真水稔生の『ソフビ大好き!』


第140回 「ソフビ怪獣散歩」  2015.9

           




【出演】

・・・メフィラス星人(マルサン製、全長約23センチ)

・・・ラゴン(ブルマァク製、全長約34センチ)

・・・ジャミラ(ブルマァク製、全長約21センチ) 
   
   
   
「『ウルトラ怪獣散歩』、おもしろいですねぇ」

「あれをソフビでやろう、と?」

「それで今日は僕ら3体が、
  御主人様のコレクションケースを飛び出して、
  こうしてお天道様の下にいるわけなンですね」

「たまにはイイでしょ?こういうのも」

「イイけど・・・」

「ん?どうかしました?ラゴンさん」

「いや、俺だけ、サイズが違うンで、見た目が変じゃないかな?って・・・」 
「仕方ないじゃないですか、
  ラゴンさんだけ、スタンダードサイズで発売されてないンですから」

「うわ、なんか、軽い “仲間はずれ感” ・・・」

「ひがまない、ひがまない」

「そうですよ。大きいサイズで発売されたなんて、光栄な事じゃないですか。
  私もジャミラさんも、
  そのサイズにはなれなかったから、憧れましたよ、当時」

「・・・そう?」

「ええ。だって人気怪獣である証だもん」
 
「人気怪獣?俺が?」

「思い出してごらんなさいよ、大きいサイズで発売された面々を。
  バルタン星人さんにレッドキングさん、
  それから、
  ゴモラさん、ゼットンさん・・・、あ、あとキングジョーさんも!」

「ホントだぁ!」

「ね?だから明るく元気に行きましょう!」

「うん!」
「・・・ねぇねぇ、メフィラスさん、
  特に人気が高いわけでもないのに
  大きいサイズの人形になってた怪獣もいましたよ。
  ベル星人さんとかドラコさんとか・・・。
  ラゴンさん、って
  そっちじゃないの?
  そもそも、スタンダードサイズの人形になっていない時点で
  人気怪獣じゃないでしょ?」

「しっ!せっかく機嫌直してくれたンだから」


「なんか言った?」
       
「え? あ、いやいや、何も。
  ・・・そうだ!
  まず、この公園の説明をしましょうね。

  え~っと、ここはですねぇ、
  このエッセイの連載でお世話になってるゲイトウエイさんの、
  店舗の裏にある小学校に隣接してる公園なンです。
  なんと、
  運動場から敷地が繋がってるンですよ。
  広いですし、
  ブランコや滑り台のほか、怪獣みたいな遊具もあって、
  気持ちよく遊べる場所です」
     
 
「緑もいっぱいあって、散歩にも最適な空間だなぁ・・・」

「そうなンですよ。
  さすがラゴンさん、わかってらっしゃる。
  だからこの公園を選んだンです。
  散歩に最適なこの公園からスタートして、
  周りをぶらぶらしながら、
  途中、ゲイトウエイさんにも顔を出して、
  んでもって、最後はまたこの公園に戻ってこようか、と・・・」

「なるほど、いいねぇ」 
   
「それにしても、
  子供達が集う小学校・公園と
  大人になりきれない子供達(笑)が集うゲイトウエイさんが、
  路地を挟んで並んでいるとは、
  なんとも皮肉なロケーションですねぇ・・・」 

「ハハハ。
  では、そんな哀愁も味わいつつ、趣深く参りましょう!」 
 




「最寄りの駅は、
  地下鉄鶴舞線の塩釜口駅。
  近くに塩竃神社があるので、この名前なンでしょうね。
  塩竃神社への参詣口、それで塩釜口」

「塩竃神社?」

「安産やお宮参りの御祈祷をして下さる神社です。
  うちの御主人様も、御主人様のお子さんも、
  代々お世話になってますよ。
  確か、
  御祭神は塩土老翁神、海を司る神様ですね」

「え? じゃあ、行かなきゃ」

「ラゴンさんは海底原人ですからねぇ、なんたって」

「さぁ行こう、メフィラスさん!」

「ラゴンさん、
  お気持ちは解りますが、ダメですね」

「なんで?」

『ウルトラ怪獣散歩』、観てないンですか?
  我々怪獣は、
  神聖な場所にそぐわない、という理由で、
  神社仏閣では撮影させてもらえないンですよォ」

「そんなぁ~」
「そうだ!
  すぐ近くに川があるから、そこに行きませんか?」

「植田川ですね」

「川は海に繋がってるわけですから、
  その流れを見つめながら、
  海の神様に思いを馳せればいいじゃないですか」

「おぉ、それは名案!
  ありがとう、ジャミラさん」

「さぁ、行きましょう、行きましょう!」  
       






「着きましたよ」

「ほら、魚もあんなにたくさんいますよ、ラゴンさん」








 
「あぁ、放流してあるンだぁ。
  取らないでください 植田川をきれいにする会・・・、か。
  けど、
  それ、鯉だろ?
  鯉なんか泳がしたって、べつに川はきれいにはならないンだけどなぁ・・・。
  それどころか、
  生態系に悪影響を与えて、水辺が壊滅しちゃうよ」
「偽善者はいつもこうだ。文句だけは美しいけれど・・・」


「どっかで聞いた台詞だなぁ・・・。
  でも、
  この場合、
  偽善者じゃなくて、
  ただ生態系について無知なだけなんだと思うよ、
  植田川をきれいにする会、って人たちが」

「どっちにしろ、人間は勝手だ、って事ですよ」

「・・・」

 
       
「・・・ん?
  なんか、重い空気になっちゃいました?
  スミマセン(汗)。

  では、え~っと、
  あぁ、あそこは何ですか?メフィラスさん、
  なにやら
  美味しそうな匂いがしてますけど・・・」




「“かつら” っていう焼肉屋さんですね。
  美味しいンだぁ、この店。
  焼肉以外に、
  定食なんかも20種類以上あって、
  ゲイトウエイの店長さんや私達の御主人様も、
  よくここで食事してますよ」 
       
 

「あ、なんか、扉にギターの絵が描いてある・・・」 

「ここは何?」




「バンドの練習やレコーディングを行う音楽スタジオですね。
  “ゼロスタジオ”っていいます。

  ・・・あ、そうそう、
  ゼロ、と言えば、
  雑誌『特撮ゼロ』で、
  うちの御主人様のエッセイの連載が始まりましたね」
  
「その名も、
  “真水稔生の『詫ビ寂ビ・ソフビ・夢遊ビ』”」
 

「出たーっ、宣伝!
  わざとらしい “こじつけ” が、
  いかにもうちの御主人様だなぁ(笑)。

  ・・・あ、もしかして、
  この宣伝のために、俺達、散歩させられてンじゃないの?」


「ハハハ。そんな事はないと思いますが・・・。
  まぁ、
  『ソフビ大好き!』同様、
  こちらの方もよろしくお願いします、という事で・・・」





   
       
       
                  「そうこうしているうちに、
  到着しました、ゲイトウエイ!」  
              「早速、中へ入ってみましょう」 

「ワクワクするなぁ・・・」

「おじゃましまーすっ!」
「わぉ、“とびだすえほん” だ! ・・・懐かしい」
 
「プラモデルも、いろいろあるなぁ・・・」 
「わぁ、すげェ!
  オモチャだけじゃなくて、こんな生活雑貨まで扱ってるンだぁ。
  見てるだけでも楽しいなぁ」
        「あっ、うちの子だ! 返してもらわなきゃ」

「ダメダメ!
  それは
  この店の売り物ですよ、ラゴンさん。
  あなたのお子さんは、
  ちゃんと御主人様のコレクションケースにいますからぁ!」
  
 「店長さん、
  このチビラくんのシャンプーボトルを
  あなたにあげましょう、と言ってくれないかね?」

「だから、売り物だってばぁ!
  それで「はい、どうぞ」なんて言って
  モノくれる人なんかいませんよ、メフィラスさん。
  昔もそれで
  地球人から地球を奪うの失敗したでしょ?」
「ハハハ。いや、失敬、失敬。
  オモチャだらけで、
  つい、テンションが上がってしまったもんで・・・」 
「まぁ、地球をもらう事は無理でも、
  オモチャなら、お金を払えば手に入れる事は可能ですから、
  御主人様に
  頑張ってお金貯めてもらいましょうよ、メフィラスさん」

「いやぁ、それは厳しいなぁ。
  うちの御主人様、たまにしか仕事しないから」

「たまにしか仕事が来ないンだから、どうしようもないよ」

「そういえば、
  コレクションも、最近、全然増えませんね」
 
                            「サラリーマン時代はねぇ、
  しょっちゅう、こちらのゲイトウエイさんでもソフビ買ってたンですが・・・。
  昔はここのお隣さんが “マタンゴ” って名前のカレー屋さんでね」

「あぁ、憶えてる、憶えてる!」

「そこで、うちの御主人様は、
  窓際の席に座って
  カレーを食べながら黒ビールを飲む、ってのが
  休日の昼間の習慣だったンです。
  んでもって、
  お酒弱いからすぐに眠くなって、
  そのままうたた寝してると、
  ガラガラガラガラ、ってゲイトウエイさんのシャッターが開く音が聞こえてきて、
  それで目を覚ます」

「んでもって、
  マタンゴさんを出てゲイトウエイさんに入り、
  店長さんと雑談しながらソフビ購入」

「ずいぶんと、のどかな人生だったンですねぇ」

「それが今や、
  明日喰う米も心配な・・・(苦笑)」   
「・・・あ、
  こんな所で駄弁ってたら商売の邪魔ですね。
  そろそろ公園の方に戻りましょう」

「そうですね」

「どうも、おじゃましましたぁ!」   
 
   
   
 
   
「さて、公園に戻ってまいりました。
  ラゴンさんにジャミラさん、
  初めてのソフビ怪獣散歩、いかがでしたか?」

「いやぁ、楽しかった」

「また、やりたいですね」

「そうですね。もっといろんな所に行きたいですね」
 
「それでは、みなさん・・・」



「ごきげんよう!」

 
       
       
       
      はい、カット! OKでーす! 
       
      おつかれさまでしたーっ! 
       
       
「・・・いやぁ、よく歩いてよくしゃべったから喉が渇いちゃった。
  水飲も、っと」

「あ、僕も僕もっ!」
 
「うわっ、水だっ!助けて~」


「水が苦手なのに、なんで水を飲もうと思ったンだよ!?」

「しっかり者のようで、意外と “天然” ですね、ジャミラさん」





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