪人、

と言われても、
そんなヤツが仮面ライダーと激しい死闘を繰り広げるとは、
到底、思えませんから。

予想通り、
クライマックスのバトルは、
スリルの欠片もない、遊びでやってるのか、というようなものでした。
なんと、
奇っ械人ガンガルのとっておきの武器が、
お腹の袋の子供(第2の顔)をスプリングで飛び出させて相手にぶち当てる、
というものだったのです。
「オモチャか!」と思いました(笑)。

思えば、
同時期に放送が始まった『秘密戦隊ゴレンジャー』も、
フザけた名前と容姿の
ギャグみたいな怪人が登場し、
まるで遊んでるようなバトルを繰り広げてましたので、
当時の幼児には、
そういう路線がウケたのかもしれませんが、
小学校入学と同時に『仮面ライダー』が始まり、
歴代ライダーの、
命をかけた激しい闘いに胸を躍らせてきた小学5年生の僕には、
それは、
あまりにかったるいものだったのです。

これが、
『超人バロム・1』や『人造人間キカイダー』や『ロボット刑事』、
それこそ『秘密戦隊ゴレンジャー』といった、
ライダーシリーズ以外の作品の敵だったら、
自然に受け入れられたかもしれません。
やっぱ、“仮面ライダー” は特別な存在だったンですね、僕の中では。

そんな栄えあるライダーシリーズの、
“新番組の第1話怪人”
という事で
注目してテレビの前に座っていただけに、
とても残念で、ショックだったわけです。
・・・これまた、悲しきカンガルー。 
             

ただ、
その分、印象強くしっかりと心に残り、
ほかのストロンガー怪人は忘れてしまっても、
この奇っ械人ガンガルの事は、大人になってもずっと憶えていました。

数年前に
舞台でカンガルーの役をやった事があるのですが
(学芸会じゃないよ(笑)。
 正確には、カンガルー人間、かな。シュールな芝居でした)、
その際も、
役をいただいた時からずっと
奇っ械人ガンガルの事が頭にありましたし・・・。 
衣装はあらかじめ決まっていたものですが、
“お腹の袋の子供” は、自分で提案してつけ加えたものです。 
    彼女に頼んで作ってもらったのですが、
“奇っ械人ガンガル” に思いを馳せていた僕は、

 「この子供が飛び出すような仕掛けにしてほしい」

と注文しました。

でも、

 「そんな面倒くさい事、イヤ」

と1秒で断られました(笑)。
 

衣装合わせの際、
演出家に、

 「お前、男の役なのに、なんでお腹の袋に子供がおるンだ?」

と聞かれ、

 「奇っ械人ガンガルだって、そうじゃないですか」

と答えようと思いましたが、
演出家は僕より10歳くらい年上の方でしたので、
『仮面ライダーストロンガー』の怪人など知らないでしょうから、

 「いけませんか?」

とだけ返しました。

すると、

 「まぁ、別にエエけど・・・」

と言われたので、それで決着。

やはり、シュールな芝居でした(笑)。


また、
動物園へ行ってカンガルーの動きを観察し、真似してみたり、
ネットや書物で調べて得た、

 カンガルーは天敵がいないため、“後退する” という能力が無い、

という知識をもとに、
警戒心の無いノーテンキな性格を設定し、
絶対に後ろ向きには歩かない動きを徹底してみたりしましたが、
舞台を観に来てくれた友人には、

 「あんまりカンガルーっぽくなかったなぁ・・・」

などと言われてしまいました(ガクッ)。
・・・またしても、悲しきカンガルー。


カンガルー人間になる難しさや
カンガルー人間の奥深さを身を持って知り、
今更ながら、
奇っ械人ガンガルに
敬意(延いては好意)を抱いている次第であります。

子供の頃あれほど馬鹿にしていたのに、
今では
“好きな怪人” になってしまいました、とさ(笑)。
       
 


ちなみに、
今日、名古屋三越栄店に来たのは、
彼女の買い物に付き合うためなのでありますが、
待ち合わせを、
“三越のライオン前” ではなく
“三越屋上のカンガルー前” にしよう、
と提案したら、

 「そんな面倒くさい事、イヤ」

と1秒で断られました。
芝居の衣装の、
お腹の袋の子供が飛び出す仕掛けを注文した時と同じです。


まぁ、
デパ地下に行きたかったみたいだから、
まったく逆方向の
屋上で待ち合わせは、確かに面倒くさいかもしれませんが、
そういう “遊び心” 、
あってもいいンじゃないかなぁ・・・。

奇っ械人ガンガルや
オリエンタル中村のカンガルー像を
懐かしみ愛する・・・、
そういう夢やロマンといったものが、解らないンですよねぇ、女には。


でも、
カンガルー像の写真を撮るために、
買い物の後、
結局、屋上まで付き合ってもらいましたけどね。
ざまぁみろ、です(笑)。  
         
         





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