真水稔生の『ソフビ大好き!』


第104回 「宇宙人はイカが?」 2012.9

昔、『美人はいかが?』ってテレビドラマがありまして、
中学生の時、
夕方にやっていた再放送を見ていたのですが、
オープニングで、

 ♪薔薇のような 美人はいかが〜

って主題歌が流れる度に、

 「いかが?って、いいに決まっとるがや!」

って、画面に向かって叫んでいました(笑)。

そりゃそうでしょ。
いいに決まってます。
だって、美人なんだから。

日本最古の文学と言われている『竹取物語』でも、
多くの男たちが、
主人公であるかぐや姫の
この世のものとは思えぬ美しさに心を奪われ、魅了されています。

かぐや姫は “月の都の人” であり、
地球人ではないので、
その美しさがこの世のものとは思えなくて当然なのですが、
その、
かぐや姫の正体が言わば “宇宙人” であったというオチは、
男が美人というものに対して、
ロマンや冒しがたい憧れの気持ちを抱いている事の表れ。
千年以上も昔から、
男どもは美人に胸を焦がし、どうしようもないほど称賛してきたのです。

まぁ、
「美人はいかが?」と言われて、
「嫌いです」、「要りません」なんて答える男はいないと思いますが、
「美人は3日で飽きる」って気取る人は、時々いますね。
あれは非常にみっともないです。

だって、そんなの、
美人に袖にされた時の、言い訳や見栄に過ぎないじゃないですか。
フラれたのなら「フラれた」、
相手にされなかったのなら「相手にされなかった」、と
はっきり言った方が、男として気持ちがいいです。

美人と気持ちが通じ合わなくても、人間として別に恥ずかしい事ではありません。
だって相手は宇宙人かもしれないのですから(笑)。

見る度に胸がときめく、
見れば見るほど惹きこまれていく、
美人とはそういうものであり、飽きるなんて事は絶対に無いのです。

もし、
本当に3日で飽きちゃったのなら、
それは、
その程度の顔を美人だと見誤ったか、
あるいは、
根本的に美的感覚が歪んでいるか、
そのどちらかであり、
自身に審美眼が無いだけの話です。
言い訳や見栄にしろ、審美眼が無いにしろ、
「美人は3日で飽きる」なんて言ってる人は、どっちみち、みっともないのです。

そういうみっともない人を、
僕は密かにイカのイメージで捉えています。
そう、
海で泳いでいる、あのイカです。

新聞か何かで読んだ記憶があるのですが、
イカの目は、
色やパターンの認識も出来るし、複雑な焦点調節も可能で、
人間並みに発達しているらしいのです。
ただ、
そんな優れた目に比べて、脳のつくりがあまりにお粗末な構造で、
目から入ってくる様々な情報を処理出来ない、との事。
せっかく美人を見ても
その美しさを充分に受け止められない人は、
おつむの出来がイカ並み、ってわけです(笑)。


ところで、
“いかが?” にイカを引っ掛けて “イカが?” にした今回のテーマは、
“美人” ではなくて、“宇宙人” の方。
ここから本題に入ります。

まず、
“宇宙人” と聞いて、
どんな姿のどんな生き物を想像するか?

月の都の人・かぐや姫が
真っ先に頭の中に浮かんでしまう僕のようなロマンチスト(笑)は別として、
おそらく、ほとんどの人は、
触手のような長い手足を数本持った、タコみたいな姿形をしたものか、
あるいは、
吊り目をした、全身灰色の小柄な人間のような姿のもの(いわゆる “グレイ”)か、
そのどちらかを思い浮かべることでしょう。

前者が、
イギリスの古いSF小説に登場する火星人の姿が一般に広まったものであるのに対し、
後者は、
アメリカなどで実際に多くの目撃談があるエイリアンの姿でありますが、
確固たる証拠が無いゆえ、
目撃者の脳内映像(幻影)かもしれず、
前者同様、人間の空想力が生み出したものである可能性も否定出来ません。
確かなのは、
タコ型生物とグレイの二つが、
我々が共有している一般的な宇宙人のイメージである、という事であります。

どちらの姿を思い浮かべるか、は、
それぞれ個人の、
育った時代・環境、あるいは、感性や嗜好によって分かれるところですが、
僕が愛してやまない昭和の怪獣たちの中には、
タコ型生物とグレイ、
そのどちらをイメージしても
差し支えなく “宇宙人” としてハマる、
見事に両者の特徴を併せ持ったキャラクターが存在します。
それは、
昭和43年封切公開の大映映画『ガメラ対宇宙怪獣バイラス』に登場した、バイラスです。


      タコのような姿、
吊り目で全身灰色、
まさに、
代表的な二つの宇宙人のイメージが合体していて、
地球以外の惑星からやってきた設定が、
見事なまでにしっくりと来ます。

また、
怖いようでどこか愛嬌があり、
夢の生き物として日本独特の味わいを持っており、
昭和を代表する人気怪獣になった事にも納得がいきます。
デザインや造形の妙には、只々、感服。

 

   

このバイラス、
厳密に言うと、モデルはタコではなくイカなのですが、
宇宙人の姿形としてイメージする上では、
タコでもイカでも大差は無いでしょう。

それに、
タコをデビル・フィッシュ(悪魔の魚)と呼んで忌み嫌う欧米諸国と異なり、
我が国日本では、
茹でると真っ赤になる性質や
丸みのある頭部が坊主頭のように見える事などから、
タコには、
“酔っ払ったハゲオヤジ” みたいな、
ユーモラスで憎めないキャラクターイメージが定着しているし、
延いては、
“バカ” や “アホ” と同じ意味合いで
他人を「タコ」と呼んで侮蔑する習慣もあったりしますから、
人類の平和を脅かすような恐ろしい存在がタコでは、どうもピンと来ないのです。

なので、
タコに似ていながらタコみたく三枚目的な印象を持たないイカは、
タコ型生物として宇宙人のイメージを保ちつつ、
悪役としての説得力や迫力を損なわせない、大正解なモチーフだったと思います。
それに、
漢字で書くと “烏賊” だから、なんか悪者っぽいしね。

・・・と、
イカと宇宙人が無事繋がったところで(笑)、
いつものようにソフビコレクションの紹介と参りましょう。
今回取り上げるのは、
もちろん、バイラス人形です。


  マルサン製、全長約17センチ。

昭和43年、
つまり、
『ガメラ対宇宙怪獣バイラス』公開時の発売。
昭和のソフビらしく、
愛嬌のある可愛らしい表情にデフォルメされていて、
僕はこの人形を見る度、
『オバケのQ太郎』に出てくるドロンパを思い出します。
また、
完全にイカを意識して造形・彩色されており、
花弁状に分かれた3つの頭部なんかは、
まるで茹でたイカのようで、
食べたら美味しそうな気がします(笑)。 

  日東科学教材製、全長約20センチ。

第2次怪獣ブームが巻き起こった昭和46年に発売された、
スタンダードサイズのソフビ人形です。
ブームの熱狂ぶりを象徴するかのように、
熱く燃える真っ赤な姿で商品化。
その結果、
タコの怪獣だと言っても通用しそうな、
なんだか野暮ったい見た目になりました(笑)が、
そこがまた、
なんとも優しく温かく、
昭和のオモチャならではの味わいを出しています。

  バンダイ製、全長約25センチ。

平成5年に発売された、リアル造形のソフビ人形。
当時は、
まだ平成ガメラの映画も作られていない頃だったので、
バイラスが平成の世に玩具化された、という事が
奇跡・快挙のように思え、
僕は大いに喜びました。
「バンダイさん、ありがとう!」 と、
何度も心の中で言いました。
マジで。

 

バンダイ製、全長約10センチ。

平成ガメラ映画第1弾『ガメラ 大怪獣空中決戦』が公開され、
昭和のガメラシリーズにも再びスポットが当たって
児童文化にガメラが本格的に復活を果たした平成7年、
それを祝うかのごとく、
“ガメラ カーニバル” なる楽しげな商品名で発売された、
ガメラ怪獣のミニソフビセットの中の1体。

個人的には、
向かって右端の足の曲がり具合が、かわいくて好き。

 

バンダイ製、全長約20センチ。

これもセット売りの商品で、平成11年の発売。
商品名は、
“強いぞ!ガメラ復活大結集BOX”。 

この頃、ついに、
昭和の特撮四天王である、
ゴジラ・ガメラ・ウルトラ・ライダー、が
平成のオモチャとして当たり前のように店頭に並びました。
それは、
僕らの世代としては、
ただ懐かしいだけでなく、なんだか“誇り” にも感じられて、
実に嬉しい光景でした。

トミー製、全長約12センチ。

平成15年に
“大映特撮シリーズ” という商品名で発売された、食玩ソフビです。
いちばん最初に紹介したマルサンのソフビを意識した、
レトロタッチの造形と彩色です。
って言うか、
発売メーカーはトミーながら、
企画・生産したメーカーは現在のマルサンですので、
サイズを変えた復刻ソフビみたいなものですね。 
               
            同じメーカーの商品として(一度倒産しているので厳密には異なりますが)、
新旧を比べてみると、
昔の人形より意地悪な顔つきになっているところがミソですね。
素朴で豊かな昭和と、ドライで殺伐とした平成、
それぞれの時代の雰囲気やイメージが、
人形の顔の表情に映し出されているようで、面白いのです。



バイラスは、
最初、3メートルくらいの大きさの宇宙人でしたが、
クライマックスでは
ガメラと闘うために巨大化します。
5人の子分(人間大)を1人ずつ吸収していき、
その都度、
2倍、4倍、8倍・・・、と大きくなって、
100メートルくらいの怪獣と化すのです。
そのシーンは、
面白くて解り易くて、ちょっと不気味で、
実に子供ウケする映像でした。

まぁ、
そんなバイラスの巨大化シーンのみならず、
この
『ガメラ対宇宙怪獣バイラス』という作品は
低年齢層向けに徹して作られた怪獣映画ですから、格闘シーンも、娯楽性に富んでいます。

横に倒したバイラスの足を掴んでガメラが水上スキーを披露するシーンや、
バイラスが閉じて尖らせた頭部で
ガメラの腹部を何度も串刺しにするシーンなどからは、
スタッフの遊び心が活き活きと感じられます。

腹部の執拗な串刺しは、
よく考えると残虐でグロい行為なのですが、
今日の映画みたく生々しい描写にはなっていないので
単なるガメラのピンチとして受け止められるし、
そこから、ガメラは、
腹部にバイラスが刺さったままの状態で飛び立ち、
高速回転によって空中から振り落として闘いに勝利するわけですから、
むしろ痛快な印象を残します。


そういえば、
完全なる子供向け、そして低予算で作られたこの映画に対し、
手抜きだの、幼稚だの、と言って
小馬鹿にしたような批評をよく目や耳にしますが、
僕は声を大にして反論します。

過去の作品からのバンク映像の使用が多い事も、
失笑の連続でツッコミどころが数え切れないほどある無茶苦茶なストーリーである事も、
確かに事実ではありますが、
それで当時映画を観た子供たちがガッカリしたなんて事はありません。
むしろ、
それだからこそ、子供が感情移入しやすかったンだと言えます。
観て楽しい映画だから話題にもなり、大ヒットもしたのです。
僕らは喜んだのです。
子供たちは夢中になったのです。

それを大人の目で今見てケチをつけるなんていうのは、
大人が子供用プールに入って
 
 「こんな浅いプールじゃ泳げん!」

って文句言ってるのと同じですから、論ずるに値しません。

 「宇宙人じゃなくて、お前がタコだ!」

と言ってやりたいくらいです。


・・・なんか調子出てきたから(笑)、
もうちょっと、この映画について語らせてもらおう。

僕は、この映画を、
劇場ではなく、テレビで観たのですが(小学生の低学年だったから、上映から数年後)、
オープニングのカッコよさに、一瞬でやられました。
あの時の胸の高揚は、今でも忘れられません。

十数年前にテレビで深夜に放送したのを録画したビデオがまだ残っていたので、
今回の原稿を書くにあたって見直してみましたが、
それほど記憶を美化してもいませんでした。
やっぱりカッコよかったです。
怪獣映画のオープニングとして、実によく出来たものだと思います。


 五つの球体がドーナッツ状に繋がった宇宙船が、
 くるくると回転しながら、宇宙空間を飛行してきます。
 シンプルでカッコいいデザインの宇宙船ですが、
 球体の模様(黒と黄色のストライプ)がスズメバチを連想させるからか、
 いかにも悪者が乗っていそうな、怪しい雰囲気が漂っています。
 予想どおり、
 地球を占領して植民地にしようとしている悪者・バイラス星人が乗っている事が、
 ナレーション(バイラス星人の声)によってわかります。
 そして、
 機内のレーダースクリーンに地球が映し出され、
 侵略のための攻撃が開始されようとしたその時、
 我らがガメラが現れます。
 驚くバイラス星人。

  「この生物は何だ!? 
     こんな生物が地球上に棲んでいるのか!?」

 ガメラを
 地球侵略の邪魔になる “敵” だと即座に判断したバイラス星人は、
 撃墜するべく怪光線を発射。
 しかし、
 体当たりや頭突き、更には火炎噴射でガメラに応戦され、
 宇宙船の一部が爆発してしまいます。
 バイラス星人の声が響く。

  「母なる星バイラスの司令部に告ぐ!
    第1号機は地球攻撃に失敗せり! 
   至急、第2号機を派遣せよ!
   地球上に恐るべき生物を発見せり! その名は・・・」

 そこで、
 画面いっぱいにデカデカと、
 “ガメラ” の文字。
 と同時に宇宙船の残りの部分も爆発炎上。
 画面の文字は、
 “ガメラ 対 宇宙怪獣バイラス” というタイトルに変わり、
 名曲『ガメラマーチ』が、
 誇らしく勇ましく、絶妙のタイミングで流れ出します。
 

いやぁ、サイコー!
ときめきを抱いて物語の中に引き込ませる、見事な演出。
あのオープニングだけでも
夢と冒険に溢れた時代の、爽快な怪獣映画である事がわかります。


   

作品全体から
みなぎるように感じられるエネルギッシュな明るさは、
お金をかけて
脚本や映像を凝ったものにしたところで、簡単に出せるものではないと思います。
昭和という時代の怪獣映画が放つ “映像の力” は、
それを観て育った子供が
大人になってからもずっとその作品を愛せるだけの、強さと深みを持っています。
バイラスの
キャラクターとしての存在感は、その象徴であると言えるでしょう。

「美人は3日で飽きる」と取り澄ましたり、
子供向け映画を「大人の鑑賞に耐えない」と批判したり、
そうやって見巧者ぶるような事は、絶対にしたくないですね、僕は。
良いものは良い、
素敵なものは素敵だ、と
素直に喜び、心から感動出来る人でいたいです。
バイラスのような、
デザインや造形が優れたキャラクターと、せっかく少年時代に出会えたのだし、
一応、イカよりはマシな脳をしているつもりなので・・・(笑)。



それにしても、
“タコ(≒イカ)のような姿” で “吊り目で全身灰色” という、
観念の世界での宇宙人像を極めてしまったこのバイラスを超えるイメージを作るには、
もう、本物の宇宙人と遭遇するしかないように思います(笑)。

宇宙人、って実際にいるのでしょうか?

かぐや姫みたいな宇宙人だったらいいけど、
もしも、バイラスみたいな宇宙人が本当にいて攻めてきたら、
ガメラは実際にはいないのだから、地球は一巻の終わりだろうなぁ・・・。

あぁ、イヤだ、イヤだ、イヤだ!
イカに滅ぼされるなんて癪に障るから、
悔いの残らないように、
とりあえず、今のうちに目一杯、イカを食べまくっといてやろう(笑)。
なめんなよ、タコ・・・じゃなくてイカ!


【追記】

そういえば、
『美人はいかが?』は大映テレビの制作で、
『ガメラ対宇宙怪獣バイラス』と同じ、湯浅憲明監督がメガホンをとった作品ですね。
因縁を感じます(笑)。




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