第106回 「走れエロス」 2012.11
教育評論家の “カバゴン先生” こと阿部進さんが、
永井豪先生の漫画『けっこう仮面』の
単行本(昭和50年代のはじめ頃に発売)の巻末で
作品解説をされており、
生徒の味方になる教師などいない、
教師は生徒を裏切るものである、
それが、この作品における永井豪の視点だ、
というような事をおっしゃっていた事を憶えています。
『けっこう仮面』は、
顔だけを仮面で隠した全裸のヒロイン・けっこう仮面が、
スパルタ学園なる全寮制の中学校で行われる、
教師たちの理不尽で変態的な体罰から女生徒を守る物語。
女の裸とSMチックなシーンだけを目当てに『けっこう仮面』を読んでいた僕としては、
このカバゴン先生の批評は、
思わず「なるほど〜」と唸ってしまうものでしたので、いまだに忘れられません。
前回、
僕の中学生時代について書きましたが、
野球部が無かった事の不満と
大嫌いだった先生たちへの恨みを、
クドクドと女々しく愚痴る事に終始してしまい、
読み物として決して楽しい内容ではなかった、と反省したと同時に、
ふと、
カバゴン先生の
この “『けっこう仮面』論” を思い出し、
生徒にとって
所詮信じられる存在にはなりえない“先生” というものについて、
腹を立てたり、ボヤいたりしてみても、
不毛でただ虚しいだけである事に改めて気づきました。
なので再挑戦。
今度は、先生ではなくて生徒、つまり友達について書き、
もう一度、僕の中学生時代を振り返ってみようと思います。
そうすれば、
フテくされてたあの頃の思い出も、少しは楽しく綴れるはず。
先生には幻滅していても、
友達には愉快なヤツが何人もいましたからね。
今回は、その中から、
3年生の時に同じクラスになって仲良くなった、K君という友達を選びました。
それでは、
いざ、リベンジ。
3年生の時のクラスは、
背の順で、男子は男子同士、女子は女子同士、という席の配列だったのですが、
僕はK君と隣同士になりました。
K君は、
髪型はリーゼントで鞄はペッチャンコ、
襟がノーカラーの学生服の下には、
指定のカッターシャツではない、黒や赤の私服のシャツを着ている、
いわゆる “不良” で、
先生たちからは鼻摘みに近い扱いをされていましたが、
クラスメイトには優しく、人気もありました。
怒ったところを見た事がなく、とても付き合いやすい子で、
嫌なのは、
そこらじゅうにやたらと唾を吐く事くらいでした(不良の定番行為だから仕方無いけど(笑))。
しょっちゅうK君と二人でつるんでいたので目に付いたのか、
担任の先生は、
わざわざ僕を職員室へ呼び出し、
「Kなんかと付合うな」
と言ってきたり、
自宅に電話してきて、
「学校でちょっと問題のある生徒と付き合っているのですが、
最近、息子さんに変わりはないですか?」
と母親に告げたりしました。
高校受験に向けての個人面談の際にも、
「Kなんかのどこがいいンだ?」
などと鬱陶しく聞いてきたので、
「先生になんか、わかるわけないよ」
と言ってやりました。
今思えば、
僕の事を心配して言ってくれたのに、
ずいぶん生意気で失礼な態度をとってしまったものですが、
前回述べたように
入学以来、先生たちを僕は一切信じていなかったし馬鹿にもしていたので、
そんな言動になってしまいました。
それに、
K君は本当にいいヤツだったので、
先生たちのK君に対する偏見や冷たい視線を、ずっと腹立たしく思っていたのです。
K君は、
休み時間になると、ちょくちょく体育館の裏へ行きました。
でも、
そこでタバコを吸ったり、シンナーを吸ったりするのではありません。
花を見に行っていたのです。
体育館の裏側には砂利が敷いてあったのですが、
その砂利の中から1輪だけ、小さな花が顔を出していて、
K君はそれを見に行っていたのです。
たぶん、
カタバミっていう雑草の一種だったと思いますが、
砂利に埋もれて葉や茎はほとんど見えないし、
小さくて黄色いその花は
直径1センチも無く、
普通に歩いていたらまず気づかない大きさで、
教えてもらった時は、
よくこんなの見つけたなぁ、って感心してしまいました。
小さな花が一輪だけ、
砂利の隙間から健気に咲いているその姿に心が励まされる、
というのが、
何度も見に行く理由だったようですが、
あまりにその回数が多いので、
或る時、
「見に行き過ぎだてぇ〜」
って、呆れ気味にからかったら、
「誰かに踏まれとれせんか、心配なんだわ〜」
と真剣な表情で返されました。
K君の思いを茶化した自分を、僕は恥じました。
と同時に、
K君はほんとうに優しい子だなぁ、って感動しました。
そんな子と仲良くなって、何が悪いのでしょう?
先生たちは、やっぱり馬鹿だと思いました。
ところで、
そんなK君の人柄もさることながら、
僕がK君と親しくなったいちばんの理由は、
“ビートルズ” と “団鬼六” の話が出来た事、でした。
当時、僕は、
“ビートルズ” も “団鬼六” も、どちらも覚えたて。
誰かと語り合う事によって、
共感し合ったり知識を深め合ったりする事が楽しくて仕方なく、
席が隣だったK君とは、
休み時間だけでなく授業中も、それに没頭しました(笑)。
特に、
“団鬼六” の話は、むさぼるように追求しました。
年齢的に
頭の中がエロスでいっぱいな時期だったし、
それに、
ビートルズが好きな友達はほかにも数人いましたが、
団鬼六を知っている友達はK君1人だけでしたので、とても貴重だったのです。
授業中なので、先生によく、
「何を話してるっ!?」
と叱られましたが、
「団鬼六についてです」
って、先生に聞こえないように小声で答えては、
いつもK君と笑いをこらえ合っていました。
・・・楽しかったなぁ、ホント。
そんな或る日、
学校から帰った後、
K君と二人でぶらぶら遊んでいて、本屋の前を通りかかった時の事。
当時、
『SMセレクト』という、
グラビアと小説で構成されたSMマニア向けの月刊雑誌に
団先生が『鬼ゆり峠』という長編小説を連載していて、
それがクライマックスを迎えていたので、
「買おまい!(名古屋弁で「買おうぜ!」の意)」
と、K君が言い出しました。
僕はその本屋で、
毎月、
『鬼ゆり峠』目当てに『SMセレクト』を立ち読みしていたのですが、
数日前、
レジにいた店主のオジサンに
「子供がそんな本読んどっていかん!」と怒られたばかりだったので、
別の本屋へ行く事を提案しました。
すると、K君は、
「そんなモン、関係ないてぇ。
向こうも商売なんだで、買うなら文句言わへんてぇ〜」
と言いました。
うぶな僕は、にわかには信じられず、
K君の言葉を疑ったのですが、
「大丈夫だてぇ。こっちは客だてぇ〜」
と笑い飛ばすK君に引っぱられ、店内へ入っていきました。
当時、
SMセレクトは700円で、
中学生の僕らには高い買い物です。
K君と折半で350円ずつ出し合う事にしました(微笑ましい話だなぁ(笑))。
僕はドキドキしながらも、
隣にK君が立っている事に後押しされ、
忘れもしない『SMセレクト』昭和54年10月号を、その本屋のレジに差し出しました。
するとどうでしょう、
ついこの間、
「子供がそんな本読んどっていかん!」と僕を店から追い出したそのオジサンが、
「ありがとうございます」と言って、
カバーまで付けてくれているではありませんか。
K君の言うとおりでした。
僕はK君を尊敬しました(笑)。
生まれて初めて買ったエロ本でした。
立ち読みと違って、
自分の部屋で好きな時に好きなだけ読めるわけですから、
僕とK君が、
1週間ずつ交代でその本を所持し、どう利用したかは、言うまでもないでしょう(笑)。
それにしても、
同級生が
『プレイボーイ』や『平凡パンチ』の
アイドル歌手の水着グラビアで大はしゃぎしているような時期に、
『SMセレクト』を購入し、
しかも、
素人モデルによる無味乾燥な緊縛グラビアには目もくれず、
ひたすらに団先生の小説の
状況描写や台詞の巧さなどについて語り合っていた僕とK君は、
ちょっと珍しい中学生だったかもしれません。
そういった意味でも、
あの頃K君と出会えた事は、僕の人生にとって、かけがえの無い宝でした。
また、
以前、第74回「燃えろレオ! 燃えろオレ!」の中でも述べましたが、
その中学3年の時は、
早朝に『ウルトラマンレオ』の再放送がやっていたので、
席が隣のK君とは、
「今朝、見た?」なんて挨拶から
ウルトラシリーズの話でよく盛り上がったりもしました。
「セブンが小さくなって
女の人の体の中に入ってく話あったでしょう?
あれ、松坂慶子だ、って知っとったぁ?」
と、K君から教えてもらった事や、
『ウルトラマン』でイデ隊員を演じた二瓶正也さんを
K君が
“にへいまさや” と言っていたので、
“にへいまさなり” だよ、
って訂正してあげた事など、
マニアックなやりとりを、いろいろ憶えています。
そんな中で、
僕とK君が共通して抱いていたのが、
エースに、なんか団鬼六の世界みたいな、エロい回があった、
という事でした。
それは、
『ウルトラマンエース』第4話「3億年超獣出現!」の事で、
人類を滅ぼし地球侵略を狙う異次元人ヤプールが、
漫画家・久里虫太郎の歪んだ心につけ込み、
テレパシーを送って超獣ガランが街を破壊する漫画を描かせ、
久里が絵で描いたとおりに、
街には超獣ガランが現れて暴れまわる、
というお話なのですが、
これだけでは、
どこが団鬼六で、何がエロいのか、さっぱりわかりませんね。
注目すべきは、
この久里虫太郎なる人物(演じるは、清水紘治さん)の、狂気なキャラクターなのです。
実は、
久里はTACの美川のり子隊員(演じるは、西恵子さん)の中学の同級生で、
学生時代、
美人で優等生だった美川のり子にラブレターを渡すも冷たく突き返された、
という傷を心に負っております。
それが
事実なのか、久里の妄想なのか、
当の美川隊員がまったく憶えていないので物語上では真偽がわかりませんが、
久里が美川隊員に対し、
歪んだ愛情を持っている事は確か。
そして、
その異常なまでの想いは、
同窓会と偽って美川隊員を自宅の洋館へ招き入れ、
薬物を入れたジュースを飲ませて監禁する、という犯罪行為に発展してしまいます。
もう、この時点で、
子供番組で描くべき話か? って感じですが、
美川隊員がそうして囚われた直後、
この回が、
絶対に大人になってから観た方が楽しめる回である事が判明します。
2階の物置部屋のようなところに
手足を縛られて横たわっている美川隊員の
足の裏のアップが、
まず画面いっぱいに映ります。
なかなかハイレベルなエロティシズムです(笑)。
そして、
カメラは、そこから、
縛られた足首、ふくらはぎ、太腿、と
舐めるようにパンしていき、
男心をやるせないばかりにうずかせます。
だいたい、
いつもの隊員服を脱いだこの時の美川隊員は、
同窓会という事でおしゃれしてきたのでしょうが、
光沢のあるミニのワンピースドレス、という、
ならず者の獲物となる高貴な女性にはピッタリな服装で、
男どもが皆
潜在的に持っている “強姦願望” を、
まるで意図的に煽っているかのように、悩ましく刺激します。
しかも、
洋館から脱出する際に階段を下りてくるシーンでは、
パンティーが見えそうでギリギリ見えない絶妙なアングルで、
大いにそそられるし、
また、
捕らえた獲物を逃がすまい、と
廊下に立ちはだかる久里を
美川隊員が『プレイガール』のお姉さんみたく派手に蹴り上げるシーンでも、
カメラが美川隊員を背中から撮っているためにパンティーは見えず、
思わず、
「こら、カメラ、前に回らんかい、前にっ!」
と叫んでしまいますが、
この、
最後までパンティーが一切拝めない、というところに、
冒しがたい美川隊員の美しさを感じ、逆に興奮してしまうのです。
たまりません(笑)。
そんな、
美川隊員のエッチでスリリングな監禁・脱出が、
妄執をヤプールに利用され操られる久里の狂態によって、
超獣ガランの出現・大暴れとリンクして描かれているのですが、
ガランもエースも登場せず、
あのまま美川隊員が久里に凌辱されたら、
それこそ、
高嶺の花のような女性が
下郎の卑怯な手口によって性の地獄へ突き落とされる、団鬼六文学の世界。
『鬼ゆり峠』をじっくりと読みたいがために
『SMセレクト』をお金を出し合って買うような中学生・僕とK君が、
共通して、
幼い頃から印象深くこの回を憶えていた事も、大いに頷けます。
久里が消しゴムで漫画原稿のガランを消すと、
街で暴れているガランも消しゴムでこすったように消えていく、
という特撮演出の冴えや、
久里邸からTAC本部へ戻った美川隊員が、
超獣が暴れるのは自分の責任だと感じて
眼に涙を浮かべながら戦う意志を訴えるシーンの迫真力など、
見所はいっぱいある名エピソードなのですが、
なにせ、
久里の倒錯した恋心の餌食になりかけた美川隊員が魅力的過ぎて、
それしか頭に残りません(笑)。
僕は密かに、この回を、
『ウルトラマンエース』ではなく、『ウルトラマンエロース』と呼んでいます(笑)。
それでは、
ガランのソフビを紹介します。
エロスに圧倒されて今ひとつ影が薄いガランですが(笑)、
元々は3億年も前から生きている魚類生物。
その驚異の生命力に応えるかのように、人形の方は実に魅力的な造形になっています。
特に、この、
ブルマァク製スタンダードサイズ(全長約21センチ)は、パワフルで、美しくて、シビれます。
ブルマァク独自の洗練された造形力に加え、
大胆にシンメトリーを崩して生命感を出している背中や
闘志を秘めてねじれた尻尾には、
マルサンイズムの見事なまでの踏襲も感じられ、
2大ソフビメーカーの長所が融合した、最高にカッコいい怪獣人形に仕上がっています。
しかも、
緑色である実物の体色が
このような鮮やかな黄色の成形色にアレンジされていて、
縛られた美川隊員に対する、僕の甘酸っぱい思いまでも受容しているようで、
神様のニクい計らいを感じたりもします(笑)。
ガランは、 言うなれば久里の分身。 縛られた美川のり子を前に ヨダレをたらしているようなこのだらしない口元も、 僕には、 どうにも哀しく愛しく、魅力的に思えます。 |
これは、 ブルマァク製ミニサイズ(全長約10センチ)。 幼児向けの絵本にでも登場しそうな、 可愛らしい悪役風にデフォルメされています。 |
この2体は、 一度は倒産しながらも その翌年である昭和44年に 事業を再開したマルサンの、 ガラン人形(全長約9センチ)。 |
|||
サイズも小さいし、 ブルマァク全盛期の中、今さらマルサンなどお呼びでない、って感じで、 どうにも地味で淋しい印象を抱いてしまうソフビではありますが、 繊細さの中に鋭さも感じられる、なかなか巧みな造形です。 それに、 実物の体色に合わせた緑色と 先述した甘酸っぱい情感の黄色の2色が存在する事が、 個人的にとても嬉しいので、 僕の中では、かなり存在感のあるソフビです。 |
ポピー製キングザウルスシリーズ(全長約13センチ)。 | |||
この人形のみ、昭和50年代の発売で、 『ウルトラマンエース』放映時(昭和47年)の商品ではありませんが、 造形、彩色とも、 実物のガランにいちばん近い人形として、価値があります。 同シリーズのほかの人形と比べると、若干小ぶりですが、 マルサンやブルマァクのような 必要以上に派手に誇張した怪獣ソフビはもう作りませんよ、 という、 新時代のソフビ怪獣人形をリードしていく、 ポピー(バンダイ)の宣言のようにも感じられます。 |
今回は、
大嫌いだった先生たちではなく、
仲の良かった友達との思い出について書き、僕の中学生時代を楽しく振り返る、
という目的でしたが、
その鍵が “エロス” にある事が、
こうしてガラン人形片手にK君を思い出しながら原稿を書いていて、わかりました。
先生と割り勘でエロ本を買う、なんて事は
どうしたって不可能なので、
先生よりも友達の方が楽しい存在に決まってますよね。
そんな事、
金八先生だってウルトラマン80の矢的先生だってしてくれません(笑)。
どんなに話のわかる素敵な先生がいたとしても、
やはり先生は先生です。
生徒ではありません。
生徒と先生は、友達にはなれないのです。
改めて、
冒頭で触れたカバゴン先生の “『けっこう仮面』論” が胸に響きます。
また、
『仮面ライダークウガ』でおやっさんを演じた、
シティボーイズのきたろうさんが、
学生時代、
音楽の授業中、どうしてもリコーダーがうまく吹けず、
先生にヒステリックに叱られた際、
クラスメイトみんなが励ましてくれて、
先生よりも友達の方が素敵な存在である事を思い知った、
っていう話を
トーク番組か何かでされていたのも、思い出しました。
僕もきたろうさんみたいに、
先生が嫌い、先生が信用出来ない、
っていう事ではなく、
友達は楽しい、友達はありがたい、
って事にもっと目を向けて、
素敵な友達が自分の周りにいるその幸運に感謝して、
日々を過ごせば良かったンですよね。
そうすれば、
あれほどの先生不信にもならず、フテくされるような事にはならなかったかもしれません。
思春期の僕には、それに気づく器量がありませんでした。
でも、
そんな精神的に未熟な時期に、
団鬼六の『鬼ゆり峠』を愛読してた、なんて、
エロスに関してだけは、ずいぶん意識が進んでいたンだなぁ、僕。
・・・いや、ただ性癖が偏っているだけか(笑)。