真水稔生の『ソフビ大好き!』


第102回 「再生 〜我が心の『仮面ライダー』〜」  2012.7


愛知県岡崎市の東公園へ行ってきました。
今月の6日に一般公開が開始された、旧本多忠次邸を見学するためです。

旧本多忠次邸とは、
徳川家康の家臣・本多忠勝の子孫にあたる本多忠次氏の邸宅として、
昭和7年に、東京は世田谷に建築された洋館です。

忠次氏が亡くなった翌年の平成12年に解体され、
この公園内への移築・復元工事が進められてきました。
そしてこの度、
めでたくお披露目となったわけです。

             
              赤茶色をしたフランス瓦の屋根、色モルタル仕上げの外壁、
  三連アーチのアーケードテラス、半円形のベイウィンドウ・・・etc.
  スパニッシュ建築様式のその美しいフォルムには、
  思わずうっとりと見惚れてしまいます。


江戸時代中期から明治維新までの約100年間、
本多家が岡崎城主だった縁で、
この素敵な洋館が岡崎市にやってきたわけですが、
忠次氏の遺族から
家具や調度品も寄贈されたそうで、
外観も内部も建築当時の姿をそのまま残している、きわめて貴重な文化施設として、
この愛知の地に、見事よみがえりました。

僕が住んでる名古屋市から
いつでも気軽に行ける距離ですので、大変ありがたく、嬉しい気持ちでいっぱいです。

別に建築デザインや家具・インテリアなどに特別興味があるわけでもないのに、
何をそんなに喜んでいるのかと言いますと、
この旧本多忠次邸、
実は、
『仮面ライダー』第13話「トカゲロンと怪人大軍団」のロケに使用された洋館なのです。

FBI特命捜査官・滝和也が侵入し、
粘土細工の人形のふりをして立っていた10人の再生怪人と遭遇、
そして、
現れた家主を名乗る男・野本健(トカゲロン)に「帰れ」と追い返された、
あの怪しくもお洒落な洋館です。

半年くらい前に移築復元工事はほとんど完了していたようですが、
滝和也のように
門を飛び越えて勝手に入っていくわけにもいきませんので(笑)、
一般公開される日を
今か今かと待ちわびていた次第です。


                               
                                チューダーアーチを用いた車寄せ付き玄関。
  緑川ルリ子が追跡してきた怪しい車が入ってきた場所、ですね。
  見憶えがあるその眺めに、
  本当にショッカーが潜んでいそうな気がして(笑)、
  怖いけど胸がときめく、
  子供の頃に体験したあの独特な感覚を思い出しました。


       
        玄関を入ってすぐ右手にある団欒室。
  10人の再生怪人たちが
  粘土細工人形のふりをして立っていたのは、
  この部屋でしょうか?
  思いを馳せて、
  夢が無限大に広がります。
    ステンドグラスの窓が映える浴室。
  浴槽のモザイクタイルの模様もお洒落です。
  いかにも上流階級なリラックス空間。
  ここが本当にショッカーのアジトだったら、
  入浴する蜂女を、ヤモゲラスあたりが
  きっと覗き見してたことでしょう(笑)。


                                 
                                  2階にある書斎。
  係りの人が
   「座っていただいても構いませんよ」
  と言って下さったので、お言葉に甘えて腰掛けてみました。
  ついでに、
  せっかくなので、
  鞄からペンとノートをひっぱり出し、
  この机で少し、今回の原稿を書いてもみました。
  気分ですから、大切なのは(笑)。



放送当時、小学校1年生だった僕には、最初、『仮面ライダー』は怖い番組でした。
映像そのものに寂寞感が漂う、何やら暗い印象の番組だった上、
蜘蛛男や蝙蝠男、
死神カメレオンにサラセニアンなど、
登場するショッカー怪人たちの
怪しく不気味な容姿や存在感に、泣きそうになるくらい震えていました。

もちろん、
その戦慄の中に惹かれるものがあったからこそ
毎週チャンネルを合わせていたわけですが、
『ウルトラマン』や『ウルトラセブン』と同じように愛せる楽しい番組では、
決してなかったのです。

でも、
この第13話は、
過去にライダーに倒された10人の怪人たちが再生されて復活、
加えて、
強力な新怪人・トカゲロンを倒すため
ライダーが特訓して新しい必殺技・電光ライダーキックをあみ出す、
という、
2大イベントが組み込まれた派手な回で、
胸が熱くときめきました。

“再生怪人の登場” も “ライダーの特訓” も、
その後 “仮面ライダー” の名物メニューとなりますが、
この第13話の時は何せ初めての事でしたので、強烈なインパクトがあったのです。

特に “再生怪人の登場” には、強度の興奮を覚えました。
過去に登場した敵キャラが一度に10体も登場する、というのは、
『ウルトラマン』や『ウルトラセブン』には無かった出来事ですし、
洋館の中の一室にそれらがズラリと並んだ光景は
無条件にカッコよく、圧巻でした。

しかも、
震えるほど怖かった連中なのに、
再生されたこの時は、
弱音を吐いたり、人間に蹴られてうずくまったり、
なんだか情けない一面も見せ、
安心感と言うか親近感と言うか、そんな、妙な感情移入を覚えさせてくれました。

極めつけは、
最後の、
サイクロンに乗ったライダーに追い回されて必死で逃げ惑う様。
その、
どうにも切なく滑稽な姿は、
不気味だったショッカー怪人をウルトラ怪獣のように愛せる存在へと、
一気に近づけてくれました。
異形の者の恐怖の中に、
異形の者ゆえの哀しみや愛くるしさを感じたわけです。
大人になった今見ると、失笑してしまうシーンではありますが(笑)。

   

また、
新怪人・トカゲロンは、
それら従来の怪人たちと異なり、
タイツ姿ではなく全身が着ぐるみだったのですが、
そんなゴジラのような姿のモンスターは『仮面ライダー』では初めてでも、
僕らにはむしろ馴染み深いものであり、
今思えば、
やはり安心感や親近感を、幼い心に与えてくれていました。
容姿による差別化は、
今まででいちばんの強敵であるという印象と同時に、そんな効果ももたらしていたのです。

       


そして、その翌週からは、
御存知のとおり、
“2号ライダー篇” に突入し、番組の雰囲気が本格的に変わります。

クールな青年科学者であった本郷猛(仮面ライダー1号)と比べると、
フリーカメラマン・一文字隼人(仮面ライダー2号)は陽気で親しみやすく、
その庶民的なキャラクター性が、
幼い心の震えを優しく抑えてくれました。

ショッカー怪人は相変わらず不気味で怖かったけど、
一文字とともに新しくレギュラー陣に加わった、
立花レーシングクラブに集うお姉さんたちや五郎少年の、
愉快で活発な言動の数々が巧くそれを緩和してくれた事もあり、
『仮面ライダー』は、
子供が安心して楽しめるテイストの番組に、生まれ変わったのです。
今思えば、
それはちょうど、
不気味で怖い実物の怪獣を
愛嬌のある姿・表情にデフォルメしたソフビ人形のような味わいでした。

当然のごとく、
番組の視聴率は急上昇し、
『仮面ライダー』は、大ブームを巻き起こす日本一の人気子供番組となります。

つまり、
第13話「トカゲロンと怪人大軍団」は、
仮面ライダーブームの “前夜祭” と言えるものであり、
震えていた幼い心に『仮面ライダー』の方から近づいてきてくれた、
記念すべき回なのであります。

そんな特別な回でロケが行われた洋館が地元の愛知県に建っている事が、
僕はたまらなく嬉しいのです。
単に、
近いから気軽に見学に行ける、というだけではなく、
またしても第13話「トカゲロンと怪人大軍団」によって
『仮面ライダー』が僕に近づいてきてくれた気がして、
何か、運命的なものを感じてしまうからなのです。

要は、勝手に都合よく解釈して喜んでいるだけの事ですが(笑)、
それでもやっぱり、
『仮面ライダー』を永遠に愛せるきっかけをつくってくれた回の、
トカゲロンと再生怪人たちがいたあの洋館が、
我が地元愛知県で
それこそ “再生” された事は、単なる偶然とは思えません。

自分自身と大好きな『仮面ライダー』のつながりを
紅い糸のように感じ、
やっぱり僕は『仮面ライダー』の時代に生まれるべくして生まれた存在なのだと、
思えてしまうのです。

     



・・・というわけで、
今回はトカゲロンのソフビを紹介します。

              バンダイ製、全長約22センチ。
              バーリヤ電磁波防壁で防備された原子力研究所を襲うには、
  重さ5kgのバーリヤ破壊ボールを
  20メートル離れたところから投げ込まなければならず、
  ショッカーは、
  “殺人シュート” と呼ばれる強力なキックを放つサッカー選手・野本健を拉致して、
  その脚力を活かした怪人トカゲロンに改造し、
  バーリヤ破壊ボールを蹴りつけてそれを突破しようと企んだわけですが、
  このスタンダードサイズ人形は、
  脚の曲線具合が、
  今にも、そのバーリア破壊ボールを蹴り出そしそうな、
  生き生きとした躍動感を伝えてくれています。

           
       また、
 不気味な顔の表情は、

  「仮面ライダーとて俺の敵ではない」

 と嘲笑っているようで、
 トカゲロンという強敵怪人の迫力が巧く表現されていると思います。

 昭和の玩具ゆえ、
 実物のトカゲロンのネコのような縦型の瞳孔が
 このようなつぶらな瞳にアレンジされてはいますが、
 それでも、
 白目の部分が黄色で描かれているので、
 歪んで薄汚れた心がその目に映し出されているようで、
 いかにも悪者っぽい印象は失われていません。
 オモチャとしての “可愛らしさ” と
 怪人としての “怖さ” の、絶妙な融合です。
      さらに、
胴体とのジョイントを
まるで考えていない身勝手な(笑)尻尾が、
堀田真三さんが演じた野本健の
豪放で横暴な性格にも通じているようで、魅力的です。
実物どおりリアルに作られた昨今のフィギュアでは味わえない、
デフォルメ造形の楽しさ・凄さを感じます。

“再現” するのではなく “表現” する造形。
これぞ、昭和ソフビの真骨頂。


   
 ポピー製、全長約11センチ。
 
       向かって左端以外の3体は、
  一見同じ仕様のようですが、背中の塗装色に違いがあります。
  経年劣化のため酸化したり退色したりしているので、微妙な味わいではありますが、
  グリーン、ゴールド、シルバーではないか、と思われます。
     



生誕40周年を過ぎて、
我が心の『仮面ライダー』は、
地元愛知県に “トカゲロンと怪人大軍団のアジト再生” という形で、
50周年へと向かう第1歩を踏み出しました。
感慨無量です。

僕はこれからこの洋館に来るたび、強く再認識することでしょう。
少年時代の夢が、
どんな暮らしの中でも生き続ける、永遠のものである事を。
何度倒されても再生する、ショッカー怪人たちのように・・・。



ちなみに、
この旧本多忠次邸、
今後は、オープン記念企画として、
ヴァイオリンコンサートやチェロコンサートなどが開催されるそうですが、
いつの日か、
館内に再生怪人10人の等身大粘土細工人形を展示し、
家主(笑)の堀田真三さんを招いてトークショー、
なんてイベントも、
ぜひ開催してほしいものです。

訪れた僕たちファンは、
堀田さんにサインや握手をしてもらい、
最後に、
あのドスの効いた低い声で、

「帰れ」

って言ってもらって館を後にする、ってプログラムはどうでしょう?(笑)




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