真水稔生の『ソフビ大好き!』


第136回 「“一匹狼” 男」  2015.5

 「自分の事を他人が理解してくれんでも、
             別にええと思ってるンで・・・」

板尾創路さんが
テレビのトーク番組の中でそうおっしゃってました。

“天然ボケ” と言うか “ミステリアス” と言うか、
独特の感性による不思議な言動が多い事を芸人仲間に指摘され、

 「何を考えているのか?」「どうしてそんななのか?」

と問われた際の発言だったのですが、

 凄いなぁ・・・、

って思いました。

お笑い芸人としてはもちろんの事、
板尾さんが役者としても魅力的なのは、
こういう精神の境地に至っているからではないでしょうか。

他人が自分をどう思うか、なんて事を考えないわけですから、
板尾さんから発信されるものは、
飾ったり偽ったりしていない、純度100%の裸の感性。
それゆえに、
観る者の心が動かされるのだと思います。

真に迫る、
なんてよく言いますが、
嘘なんだけど嘘ではダメなのが “演技” でして、
形だけ取り繕って
そのように見せようとしても、何も伝わりません。

演ずる、とは、
自分とは違う人間の人生を生きる事。

上手にやろう、
とか
自分をカッコよくみせよう、
とか、
そういう事を考えた時点で、アウト。
自分とは違う人間の人生を生きる際に “自分” が出てしまっていては、
役になりきる事など不可能ですから。

役になりきる、
つまり、自分が演じる人間に命を吹き込む、
それには、
他人の目など気にしない、
ある意味ふてぶてしい根性が必要です。

“一匹狼” とでも言いましょうか、
普段から
孤独を恐れず自分自身を突き詰めて生きているような人間が、
“表現者”として突出していくのだと思います。

板尾さんは、まさにそれ。
持って生まれた資質もあるかもしれませんが、
どこか意識的に、

 “表現者” たるもの “一匹狼” でなければならぬ、

と、
腹を括っていらっしゃるところがあるように感じます。


僕も、
曲がりなりにも
その “表現者” の端くれである以上、
板尾さんのように
他人の目など気にせず生きるよう、
心がけてはいるのですが、

 自分を良く見せたい、他人の気を引きたい、

という雑念を
まだまだ捨て切れないでいるのが、実際のところ。
よって、
カッコつけたり、
奇をてらったりするような芝居をしてしまいがちなのです。

甘いンですよね、要は。
技術以前に、
覚悟というか気合というか、
そういった、
“一匹狼” として生きる決意みたいなものが、まだまだ中途半端なンだと思います。


・・・あ、スミマセン。
飲み屋で芝居仲間とやってろ、って話ですよね。
失礼しました(汗)。
テレビで板尾さんを見てたら、
ふと、
そんな反省が頭をよぎり、
“一匹狼” というキーワードが出てきたものですから・・・。



    というわけで、狼男
バンダイ製 スタンダードサイズ。全長約26センチ。

『仮面ライダー』第39話に登場したショッカー怪人。
ショッカー日本支部の初代大幹部であるゾル大佐の、醜いその正体でもあります。

 ゾル大佐の正体は怪人だった・・・、

あれは子供心に衝撃的でしたねぇ、なんとも。
シビレました。
しかも、
世界的に有名な古典的モンスターである “狼男” なのですから、特別感は満点。
大幹部の正体としては、これ以上ない怪人でした。

ただ、劇中、
ゾル大佐の正体とは別に、“実験用狼男” なる、別の狼男も登場します。
両者は、
胸や太腿など、部分的に形状が若干異なるのと、
彩色が、ゾル大佐の正体の狼男が金色であるのに対し、実験用狼男の方は紺色、
という、一目見て判る差があります。 
   
 放映当時に発売されていたこの人形は、
 時代柄、当然デフォルメ造形であり、
 彩色も、
 このようにグレーで、金色でも紺色でもありません。
 ゆえに、
 これを手にした子供自身の空想力で、
 ゾル大佐の正体の狼男にも実験用狼男にも、
 どちらにも見立てて遊ぶ事が出来るわけでして、
 オモチャがオモチャらしく
 子供の夢を育んでいた時代の産物、と言えるのであります。

 とはいえ、
 リアル造形支持派からは鼻で笑われ否定される事も、理解出来ます。
 この、
 幼児向け絵本(例えば『赤ずきんちゃん』とか『三匹の子豚』とか)に
 出てきそうな擬人化された狼のような顔は、
 デフォルメ・アレンジと言うより、完全なる差し替えであり、
 ショッカー怪人・狼男とは
 全くの別人になってしまっていますからね。
 
    前々回のさそり男人形と蝙蝠男人形、前回のヤモゲラス人形、と
最近ずっと述べている、
“幼い子供が泣き出さないように配慮された、当時のオモチャならではの造形”
ではあるのですが、

 ちょっと、度が過ぎてるな、

って思います。
ここまで実物の怖さを消してしまうと、興醒めしてしまう感すらあります。
ライダー人形と闘わせても、
実物と違いすぎて、
テレビで観たバトルシーンがなかなか熱く甦ってきませんし・・・。
       
                      ただ、
この白目の部分を緑色にしてあるのは、
凄い発想だと思います。

安易に白にしたくなかったのなら、
黄色を混ぜて、少し濁ったような白目にして悪者感を強めるとか、
銀色にしたり黒く塗りつぶしたりして、“人間ではない” 迫力を出すとか、
あるいは、
赤を使って充血した感じにするとか・・・、
その辺りが、凡人の思いつくところ。

けど、
さすがに緑は・・・。 
   この、“突然、緑” という
 ぶっ飛んだセンスのおかげで、
 愛嬌を持たせすぎた顔の造形がキュッと引き締まった感があります。
 こんな目をした怪人に、
 温かい血など絶対に流れていませんから(笑)。

 殺戮を楽しむゾル大佐の残忍性にも繋がっている気がして、
 僕は好きですね、この白目・・・いや、緑目。

 ショッカー怪人の人形なら、やっぱ、少しは無気味でないとね。


   
  こちらは、
ミニサイズ人形で全長約11センチ。ポピー製。

スタンダードサイズの人形と違って、
このように
成形色が2種類存在するので、
クリーム色の方を
ゾル大佐の正体の狼男(金色)、
黒の方を
実験用狼男(紺色)、と
それぞれイメージして楽しむ事が出来ます。 


    現在のリアル造形のソフビ。バンダイ製、全長約16センチ。

向かって左側の人形が
平成14年に発売された “ショッカー秘密基地セット” の中の1体で、
右側の人形は
その翌年にリペイントされて単品で発売されたもの。

“ショッカー秘密基地セット” は、
ショッカーの基地内を再現したジオラマと、
狼男、戦闘員2種、ライダー、の4体のソフビ人形が
入ったセットでしたが、
ライダー人形が
狼男と闘った旧2号ではなく旧1号、
という、なんだかよく解らない内容でした。

僕がバンダイの担当者だったら、
旧2号ライダーにするのはもちろん、
ゾル大佐のソフビ人形も作って、
狼男、ゾル大佐、戦闘員、旧2号ライダー、ってセットを企画するし、
リペイントして再販、じゃなくて、
実験用狼男のソフビ人形の発売を提案するけどなぁ・・・。
                  こりゃあ、子供は泣きますね(笑)。

童話の絵本に出てくるような狼の顔に
まるっと差し替えた昔のメーカー側の気持ち、解らなくもないです。

 



     
こちらは食玩のミニソフビ。
上の2体と同時期に、コンビニに並んでいました。
バンダイ製 仮面ライダーソフビ道、全長約10センチ。
額の部分の
金色の塗装の剥げ具合まで、実物の再現にこだわっています。
   
 同シリーズとして、
 ほかには、
 イカデビルやガラガランダ、
 あと、平成ライダーがラインナップされていましたが、
 個人的には、
 ゾル大佐や実験用狼男はもちろん、ショッカー怪人をもっと出してほしかったですね。
 このクオリティの造形・彩色で、ショッカー怪人をたくさん見てみたいです。



・・・ってか、
『仮面ライダー』には欠かせない名キャラクターでありながら、
ゾル大佐のソフビ人形がいまだに発売されないのは何故なンでしょう?
変身後の姿は、
昭和の時代にも平成の時代にも、スタンダードとミニがきちんと出てるのに・・・。

       



ゾル大佐・死神博士・地獄大使の3大幹部の中では、僕はゾル大佐がいちばん好きです。
子供の頃からずっと。

なんたって、
“怪人たちに命令を下す人間体の大幹部” というのが、
初めてという事もあって強烈なインパクトでしたし、
その容姿も、
軍服に口ひげとアイパッチ、手には鞭・・・、と
“カッコいい悪者” として完成されていましたから。

それに、何より、
演じていた宮口二郎さんの個性と演技が最高でした。
実に説得力のある悪者ぶり。
マジで怪人より怖かったです。

いちばん偉い首領がいて、
大幹部、その下に怪人、戦闘員、という
ショッカーの組織構成は、
単なる設定だけでは、今日のような確立は無かったと思います。
宮口さんの役者としての存在感と力量があってこそ、
それは日本中の子供たちに浸透したのではないでしょうか。

昭和61年に講談社から発行された『仮面ライダー怪人大全集』という本の中に
宮口さんのインタビュー記事が載っていまして、
アトラクションでのサイン会の際、
悪者・仮面ライダーの敵という事で
会場に来ていた子供に蹴られた、というエピソードを語っておられます。

それは、
ゾル大佐役の宮口二郎という役者がそこにいたからではなく、
ゾル大佐がそこにいたから、
子供は蹴ったわけで、
宮口さんが魂を込めてゾル大佐を演じていらっしゃった証です。

 「役者冥利につきますね。(笑)
  小さいころの思い出はたいせつにしてほしいですね」

というコメントで
その短いインタビュー記事は締めくくられていますが、
こんな優しい人が
あの極悪非道な指揮官になりきっていたのですから、
最初に述べた、
“表現者” としての覚悟・気合に尽きると思います。

ゾル大佐は、
狼男である以前に、すでに “一匹狼” であった、
というわけですね。

泣けてきます。
宮口さんのような素敵で立派な俳優が出演していた番組を
少年時代に観る事が出来て、本当に良かった。

頑張ります、僕。
死ぬまで夢見て憧れて、日々精進します。





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