真水稔生の『ソフビ大好き!』


第111回 「夏の兄」  2013.4

追悼の思いもあり、
今年の1月に亡くなられた大島渚監督の作品を、
レンタルビデオ店や友人からDVD・BDを借りてきて、何本か観ております。

その中の1本に、
僕が初めて観る『夏の妹』という作品があったのですが、
劇中、
石橋正次さんと栗田ひろみさんが
並んで夜道を歩きながら、
二人で『シルバー仮面』の主題歌を歌っていたので、驚きました。

『夏の妹』は、
昭和47年、沖縄が返還された直後に
オール沖縄ロケで制作されたATG映画。
脚本が、
大島渚さん、田村孟さん、
そして、
『シルバー仮面』の脚本および主題歌の作詞を担当した佐々木守さん、の
3人による共同作品である事はわかっていたし、
映画の中で『シルバー仮面』の主題歌が使われている事も
何かの本に書いてあったので知ってはいたのですが、
まさか出演者が歌っているとは・・・。

なんとも違和感を覚えるシーンでした。
だって、
特撮ファンの方なら御存知のとおり、
『シルバー仮面』は超マイナーな子供番組。
その主題歌を、
いくら放映時と映画の公開が同じ頃とは言え、
大人同士が流行歌のように口ずさむ、なんて事は、
どうしたって不自然だからです。

『シルバー仮面』の主人公は、
亡き父の遺した光子ロケットの秘密を求めて旅する春日5兄妹。
シルバー仮面に変身するのは、その中の次男・光二。
主題歌の歌詞の一部に

 ♪兄よ 妹よ

って箇所がありますから、
映画の中で、
異母兄妹かもしれない、
って設定だった石橋正次さんと栗田ひろみさんの関係に
ひっかけてあるのでしょうけれど、
それを二人して、

 ♪シ〜ルバ〜 仮面は〜

なんて
当たり前のように歌われると、
唐突で、無理矢理で、ウソくさくて、
作品世界に入り込んでいた気持ちが一瞬で覚めてしまいます。

猪俣公章先生作曲の名曲だし、
おそらく大島監督も気に入っていた歌なのでしょうけれど、
いかんせん一般的知名度が低過ぎます、番組の。
ありえないです。

『ウルトラマン』か『ウルトラセブン』の主題歌ならまだしも
 (それでも大人同士で歌いながら歩くのは珍しいですが)、
『シルバー仮面』の主題歌なんて、
僕ら当時の子供たちですら、口ずさんでいませんからね(笑)。

まぁ、
この映画を観るほとんどの人たちは、
何の歌だろう?って
ちょっと思うくらいで、
そこまで気にはしないのかもしれませんが、
『シルバー仮面』の
放映当時の不人気さを知っている世代の特撮ファンである僕としては、
そのシーンの “奇怪しさ” がリアルに感じられる分、
どうしても気になってしまいます。

もっと言えば、
石橋正次さんも栗田ひろみさんも
知らない歌を付け焼刃で歌っているのでしょう、
歌詞が一箇所間違ってるし、
メロディも途中からなんだか怪しくなっちゃってて、その辺も気になります(笑)。

もっともっと言えば、
石橋正次さんは、
同じく佐々木守さん脚本の特撮ヒーロー番組『アイアンキング』で主役だった人なので、
『アイアンキング』の主役が
『シルバー仮面』の主題歌を歌う違和感も、気になります(笑)。



ただ、
映画自体は、とても魅力的なものでした。

沖縄の美しい自然を背景に、
石橋正次さんと栗田ひろみさん、という当時の人気アイドルを使った青春映画、
と見せかけて、
実は、
日本と沖縄の、関係や意識の違いを浮き彫りにする、
ドキュメンタリーのような作品。

栗田ひろみさん演じる素直子(すなおこ)が、
兄を探しにきた沖縄で、
大人たちの “裏切り” や “誤魔化し” に傷つき発する、

 「沖縄なんか、日本に還ってこなければよかったんだ!」

って台詞は衝撃的ですが、
それを、
さりげなく映像で提示するラストシーンは極めつけです。

沖縄戦において日本軍が行った残虐行為に対して罪悪感を抱き、
自分を殺してくれる人間を探すために
沖縄にやってきた桜田拓三という男(演じるは、殿山泰司さん)と、
沖縄民謡の歌い手をしながら、
殺す値打ちのある日本人を探し求めている照屋林徳という男(演じるは、戸浦六宏さん)が、
一隻の舟の上で取っ組み合いの喧嘩を始めるのですが、
殺される事を望んでいるはずの桜田拓三が
殺す事を望んでいた照屋林徳を海に突き落として、物語が終わるのです。

桜田拓三は、
日本で唯一の戦場となった沖縄に対して贖罪意識を持つ日本の象徴、
一方、照屋林徳は、
日本に切り捨てられた事に対して怨念を抱く沖縄の象徴、
と考えられるので、
贖罪意識など上辺だけのもので、
結局は沖縄をまた切り捨てる日本の本音が描かれているわけです。

沖縄の本土復帰に沸く当時これが撮られた事、
そして、
40年以上経ったのに
沖縄の問題がいまだに解決されていない事を思うと、なおさら興味深い映像です。

しかも、
そんな後味の悪い終わり方なのに、
バックで流れている音楽が、
大音楽家・武満徹さんの手による、
美しい夏の風景・空気を穏やかに表現した、あまりに優しいサウンドで、
目の当たりにしたその展開・事態が余計に鋭く胸に残ります。

さすが大島監督、
見事だなぁ・・・、って思いました。
途中で感じた、
『シルバー仮面』の主題歌が歌われる違和感の事など、
すっかり忘れてしまうほどです(笑)。


でも、
特撮ファンとして、
『シルバー仮面』の時代に少年だった者として、
その違和感にはこだわりたいので、
『夏の妹』を観た記念で、
『シルバー仮面』関連のソフビコレクションを、今回紹介しますね(笑)。


 まずは、
 ヒーロー・シルバー仮面から・・・。

     








バンダイ製、全長約26センチ。


        亡き父・春日勝一郎博士が遺した “光子ロケット” の設計図、
それは、
5人の子供たち、
すなわち春日兄妹の、体に隠されています。

春日兄妹は、
父の悲願であった光子ロケットを完成させるため、
自分たちの体に隠された秘密を解明すべく、
生前、父親と交流のあった科学者仲間を訪ね歩くのですが、

 光子ロケットが完成すれば、
      地球人の宇宙侵略が始まる、

と思い込んでいる宇宙人たちが、
春日兄妹の行動を邪魔し、襲ってきます。
そして、それは、
春日兄妹が訪ねた科学者およびその親族・関係者に
多大な迷惑をかけていく結果となります。


こんな哀しいヒーロー番組があるでしょうか?

今見ると、メチャクチャ面白いンですが、
およそ子供が楽しめる内容ではなく、
放映当時は、全然ウケませんでした。・・・更に哀しい(笑)。

気のせいか、
そんな悲哀が、人形の佇まいにも滲み出ているように感じられます。
         




海賊版の人形も存在します。
そんな不人気なヒーローでも、
ニセモノの人形が作られ、流通していたのですから、
当時の怪獣ブーム・ソフビブームの勢いが、いかに凄かったかがわかります。

   



ぱちもん人形とは言え、
正規品を圧倒的に上回る完成度。
ナヨッとしたフォルムと
マスクの下は女性なの? と思ってしまうくらい端整な口元は、
弱々しさを発しながらも、健気に闘う魂を感じさせます。
シルバー仮面というヒーローの “哀しさ” が “美しく” 表現された、
隠れた名品ではないか、と思います。
全長約29センチ。

      これも海賊版ですが、
前者とは打って変わって、
ずいぶんと
投げやりな仕上がりの人形です(笑)。
いかにも “ぱちもん”。
全長約25センチ。

全体的に、
造形にも塗装・彩色にも
やる気が感じられませんが、
細かいところでは、
下唇が、変。
シルバー仮面をロボットだと解釈しているのでしょうか?
角ばった、
何か機械みたいな形状をしています。

顔の下半分は人間の顔が露出しているマスク、って事が
わかってないのかな?
それとも、
ただのヘタクソ?
どっちにしろ、テキトーな作りです(笑)。
        極めつけは、
  マスクの下の人間の顔。
  “やっつけ仕事” 以外の何物でもありません。
  正規品と比べると、
  その粗雑さが、よりはっきり判ります。
         
        ・・・ってか、
  顔の下半分、
  露出してたンじゃなくて、肌色をした仮面だったのね。
  やっぱり、シルバー仮面を知らずに作ってるな。  ・・・見事(笑)。



続きまして、敵の宇宙人を・・・。

    チグリス星人 
バンダイ製、全長約22センチ。


記念すべき第1話に登場した宇宙人にして、
春日勝一郎博士を殺害した、春日兄妹にとっての “仇” 。


デザインを担当した池谷仙克さんが、

  「『ウルトラセブン』の時みたいな
     とてつもない形の宇宙人ではなく、
       スタイル的に人間のものを意識した」

と振り返っていらっしゃるように、
宇宙人でありながら、
『仮面ライダー』の怪人のような、
身近に感じる恐怖・不気味さがあります。
     人形の方は、
 そんな実物に比べると、
 鋭利なイメージがかなり抑えて造形されていますが、
 それでも結構怖いです。
       


    キルギス星人 
バンダイ製、全長約23センチ。


戦争をして国を奪い合う地球人を、
泥棒・好戦的な種族と捉え、全く信用しようとしない宇宙人。
言われてみれば
もっともな指摘ですが、
だからといって
奇声を発しながら毒ガス撒かれても・・・(笑)。
 
     個人的には、
 子供の頃から大好きな造形の宇宙人です。
 怖いけど、ポップな感覚で、哀愁もあって・・・。
 人形の方も、
 そんな実物の姿に忠実に造形されていて、素晴らしいです。
     

      タカトクからは、ミニサイズでソフビ化。
全長約10センチ。

鉄砲のオモチャとセット売りでしたから、
メーカーの意図としては、“的” でしょうか?

勝手に顔らしきものを作っちゃってますが、御愛嬌(笑)。


    シャイン星人 
バンダイ製、全長約23センチ。


冷凍光線を発する宇宙人で、炎が苦手。
わかりやすいプロフィールです(笑)。

僕は、
暑い夏の日、
よく、この人形を眺めながらかき氷を食べます。
涼しさ倍増だし、なかなかオツですよ。
       


    ピューマ星人 
バンダイ製、全長約24センチ。


鶏がらみたいな姿の宇宙人ですが、
電送移動装置を使って人間をさらう、恐ろしいヤツです。
     人形の方は、
 脳の血管がプッツンしてしまったような笑顔をしていて、
 体調の悪い時に見てしまうと、
 イラッとします(笑)。
 
 実物に忠実な造形・彩色も然る事ながら、
 そんな不愉快な笑顔が、
 この宇宙人に対する恐怖や嫌悪を実感させてくれる、
 なかなかの傑作ソフビだと思います。
                 


さて、
番組ですが、
あまりに大人向けのストーリーや
地味にも程があるアクションシーン、
あるいは、
画面が暗すぎて
そこで何が起きているのかよく判らない第1話冒頭シーンに代表される、
シュール極まる映像のせいで、
冒頭から述べているように
僕ら当時の子供たちからはほとんど支持されず、視聴率が低迷したため、
1クール終了を待たずして、路線変更を余儀なくされます。

シルバー仮面は
光子エネルギーを浴びた影響で巨大化し、
第11話より、
番組名も『シルバー仮面ジャイアント』と改題されます。

それまでの、
人間ドラマと怪奇性を重視した独特の作風は影を潜め、
全体的な雰囲気も明るくなり、
ハズレの無いオーソドックスな巨大ヒーロー作品に軌道修正された番組は、
人気急上昇とまではいかなかったものの、
視聴率が少しだけアップし、
一応、テコ入れが成功した形で最終回まで辿りついたようです。

でも、
今、見直してみると、
確かに “ジャイアント” になってからの方が
派手で解りやすくて、子供なら誰もが楽しめるような内容になっているのですが、
その半面、
作品としての個性が弱まってしまっているのは、やはり残念ですね。


 巨大化したシルバー仮面は、
 モノトーン調から派手なカラーリングの外見に変わり、
 露出していた顔の下半分も銀色の仮面になりました。

 また、
 ベルトが別物に変わり、
 バックルから、
 ミサイルを発射したり、
 サーベルや手裏剣などの武器を取り出せるようになりました。
 ・・・なんで?(笑)


 そんなシルバー仮面ジャイアント
 バンダイからは、2種類のサイズの人形が発売されていました。

    巨大化したンですから、
やはり大きいサイズの人形の方が魅力的ですね。
造形も断然カッコいいし・・・。
         
   

全長約26センチ。
 
         
   

 

全長約37センチ。




       

こちらは、
ポリエチレン製の人形。
全長約33センチで、メーカーはトミーです。

手がグーなのと、凛々しい顔の表情とで、
バンダイのソフビ版よりも力強い印象を受けます。

     タカトクからは、
 ミニサイズ人形が発売されていました。 
       
     向かって左側の人形(全長約11センチ)が、
 先述したキルギス星人のミニサイズ人形と一緒に
 鉄砲のオモチャとセット売りだったもの。

 右側の人形(全長約12センチ)も、
 確か、手帳か何かとセット売りされていた記憶がありますが、
 ちょっと曖昧。違ってたらゴメンナサイ。

 巨大化してからミニサイズ人形で商品化、・・・ややこしいです(笑)。

     ややこしい、と言えば、
 巨大化後の敵、
 つまり巨大な宇宙人は、ミニサイズ人形でしかソフビ化されていません。
 等身大の宇宙人の人形より小さい、巨大な宇宙人の人形です(笑)。
   
 サザン星人 
 タカトク製、全長約10センチ。
 


     例の、鉄砲のオモチャとセット売りのヤツです。


       


ところで、
春日5兄妹は、

 長男・光一が亀石征一郎さん、
 次男・光二(シルバー仮面)が柴俊夫さん、
 長女・ひとみが夏純子さん、
 三男・光三が篠田三郎さん、
 次女・はるかが松尾ジーナさん、

という配役。

長女・ひとみを演じた夏純子さんが、
僕は大好きでした。

言ってみれば、
シルバー仮面は “夏の兄” なンですね、

・・・なんて事は
どうでもいいのですが(笑)、
夏純子さんの、
知的な美人でありながらなんだか陰のある雰囲気、
そしてその品のある色香に、
僕はたまらない魅力を感じていました。
我ながら、
子供なのに渋いセンスだったと思います(笑)。

最後に、余談ではありますが、
そんな夏純子さんの事を少し・・・。

『シルバー仮面』から4、5年経った、小学校の高学年の頃に、
高岡健二さんと篠田三郎さんW主演の
『新・二人の事件簿 暁にかける』ってドラマがあって、
好きでよく見ていたのですが、
夏純子さんがゲスト出演された回があり、

 「あっ、夏純子だ!」

と、メチャクチャ喜びました。
とても嬉しくて、
ドキドキしながらテレビの前に座っていたのですが、
実は殺人犯の役だった事が最後にわかり、いたくショックを受けた事を憶えています。

園佳也子さん(サッサのおばさん、ね。若い人はわかンないかな(笑))が、
人のいいおばさん役でレギュラー出演されてて、
夏純子さんを疑うンですね。
で、
真実を確かめるために罠をしかけるンですが、
それにまんまと夏純子さんが引っ掛かって現場に現れちゃう、
っていう、
確かそういう展開でした。

夏純子さんが大好きな僕としては、

 「なんでだてェ〜、こっちのサッサのおばさんを犯人にしろよォ〜」

などと、
心の中で吐き捨てるようにボヤいたものです(笑)。

その後もずっと好きだったのですが、
あれは、高校の終わりか大学生だった頃でしたか、
夏純子さんが『シルバー仮面』以前に、
映画で、スケ番役をやったり、ヌードを披露したりしていた事を知り、
幼い頃から描いていたイメージと全然違ったので驚きました。
と同時に、
女優として、ますます好きになりました。
でも、
その時はすでに芸能界を引退されていて、すごく淋しい気持ちになった事を憶えています。

音楽家の方と結婚された、という話を聞きましたが、
きっと素敵に歳を重ねていらっしゃる事でしょう。
とても魅力的な女優さんでした。

そういえば、
『シルバー仮面ジャイアント』の最終回、
その夏純子さん演じるひとみが、
宇宙人の赤ちゃんを抱っこしながら『竹田の子守唄』を歌うシーンがあります。

親善を目的に地球にやってきた宇宙人を
侵略者だと決め付けて春日兄妹が攻撃してしまうお話だけに、
被差別部落に伝わるこの民謡をあえて使った・・・というのは僕の深読みかもしれませんが、
効果的な、いいシーンです。
少なくとも、
『夏の妹』で『シルバー仮面』の主題歌が歌われるシーンよりは。

・・・と、
余談から無事話が元に戻ったところで(笑)、
今回はそろそろこの辺で。

  実は、今日は、
この『ソフビ大好き!』の連載でお世話になっている、
ゲイトウエイさんの店内にて、
店番しながら原稿を書いていました。
店長の杉林さんが、所用でお出かけなのです。

先日、

 「原稿料の代わり」

と言って、
焼肉をおごってくれた杉林さんですが、
今日は、

 「こないだ焼肉おごってあげたンだから、店番ね」

との事。
・・・なんか、おかしいなぁ(笑)。
 まぁ、あまり深く考えず、
 とりあえず、
 ちゃんと店番してた証拠写真・・・にはならないか(笑)。




【参考文献】

・『シルバー仮面 アイアンキング レッドバロン大全 宣弘社ヒーローの世界』 岩佐陽一・編 双葉社
・『竹田の子守唄 名曲に隠された真実』 藤田正・著 解放出版社




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